第21話 ダンジョン攻略17日目11~15

俺達は洞窟の前で今後の方針について話し合う。なぜなら、こうも何度もクリア目標じゃないモンスターを相手に死闘を繰り広げたくないからだ。今回なんて、まともにやってたら何度死ぬことになったやら。


ケ「ぶふっ。」


俺が真剣に悩んでいる横で急にケルベロちゃんが噴き出した。


レ「なんだ?」


俺は少し不機嫌な声で問う。すると、ケルベロちゃんは俺を指さす。


ケ「だってよぉ、いつまでそれ着てるんだ? ぶっふっぅ。」


俺は自分の姿を見下ろす。くっ、まだ美女型分裂体を着たままだった。俺は乱暴に脱ぐとペチリと地面に叩きつけた。


ケ「それ貰っていいか?」

レ「ダメに決まっているだろ!」


残念そうな顔をするケルベロちゃんの横で、俺はスラタン刀で美女型分裂体をグサグサと刺して消滅させた。何気に防御力も高めに作ってあったから壊すのも大変だ。でも、防御力0の物より少しでも防御力があるほうが安心して会敵できるだろ?


イ「・・・で、どうする?」


珍しくイルナが口を挟む。みると、弥生も口を押えて笑いをこらえていたみたいだ。アヌビスは興味がないのか、いつの間にか寝ていた。


レ「うーん、もう一回ジャイアントトレントを復元して・・いや、飛行で辺りを探索するか?」


俺は再び間違いを犯しかけて、寸前で気づいて会話を修正する。


イ「・・・なんで復元しないの?」

レ「ん? どういう意味だ?」


俺はイルナの意図を測りかねる。ジャイアントトレントに一人だけ登れなかったことを気にしているのか?


イ「・・・なんで知っていそうなモンスターに聞かないの?」


俺が理解しないので、少し詳しく言い直してくれたが、知っていそうなモンスター? そうか、復元なら元の知識を持っているのか。イルナの一言でやっとその事に気が付いた。そういえば、イルナはたまにヨルムンガンドをネクロマンシーで召喚していたな・・・。


レ「分かった。それで、どっちがいいと思う? 白竜か? 八岐大蛇か?」


俺の手持ちの中でドラゴン関係はその2つだけだ。


イ「・・・白竜。」

レ「復元、白竜。」


俺は白竜を復元する。ただ、100%の復元は無理だし、MPも無駄遣いしたくなかったので、強さ自体は弱い。まあ、白竜はあくまでも俺の復元のため、恨みで俺達を攻撃してくることはないが。


白「ワシに何か用か?」

レ「この星に何か問題が起きていないか?」

白「なんだ、そんな事か。それなら、大問題があるぞ。ちょっと前からこの星に、邪悪なモンスターが住み着いている。」

レ「それは、どんなモンスターだ?」

白「ワシは直接見たことが無いが、ドラゴニュートが集めた情報だと、巨大な蛇の様なドラゴンで、体は漆黒の鱗に覆われ、空も飛ぶそうだ。名前は、ここの管轄の女神が倒される前に伝えてきたが、ウロボロスと言っておったかの。」

レ「女神様、倒されちゃってんの?!」


俺はバッとケルベロちゃんを見るが、サッと目をそらされた。見習い女神の試験どころか、本当に女神様案件じゃないか!


ケ「まあ、あの、なんだ。そう、がんばれ。」

レ「無理でしょ!?」

ケ「ここの管轄の女神は、引き継いだばかりの新人だったからなぁ。」


ドラゴンが住むような星に新人を担当させるなよ! 俺が会社勤めの時も、めんどくさい注文をしてきて誰も行きたがらない大企業のお客さんに、新人を向かわせて契約を解除されて大事になった事を思い出した。


ケ「だが、さすがにドラゴン程度に負ける様な女神を担当させる訳は無いはずだぞ?」

白「ウロボロス自体も、そもそもこの星に居なかった者だ。ワシが知る限りは、この星で一番強いのは、ほれ、この洞窟に住んでいる八岐大蛇だ。あやつも、めったに出てこないからのぅ。」

レ「いや、八岐大蛇は今倒したけど。」

白「なんだと!?」


白竜はものすごく驚いた顔をする。まあ、確かに多少ズルはしたけどな。


白「ならば、お主たちならウロボロスも倒せるかもな。」

ヤ「でも、ここの女神様はこの星のドラゴンより強かったんですよね? なんで負けちゃったんですかね?」

ケ「・・・それを調べるのも試験の内だな。」


ああ、分からないんですね。ウロボロスが女神様を倒したのかどうかすら分からないのですね?


白「ああ、女神様を倒したのはウロボロスではないぞ。」

レ「えっ、そうなのか?」


話の流れ的にウロボロスが原因で、女神様すら倒す強敵だと思ってたんだけど。この話は初耳なのか、ケルベロちゃんも興味を示している。


白「まず、女神様が倒されて、そいつがウロボロスを置いて行ったのだ。確か、ベリアスとか名乗っておったのぅ。」

ケ「ちっ、やっぱり悪魔関係か。」


ケルベロちゃんは吐き捨てるように言う。まあ、女神様がやられる案件ってやっぱそれ関係だよな・・・。


レ「原因も分かった事だし、試験は終了と言う事で・・・。」

ケ「んなわけねーだろ? とりあえず、ウロボロスを倒してこい。」

レ「・・・ですよねぇ。」


俺達はとりあえず、場所を知っている白竜に乗って連れて行ってもらうことになった。


レ「なあ、白竜?」

白「なんだ?」

レ「もう少し早く移動できないのか?」


白竜の背に乗ったはいいが、白竜は徒歩での移動の為、正直自分で走った方が早い。


白「仕方ないだろう、ワシは今スキルが使えないのだ。」


そう、俺の復元が不完全なため、竜の力によるステータスアップも無い。しかし、白竜しか場所を知らないしな。仕方ない、融合させてみるか。俺はガーゴイルのコアを取り出すと、白竜の背に付ける。


レ「融合!」

白「なんだ?!」


白竜の背に、小さな翼が生える。しかし、飛行は物理的な現象じゃなくて、スキルによるものだからMPさえあれば巨体だろうが問題なく飛べるはずだ。まあ、ダメだったら白竜を小さく復元して自分で飛ぶが。


白「おぉ、飛べる、飛べるぞ!」


白竜は小さな翼をはためかせると、地平線が丸く見える高さまで飛ぶ。この高さから見るドラゴンの星は、自然が豊かで建物なんて全く見えない。一カ所だけ、黒く見える場所があった。


レ「あの黒いのは?」

白「あれがウロボロスの居る場所だな。恐らく、常に闇魔法でも使っているのではないか?」


ウロボロスは全身が黒らしいから、黒が好きなのか、それとも太陽の光に弱いのか。これで居場所が分かったので自分たちでも行けるが、白竜がうれしそうに飛行しているのでそのまま背中に乗って移動しようと思う。しかし、この背中、何も捕まるものが無くて危ないな。分裂体を弥生に変化してもらい、全員で座れる鞍の様なものにしてもらった。設置を終えると、白竜はスピードを上げてウロボロスの方へ向かう。


近づいても、闇魔法による隠ぺいの為か、暗闇の中は見通せない。誰も光魔法を使えないし、どうしようか。暗闇の手前で白竜から降り、白竜をコアに戻す。暗闇に手を入れても何の感触も無いが、顔を突っ込んでも何も見えないから光を全く通さない真闇なのだろうな。


レ「さて、どうやってウロボロスとご対面するか。」

ヤ「とりあえず攻撃してみますか?」

レ「いや、何があるか分からないから止めた方がいいと思うぞ。アヌビスは何か案は無いか?」

ア「我は闇魔法を使うが、解除の方法は本人の意思によるし、光魔法での相殺以外に外部から解く方法は知らないのじゃ。」


試しに火魔法の火を近くに寄せてみるが、効果は無いようだ。


ケ「なにをちんたらしているんだ? イルナ、冥府の鎌を使え。」


ケルベロちゃんはあーだこーだと言う時間にイライラしていたようで、解決策を提案する。


イ「・・・分かった、えいっ!」


イルナは鎌を巨大化させると、サクッと鎌で闇を切り裂いた。鎌に斬られた部分から徐々に闇が晴れていく。それを見てイルナは鎌を小さく戻す。半分ほど闇が晴れたところで、ウロボロスとみられるドラゴンが見えた。


ヤ「えっと、私の目が悪くなったんですかね?」

レ「言いたい事は分かるぞ、俺も目が悪くなったようだからな。」

イ「・・・すごく大きい。」

ア「我もこんな巨体は見たことが無いのじゃ。」


八岐大蛇もでかかったが、それと比べ物にならないくらい巨大だ。スカイツリーあたりにとぐろを巻けるんじゃないか? 一応、弥生は鑑定を行った。


ウロボロス(ドラゴン) スキル:千里眼、異世界召喚、蘇生、物理耐性(小)、魔法耐性(小)、HP自動回復(中)、MP自動回復(小)、飛行、透過、火魔法(3)、水魔法(3)、木魔法(3)、土魔法(3)、闇魔法(6)、転移魔法、空間魔法(2)、時空魔法


ケ「こいつ、女神を喰いやがったな!!」


ケルベロちゃんは怒りで髪を逆立てる。ステータスを見ると、メィルと同じようなスキルを持っている事が分かる。すぐに手を出さないのは、こいつが9階のクリア対象だからだろうか。


ウ「やっと来たか。」


空気がビリビリと震える様な声でウロボロスがしゃべる。俺達は、戦闘に備えて構えた。


ウ「この星に転移してきてからここまで来るのに随分と時間がかかったようだが、道草でも食っていたのか?」

ケ「そんな事より、答えろ! この星の女神はどうした?!」


ケルベロちゃんは尻尾を逆立てて怒りを露わにしている。しかし、ウロボロスの方は余裕そうな態度を崩さない。むしろ、さっさと攻撃してこいという様な感じすら受ける。


ウ「鑑定で私のステータスを確認したのだろう? 見ての通り、今、この星の女神は私だ。」


俺にはどういう理屈か良くわからなかったが、ケルベロちゃんはそれで意味が通じたようで攻撃できずにいるようだ。


レ「女神を救出する手段とかあるのか?」

ケ「見たところ、完全に融合してやがる。仮にこいつを倒したところで分離は不可能だが、そもそも許可なくこの星の女神に手を出す事はできねぇ。」

レ「え? こいつ女なの?」


俺はどうでもいい事を口にすると、ウロボロスはピクリと反応した。


ウ「私の様な美女を相手に女なの? だと! お前の目は腐っているのか?」

レ「いや、どう見てもゴツイドラゴンなんだけど・・・。」


ウロボロスは目を開くと、ギリッと歯を鳴らした。そんなに気になる所か?


ウ「腐っているお前の目でも分かるように、お前基準の姿に成ってやろう!」


そう言うと、ウロボロスは徐々に縮んでいく。俺より少し小さいくらいの大きさになった時、漆黒の髪に全身の大事な部分だけ鱗で覆った切れ長の目の女性になった。肌は浅黒く、例えるならダークエルフのような見た目だ。そして、空間魔法で漆黒のドレスを取り出し、あっという間に着がえる。下着は付けない派か。


ケ「それは、お前の姿じゃないだろ。アルスリアの姿だ!」

ウ「今は私の姿だ。私も一目で気に入ったぞ。」


この星の女神はアルスリアと言う名前だったらしい。恐らく、ウロボロスはその女神のコアを食べ、姿を写し取ったようだ。ただ、強さ的には八岐大蛇よりステータスは高いが、スキルを含めた強さだと八岐大蛇の方が強いくらいだと思う。


ウ「どうだ人間?」


ウロボロスはくるりとその場で回る。綺麗だと思うが、それを口に出すほど俺もうかつではない。無反応が気に障ったのか、ウロボロスの顔はムッとした。


ウ「返事も無しか。まあ良い。そろそろ戦うとするか。おっと、女神は手を出すなよ?」


ウロボロスの周りに大量の転移魔法陣が生成され、その中から見た目が悪魔の様なものが大量に転移してきた。ケルベロちゃんはウロボロスに言われたからという訳ではなさそうだが、手を出せないようだ。


ウ「ざっと200体と言ったところか。魔界直送の妖魔たちだ、遊んでやってくれ。」


ウロボロスはそう言うと、飛行でふわりと空中に離れた。ドレスの中身が見えますよ! まあ、見えても鱗だろうが。


ヤ「源さん、この敵たちは鑑定が出来ません!」

レ「なんだと! どういう事だ?」

ア「鑑定が阻害されている訳では無い様じゃ。ステータスを持っておらんのか?」


アヌビスも鑑定したようだ。


イ「・・・とりあえず攻撃する。」


イルナは一番近くに居たゴブリンに羽根が生えた様なモンスターに冥府の鎌で攻撃する。モンスターはこっちのルールが反映されないのか、ダメージは出ず、袈裟切りに鎌が通り過ぎ、真っ二つになって煙の様に消える。それにしても、イルナの攻撃力で1撃とは弱いのか? 試しに俺もスラタン刀で小型のミノタウロスの様なモンスターを斬ると、手ごたえも無く煙の様になって消えた。


ケ「どうやら、幻惑と眷属召喚の間の様な感じだな? 数は多いが大したことねぇな。」


ケルベロちゃんは少し安心したように、腕を組んで仁王立ちした。弥生も手裏剣を数十本に増やして投擲すると、数十体のモンスターが煙となって消える。


ウ「なかなかやるな。ならば、これでどうだ?」


ウロボロスはアイテムボックスから何かのコアを3つ取り出すと、蘇生を唱える。すると、そこから現れたのはルバート、オリヴィエ、カリヴィアンだった。


レ「ゲッ、悪魔じゃないか!」

ル「また会ったわね?」

オ「よう、雑魚ども。」

カ「あ・た・し・復活!」


カリヴィアンがアブドミナルアンドサイポーズを取る。


ケ「ばかな!? ありえねぇ!」


ラヴィ様達にやられたはずの悪魔が、ウロボロスの蘇生によって甦る。3体の悪魔は、少し霞がかかったように黒い粒子が体から放出されている。


カ「これは、どういう事かしらん?」

オ「むっ、体が重いな。」

ル「何か変ね?」


3体の悪魔は自分の体に何か違和感を覚えているようで、しきりに自分の体を確かめている。


レ「弥生、鑑定できるか?」

ヤ「やってみます!」


弥生が鑑定するが、先ほどと同様に鑑定出来ないようだ。さらに、弥生の鑑定に対してカリヴィアンが無反応なところを見ると、鑑定に気が付いていないようだ。もしかして、弱体化してるのか?


ル「とりあえず、私がこの犬っぽい女神をやるわ!」


ルバートはそう言うと、ケルベロちゃんに攻撃する。そのスピードは俺でも十分追える程度だ。ケルベロちゃんも不審に思って回避する。


ル「この攻撃が避けれるかしら?」


ルバートはケルベロちゃんに接近すると、腕をグンと伸ばした。しかし、ケルベロちゃんはその手首を掴む。


ケ「うん? 見ない間にさらに随分と弱くなったようだな?」

ル「クフフ、それはどうかしら?」


ルバートは煙の様になると、ケルベロちゃんに憑依しようとしたようだ。しかし、煙のまま漂うだけで憑依できないようだ。


ル「おかしいわね、憑依できないピギョッ」


煙から戻った瞬間、ケルベロちゃんのパンチでルバートの顔面が吹き飛んだ。そして、コアが残るが、そのコアもひびが入って消滅した。


オ「ちっ、ルバートの雑魚が。女神は後回しだ。雑魚どもが死ねい!」


オリヴィエはケルベロちゃんを避けて俺達にパンチをした。が、スキルが発動しないようで、単なる正拳突きの練習にしか見えない。


オ「む? スキルが発動しないようだが。」

カ「おかしいわね、あたしも魅了できないわん。」


カリヴィアンがずっとポージングを取っていたのは、魅了を使っていたようだ・・・。


イ「・・・えいっ。」


オリヴィエの後ろにいつの間にか回り込んでいたイルナが、冥府の鎌でオリヴィエの首を刎ねる。それだけでオリヴィエはあっさりとコアになり、コアも消滅した。


イ「・・・弱い?」


それを見たカリヴィアンが慌てて逃げ出したが、弥生がその背中にクナイを刺す。すると、カリヴィアンもあっさりコアになり消滅した。


ヤ「見かけだけでしたね?」

レ「そうみたいだな。」


何が原因かは分からないが、弱くて助かったな。


ウ「やはり、不完全か。」


ウロボロスはこの結果が分かっていたようで、大して慌てていないようだ。飛行で俺達から少し離れると、さらに召喚を唱える。すると、まるでベルサイユ宮殿が似合いそうな豪華なドレスを着た女性が召喚された。その背中には蝙蝠の様な羽があり、頭には羊の様にすこしまるまった角が生えている。


ウ「ベリアス様!」

ベ「終わったのか? ふん、まだ終わっておらんではないか。」


ベリアスと呼ばれた悪魔は、どこからか扇子を取り出してあおぎながら俺達を見る。弥生は素早く鑑定する。


ベリアス(悪魔) 装備:災厄の扇子、カラミティドレス、スキル:???


ベ「ほぅ、鑑定機能付きのアイテムか。分不相応な物を持っておるの?」


ベリアスの方も俺達を鑑定したのか、余裕な態度を崩さない。


ベ「それで、実験段階のコアはどうじゃった?」

ウ「やはり、スキルも無くステータスも弱く、記憶だけは何とか引き継いでいるような感じでした。」


ウロボロスは、ベリアスの前にひざまずいて説明する。


ベ「そうか、実践にはまだ使えんの。で、そなたは引かぬのか?」


ベリアスは誰も居ない場所に閉じた扇子向ける。


ケ「ちっ、やはり気が付いたか。」


何もない場所からケルベロちゃんの声が聞こえた後、ケルベロちゃんが姿を現した。透明化を使って隠れていたのか?


ベ「久しぶりじゃな、と言っても分身のようじゃの。」

ケ「うるせぇ、話しかけるな裏切者。」

ベ「ふふっ、裏切りもするじゃろ、こっちの方が楽しいのでな。下等な生物を管理せずとも良いし、好き放題できるぞ?」


ベリアスとケルベロちゃんは知り合いの様で、ベリアスは久しぶりに旧友と会ったように、楽しそうに話をしている。しかし、ケルベロちゃんは話したくないようだな。


ウ「それで、いかがいたしましょうか?」

ベ「そうじゃのう、ケルベロ、今戦ったらどっちが強いかの?」

ケ「・・・知るか。」


ケルベロちゃんが苦々しい顔で吐き捨てるように言うところを見ると、もしかしたらベリアスの方が強いのか? それに、ケルベロちゃんは今は分身でスキル制限もあるしな。

そうしていると、ベリアスが耳に手を当てる。


ベ「何? そうか。わらわもそっちへ向かった方がよいかえ? ・・・かしこまりました。」

ウ「どうなされました?」

ベ「事情が変わった。遊んでいる暇はない様じゃ。あの方から了解がでたから、その者に任せて我らは引くぞ。」


ベリアスはそう言うと、大量の魔法陣を召喚する。


ケ「何をするつもりだ!」


ケルベロちゃんはさすがに止めるべくベリアスに飛び掛かるが、ケルベロちゃんの蹴りをベリアスは扇子で受け止める。ベリアスに0ダメージ。


ベ「追跡されるわけにはいかないのでな? それにしても、相変わらず非力じゃの?」


ケルベロちゃんが追撃するより先に、召喚が終わったようだ。そこからゴブリンやオークに似たモンスターがどんどん召喚されてくる。さっきの悪魔達と同様に黒い粒子が体から出ている。


ヤ「また、鑑定できません!」

ア「あやつ、我と口調が似ているのじゃ!」


弥生の悲壮な声と、アヌビスのどうでもいい発言がこだまする。


ベ「そして、これが置き土産じゃ。」


ひと際大きな魔法陣が展開され、俺でもわかるほどの強大な気配が伝わる。


ケ「せめて、こいつだけでも!」


ケルベロちゃんがウロボロスに攻撃しようとするが、ウロボロスはベリアスの後ろに隠れる。そして、またしても転移が終わってしまった。


ベ「ウロボロス、引くのじゃ。」


ベリアスはそう言うと、ウロボロスと共にどこかへ転移していった。転移してきたやつは、炎の様な赤い髪、全身を覆う黒い鎧、何よりもいかつい顔と体が強者だと言っているようだ。弥生は震える声でステータスを教えてくれる。


邪神カイザー(邪神) 装備:邪神剣、邪神鎧、スキル???、ステータス補正:攻撃力1.5倍、防御力1.5倍、素早さ1.5倍、魔力1.5倍


今までの悪魔とはそれこそ桁の違うステータスだ。ラヴィ様と同等じゃないか? 


カ「・・・こんな雑魚共の相手をしろというのか。ウサギの女神の方が戦いを楽しめそうだったが。」


カイザーは明らかにがっかりしたという風な雰囲気を見せる。


ケ「あたちがやる。お前たちは逃げろ!」


アヌビスが転移魔法を使い、ケルベロちゃんがカイザーに向かって足止めをしようと突っ込む。


俺達が転移する寸前、ケルベロちゃんの分身が斬られるのが見えた気がした。


レ「見逃された感じか・・・。」

ヤ「・・・そうですね、明らかにこちらを追う気配はありませんでしたね。」

ア「奴にとっては我らは気にも留めぬ存在という事なのじゃ!」


アヌビスは元神としてのプライドなのか、無視されたことに憤慨している。


イ「・・・おかげで助かった。」


事実だけを見れば、イルナの言うとおりだ。落ちついてあたりを見渡すと真っ暗だが、ここはビジネスホテルの前だった。ドラゴンの星はずっと明るかったから分からなかったが、時間の進みが違うのか? 

ビジネスホテル自体にはまだ結界があるためか、転移できる範囲の中ではここが一番近い場所だろうな。


レ「疲れたな・・・。」

ヤ「そうですね・・・。」


すると、ビジネスホテルの中からケルベロちゃんが現れた。


ケ「事情は分かっているワン、早く中へ入るワン。」


ケルベロちゃんの分身はやはり倒されたようで、ケルベロちゃん本体に情報が伝わったようだ。


ケ「今日はもう遅いワン。もう寝た方がいいワン。」


戦闘で興奮していたためか、今までは眠気を感じなかったが、ケルベロちゃんにそう言われると眠い気がしてきた。着替えも風呂も、はみがきすらも後回しにして、布団に倒れ込むと意識を失った。



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