第24話 ダンジョン攻略19日目

ラヴィ達が去ってから1日後、ドラゴンの星に調査団が送り込まれた。悪魔の襲撃等の事を考えて、それなりの実力者が急遽選ばれた。


一人はエリエル。ピンクの短髪で小柄ながら出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというロリ巨乳な体型をしている。それ以上に目立つのは、両手が自分の頭ほどに巨大化しており、さらにその手を守るように巨大なガントレットを装備している。鎧は胸と腰回りをガードしているだけであるが、その性能は折り紙付きだ。


エリエル(女神Ⅱ)


もう一人は、ルニエル。緑の長髪で、元エルフなのか耳がとがっている。また、胸は絶壁に近いが美術品のようなプロポーションだ。自分の背丈ほどの杖を持ち、体型を隠すかのようにふわりとしたローブを着ている。エリエルと同様にその性能は折り紙付きだ。


ルニエル(女神Ⅱ)


エ「何で私達がわざわざ調査しなくちゃならないのよー。」

ル「命令だから仕方ないの。」

ジ「こらこら、お前たちきちんと調査をしろ。わざわざ我々の管轄を外してでも調査しろと言われた案件だぞ。」


二人に命令するのは、ここの調査リーダーをやらされることになったジルフィールで、女神にしては珍しい黒髪のセミロング。天使の翼の様な光のエフェクトを6枚背負っている。女神としての格が高い者にしか与えられない女神の剣、女神の鎧を装備している。


ジルフィール(女神Ⅰ)


エ「でもでもー私達だって忙しい所をわざわざ来たんですけどねー。」

ル「さっさと終わらせて帰るの。」


やる気のない2人をため息交じりで連れて行く。どこでもよかったが、ダンジョンの入り口に被害が無いようにある程度離れた場所で飛行する。そして、目には見えないが確かに抵抗のある結界へと辿り着く。


エ「これが結界ですかー。」

ル「本当にラヴィ様ですら破壊できなかったの?」

ジ「もしかしたら、ヴェリーヌあたりが用意した結界かもしれないという事だ。張ったと言ったのはロニエルらしいが、ロニエル程度の結界ならラヴィでも破壊できよう。」

エ「さっそく試しますかー。女神ランクⅡの中で一番の怪力を誇るエリエルちゃんのパンチを食らえー。」


エリエルは巨大な拳をギュッと握りしめると、思い切りふりかぶって殴りつける。本人の言う通り一番かどうかは分からないが、女神ランクⅡの中では桁外れな攻撃力のパンチが結界を震わせる。これが本当にロニエルが張った結界であれば一瞬で粉々であっただろう威力だ。


エ「うーん、壊れる気配なしー。物理特化の結界かなー?」

ル「じゃあ、次は私が魔法でやるの。女神ランクⅡの中で一番の魔力を誇るルニエル様のリーフカッター。」


ルニエルは杖を握りしめ、エリエルに対抗するように名乗りを上げると、木魔法を唱える。ルニエルの周りから木の葉が飛び出し結界に当たる。見た目はしょぼいが木魔法のランク9の魔法で、これに触れるとすべての物が切り裂かれるほどの威力を誇る。女神ランクⅢ程度ならこの木の葉の1発で消滅するほどの威力だ。それにもかかわらず、結界には傷一つ付いていない。


ル「そんな、私の魔法で壊れないなんてありえないの。」

エ「物理も魔法も効かない結界なんてやっぱりヴェリーヌの結界じゃないかなー。あの人、結界とか空間とか操るの得意だったしー。」

ジ「ならば私がやろう。女神ランクⅠの中でバランスのいいステータスと言われた……って誰が平均女神だ!」

エ「いえ、誰もそんな事言っていませんがー……。」

ル「それは被害妄想なの。」

ジ「そ、そうか。ならば、私の必殺剣エクスカリバー!」


ジルフィールは剣術ランク最高の10である聖剣召喚を唱える。この剣は、防御力を無視するため、たとえ防御力が10億だろうが20億だろうが貫通する。ステータスにしても、平均的と馬鹿にするには高すぎる平均だ。実際、同ランクであるラヴィやヴェリーヌの攻撃をスキルを抜けば無傷で耐えられる程である。ただ、特化型には弱いのではあるが……。


ジルフィールの攻撃が結界に当たる寸前に何かに当たる。防御無視、ベルゼブブにダメージ。


ベ「ちっ、さすがにエクスカリバーは無傷で防ぐというわけには行かぬか。」

ジ「何者だ!?」


女神ランクⅠの攻撃を受けて消滅しない相手が出現し、3人の女神は警戒を強める。


ヴェ「ベルゼブブ様、蘇生を……。」

ベ「よい。もう治った。」

ジ「ベルゼブブとヴェリーヌ! エリエル! ルニエル! お前たちは逃げろ!」

ヴェ「転移も使えないのに逃げられる訳無いでしょ? ソーラーレイ。」


ヴェリーヌからエリエル、ルニエルに向かって巨大な光線が飛ぶ。2人はそれを避けることができなかった。耐性無効、エリエルに17億9千万ダメージ、ルニエルに17億2千万ダメージ。2人はコアになって落下していく。


ジ「貴様あぁ!」

ヴェ「うるさい。死ね。」

ベ「お前がやると戦闘が長引く。ここは俺がやろう、空断。」


ジルフィールの居る空間が一瞬斜めにずれる。耐性無効、ジルフィールに60億ダメージ。ジルフィールはコアになって2人同様落下していく。その3つのコアをヴェリーヌが回収する。


ヴェ「ベルゼブブ様、こちらを。」

ベ「うむ。それにしても、こんな見え透いた罠に引っ掛かるとは思わなかったぞ。女神のコア集めが捗るな。」

ヴェ「そうですね。結界のあるここならば、たとえ今の様に戦闘があったとしても他の神にバレることはありません。」

ベ「お前の働きには満足だ。」

ヴェ「ありがたき幸せ。」


ベルゼブブとヴェリーヌは、何事も無かったかのように転移していった。


レ「ふあーぁ。良く寝た。」


俺はいつも通り自然に目が覚めた時間を見ると、6時半だった。癖はそうそう抜けるもんじゃないな。


ワ「零殿も起きたか。これで全員起きたな。それでは闇の壁を解除するぞ?」


まだ6時半なのに俺以外は全員すでに起きていた様だ。そうなると何だが寝坊した気分になるな。闇の壁が消えると、すでに着替え終わったイルナと弥生とアヌビスが居た。あ、当然ワルキューレも。


レ「おはよう皆。」


朝の挨拶も終わり、俺は洗面所に行き髭をそり歯磨きをする。すると、がらりと風呂場の扉が開いた。大部屋に全員が揃っていたので、まさか風呂に誰か居るとは思わなかった。そして、その少女の姿は……。


レ「ウ、ウロボロス!?」


俺は歯ブラシを咥えたまま身構える。しかし、攻撃してくる様子はないし、体を隠す様子もない。逆に、ぺこりとお辞儀をしてきた。


ア「おはようございますッス。あっ、こんな姿ですまないッス! すぐに着替えますッス。」


少女はそう言うと、一瞬で水滴を透過し、ドレスが装着された。それと同時に弥生から声がかかる。


ヤ「ああ! すいません源さん、お風呂にお客さんが入っています!」

レ「もう遅いわ!」


全員が大部屋に揃うと、ケルベロちゃんが部屋に入ってきた。


ケ「おはようございますワン。……皆さんお揃いですか? ワン。」

ワ「おはようございます! はい、全員揃っております!」


ケルベロちゃんはワルキューレの方を見て聞いていなかったので、まさかワルキューレが答えるとは思わず、微妙な空気になった。


ケ「それなら、紹介しますワン。こいつがドラゴンの星の担当女神のアルスリアですワン。」

ア「アルスリアッス。助けていただき本当にありがとうございましたッス。非常に感謝しているッス!」


微妙にトゲのある言い方をケルベロちゃんにされたにもかかわらず、本人は全く気にしていないのか、元気いっぱいにお礼を言った。


ケ「それと、ご迷惑をおかけしました。一応魔法的な罠やその他いろいろな異常が無いか調べたうえで蘇生させました。本人がどうしても皆さんにお礼をしたいというのでホテルに連れてきていたのですが、いつの間にか部屋を抜け出して直接ここに来ていたとは思いませんでしたワン。……それも勝手に風呂まで入ったみたいですワン。」

ヤ「いえ、ゆっくりして行ってと言ったのは私ですから。」

ケ「それでも……。この子は少し頭がゆるいというか、常識が無いと言うか、とにかくすみませんワン。」

ア「先輩、その言い草は酷いッス! ずーーーっとお風呂に入っていなかったから、お風呂と聞いて居てもたっても居られなかっただけッスもん。」


アルスリアは不本意だと言わんばかりに腹を立てた雰囲気を見せるが、語尾の「ッス」と立ち居振る舞いからうすうす残念感がある事は分かっていた。


ヤ「そろそろお腹がすきましたね。そうだ、アルスリアさんもご飯を一緒にどうですか?」

ア「いいんスか?!」

ケ「いいわけ無いだろ! 遠慮という言葉を覚えろ!」


アルスリアは日本人的な「断ることが前提にある気づかいの言葉」を理解する事が出来ないようだ。まあ、弥生の場合は本心で言っている可能性の方が高いが。


ケ「それでは、一旦報告などがありますので私達は退室しますワン。朝食はあたちの分身が行いますのでいつでも注文できますワン。」

ア「ごはん……。」


アルスリアは子供の様に口に指を咥えるようにしながらケルベロちゃんに引きずられて退室していった。退室寸前にクイッと顎でワルキューレを呼ぶのも忘れない。ワルキューレは一瞬俺たちの方を見たが、諦めたようにケルベロちゃんに着いて行った。それにしても、ウロボロスと同じ格好なのに、言動が違うとこうも変わるものかと驚かされる。


イ「……お腹空いた。」

ヤ「それじゃあ、改めてご飯にしましょうか。」

ア「ホットケーキを食べるのじゃ!」


今まで静かだったイルナ達も、さすがに空腹には負けたのだろう。皆で朝食をとった。ちなみに、俺はサンドイッチとコーヒーで弥生は朝から牛丼、イルナは納豆ごはんでアヌビスは言うまでもなくホットケーキだった。


ご飯を食べてしばらくくつろいでいると、ラヴィ様と共にケルベロちゃん、ワルキューレが戻って来た。アルスリアは居ないようだ。


ラ「今日は神界へ行く予定でしたが変更してもよろしいでしょうか?」

レ「ん? なんでだ? 何かあったのか?」

ラ「……隠しておいてもいずれ分かる事なので伝えておきます。今、多次元に渡って女神や男神が行方不明になる事件が起きております。その対処のために神界が非常に慌ただしく動いているため、試験どころでは無いというのが本当の所です。」


ラヴィ様の後ろに居るケルベロちゃんが、そこまで言っていいのか!? と、驚いた顔をしている。その横でワルキューレは聞かされていなかったのか、「そんなことになっているのか!?」 と呟いて驚いている。


ラ「だから、今日は出来ればドラゴンの星に向かいたいの。朝、調査隊が行方不明になったのよ。」

ケ「ラヴィ様!」

ラ「いいのよ。ケルベロ、ワルキューレの両名はアルスリアと一緒に待機していてちょうだい。」

レ「俺たちは?」

ラ「今日は出来るだけ大人しくしておいて欲しいわ。せめて、ドラゴンの星の調査が終わるまでは。」

ヤ「ワルキューレさんは連れて行かなくていいんですか?」


ワルキューレがなんて事を言うんだ!? という顔をしているが、調査と言えばワルキューレというぐらい頻繁に連れて行かれている気がするが。


ラ「今回は、女神ランクⅡ以下は参加不可よ。……行方不明になった者のリストに女神ランクⅠも居るわ。」


確かに、そんな場所にワルキューレを連れて行っても足手まといにしかならないな。


ラ「その通りよ。だから、今日はここで待って居て頂戴。」


ワルキューレは何がその通りなのか分かっていないが、連れて行かれなかったという事でほっとしたようだ。ここで待機とはいえ、この部屋に居る必要は無いはずなので、ケルベロちゃんも退室する。おそらくアルスリアの見張りをしに行くのだろう。


イ「……時間があるなら、これで勝負。」


イルナがトランプとオセロを準備して、皆と遊ぶことになった。


零達と別れたラヴィ、ワルキューレ、ケルベロの3人は、状況が変わり再びドラゴンの星へ向かう事になっていた。


ラ「準備はいいかしら?」

ケ「いつでも大丈夫です。」

ワ「私も大丈夫です。しかし、我々が行っても大丈夫なのですか?」

ラ「それを確認しに行くのよ。」


すでに調査隊が行方不明になったことが伝えられている。女神ランクⅡが2人と女神ランクⅠが1人。戦力的に言えば、よっぽど調査隊の方がラヴィ達3人よりも強いだろう。さらに言うならば、女神ランクⅡの2人はランクⅡの中では頂点とも言える強さの2人だった。女神ランクⅠのジルフィールは、相性はともかく、単なる殴り合いであればジルフィールの方がかなり上だった。それこそ、邪神カイザーですら安全に倒せる程の実力者だったのだ。


ラ「一応、上には救援要請はしてあるけれど、状況が状況だけに素直に救援が来るとは全く思えないわね。」


女神たちの行方不明は、多次元に渡り起こっていた。そして、その調査のために上位の神が向かっている。下手に中途半端な実力を持つ者を送っても、ミイラ取りがミイラにになる未来しか見えないからだ。よって、調査には最低でも女神ランクⅠの実力者しか選ばれていない。しかし、女神ランクⅠの管轄は広いため、急に行けと言われて行けるものでは無い。また、それ以上の神となると言うまでもない。


ラ「一応、緊急事態があった時の用意はしてあるけれど……あんまりあてにはしないで。」

ケ「分かりました。」

ワ「分かりたくないけれど分かりました……。」


ケルベロは真摯に、ワルキューレはしぶしぶ了承する。そして、いまだに結界が張られているためダンジョン経由でドラゴンの星へ向かう。


ワ「変わったところはありませんね。」

ケ「まだ入り口に着いたばっかりじゃねーか。」


すでに逃げ腰なワルキューレに、ケルベロは呆れている。慎重に調査を進め、戦闘跡と思われる場所に着いた。


ラ「こんなあからさまに調べてくださいと言わんばかりの場所を用意されてもね……。」

ケ「時空間魔法での痕跡消しが行われてすらいませんね。」

ワ「隠す気が無いのでしょうか。」

ヴェ「飛んで火にいる……と、誰かと思えばラヴィか。」

ラ「ヴェリーヌ! あなたがこの事件の黒幕なの?」

ヴェ「なんであなたに答えなくちゃならないワケ? まあ、丁度いいわ。さっきいいものが手に入ったのよ。」


ヴェリーヌはそう言ってアイテムボックスからコアを取り出す。そのコアは真っ黒で、3つある。


ヴェ「蘇生! カールー、オエイレット。こいつはあんまり呼びたくなかったのだけど……ソンネイロン。」

カ「ふんっ、やっと復活か。」

オ「お久しぶりです、ヴェリーヌ様。」

ソ「あぁああぁぁぁ、殺す殺す殺す。殺す!」


カールー(悪魔)   女神ランクⅡ相当


オエイレット(悪魔) 女神ランクⅡ相当


ソンネイロン(悪魔) 女神ランクⅠ相当


ソンネイロンは復活すると同時にラヴィに殴りかかっていった。しかし、ステータス自体はすべてラヴィの方が上回っているため、その攻撃がラヴィに当たることは無かった。


ヴェ「ソンネイロン、ちょっとは落ち着くワケ。というか、落ち着かないと消すわよ。」


ヴェリーヌの言葉に、「殺す殺す!」とラヴィに殴りかかっていたソンネイロンはピタリと動きを止めてヴェリーヌの側に戻ってきた。


ヴェ「ちっ、やっぱりグレシルの方に使えばよかったかしらね。……でも、あいつ汚くて嫌いだし、アスタロスの方は私じゃ蘇生できないし。」


ヴェリーヌはぶつぶつと呟く。


ワ「なんですか、あれは!」

ラ「ヴェリーヌが悪魔を蘇生させたのよ。ステータス的に女神ランクⅡ相当が2人に女神ランクⅠ相当が1人ね……まさか!」

ヴェ「そのマサカなワケ。」

ワ「どういうことですか?」


ワルキューレは意味が分かっていないらしく、ラヴィに問いかける。しかし、ラヴィはラヴィでそれを口にしたく無いのか、黙っている。


ヴェ「ちっ、頭の悪いやつも居るのね。蘇生に使ったコアは、エリエル、ルニエル、そしてジルフィールのコアなワケ。」

ケ「馬鹿な! ジルフィール様がそんな簡単に負けるわけが無い!」

ヴェ「うるさい犬ね。これが何か分かるワケ?」


ヴェリーヌはそう言うと、アイテムボックスから女神の剣を取り出す。


ケ「それは、ジルフィール様の剣……。」

ヴェ「あの子にはもったいないから、私が貰ったワケ。」

ソ「ああぁぁあ! 早く殺らせろ! 早く!」


ソンネイロンが我慢できなくなったのか、また叫びだす。それに辟易したのか、ヴェリーヌはソンネイロンを無視する。


ヴェ「私は忙しいから、あなた達に任せるワケ。じゃね。」


ヴェリーヌはそう言うと、転移していった。それを戦闘の了承と捉えたソンネイロンはさっそくラヴィに向かっていく。


オ「どうしますか? カールー、どっちと戦いたいですか?」

カ「そうじゃのう、ワシは犬っころの方をやろうかのう。」

オ「どちらにしても、すぐ終わってしまいそうですが。クスクス。」


オエイレットはワルキューレとケルベロを見て邪悪な笑みで笑う。カールーにしても雑魚だと思っているのか、気が乗らないようで首をコキコキと鳴らしているが、戦う様子はない。


ソ「くそ、この、ウサギ野郎! 逃げるんじゃねえよ!」

ラ「誰がウサギ野郎よ、このハゲ。」

ソ「ハゲてねーわ!」


見た目としては、オエイレットはワルキューレに近い騎士の様な格好をしている長身の女性で、顔はまじめにしていれば美女だが、どこか邪悪さがにじみ出る様な雰囲気がある。カールーの方はずんぐりとしたドワーフの様なおじいさんで、白い髭と白髪が年を感じさせるが、上半身裸の肉体には若々しい筋肉が張っている。ソンネイロンは、ラヴィにハゲと言われたが、頭髪は頭の真ん中にはあり、俗にいうモヒカンである。全身がひょろりとしたチンピラ風であり、むしろ似合っていると言えるだろう。


ワ「どどど、どうしましょうかケルベロ様!」

ケ「さっそくだが、緊急事態対応になりそうだな。」

ワ「私はそれが何か聞いて居ないのですが!?」


そういうワルキューレに対して、ケルベロはアイテムを2つアイテムボックスから取り出して渡す。


ケ「それをつけてな。」

ワ「これは、死者の杖と死者の衣?!」


死者の杖は物理無効化、死者の衣は魔法無効化をしてくれるイルナが元々持っていた神装備だ。本来はネクロマンサーの様に死に通じる者で無ければ装備出来ないが、女神であれば装備できる。それらを慌ててワルキューレは身に着ける。


ワ「ケルベロ様はどうするのですか? 相手は女神ランクⅡ相当ですよ!」

ケ「……許可が下りている。あたちはこの首輪を外すぜ。」


ケルベロが首輪を外す。ケルベロは本来の強さである女神ランクⅡに戻る。さらに、封印されていたいくつかのスキルも元に戻る。昔、ケルベロが暴れすぎた罰として首輪を着けられてステータスを制限されており、普段は勝手に外すことは許されていない。


ケルベロ(女神Ⅱ) ステータス補正:攻撃力2倍、防御力2倍、素早さ2倍、魔力2倍


ケ「まあ、これでもあいつ相手にゃ、余裕とはいかねーがな。」


ケルベロはカールーを見上げて睨みつけるが、カールーにとっても弱い者いじめから対等に近い相手となってどことなく嬉しそうだ。


オ「私の相手だけ弱いままなのね……。」


オエイレットは残念そうな顔をしてワルキューレを見る。


別に示し合わせたわけではないが、ラヴィとソンネイロン、カールーとケルベロはそれぞれ戦いやすい場所へと場所を移した。攻撃の流れ弾がお互いの味方に当たるのを防ぐためだ。そして、オエイレットとワルキューレはじっとお互いを見つめている。


オ「……攻撃してくるのを待ってあげているんだけど?」


オエイレットはワザと隙を作ってワルキューレの攻撃をさそっていたが、ワルキューレが攻撃してこないので話しかけることにしたようだ。


ワ「ふんっ、そんな挑発に乗るものか。」


とは言ったものの、そもそもダメージが与えられる気がしない。クリティカルで攻撃を当てればダメージは通ると思うが、反撃を食らった瞬間終わりだ。そのために死者の杖等を持たせてもらっているが、万が一にかけて倒そうとするよりも、一番早く勝ってくれそうなラヴィの戦闘が終わるのを待つことにしたのだ。


オ「ふぅ、暇つぶしにもならなさそうだから、せめて攻撃くらいはしてほしかったんだけどねぇ。石化。」


オエイレットの目が怪しく光る。魔法無効化、ワルキューレは石化しなかった。


オ「へぇ、石化耐性もあるのね。なら、これはどうかしら? ヘル・インフェルノ。」


イルナも使った神の炎。イルナはアグニと名付けたそれに、オエイレットはヘル・インフェルノと名付けているようだ。ワルキューレを中心に、消えない炎が吹き上がる。魔法無効化、ワルキューレに0ダメージ。


ワ「そ、そんなことをしても無駄だ! 諦めろ!」


内心、衣ごと燃えるんじゃないか? と疑っていたワルキューレだが、さすが神装備と言うべきか完全に魔法を防いでくれる。そして、魔法を防いでくれると言っても、攻撃されるたびに冷や汗が出るので本心で攻撃をして欲しくないと願っている。


オ「無駄? 完全に攻撃を防ぐ手段なんて存在しないでしょ? 魔法が無理なら物理ならどう? ブラッディ・レイピア……私の愛しい神装備よ。」


オエイレットはアイテムボックスからレイピアの様な武器を取り出す。オエイレットが柄を掴んだ瞬間、刀身が赤く光る。血を吸えば吸うほど強力になる武器だが、最近は戦闘で血が流れることも無いので、もっぱら血魔法で強化するしかない代物だ。


ワ「グングニル!」


レイピアを見てうっとりしているオエイレットの隙をついて槍を伸ばす。完全に隙をついたと思っていた攻撃を、オエイレットは少しだけ動くことによって回避する。


オ「本当に攻撃する気はあるのかしら? 遅すぎて、当たってあげることも出来ないじゃない。」

ワ「くっ、ならば光の剣!」


ワルキューレは光の剣をオエイレットに撃つ。それは正確にオエイレットに命中する。オエイレットに0ダメージ。


オ「……何それ? 舐めているのかしら?」


分かっていた事だが、改めてステータス差を見せつけられて涙目になるワルキューレ。しかし、ワルキューレにはどうすることもできない。


オ「攻撃というなら、これくらいはやって欲しいわね。ダンシング・コープス。」


オエイレットから複数の斬撃が飛び、その衝撃で周り中の岩や草がダンスを踊るように飛び跳ねる。物理無効、ワルキューレに0ダメージ。


オ「……はぁ?」


オエイレットはマヌケな声を出す。魔法無効化や物理無効化だけでも持っているものはほとんど存在せず、さらに両方を持っているものなど聞いた事すらない。実際、ラヴィ等の女神ランクⅠですら耐性までしか持っていないのだ。


オ「これ……どうすんのよ。」


オエイレットは魔法も物理も効かないワルキューレに対して途方に暮れていた。


一方、ケルベロの方はカールーと接戦を繰り広げていた。と言っても、カールーの攻撃がケルベロに当たることは無く、ケルベロの方はカールーに攻撃を当てても大したダメージが出ずに回復されてしまうので、決着がつかない。


カ「やっかいな素早さじゃのぅ。」

ケ「爺さんこそ、何だよそのHPの多さは。」


ケルベロが与えられるダメージは、カールーの全HPのたったの2%だ。少なくとも自動回復を持っていると思われるので、遅くとも1分後には完全回復する。魔力はケルベロの方が高いので、カールーは魔法を使うことも出来ず、かといって素早さが倍ほども違うケルベロに有効打を当てることも出来ないでいた。


カ「だが、もう少しなんじゃがのぅ。」

ケ「あん? 何がだ?」

カ「衝撃拳。」


カールーは地面を拳で叩き、衝撃波を発生させる。しかし、それはあっさりとケルベロに躱された。しかし、カールーはニヤリと微笑む。それを不可解な目でケルベロは見ると、カールーはわざわざ説明してくれる。


カ「ワシは本来、拳で戦うタイプでは無かったのでな、格闘術をLv10にしておらなんだ。だが、今、あがりおったぞ、ワシの勝ちだな。」


カールーはそう言うと、何もない場所にパンチを繰り出す。すると、何も見えない攻撃がケルベロの体内を襲う。


ケ「がはっ!」


クリティカル発生、ケルベロにダメージ。ケルベロは突然の腹部への衝撃に体勢を崩す。踏ん張りの効かなくなった足で地面を蹴ったため、うまく離れる事が出来なかった。


ケ「しまった!」


カールーはその隙を見逃さず、蹴りを放つ。それを一応両腕でガードしたため、クリティカルは避けられた。


カ「ほっ、なかなかやるのぅ。」

ケ「うっせぇジジイ!」


ケルベロは、距離を離す事も出来ない。しかし、あの攻撃は見えはしないが必中の技ではないはずだ。必中ならばわざわざ蹴りを放たなくてもずっとさっきの攻撃を繰り返せばいいだけだからだ。


カ「ほぃっ。」


カールーが拳を突き出す瞬間を狙って横に避けると、予想通り攻撃が当たることは無かった。


カ「……もう見切りおったのか。めんどうじゃのぅ。」

ケ「けっ、それはこっちのセリフだ!」


一進一退の攻防が続くが、お互いに決め手の無い戦闘が続いた。


ソ「殺す殺す殺すぅ!」

ラ「あなた、それしか言えないのかしら? いい加減うるさいだけなのだけど。」

ソ「うるせぇ! 死ね!」

ラ「どっちが!」


ソンネイロンが繰り出す攻撃は、すべてラヴィに当たることは無かった。また、魔法を繰り出すもラヴィの方が魔力が高く、ダメージを与えることは出来ていない。


ラ「ヴェリーヌはこの程度の者で私を止めれると思っているのかしら? 光の剣。」


ソンネイロンの攻撃を躱し、その背に光の剣を穿つ。ソンネイロンはその威力で地面に叩きつけられ、クレーターの様に地面が割れる。次の攻撃を食らわないようにそのまま地面下に透過して潜り込む。ラヴィは真下からの攻撃を避けるために飛行し、あたりを探る。


ラ「回復するまで逃げるつもりかしら? 見かけに寄らず、弱虫なのね。」

ソ「なんだと貴様ぁ!」


ソンネイロンはあっさりとラヴィの挑発に乗り、地面から飛び出す。そして、いつの間に取り出したのかナイフを突き出してくる。当然、その程度の攻撃がラヴィに当たるわけもなく、再びソンネイロンに攻撃を当てようとするラヴィだが、嫌な予感がしたので離れる。


ソ「ほぅ、良く避けたな? まあ、当たっても当たらなくてもどちらでもよかったんだが。」

ラ「何を……言っているのかしら?」


そう言いつつも、さっきまでとは違う空気が周りを満たしているかのようで、気が落ち着かない。そして、最後の仕上げと言わんばかりに、ソンネイロンは自分の足元にナイフを突き刺す。


ソ「これで完成だ。憎悪の檻!」


ソンネイロンの姿が砕け散り、それがラヴィの周りの空間を飛び回る。ラヴィの周りに円に近い結界が張られた。


ラ「……時間稼ぎのつもりかしら?」

ソ「俺じゃお前に勝てないのは百も承知だ。だから、時間を稼がせてもらう。もうすぐ来るぞ、お前らなんかより強い奴がな!」

ラ「肉片の分際でどこでしゃべっているのかしら。」


ラヴィは結界を試しにカードで攻撃してみるが、結界に触れる前に攻撃が止まる。ヴェリーヌの張った結界ほどではないにしろ、今すぐ脱出できる程の弱さではないようだ。本当であれば、ラヴィがソンネイロンを倒し、すぐに他の2人を助けに行ければよかったのだが、今の状況ではそれも出来ない。ケルベロとワルキューレも、すぐにやられてしまうという事は無いだろうけど、もともとあてにできなかった援軍を当てるにする事になりそうだ。


ラ「さて、さっさと脱出させてもらうわ。」

ソ「お前には無理だぁ! 諦めろぉ。」


ラヴィは再びソンネイロンの結界に向かって攻撃を始めたが、やはり攻撃が届く様子もない。蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが、自らの肉体で攻撃した場合、カードと同様に空間に囚われてしまう可能性があるため、試すことも出来ない。どうしようかと思っていると、どこからか声が聞こえた。


サ「お困りですかピョン?」


そのふざけた喋り方とは裏腹に、格上だと分かる程のプレッシャーがソンネイロンに圧し掛かる。そして、そのプレッシャーに負けたのか、ソンネイロンは結界を解除させられ、地面に這いつくばる。そこには、小学生の様な外見の神が浮かんでいた。その頭には、うさ耳のカチューシャを付けている。


ソ「結界がぁ! 殺す!」

サ「ああ、僕に攻撃しないでピョン。僕も攻撃しないから。僕って攻撃力100万しかないんだピョン。」


サンガ(下級神)


サンガはソンネイロンの攻撃を無防備で受けるが、ダメージは0だ。


ラ「まさか、本当に援軍に来てもらえるとは思いませんでした、サンガ様。……ただ、その語尾は止めてもらえませんか?」

サ「居るのがラヴィちゃんだと分かったからね、ちょっとふざけただけじゃん。それに、結界と言われたら僕の出番でしょ?」


サンガは結界神とも呼ばれる下級神で、ほとんどの封印や結界を解くことができるが、人目に触れるのを嫌がりめったに神界から出ることは無い事で知られている。また、ウサギ好きでも知られているかもしれない。


サ「だから、ついでにこの星の結界も解除しておいたよ。こいつをさっさと片付けて、助けに行ったらどうだい?」

ラ「ありがとうございます。」


ラヴィはトランプカードを空中に円状に浮かべ、這いつくばったままのソンネイロンに撃ちだす。全身にトランプが刺さったソンネイロンは消滅し、コアになった。そして、ラヴィはすぐにワルキューレ達の元へ転移した。


サ「もう、コアくらい片付けてから行けばいいのに。僕も行こうっと。」


サンガはソンネイロンのコアを拾うと、ラヴィ同様に転移した。


ラヴィが先に向かったのはワルキューレの所だった。一応ケルベロには、ワルキューレに物理無効と魔法無効化の装備の使用を認めていたとはいえ、ワルキューレが使う前に攻撃される、もしくは装備をはがされて攻撃される可能性があったため、封印を解いたケルベロならば例え2対1となっていてもすぐにやられることは無いと考えてワルキューレの助太刀を決めていた。まあ、気配がある時点でまだやられていないことは確定しているのだが。


ラ「ワルキューレ、無事の様ね。」

ワ「ラヴィ様!」


ワルキューレはこれ幸いにとラヴィの後ろに隠れる。オエイレットは苦い顔をしてそれを見つめる。


オ「ちっ、ソンネイロンのやつ、やっぱり負けた様ね。」

仲間がやられることを予想していたようで、オエイレットは慌てる様子はない。しかし、逃げる様子もないのはワルキューレよりは強いとはいえ、ラヴィには勝てないはずなので、その余裕は不自然だ。


ラ「それで、あなたは逃げないのね?」


ラヴィがオエイレットに手を向けると、オエイレットは口角を上げるだけで微動だにしない。ラヴィは怪訝な顔をしながらもカードを1枚飛ばす。すると、ステータス差であり得ないことに、オエイレットに当たる寸前でカードが弾かれる。


ラ「物理無効……ではないわね。結界ね。」

オ「そういう事よ。この星に張ってある結界を個人レベルで張ってもらっているのよ。」


この星に張られている結界は、神たちのアンテナに全く引っかからない。それが個人レベルにも付与されているとしたら、まるでステルスの様に悪魔達の行動を捉えることができないだろう。さらに、ラヴィですら破壊できない結界を防御に使われては、そもそも女神ランクⅠ以下では勝ち目が無いかもしれない。


サ「へぇ、それが僕達にバレずに女神たちを狩っている方法かな?」

オ「き、貴様は!」


転移で追いついてきたサンガがパチンと指を鳴らすと、まるでシャボン玉の様にオエイレットを包んでいた結界が割れる。


サ「さあ、やっちゃって、ラヴィちゃん。」


結界を割ることは出来るが、攻撃力自体は低いサンガではダメージを与えられないため、ラヴィに攻撃を任せることにして下がる。ラヴィはもう一度カードを構えると、オエイレットに投げる。投げられたカードはオエイレットに知覚されることなく胸に刺さる。オエイレットはコアになった。ラヴィはオエイレットのコアを拾い、アイテムボックスへ入れる。そして、ワルキューレの窮地を救い終わったラヴィは、次にケルベロの元へ転移する。転移した瞬間、カールーの拳がラヴィの目の前に迫る。ラヴィはそれを難なく左手で防ぐ。ラヴィに0ダメージ。カールーは驚いた顔をし、飛行で離れる。ラヴィは追撃よりも先にケルベロの無事を確認するためにケルベロのそばへ寄る。


カ「お前さん達が無事という事は、ソンネイロンもオエイレットもやられたという事かのぉ。」

ラ「間に合ったようね、もう力を封印していいわ。」


ラヴィにそう言われ、ケルベロは首輪をはめる。急に力を使ったせいで、なまっていた体が悲鳴を上げているようだ。ケルベロは安心感からか、ペタリと地面に座り込む。そこへワルキューレはケルベロに蘇生を使う。しかし、HPの減少以外は治る様子はない。肉体へのダメージはそう簡単には治らないようだ。


カ「オエイレットがやられたという事は、結界を解く方法でも見つけたのかの?」

サ「僕にかかれば、この程度の結界の解除なんてわけないよ。」

カ「そうか、とうとう下級神まで現れたんじゃな。……予定通りですか? ベルゼブブ様。」


カールーが虚空に声を掛けると、いつの間に居たのか、透明化を解いてベルゼブブが現れる。


ベ「ああ、これで元熾天使レベルの悪魔を復活できそうだ。」


ベルゼブブが攻撃する構えを取り、カールーが下がる。それに合わせて戦力にならないと自覚しているワルキューレが下がり、それを守るようにラヴィとケルベロが立つ。ケルベロはまだ満足に動かない体で、いつでも封印を解除できるように首輪に手を当てている。


ベ「さて、またこれでコアが集まるな。」

サ「そう簡単にはいかないよ。」


ベルゼブブが手のひらから水魔法を飛ばすのと同時に、サンガが結界を張る。ベルゼブブの水魔法は、その結界に触れると弾かれて消滅した。弾かれたいくつかの水魔法の攻撃が地面に当たり、そこの部分が数百メートルにわたって消滅する。


サ「ラヴィちゃん、他の2人を連れて退却してくれないかい? 君たちを守りつつ戦うのは無理そうだ。」

ラ「ですが、サンガ様の攻撃力では……。」

サ「分かっているよ。けれど、倒さなくても僕にはこの結界があるからね。なんとかするさ。」

ラ「……分かりました。」


ラヴィはそう言うと、ケルベロ、ワルキューレと共に転移しようとする。


ベ「そう簡単に逃がすわけには行かぬ。お前たち程度のコアであっても、十分役に立つからな。」

サ「させないよ!」


ベルゼブブがラヴィの転移を阻害する結界を張るが、それをすぐにサンガが解除する。忌々しそうな顔をするベルゼブブを尻目に、ラヴィ達3人は転移していった。


ベ「お前はそう簡単に逃げられるとは思わぬことだ。」

サ「ふん、奪われた力は戻ったのかい? 元中級神様?」

ベ「貴様……!」


ベルゼブブはそこに触れてほしくなかったのか、もうすでにラヴィ達の事が頭から抜けるくらいに激怒する。だが、力を奪われたと言っても、下級神上位のステータスを誇っているベルゼブブに、防御特化のサンガでは太刀打ちすることは出来ない。しかし、少しでも時間を稼げれば事態は好転するはず……とサンガは時間稼ぎに専念することにした。


そしてその日、ドラゴンの星は下級神の戦闘に耐えられず、世界から消滅した。



一方、ビジネスホテルで留守番をしていた零達にも変化があった。


ク「失礼するよ。」

レ「な、なんだ?」


失礼するとかいいつつ、ノックすら無しで誰かが入ってきた。弥生たちとカルタをしていた俺たちは、入り口の方に目を向ける。そこには、巫女の様な服を着た女性が立っていた。腰まである長い髪には、所々お札の様なものがくっついている。また、その目は何か呪文のようなものが書かれている鉢巻きで覆われている。それでも前が見えるのか、俺達の方に真っすぐに歩いてくる。


ヤ「誰ですか?!」


結界が張られているこのホテルに入れている時点でただものでは無いだろう。無駄だとは思うが、俺達は一応戦闘態勢を取る。


ク「いやいや、私はどう見ても味方の美女でしょ。この姿が悪魔に見えるかい?」


見た目で判断できないと嫌程感じていた俺達ではあるが、雰囲気は嫌なものを感じない。しかし、警戒を解かない俺達を見て女性は肩をすくめて自己紹介を始めた。


ク「私は時を司る女神、クロノスと言う者だ。自分で言うのもなんだが、時空魔法に特化しているのでステータスは大したことは無いよ。」


弥生は一応ステータスを見ようとするが、俺の方を向いて首を振る。鑑定が出来なかったようだ。


ク「すまないね。私はこの次元に存在していないのでステータスを見せることは出来ないのだよ。しかし、敵対していないというのは分かるだろう?」


ここまで気さくに話していて、急に襲ってくるという事は無さそうだ。それに、仮に悪魔だとしたら、問答無用に俺達を即死できる実力があるだろうし。


ア「それで、なんの用じゃ?」


話しが進まないのでじれたアヌビスが問いかける。


ク「そうそう、私にとっては時間なんて無限なのだが、君たちにとっては1分1秒も無駄にはできまい? さて、本題だが女神の昇神試験は一旦中止となった。冒険者諸君には急で悪いのだが、一旦元の世界に戻ってもらう。」


先ほどまでと打って変わって冷たい声で試験の中止を告げると、問答無用で魔方陣が俺たちの足元に現れる。


レ「おい、説明が全然足りない!」

ク「試験どころではなくなったのだよ。まあ、問題が片付いたらまた呼ぶと思うから、それまで元の世界で待機していてくれたまえ。」


微妙にずれた返答を受けて、俺達は強制転移させられた。

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