第23話 ダンジョン攻略18日目
目が覚めると、アヌビスもすぐに寝てしまったようで闇の壁すら張られていないようだ。一応布団の上で寝ているのが見える。アヌビスもすっかり大人の顔になったので、無防備な寝顔を見るとドキリとする。その横には弥生とイルナも寝ている。弥生とイルナは一応パジャマに着替えたようだで、寝相良く寝ている為、肩までしか見えないが。あんまり寝顔を見るのも悪いと思ってさっさと顔を洗いに行くことにする。
改めて鏡を見るが、結構髭が伸びているのと、スーツがしわになっているのに気づいた。
レ「あーあ、こりゃ新しいのに着替えたほうがいいか。」
俺は寝癖を直し、ひげをそる。そして、朝飯はどうなるんだ? と考えたあたりで誰かが起きる気配がした。
ヤ「源さん? おはようございます。」
寝起きの弥生は初めて見るが、少し眠そうな顔で目をこすっている。パジャマ姿が新鮮かつ妖艶に見える。
レ「ああ、おはよう。今日の朝飯はどうする?」
ヤ「うーん、みんなが起きてから決めましょうか。」
弥生は歯磨きをはじめたので、俺は着替えに部屋に戻る。
イ「……エッチ。」
またこのパターンか。わざとやっていないか? イルナが丁度メイド服に着替えている途中で、相変わらず着替えを止めて隠す様子も無い。
レ「おはよう、イルナ。アヌビスもそろそろ起こしてくれ。」
イ「……わかった。」
俺の無反応ぶりにちょっぴり残念そうな顔をするイルナだが、着替え途中でアヌビスを起こしに行った。まあ、俺が着替え終わる頃にはイルナも着替え終わっているだろう。
俺は予備のスーツに着替えると、こっそりドアの隙間から大部屋を見る。弥生がすでに着替え終わっていて、イルナも着替え終わったようだし、アヌビスも起きた様だ。
レ「おはよう、アヌビス。」
ア「おはようなのじゃ。うーん、すっかり寝てしまったようじゃの。」
伸びをしているアヌビスを見ると、服は神装備なのでシワも汚れも無い。うらやましい。
レ「みんな、何か食いたいものはあるか?」
ア「ホットケーキ!」
ヤ「なんだかんだでお米が食べたいです。」
イ「……なんでもいい。」
とりあえず、飯自体が用意できるのかどうかケルベロちゃんにコールしてみる。
ケ「おはようございますワン。疲れは取れましたかワン?」
レ「ああ、俺は一応元気だぞ。みんなも見た感じいつも通りだ。」
ケ「それはよかったですワン。それで、朝食ですかワン?」
レ「ああ、ホットケーキと、焼き魚定食2つに、イルナは……。」
イ「おでん。」
よくわからんが、いきなりおでんが食いたくなったようだ。まあいいけど。
レ「おでんだそうだ。」
ケ「分かりましたワン。」
すると、すぐにケルベロちゃんが部屋に来て、テーブルの上に並べていく。転移が出来ないため、相変わらず徒歩ではあるが、素早さが高いため転移とほとんど変わらんな。
いつもと違ってケルベロちゃんは配膳の後は戻らないようだ。ジッと食べている姿を見られるのもなんか落ち着かないんだが。
レ「ケルベロちゃん、どうしたんだ?」
ケ「本当に大丈夫そうでよかったです、ワン。それで、今日もダンジョンに行くのかワン?」
レ「逆に聞くが、ダンジョンへ行ってもいいのか?」
ケ「ちょっと待つワン。」
ケルベロちゃんはそう言うと、目をつぶる。
ケ「千里眼で見た様子では、カイザーもべリアスも居ないワン。ただ、ウロボロスだけは戻ってきているようですワン。」
レ「それなら、ダンジョン攻略に丁度いいんじゃないか?」
ケルベロちゃんも少し考えている。カイザーが居たら当然無理と判断するし、べリアスが居ても危険が高いため無理と判断しただろう。ただ、目標であるウロボロスは、居場所が分かるうちに対処したいところだ。ケルベロちゃんにとっても放置できる案件ではないだろうし。
ケ「危険があれば即転移するという条件でどうですかワン?」
レ「ひとまずそれで行こうか。べリアス、カイザーが来たら即逃げるぞ! みんなもそれでいいか?
」
ヤ「それでいいと思います。どうせここに居てもやることも無いですし。」
ア「頑張るのじゃ!」
イ「……倒す。」
皆もやる気があるようで、気合を入れている。今更レベル上げに行く場所も無いし、何かあったら八岐大蛇と融合すれば何とかなると思う。俺たちは食べ終わった食器をケルベロちゃんに片付けてもらうと、荷物を持って準備を完了する。
俺達はビジネスホテルの前に出ると、もう一度忘れ物が無いか確認する。大丈夫そうだ。
ケ「今日はあたち自身が着いて行きますワン。ラヴィ様とはまだ連絡が付かないワン。」
いきなり不穏な事を言うが、まあ、今それを言っても俺達にはどうしようもないのでこのまま行く事にする。
ケ「それでは行きますワン、転移!」
ウ「お前たち、また来たのか。馬鹿なやつらだ。」
レ「……いきなりかよ!」
目の前に、昨日と同じ人間の姿のウロボロスが居る。そして、転移魔法で大量のモンスターが召喚された。これにはケルベロちゃんは手を出さないようで、俺たちに戦いをゆだねるようだ。昨日と同様、このモンスター達は弥生とアヌビスの鑑定が効かないが、イルナや俺ですら1発で倒せる程度のモンスターだ。
ウ「……やはり、雑魚共ではダメか。」
レ「やっとお前が戦うのか?」
ウ「まさか。そろそろ気が付かないのか?」
レ「何がだ?」
ロ「やっと会えたわね?」
ウロボロスの後ろから、急に敵が現れる。ゲッあの姿は見たことがあるぞ。
レ「ロ、ロキエル!? どこに居たんだ!」
ロ「ふふっ、そこの犬女神にすら見破れない透明化で隠れていたのよ。」
ケ「まさか、罠か!」
ロ「そうよ、それにお前たちが雑魚と戦っている間に、転移無効の結界を張らせてもらったわ。」
ケ「転移! 無理か!!」
ケルベロちゃんは一瞬で戦闘態勢に入る。しかし、ロキエルは女神でいえばランクⅡで、ケルベロちゃんでも歯が立たない。
ロ「さらに、こっちは転移可能なのよね。」
ロキエルが転移魔方陣を発動させるが、それを邪魔できる様な戦力は無い。悠々と完成された魔方陣から、カイザーが現れる。
ロ「これだけじゃないわよ?」
もう一人、見た事のない悪魔が召喚された。見た目は小学生くらいの女の子だ。
ウ「私まで来る必要があったのかしら?」
ロ「いいじゃないウリエル。どうせ暇だったんでしょ?」
ウ「暇じゃないわよ! ……少しだけ、暇だったわ。」
ウリエルと呼ばれた悪魔は、ちょっとだけバツの悪そうな顔をする。
ケ「ウリエルだと!?」
ウ「そうよ、何よ犬みたいなガキ。」
あーあ、ケルベロちゃんにガキって言ったらどうなっても知らんぞ。と思ったが、ケルベロちゃんは意外に冷静で、反論する様子も無い。それどころか、顔色が悪い。
ケ「最悪だ、女神ランクⅡ相当が二人に、女神ランクⅠ相当が一人、終わりだ。」
すでに語尾にワンとつける余裕すらないケルベロちゃんが、諦めたように尻尾を垂らしている。えっ、あの小学生みたいなのもロキエルと同等なの!?
カ「はぁ、この程度のやつらにここまでする必要があるのか?」
ロ「一応、念には念を入れてね? 万が一、ラヴィが来たらよろしくね。」
カ「ラヴィ……ウサギの女神か? よかろう。それまで傍観する。」
カイザーはそう言うと、地面に腰を下ろす。一番強いやつが戦わないと言うのは助かるが、それでも勝ち目がないと言うのは分かる。
ウ「ねね、せっかくだし私がやっていい?」
ロ「そうねぇ、そこの男以外ならやっていいわよ。」
ウ「じゃあ、さっそくやろうか。バキューム!」
ウリエルがそう言った瞬間、呼吸が出来なくなる。これは……空気が無くなった!?
ヤ「……!?」
イ「……。」
ア「……!」
ケ「こいつ、一帯を真空にしやがった!」
神には効かないようで、向こうの悪魔たちとケルベロちゃんは平然としているが、それ以外の人間は呼吸が出来ない。アヌビスも復元体なので人間寄りだ。まさか、こんな魔法があったなんて……。ケルベロちゃんはウリエルにダメもとで攻撃しようとするが、ロキエルが立ちふさがる。
ロ「邪魔しちゃダメよ?」
ロキエルは水の球をケルベロちゃんに当てる。さすがに1発では死なないようだが、衝撃によってケルベロちゃんは吹き飛ばされる。
ロ「って、ウリエル、待ちなさい! 男も苦しんでいるじゃない!?」
ウ「あっ、ごっめーん。範囲魔法だから入っちゃってた。解除。」
レ「げほっ、はぁ、はぁ。」
ヤ「ふぅ、はぁ、し、死ぬかと思いました。」
俺達はやっと呼吸できた。真空によって涙も蒸発したのか、目が乾燥して涙が出てくる。もう少し遅かったら死んでいたかもしれない。
ア「蘇生!」
アヌビスは蘇生によって俺たちの体を治してくれた。
レ「助かった、サンキューアヌビス。」
ウ「ちぇ、邪魔しないでしょ。闇の剣!」
ウリエルから放たれた闇の剣は、アヌビスの腹部に当たる。アヌビスはコアになった。
レ「アヌビス!」
ヤ「アヌビスちゃん!」
イ「アヌビス様!」
イルナは慌ててアヌビスのコアを拾うと、憑依する。
イ「つ、強すぎるのじゃ!」
ウ「そろそろワンちゃんも死んで? 闇の剣。」
ウリエルは両手に闇の剣を作り出すと、ケルベロちゃんに投げつける。ケルベロはコアになった。
ヤ「そんな、ケルベロちゃんまで・・・。」
弥生はガクリと膝をつく。俺は慌ててケルベロちゃんのコアだけは拾っておく。
ウ「さて、邪魔者は消えたし、ウロボロス、どんどん呼んじゃって。」
ウロ「はっ、召喚!」
ウロボロスは、MPのある限り召喚を使い、モンスターを召喚している。
ロ「さて、そのコアを渡してもらえるかしら?」
ロキエルがこちらを向いてそう言ってくる。カイザーは興味がないのかあぐらに肘をついている。ウリエルにいたってはあくびすらしているので、あいつらにとってはもうここでの戦闘は終わったのだろう。俺はコアを渡さないようにジリジリと下がる。
ロ「さっさと渡せばいいものを。時間を稼いでも無駄よ? ラヴィですらこの結界の範囲内には転移して来られないから。無理やり奪ってもいいのよ?」
ロキエルはそう言って水の玉を作る。俺がケルベロちゃんのコアを復元しても、アヌビス同様のMP量に応じた強さにしかならない。どうせ死ぬならコアを砕いてみるか? と思ったところで、一つ試してみることにした。
レ「融合!」
ケルベロちゃんのコアを融合すると、コアからの抵抗を感じることはなく、力を貸してくれるようだ。
ロ「何?!」
ヤ「源さん、その姿は・・・。」
俺は違和感を覚えて頭とお尻を触る。すると、頭には犬耳が、お尻には尻尾が生えていた。犬耳犬尻尾のおっさんとか誰得だよ・・。
レ「いいんだよ! 鑑定!」
俺はウリエルの強さを鑑定する。
ウリエル(悪魔):ステータス補正、攻撃力1.5倍、防御力1.5倍、素早さ1.5倍、魔力1.5倍
うん、ケルベロちゃんと同等の強さになった俺でも全く勝てる気がしないステータスだ。そして、ゾワリとした感覚が体を通る。これが鑑定された感触ってやつか?
ロ「なんだ、強さは犬女神のままじゃない。気は済んだかしら?」
一瞬パワーアップしたと思って身構えていたロキエルは、鑑定の結果を見て安堵したようだ。
ウ「私がもう一回殺ろうか?」
ロ「いい、私がやるわ。水の玉。」
ロキエルの水の玉が俺に当たる。耐性無効、零にダメージ。
レ「ぐはっ。」
俺のHPはケルベロちゃんと同じだが、一発でこれだけダメージを受けると回復が間に合わない。
ロ「いい声で鳴くじゃない人間、水の玉。」
耐性無効、零にダメージ。くそっ、じわじわと遊んでやがるな! 何かないか、何か・・・。俺はイルナにヒノトリを融合させたことを思い出した。スキルだけなら! 俺はあるコアを取り出してスキルを使う。
ロ「ほらほら、どうしたの? 抵抗しないのかしら? 水の玉。」
耐性無効、零にダメージ。
ロ「うん? 急にダメージが減ったわね。・・・何、これ。」
ウ「うえっ、ステータスの急激な上昇!? 一体何をした!?」
レ「ちょっと・・な。」
俺の体からオーラが吹き上がる。俺は八岐大蛇からスキルを融合し、大竜の力でステータスを10倍にしたのだ。
ロ「まさか、伝説の最上級光魔法で10倍ステータスに?」
ウ「嘘でしょ!? それって最高神しか使えないんじゃないの?」
えっ、ステータス10倍ってそんなにレアだったの? でも、これは制限時間もあるし、莫大なMPを使うから・・・。
レ「ふっ。」
俺は肯定も否定もしないことにした。あと、カイザーさん、「おっ、これなら相手になるんじゃね?」みたいにちょっと腰を浮かせかけないでもらえますかね。さすがに女神ランクⅠは絶対無理なんで!
ロ「落ち着いてウリエル。幸いにもHPは増えていないし魔力は私達以下よ。」
ウ「そ、そうねロキエル。私の魔力ならまだ勝てるわよね。」
冷静になったロキエルとウリエルは魔法戦に切り替えるようだ。と言っても元々魔法しか使ってきていないが。
レ「させるか!」
俺は一瞬でウリエルの懐に入り込む。ウリエルの視線はまだ俺が元居た場所を見ている。徐々に俺の方に視線が向いてきているのが分かるが、完全に俺を補足する前にウリエルの腹にパンチする。耐性無効、クリティカル発生、ウリエルにダメージ。
ウ「いぎゃっ!」
ウリエルは衝撃で吹き飛んでいく。そして、おまけのマーキングがついた。
ロ「ウリエル!」
レ「よそ見してていいのか?」
ロ「え? ぐっ。」
耐性無効、ロキエルにダメージ。声をかけたのが悪かったのか、腕で防御されクリティカルにならなかった。ロキエルは多少吹き飛ばされた辺りで飛行を使ったのか、空中に留まる。
ウ「調子に乗らないで! 闇分身!」
ウリエルと同じ姿の分身が俺に向かって突っ込んでくる。だが、大してスピードじゃないな。
レ「何?!」
俺はかわそうとしたが、足を何かに掴まれた。すると、いつの間に俺の影に隠れていたのか、ウリエルの分身が居た。そして、そのまま分身の体当たりを受ける。耐性無効、零にダメージ。そして、足を掴んでいた分身もそもまま俺に体当たりしてきた。耐性無効、零にダメージ。幸い、HP自動回復のおかげでHPを回復していたため、なんとか耐えることが出来たが、回復していなかったら死んでいたな・・。
ロ「びっくりさせるじゃない。この人間が! 水刃!」
ロキエルから俺でも見えない程の高速で水の刃が襲い掛かる。耐性無効、零にダメージ。大したダメージでは無いが、回避できない速度と言うのはヤバいな。こうなったら・・。
レ「白竜融合! 竜の力!」
俺の体から出るオーラが七色になり、俺の体からピシリ、ピシリと嫌な音がする。ステータスはさらに3倍だ。
ロ「馬鹿な!? こんなことが・・・。」
ウ「私もう知らない!」
ウリエルは転移で逃げ出そうとするが、ここまで来て逃がすわけにはいかない。俺はウリエルの背中に飛び蹴りを食らわせる。耐性無効、クリティカル発生、ウリエルにダメージ。ウリエルはコアになった。
ロ「カイザー! 何をしてるの!? この人間を殺しなさい!」
カ「・・・その程度、自分で何とかしたらどうだ?」
ロ「何をいって・・!?」
カイザーにとっては今の俺のスピードでも大したことが無いらしい。手を出してこないなら好都合だ。俺はロキエルを蹴り飛ばす。耐性無効、クリティカル発生、ロキエルにダメージ。ロキエルはコアになった。その瞬間、俺の融合は強制的に解除され、ケルベロちゃん、八岐大蛇、白竜のコアが足元に落ちる。融合の反動に耐えられなかったのか、八岐大蛇と白竜のコアにひびが入り消滅する。ケルベロちゃんはさすがに女神だけあってコアは大丈夫の様だ。
ヤ「大丈夫ですか!?」
イ「大丈夫じゃないのじゃ!? 体中がひびわれて血が溢れてきておるぞ! そ、蘇生!」
俺は全く動けなくて自分の体すら見ることは出来ないが、本来ダメージを受けても無傷のハズの肉体は、ひどいことになっているらしい。それもアヌビスを憑依させているイルナのおかげでなんとか回復した。
カ「さて、戦う準備は良いか?」
カイザーはあぐらを止めて立ち上がる。全然良くないです!
♦
ワルキューレの魔界調査4
私はワルキューレ、女神ランクがあっという間にⅢまで上がったエリート女神だ・・・すまん、調子に乗った。昨日は四天王を倒したので、一旦調査を中断しラヴィ様と戻った。
そして今日、改めて魔王城の調査を再開したところだ。しかし……。
ワ「敵が見当たりませんね。」
ラ「油断しないで頂戴、どこに潜んでいるか、急に転移してくるか分からないのだから。」
ワ「そうですね、すみません。」
私は集中して魔王城の内部を調査する。私は透過が使えないので、隠し部屋探しや床下などはラヴィ様に任せ、一応透明化を使って敵に見つからないように調査している。敵に見つからないどころか敵が見つからないのだがな。
ラ「本当に、どこにも居ないようね。好都合だわ、今のうちにカイザーを倒しましょう。」
ワ「カ、カイザーですか?」
ラ「あなたは戦わなくていいわ。見ていなさい。」
見ているだけでも十分危険なのですが。万が一、流れ弾にでもあたったら即死だろう。
ラ「その時は、あとで蘇生してあげるわ。」
そうですか……。そんな気がしていたので観念していますが。
そして、私たちは敵に全く遭遇することなく謁見の間に着いた。
ラ「ここにも居ないようね、移動したのかしら?」
ワ「あとは、王座の間くらいでしょうか?」
下手に千里眼等を使うと自分たちの居場所がばれてしまうと思われるので、地道に探している。残るは王座の間と宝物殿くらいなので、居るとしたら王座の間だと思われる。
王座の間に着いた。しかし、そこすらもぬけの殻だった。
ラ「へんね、カイザーが逃げるとも思えないし……。」
ワ「敵が居なかったので、調査終了ですね!」
ラ「ワルキューレ、さすがに気が早いわよ。」
しかし、これでやっとこの調査から解放されると思うと笑顔にもなろうと言うものだ。何度この疲れで死なない体を恨んだ事か。精神を回復するスキルを誰か開発しないものだろうか。
すると、急にラヴィ様の顔が険しくなる。
ワ「すみません、がんばります!」
私の心を読んでまた何か言われるかと身構えると、ラヴィ様は首を左右に振った。
ラ「……ケルベロの気配が消えたわ。」
ワ「なっ、ケルベロ様が負けるなんて! 敵は誰ですか!」
ラ「分からないわ。でも、ケルベロの居た場所は分かるわ。ドラゴンの星よ。」
ワ「それは、零殿達が行っている場所では……。」
ラ「そうよ。そこで何か起きた様ね。とりあえず行ってみるわよ、転移!」
ラヴィ様が転移魔法を唱え、魔方陣が現れる。しかし、起動しなかった。
ラ「ちっ、ご丁寧に女神だけが転移出来ない結界が張られているわね。」
ワ「そんな事が出来るのですか?」
ラ「悔しいけど、ヴェリーヌくらいの力量があれば、敵だけ入れない結界を張ることも可能だわ。」
ビジネスホテルやダンジョンに張った我々も入れない結界より、さらに力量の要る結界らしい。しかし、これでは我々ではどうしようもない。
ラ「魔界の調査は一旦終了よ。いそいでダンジョンに戻るわよ。」
ワ「分かりました!」
こうして、私の魔界調査は終了した
♦
レ「待て! その前にやることがある。」
カ「なんだ?」
カイザーは問答無用で攻撃してくる様子はない。そこで、ケルベロちゃんのコアをアヌビスを憑依したイルナに渡す。
レ「蘇生を使ってくれ。」
イ「わかったのじゃ。蘇生!」
しかし、ケルベロちゃんのコアに変化は無かった。
イ「やはり無理か。」
ヤ「どういうことですか?」
イ「神の蘇生は、基本的には自分より格下の者しか蘇生できぬのじゃ。ケルベロちゃんは我より上位の女神なので、我には蘇生できぬのじゃ。」
ヤ「そんな……。」
レ「だったら、ラヴィ様に……。」
カ「いつまで待てばよいのだ?」
俺達は待ちくたびれたカイザーと、戦闘になりそうだった所で誰かが間に入ってきた。
ラ「なんとか間に合ったわね。」
カ「ほぉ、こっちに現れたか、ウサギの女神。」
ラ「ラヴィ、よ。覚えておく必要は無いわ。」
レ「ラヴィ様、ケルベロちゃんが!」
ラ「コアを貸しなさい。」
ラヴィ様は受け取ったコアに蘇生を掛けた。すると、一瞬裸のケルベロちゃんが見えて、その後一瞬で神装備であるスーツが装着される。くそっ、もっとよく見ておけばよかった!
ラ「死にたいの?」
レ「いえ! 申し訳ありません!」
ケ「ラヴィ様……すみません。」
ラ「謝る必要は無いわ。まさか、こんな事態になるなんて誰も分らなかったもの。」
ワ「はぁっはぁっ、置いて行かないでください!」
久しぶりにワルキューレを見た気がする。なんか、前より少し神々しいような? 気のせいか。
ラ「緊急事態だったからしょうがないでしょう?」
レ「それより、結界があるのにどうやって来たんだ?」
ワ「ダンジョンの正規ルートの移動は結界があっても入れるからな。ビジネスホテルの入り口から中に入れるのと同じだ。」
レ「なるほど、星自体に結界があっても、通路自体には結界が張れていないと言う事か。で、この星に着いた瞬間ワルキューレが置いて行かれたと。」
ラ「遅いから仕方ないじゃない。ワルキューレの速度に合わせていたら、今頃あなたたちは消滅していたかもしれないわね。」
そうなる前で良かった。そして、さらに待たされているカイザーの顔がムッとしているな。それに気が付いたラヴィも戦闘態勢に入る。
ラ「離れていなさい……というよりも、私たちが移動した方が早そうね。移動しましょうか、カイザー。」
カ「戦えるならどこでもいい。」
そう言うと、一瞬でラヴィ様とカイザーはどこかへ移動したようだ。そして、ドゴン、バカンとぶつかり合う音がする。
レ「さて、俺達の相手はこいつか。」
カイザーの後ろに下がって待機していたウロボロスが残っている。ウロボロスも自分しか居ないことに気づくと、苦々しい表情をする。
ウ「……女神どもは手を出すなよ?」
ワ「ふん、今更何を言うかと思えば……。」
ケ「ああっ、あたち達は手を出さねぇ。」
ワ「ケルベロ様!?」
ワルキューレにとっては意外だったようで驚いている。俺達はもともとそういう話だったので、特段の驚きはない。
ケ「ワルキューレ、下がるぞ。」
ワ「……はい。」
ワルキューレも納得はしていない物の、逆らうつもりも無いようだ。
ヤ「投擲武器操作!」
クリティカル発生、物理耐性(小)により5%軽減、ウロボロスにダメージ。
ウ「いきなりとは卑怯な!」
ヤ「え? すいません……。もういいかと思って。」
ケルベロちゃん達が下がっているのを見ていたウロボロスに弥生が攻撃した。当たったのはスカートの一部で、そこだけスキル効果で消滅して穴が空いている。
ヤ「じゃあ、今度こそ行きますね、投擲武器操作! 投擲武器複製!」
ウロボロスが回避する隙間なく手裏剣が襲い掛かる。
ウ「透過!」
しかし、その攻撃はウロボロスの体を貫通していく。実質物理無効のようなスキルに対策方法はないが、しいていえば透過中は攻撃できないことくらいか。
ウ「ファイアボール!」
今となったらしょぼいとしか思えないファイアボールを撃ってきた。ファイアボールは俺の右足に当たる。零にダメージ。くそっ、魔力差が大きくてHPの半分ほどが減ってしまった。
イ「蘇生!……あっ。」
イルナが蘇生で俺のHPを回復させると同時に、憑依が解けた。憑依が解けた後には、アヌビスが戻るべき体が無いのでコアだけ残る。
レ「アヌビス、復元!」
俺はすぐにアヌビスを復元した。これで俺のMPはほぼ空だな。しかし、アヌビスの魔力はウロボロスより高いので、魔法を食らう心配は減ったな。しかし、ウロボロスも自己回復を持っているのでHPは全快しただろう。イルナも憑依が解けたばかりで息が上がっているので、実質今は戦力外だな。
ヤ「えいっ、投擲武器操作!」
ウ「透過。」
ヤ「むーっ!」
物理攻撃を透過で躱しまくるウロボロスに、弥生もやりにくそうだ。
ア「闇の球!」
ウ「くっ!」
魔法耐性(小)により5%軽減、ウロボロスにダメージ。魔法は透過では回避できないようだ。しかし、決定打になる様なダメージは無いな。やはり、弥生の攻撃がメインになると思うが、透過をなんとかしないと……。俺はコアを取り出して復元する事にした。
レ「ジャイアントトレント!」
ウ「なっ、これは!」
MPはほとんど回復していないので、見た目だけの復元だ。しかし、それを透過してしまったウロボロスは木の中に入ってしまい、何も見えなくなっているはずだ。
レ「アヌビス、真闇を!」
ア「よし、真闇!」
アヌビスはジャイアントトレントごとウロボロスを真闇で包んだ。
ヤ「投擲武器操作! 投擲武器複製!」
そこにすかさず弥生が手裏剣を投げる。クリティカル発生、物理耐性(小)により5%軽減、ウロボロスにダメージ。全身に手裏剣を受けたウロボロスは、手裏剣が当たった部分が消滅し、全身穴だらけの服になってエロい。
ウ「こんなはずでは! ちっ!」
ウロボロスは高速で飛行すると逃げ出した。
レ「逃がすか!」
ウ「逃げる? 誰が勝てる戦いから逃げるものか。」
ウロボロスはそう言うと、地面から何かを拾った。
ヤ「そ、それは!」
ウロボロスは2つのコアを指に挟んで見せる。そして、ゆっくりと口を開けて一つずつ飲み込んでいく。
レ「まさか、ロキエルとウリエルのコアを!?」
ウロボロスを巨大な神気が包み込む。言っては何だが、ワルキューレやケルベロちゃん以上だ。
ウ「ふ、ふふふっ、わたし、めが……み。」
ボンッ。ウロボロスの体が爆散した。煙が晴れると、コアが4つ落ちていた。
ケ「力に体が耐えられなかったようだな。」
ケルベロちゃんがコアを拾う。
ケ「これは、ウリエルとロキエル、ウロボロス、そして……アルスリアのコアか。」
ケルベロちゃんはコアに鑑定をかけたようだ。
ケ「ここで蘇生するわけには行かねーから、ラヴィ様の戦闘が終わるまで待機だ。」
遠くの方で、まだ戦闘音が続いていた。
♦
ラヴィVSカイザー
零達から離れた私たちは、何もない荒野へと移動した。距離にして軽く数十キロくらいかしら。
カ「どこまで行くつもりだ?」
ラ「周りに被害が及ばない所よ。」
そうは言ったものの、女神ランクⅠクラスが戦闘になれば、下手をすると星ごと破壊しかねないけれど。今は、幸か不幸か転移阻害結界がクッションとなって被害が抑えられるでしょうね。
まあ、この辺でいいかしら。これ以上離れても大して変わらないわね。
ラ「ここでいいわよ。」
カ「そうか。ならば行くぞ!」
カイザーは女神ランクⅠと同程度のステータスとはいえ、ステータス補正はALL1.5倍。対して私はALL2倍。しかし、その補正を足してもカイザーの方が上だ。だが、素早さは私の方が上、それも段違いに私が上ね。
カイザーは剣を構えると、数回振り回し、そのたびに刃が飛んでくる。私はそれを左右に飛び跳ねて躱す。
カ「ちっ、さすがに素早いな。だが、これならどうだ? 獄炎!」
私を中心に、黒い炎が地面から湧き出るように燃え上がる。魔法耐性(特大)によりダメージ60%軽減、ラヴィに0ダメージ。
やはり、魔法ではお互いダメージを与えられないわね。それにしても、カイザーは鑑定を持っていないようね。それなら、どれくらい自分が不利な状況か分かっていないはずね。
カ「むっ、魔法が効かぬか。ならば……むんっ!」
カイザーを中心に、衝撃波が発生する。まともに当たれば数億ダメージを受けるでしょうね。当たれば、の話だけど。私は衝撃波の広がる速度よりも早く移動する。さらに、衝撃波が届かなくなったのを見計らって一瞬でカイザーの懐に入り込む。
カ「何!?」
ラ「ふっ!」
私の膝蹴りはカイザーの腹部にまともに入る。クリティカル発生、防御無視、カイザーにダメージ。カイザーは音速を越えて吹き飛び、背中で荒野にあった岩の一つを砕き、数回バウンドした後ゴロゴロと転がって止まる。カイザーのHPは60億。一撃で4分の1ほどを削ったとはいえ、時間を掛ければ自己回復してしまうでしょうね。
カ「なかなかやるではないか。」
ラ「……それはどうも。」
カイザーは起き上がると、ペッと口の中の砂を地面に吐き出す。そして、ゴキゴキと首を鳴らす。
カ「……こちらも、本気を出すとするか。エクスカリバー召喚!」
ラ「なぜあなたがエクスカリバーを!?」
カイザーが右手には邪神剣を、左手にエクスカリバーを持つ。エクスカリバーはあらゆる防御を無効化するため、私の耐性も防御力も意味を為さなくなるわね。……まあ、「当たれば」の話だけれど。
そう考えて私は冷静になる。よし、集中。
カ「うらあぁあ!」
カイザーが両手の剣で空間を数百回切り裂き、そのすべてが刃となってまるで面の様に向かってくる。普通であれば一瞬で死ぬほどの攻撃でしょうけど、私の目には隙間だらけに見えるわね。私は一つずつ回避し、隙間を通り、逆にカイザーに近づいていく。カイザー自身も攻撃中はこちらが見えていないのか、当たっていないにも関わらず攻撃を止める様子はない。
比較的大きな隙間を見つけ、攻撃の射線から外れると、カイザーの後ろに回り込む。
ラ「いつまでやっているのかしら?」
カ「ばかな?! あれを回避しただと!」
ラ「私は、女神ランクⅠで一番素早いのよ。」
私はカイザーの首に回し蹴りを打ち込む。クリティカル発生、防御無視、カイザーにダメージ。今回は、吹き飛ばしてしまわないように捻りを加え、そのまま地面に打ち付ける。地面に半径数百メートルのクレーターが出来て、中心にカイザーがめり込んでいる。
カ「貴様あぁぁぁ!」
カイザーは地面から飛び出すと、無策で突っ込んできたように見える。これなら、カウンターで行けるわね。私がカイザーの攻撃に合わせて蹴りを放とうとすると、カイザーがニヤリとした。
ラ「あ、足が!」
カ「空間固定だ。使えないとでも思っていたか?」
カイザーのエクスカリバーをまともに受ける。クリティカル発生、防御無視、ラヴィにダメージ。
カ「まだだ。」
カイザーはさらに邪神剣の方も私の胸に刺す。クリティカル発生、防御無視、ラヴィにダメージ。空間固定が壊れ、今度は私の方がその衝撃によって吹き飛ばされて崖の壁面にめり込む。私は追撃されないよう、肘で崖を破壊して抜け出し、距離を取る。
ラ「まさか、こんなに苦戦するとは思わなかったわ。」
カ「舐めてもらっては困るな。しかし、こんなものに頼らざるを得ないとはな。」
ラ「こんなもの……?」
カ「お前には関係の無いことだ。」
カイザーは再び私の足に空間固定を使おうとするが、さすがに同じ技を食らう私ではない。すぐに空間破壊で抜けると、空中を蹴って一瞬でカイザーの前に跳ぶ。私がニコリと微笑むと、カイザーは驚愕の顔をする。私はカイザーの両肩を掴み、あごに膝蹴りする。クリティカル発生、防御無視、カイザーにダメージ。あと1回の攻撃で倒せる、そう思ったのが油断だったのだろう。なんと、カイザーの鎧がガバリと腹の部分が割れ、舌のような物が出てきて私の足に絡みつく。
カ「油断大敵だ。」
ラ「くっ!」
私は空中で回避できないまま、エクスカリバーで斬られる。クリティカル発生、防御無視、ラヴィにダメージ。その衝撃でブチリと舌のような物が千切れたおかげで追撃を受けることは無かった。
ラ「はぁ、はぁ、はぁ。」
あれから、しばらく膠着状態が続き、お互いHPも回復してしまった。HPやMPとは違い、スタミナは減るばかりだ。なのに、カイザーはスタミナが減ったようには見えない。
カ「どうした? もう疲れたのか?」
ラ「……馬鹿言わないで、この程度で疲れるわけないじゃないの。」
……はったりだけど、弱みを見せるわけには行かないわ。カイザーのエクスカリバーも時間切れで消滅し、クリティカルさえ食らわなければ大したダメージを受けなくなった。しかし、私も疲れが脚にきて、がくりと膝をつく。
カ「隙だらけだな。」
カイザーが邪神剣を真上に構え、振り下ろそうとする。私はそれを防ぐために左手で受けようとする。しかし、その剣が私に届くことは無かった。カイザーの左足が霧の様になって消えていき、カイザーの体はぐらりと後ろに倒れる。
カ「……楽しかったぞ。」
ラ「これはどういう事かしら?」
カ「ふっ、力の代償だ。この体は本物の肉体ではない。」
カイザーの体は、左足だけでなく右足も右手、左手と消えていく。
カ「また、戦える日が来るといいが。」
ラ「……私はもう勘弁してほしいわね。」
カ「そう言うな。さらばだ。」
そして、カイザーの首から徐々に頭まで消えていく。あとには、カイザーの装備していた邪神剣と邪神鎧だけが残った。
♦
遠くで鳴っていた戦闘音が止んだ。辺りが静かになると、さっきまで気にならなかった風の音が気になるくらいだ。ケルベロちゃんの犬耳がピクリと反応し、ある1点を見つめている。
レ「ケルベロちゃん、何か分かるのか?」
ケ「千里眼で見たところ、戦闘が終わった様です、ワン。もうすぐラヴィ様が戻って来られますワン。」
レ「……もう、ワンを付ける必要もないんじゃないか?」
ケ「そういう訳にはいきませんワン。」
何かこだわりがあるのか、状況が落ち着くとケルベロちゃんの語尾に「ワン」が戻ってきた。
ワ「むっ、戻って来られたぞ。ラヴィ様、それは何ですか?」
ラ「ただいま戻ったわ。これ? これはカイザーが装備していた鎧と剣よ。」
ワ「いえ、それは分かるのですが、何故鎧と剣を?」
ワ「カイザーを倒したのだけれど、コアが残らなかったのよね。その代わり、剣と鎧が残ったから、何か理由があるのかと思って持ってきたわ。」
ラヴィ様は無造作に剣と鎧をこちらに放り投げる。これも神装備なのか、重そうな見た目とは違って、発泡スチロールの様にポサリと地面に落ちた。軽そうな音だが、風に飛ばされる様子はない。
ラ「誰か装備してみるかしら?」
ワルキューレはブンブンと首を横に振る。ラヴィ様は俺達の方も見たが、皆目をそらした。
ラ「冗談よ。まずは安全かどうかの調査が必要ね。」
ラヴィ様はそう言ってアイテムボックスに剣と鎧を入れたが、本当は俺達を実験体にするつもりだったんじゃないかと疑っている。
ラ「そんなわけないじゃない。装備した人が邪神化しても困るし。」
その可能性に思い当たり、皆、気持ちだけラヴィ様から離れた。まあ、万が一邪神化したとしても、カイザーより強くなるとは思えないが。むしろ、ウロボロスの様に力に耐えられない可能性の方が高い。
ケ「それでは、一旦神界へ戻るのですか? ワン。」
ラ「そうね……それに、ウロボロスも倒したし、カイザーの事もあるし、はじまる様に報告は必要ね。皆で神界へ行きましょうか。」
ワ「皆で……ですか? それは、私も含まれるのでしょうか。」
ラ「当然よ。あなたのランクが上がった報告に、ウロボロスの報告もあるし。魔界の事やこれからの事も相談しなければならないわ。」
レ「俺が言うのもなんだけど、まだ何人か悪魔が残っているよな?」
俺が思い当たるだけでも、べリアスとヴェリーヌだな。ロキエルが居なくなっただけでも少し安心だが。
ヤ「その前に、どこかで休めませんか? 正直、いろいろありすぎて状況に追いつけません!」
弥生は、目がうずまきのように見える。思考が追いついていないようだ。アヌビスとイルナもHPは満タンだが、精神的に疲れたのか、顔色があまりよくない。そういう俺も疲れた。
ラ「しょうがないわね。それでは、神界へ行くのは明日にしましょうか。」
ワ「分かりました! それでは、一旦ビジネスホテルに戻りましょう!」
ワルキューレが嬉々として帰り道の先頭に立つ。ケルベロちゃんとラヴィ様はそれを見て少し肩をすくめたが、「今くらいはいいでしょう。」と小声で言うのが聞こえた。
レ「結界はこのままでいいのか?」
ラ「良くは無いけれど、私でもこの結界は破壊できないわ。」
レ「えっ? ラヴィ様ですら破壊できない結界なんて……。」
イ「……早く帰りたい。」
イルナが珍しく自己主張するので、歩きながら会話することにした。しかし、途中で歩き疲れたので、犬ぞりならぬケルベロスソリを作って引っ張って行ってもらった。分裂体で作ったケルベロスは、ここの転移魔方陣の前に放置していくことにした。今度また来たときに利用するかもしれないからな。
ダンジョンに戻ると、ラヴィ様は自分の空間へ帰った。俺、弥生、イルナ、アヌビス、ワルキューレ、ケルベロちゃんの6人はビジネスホテルに戻る。
レ「ワルキューレは自分の空間じゃなくていいのか?」
ワ「何を言う。お前たちと居るのがそもそもの役目だろう。」
疲れていても、そこは譲らないのか。案外と真面目なんだな。
レ「そういえば、メィルは?」
ヤ「最近見ていませんね。来ても足手まといだからでしょうか?」
いつもであれば、こういう会話をどこかで聞いているのか「そんなことないよ!」とか言って現れるのに、今は現れないようだ。まあ、自分の部屋でテレビかゲームでもしてぐーたら生活しているのだろうが。
ビジネスホテルにつくと、ケルベロちゃんはフロントに戻り、俺達は大部屋の方へ移動する。
ワ「やっと帰ってきた! さあ、風呂に入ってゆっくりするぞ! いくぞ、アヌビス、弥生、イルナ!」
俺の存在を忘れたかのように、ワルキューレは鎧を脱ぎだす。
ヤ「ちょっと! ワルキューレさん、まだ源さんが居ますよ!」
ワ「おぉ、零殿も一緒に入るか?」
ヤ「一緒に入れるわけ無いでしょ!?」
弥生の突っ込みによって鎧の下の薄着だけになったワルキューレは、脱衣所の方へ背中を押されて連れて行かれる。
レ「だそうだが、お前はいいのか?」
イ「……行ってくる?」
メイド服のボタンを外していたイルナは、何故か疑問形で答えると、脱衣所の方へ向かった。
レ「……アヌビスは?」
ア「ん? 我は零と一緒に入るのじゃ。」
レ「んー、その体型だと問題あるから、一旦チビに戻すか?」
ヤ「ダメですよ!!」
弥生がダッシュで戻ってきてアヌビスの腕を引いて連れて行った。冗談のつもりだったんだが。そうなると、俺は暇になるな。いっそ、サーベラスとでも遊ぶか? そう思っていたら、珍しく部屋の電話が鳴る。こっちからかける以外に使用したことは無かったが、一応向こうからもかけられるんだな。
レ「もしもし?」
ケ「あたちです、ワン。今日の夕飯はあたちが奢りますので、しばらくお待ちくださいワン。」
それだけ言うと、電話が切れた。珍しいな、どんな料理をご馳走してくれるんだろうか。俺は出鼻をくじかれたような気がして、結局みんなが風呂から上がるまで、テレビを見て過ごした。弥生が風呂から上がったと小部屋に呼びに来てくれたので、風呂場へ向かう。ちなみに、弥生たちはおそろいのパジャマで、ワルキューレもそれに合わせたパジャマを用意したようだ。西洋風のワルキューレがパジャマってなんか変な感じがするがな。
俺はいつもよりぬるめのお湯でのんびりし、大分伸びていた髭をそって部屋に戻る。すると、ケルベロちゃんがテーブルごと料理を用意してくれた。
ケ「満漢全席ですワン。」
レ「それはまた……豪勢だな。」
色々な種類の料理が、大きなテーブルいっぱいに並ぶ。目で数えただけでも100種類はあるんじゃないのか? どう考えてもこの人数で食べきれるものでは無い気がするぞ。
ヤ「見ているだけでもお腹いっぱいになりそうです!」
イ「……おなか空いた。」
ア「我はこれと、これじゃ!」
イルナとアヌビスはもう我慢できないのか、手っ取り早く食べられそうな料理を掴み、食べ始める。俺と弥生、ワルキューレも皿ごと手に取って食べ始める。珍しく、ケルベロちゃんも一緒に食べるようだ。前は誘っても断られたのに。
ヤ「最後の晩餐みたいですね!」
レ「……不吉なことを言うなよ。」
弥生がおそらく豪華という意味で言ったような気がするが、俺も詳しくは知らないが、なんか悪い意味だった気がする。そもそも、最後って付いてるしな。
イ「……もう食べられない。」
ア「お腹が破裂しそうなのじゃ!」
ワ「そこまで無理して食べる必要は無かったと思うが……。」
ヤ「うっぷ、なんか、出されたものは、全部食べないと、いけない気がして……。」
弥生の言う事も分かるが、俺は最初から全部食べられるとは思っていなかった。そもそも、たしか満漢全席って数日かけて食べるものだろう? まあ、もう食ったものはしょうがないが。それでも全部食べ切れなかったから、残りはケルベロちゃんがアイテムボックスにしまっていく。
先に風呂に入っておいてよかったな。あとは歯磨きをして寝るだけだからな。
ワ「よし、いつでも寝られるように闇の壁を張っておいてやろう。」
久々にワルキューレが闇の壁を張ると、各々ふとんを敷く。雑談もそこそこに、疲れた体が睡眠を求めてきたので、歯磨きをして寝ることにした。
レ「おやすみ。」
皆「おやすみなさい。」
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