第20話 ダンジョン攻略17日目6~10

洞窟に向かって歩いている途中に、ポツンと豪華な宝箱が置いてあるのが見えた。


レ「・・・宝箱だな。」

ヤ「・・・宝箱ですね。それも、ものすごく怪しいです。」


ロールプレイングゲームなら判定する魔法があるが、こっちには弥生の鑑定がある。いつもどおり鑑定してもらおう。


ミミック(鉱物) スキル:???


スキルが分からない以上、下手に触らない方がいいよな。こいつもこいつで誰かが近づくのを待っているのだろうが、開けた瞬間即死とかは嫌だし。でも、気になる。すでに宝箱じゃなくてモンスターだと分かっているんだから、開ける必要は全くないのだが。


レ「・・・いけ、零ゾンビ。」


俺達は一旦ミミックから距離を取ると、零ゾンビに開けさせるよう向かわせた。零ゾンビがミミックに近づき、あと少しで開けようとフタに手をかけた瞬間、ガパッと宝箱が開いてゾンビがパクリと食われ、何事も無かったかのように元通りになった。


ヤ「まるで、ハエトリソウみたいですね。」

レ「幸い、近づかなければ動かないようだ。素早さは攻撃速度みたいだな。よし、無視しよう。」


倒してコアを得るというのもあるが、アイテムはドロップしないので今回は無視する事にする。また、こんなモンスターがクリア対象のわけが無いしな。そもそもこいつ、ドラゴンじゃない。


湖に向かって歩くと、洞窟が見えてきた。遠くから見ている分には気が付かなかったが、近くに来ると洞窟からイビキの様な音が聞こえる。


レ「明らかに敵が居るな。今度こそクリア対象のモンスターだと良いんだけど。」


洞窟の入口からこっそりと覗くが、暗くて何も見えない。こういうとき、ワルキューレの光魔法があればいいのだが。うーん、光魔法を使えるようなコアは無いな。仕方ない、代わりに火魔法でいいか。

俺はサラマンダーを復元すると、火を吐かせる。サラマンダーはMP自動回復(中)を持っているので、明かり代わりに使えるのだ。俺達は、サラマンダーを先頭に洞窟に入っていく。


ヤ「思ったより広くて深いですね。」

ア「ふむふむ、さらに暗くてジメジメしておるので、我のピラミッドの中の様じゃ。」


アヌビスにとっては住みやすそうという判断になるらしいな。さすが闇魔法の使い手、暗いところが好きなんだな。


イ「・・・いびきが止まった。」


洞窟は一直線だったので、迷うことなく進んでいたが、イルナの指摘通り、先ほどまで聞こえたイビキが止まっている。


八「おぉ、もう生贄の時期か。さてさて、今年はどんな娘が選ばれたのだ?」


洞窟の奥から、この洞窟ほどの大きさのドラゴンが出ていた。ドラゴンは首が8つ又に分かれているため、9つの頭がある。むしろ、頭しか見えんな。俺達はこのまま洞窟で襲われてはたまらないため、慌てて入口に引き返す。一番素早さの低いイルナは、アヌビスに抱えられて飛んで連れ出される。


八「これこれ、逃げるでないぞ。」


ドラゴンは素早さが高くないのか、ノソノソと這ってきている。これなら、イルナの素早さでも逃げ切れたかもな? それとも本気を出していないだけか? 俺達が洞窟の前で構えていると、ドラゴンが出てきた。そして、弥生が鑑定する。


八岐大蛇(ドラゴン) スキル:大竜の力、HP自動回復(大)、MP自動回復(大)、属性ブレス


レ「HPは多いが、白竜と大してステータスは変わらないな?」

ヤ「油断は禁物ですよ! 竜の力もあるじゃないですか。」

八「ふむふむ、生娘が、1、2、3、4人か。ほうほう、容姿も良いし今年は生贄の質が高いのぅ。」


オロチは俺達の会話を無視して、独り言を言っている。生娘が4人? 誰の事だ? 俺は目で数えてみる。イルナ、弥生、アヌビスに・・・ケルベロちゃんも!?


ケ「なんだその目は、消し飛ばすぞおめぇ。」

八「な、なんじゃこの気配は!?」


ケルベロちゃんから殺気が溢れる。その殺気はオロチがひるむ程だ。ふっ、俺はこれ以上の殺気を向けられたことがあるから結構平気だ。


ケ「ちっ、覚えていろよ。」


ケルベロちゃんは不穏なセリフを吐くと、殺気を納めた。


八「なんだったのじゃ? 今年は巫女か何かか?」


オロチは困惑しているようだが、俺も困惑している。えっ、マジで生娘って分かるのか?


レ「なあ、本当に生娘って分かるのか?」

八「む? なんだオスか。こやつらを連れてきた村の者か? ワシの鼻にかかれば生娘の匂いは・・ビブッ!」


9つある首のうちの一つが消滅した。


ヤ「その話、やめてもらえます?」


指の間に挟んだ手裏剣をチャリチャリ鳴らせながら近づいてくる。なっ、こっちの殺気の方が強いだろ?


八「わ、ワシに攻撃するとは、村を滅ぼされたいのか?」

ヤ「村が何か知りませんが、討伐させてもらいますね?」


弥生は少し怒り気味に攻撃態勢に入る。オロチの方も攻撃されてスイッチが入ったのか、体からオーラが立ち上っている。


ア「我もやるのじゃ、闇の球!」


アヌビスの闇魔法は、オロチの首の一つに当たる。八岐大蛇に0ダメージ。


ア「なんじゃと!?」

ヤ「気を付けてください! 大竜の力の効果でステータスが10倍になっています!?」


は? ステータス10倍? 界王拳かよ!? 素早さが10倍に上がったため、俺の目にも映らない程の攻撃速度でアヌビスは弾き飛ばされたようだ。

さらに、オロチはHP自動回復(大)の効果か、弥生に消滅させられた首が再生して元通りになる。


八「せっかくの上玉だったが、ワシに攻撃するような無礼な娘は要らぬ! 死ねぃ!」


オロチの9つの首から、9種類の属性の魔法が噴き出す。俺の目には、避けようの無い壁の様な攻撃が見えた。逃げ場のない攻撃で、全員がブレスを受ける。俺は死を実感した。


ケ「いやぁ、派手にやられたな? それにしても、こんなに長く男の裸を見るのは初めてだぜ。」


ケルベロちゃんは微妙にうれしそうな笑顔だ。俺はケルベロちゃんのセリフを聞いて素早く服を着替えた。俺も大分早着替えに慣れた。死に慣れたからかな。嫌な慣れだ。そして、周りには当然俺より先に蘇生されていたイルナと弥生も居た。アヌビスはもともとやられていないようだ。

見たところ、湖が見当たらないので洞窟からかなり離れたところみたいだな。


レ「ちなみに、ここはどこだ?」

ケ「ミミックの近くだな。ここなら、雑魚いモンスターが居ても勝手にミミックが処理してくれるからな。」


それって俺達も処理対象じゃないですかね? 俺は気持ちミミックから離れた。


ケ「それにしても、あの野郎、あたちまで攻撃するとはいい度胸じゃねーか。今度会ったらぶちのめしてやろうか。」

レ「それは俺達にとってもいい事だが、そんなことしていいのか?」

ケ「ダメに決まっているだろ?」


ケルベロちゃんはそういってニヤリとした。ケルベロちゃんならやりそうだったから少しだけ期待したんだが・・・。


レ「じゃあ、どうやってあいつを倒そうか。」

ヤ「そうですね・・・。ステータスそのものは白竜と大して変わらないので、スキルさえ使われなければ倒せると思います。」

イ「・・・囮は?」


イルナの言葉は少ないが、やりたい事は俺にも分かった。あいつは生贄を待っているんだから、生贄のふりをして隙を突けという事だろう。


レ「誰が囮をやるんだ?」


ミスったら即死だろう。一番確率が高いのは、ヨルムンガンドを憑依させたイルナか? あれ? 憑依できるなら・・・。


レ「いっそ、アヌビスを憑依させて倒すか?」


そうイルナに問うと、イルナはフルフルと首を振る。


イ「今はまだ憑依できない。」


前回の後遺症なのか、まだ憑依自体が出来ないようだ。それじゃあヨルムンガンドも無理か。弥生はどう考えても攻撃要員だし・・・。


レ「消去法でアヌビスか?」

ア「我か? 我に囮はもう無理だと思うのじゃ。」

レ「どういう事だ?」

ア「零達がやられたあと、むちゃくちゃ攻撃してやったのじゃ。絶対に顔を覚えられていて今更生贄だと言っても信じると思うかの?」


俺達がやられたあとも戦っていたのか・・・。じゃあ、あとはケルベロちゃんしかいないが、ケルベロちゃんが協力してくれるのか?


レ「ケルベロちゃんが・・・。」

ケ「あ?」


俺がしゃべるのを遮って殺気を放つ。あっ、ミミックが逃げて行った。あいつ、動けたのか・・・。


ケ「もう一人いるだろ?」



レ「なぜこうなった・・・。」


なんと、俺は着ぐるみの様に美女を着ている。意味が分からないかもしれないが、俺が作った分裂体を弥生が変化させて、その中に俺が入っているのだ。


ヤ「源さん、ものすごく綺麗ですよ!」

ア「ぶははははっ、面白いのじゃ!」

ケ「くくくっ、やべぇ、つぼった!」

イ「・・・写真撮る?」


写真は止めてくれ・・・。俺の体形に合わせるため、地球のモデルの様な長身の美女になっている。ケルベロちゃんが立っているのも辛いようで、とうとう地面に転げまわって笑っている。俺も殺意に目覚めそうだ!


レ「で、作戦は?」


俺は投げやりに聞く。すると、意外にも作戦はあるようだ。何々、美女がオロチに酒をすすめて、寝た隙に攻撃するだと? 何かどっかで聞いた事があるような話だな・・・。酒はケルベロちゃんがアイテムボックスで取り寄せてくれるらしい。手は出さないが協力はしてくれるのか、それともこの状況を楽しんでいるのか・・・。俺は素直な好意とは取れなかったが、弥生は素直に喜んでいる。


レ「一応やるけど、だめでも知らないからな!」


ここまでやった以上、当たって砕けろだ! 俺はいやいやだけど洞窟へ向かった。今度は寝ていないのか、洞窟からいびきは聞こえない。俺以外は洞窟から見えないように見た目を岩に変化させた分裂体に隠れている。岩の表面に目で見えるだけの穴が開いているので、そこから俺の様子を見ているはずだ。


レ「こ、こんにちは~、オロチさんいらっしゃいますか~?」


俺は出来る限り裏声で女性の声をまねるが、自分で言っててなんだけど、オカマっぽい。


ケ「ぶふぅっ、やべぇ、笑い死ぬ!」

ヤ「しっ! 静かにしてくださいケルベロちゃん、バレちゃいますよ!」

ケ「す、すまね・・ぶふぉ!」


俺は外野のうるささにピキリと額の血管が浮き上がる気がしたが、それもすぐに治まった。


八「なんじゃ? ワシは今は機嫌が悪いぞ。下らん用件だったら覚悟して居れよ。」


ノソノソとオロチが首を出してくる。すぐに俺に気が付いたようで、目が「誰だ?」と言っている。

レ「私、村から来たんですけど、オロチ様に献上品がございまして~。」


俺はキャバ嬢の様にシナを作って話す。


ケ「ぶ・・もご。」


噴き出しそうなケルベロちゃんの口を誰かが塞いだようだ。グッジョブ! 


八「ほぉ、無礼な生贄の代わりをもう用意しておるのか。もしや、献上品はそのやけにいい匂いのする樽か?」

レ「そうです~、最高級のお酒です~。」


ただし、たっぷりと睡眠薬も入れてある特別なやつだ。俺は酒だけで寝るとは思っていないので、念のために1樽だけ睡眠薬を入れた。最初は入れてないやつで味見をさせるか。


八「ほほぉ、ワシは生娘も好きだが、酒も大好きだ。お主は生娘の匂いはしないが、綺麗だからおしゃくせい。」

レ「はい~、どうぞ~。」


俺は酒を大きな杯にそそぐと、オロチの9つの首の一本がぺろりと酒をなめる。


八「これはうまい、樽ごと寄越せ!」


俺は大量にある樽のフタを取ると、我慢できないようにオロチの首がそれぞれ樽の中の酒を飲みだす。器用に樽を口ではさんで上を向いて飲んでいる。


八「ん? 少し苦い酒もあるようだが・・大半はうまいな!」


俺は内心ドキドキしながら樽を開けていく。数十個もあった樽がどんどん減っていくが、オロチの顔が赤くなるだけで寝る様子は無い。失敗か? と思った時、まるで糸が切れたかの様にドスンとオロチが倒れ込んだ。


ヤ「やりましたね! ステータス異常:睡眠になっています! 私が止めを刺しますね!」


弥生は恨みがあるのか、クナイを用意する。


ヤ「投擲武器操作、投擲武器複製!」


弥生が放ったクナイは正確にオロチの9本ある首の、それぞれの眉間に刺さる。クリティカル発生、八岐大蛇はコアになった。


ケ「いやー面白かった、久々に笑ったぜ!」

レ「俺はバレないかと思ってひやひやしたぞ!」


オロチのコアを拾いつつ、ケルベロちゃんに文句を言う。


ヤ「でも、これで9階クリアですね!」

ケ「え? なんで?」

レ「なんでって、オロチを倒したからクリアだろ?」

ケ「いや、こいつはクリア対象じゃないけど。」

レ「マジかよ!?」


オロチが強敵だったので勝手にクリア対象だと思っていたが、実は倒さなくてもいいモンスターだったらしい。俺達はがっくりとうなだれた。



閑話 ワルキューレの魔界調査


私はワルキューレ、最近女神ランクがⅣになり、自分でも戸惑うほど強くなったと思っていた。

現在、ラヴィ様と共に連日魔界の調査に訪れている。ラヴィ様も人使いが……おっと、ラヴィ様は心が読めるので愚痴は言わないようにしよう。

カイザーが邪神として復活するとは誰も全く思っていなかった。先日の調査で、邪神の強さはラヴィ様と同等と言う事もあり、私では全く歯が立たないだろう。

スキルに制限のある分身のラヴィ様と同等なので、ラヴィ様本体が戦えば勝てるかもしれないとの事だったが、それは1対1での話だ。カイザーには現在3人の四天王が付いている為、なかなか近づけない。四天王は本来私でも倒せる程度の妖魔達だが、カイザーが邪神化した以上、四天王も強くなっているかもしれない。

幸い、カイザーの居場所は元の魔王城から移っていないため場所だけは分かる。


ラ「ぼーっとしてないで、行ったわよ!」

ワ「すみません! はっ!」


私は襲ってきた雑魚妖魔を神槍で突き刺す。妖魔はあっさりと黒い霧になって消える。跡にはコアもなく、ダメージも無いようなので、幻術の類なのだろうが、実体があるという厄介なものだ。


ラ「またぼーっとしてるわよ!」

ワ「す、すみません!」


次々と襲い掛かってくる妖魔達を相手に休む暇も全くない。ラヴィ様は平気な顔でカードを飛ばしてあっさりと数十体の妖魔を葬っているが、私は地道に1体づつ倒すしかない。私も分身を覚えて楽をしたい……。


ラ「分身も楽じゃないわよ? 分身が戻れば分身の疲労を感じるし、そもそもいろいろな制限もあるし、仕事を余計に回されるし、それから……」

ワ「ラヴィ様、周囲を確認してきます!」


だんだんと愚痴になってきたのでサッと離れる。女神はHPもMPもすぐに全快するが、精神的な疲れは時間でしか解決できないのだ。それにしても、次から次へと妖魔が湧いてくるな……。付近の雑魚妖魔を一掃すると、ラヴィ様の元へ帰る。


ワ「一通り、目に着いた妖魔を倒してきました。」

ラ「ご苦労様、やはりカイザーを倒さない限り無限に湧くのかしらね?」


幻惑の類なら、カイザーのMPがある限り生まれ続けるだろうな。どちらかというと、零殿の分裂に近い気もするが、鑑定の無い私ではなんとも判断がつかない。


メ「よぉ、ラヴィ。また会ったな。」

ラ「メデューサ……なぜあなたがここに?」


メデューサ? 確か、ラヴィ様が倒してコアを持っているはずじゃ……。ラヴィ様も疑念を抱いたようで鑑定をしているようだ。


ラ「はぁっ、偽物じゃない。見た目だけメデューサね。」

メ「なんだと! これでもくらえ、石化! ……あれ?」


メデューサが石化を唱えるが何も起きない。


ラ「あなた、自分で自分の事が分からないのかしら? 今のあなたは何のスキルも持っていないわよ?」

メ「嘘だ! 転移! 闇魔法! ……飛行!」


メデューサは次々と魔法を唱えるが、まったく何も起きない。やはりコアからの復活では無さそうだな。 


ワ「ラヴィ様、ここは私がやります。」


私は少しでもいい評価を得ようと、槍を構えて混乱しているメデューサと対峙する。


ラ「やめておきなさい。スキルが無くてもあなたよりステータスは高いわよ。」

ワ「そ、そうなのですか……下がっています。」

メ「舐めやがって!」


そうしているうちに、スキルなしでも戦う気になったのか、メデューサはラヴィ様に向かっていく。私の事は最初から眼中に無いようだ……。ラヴィ様はカードを1枚どこからか取り出すと、シュッと投げた。私とメデューサにはその攻撃が見えない。しかし、メデューサの眉間にカードが刺さっているのは分かる。


メ「ば、ばかな……。」


メデューサはあっさりと霧散した。逆らう気はないが、自分よりも強い敵があっさりとやられるのを見ると、他人事とは言え背筋が凍る思いがする。


ラ「この調子だと、まだいろいろとありそうね。行くわよ。」


ラヴィ様はそう言うと、私ごと転移する。ラヴィ様は分身ですでに索敵を行っていたようで、妖魔がいっぱいだ。はぁっ、休憩が欲しい……。


ラ「何甘いことを言っているのかしら?」

ワ「言っておりません!」

ラ「思うのも一緒よ。」

ワ「すみません……。」


私は心の中ですら安寧が無いらしい。もうどうにでもなれ! 私は再び妖魔共を退治していくことになった。


ラ「ところで、カイザーの四天王の事は知っているのかしら?」

ワ「カイザーが勇者に倒された直後に行方不明になり、今現在は魔王を守るために常に4人中の3人が守っているはずですね。勇者が倒した時の強さは確か、ダンジョンのモンスターで言えばサラマンダーくらいですかね?」

ラ「そうね。HPは1万程度、攻撃力なども500程度かしら。妖魔としてはまぁまぁの強さだけど、魔族と比べるまでも無い程度だったはずね。しかし、カイザーが邪神化した時の強さは大体600倍くらいになっているわ。」

ワ「600倍もですか!? じゃあ、四天王も同様にパワーアップしているとすれば……。」

ラ「そうね、あなたより1ランク上の強さかもしれないわね。」


何という事だろうか、たかだか妖魔程度があっさりと私よりも強くなっている可能性があるなんて……。まあ、あくまで可能性なので外れる事もあるかもしれないが、用心しておくことに越したことはない。


ラ「城の周りの雑魚も片付いてきたことだし、そろそろ城の中も調べる頃じゃないかしら?」

ワ「いえ、まだ周りに敵が残っています! 全部倒してから慎重に調べましょう!」

ラ「あら? 戦と言えばワルキューレと言われていたのに、怖気づいたのかしら?」

ワ「それは人間だった時の話でしょう! 私は鑑定を持っていないので、仮に四天王に相対しても強さが分かりません。」

ラ「そう言うと思って用意しておいたわ。はい、鑑定バイザーよ。あなたのヘルムに取り付けておけばいいわ。」


なんと準備がいいのだろうか、そしていつの間に測ったのか、ヘルムにぴったりと付けれるようだ。よし、試しにあの門の前に立っているちょっと強そうなやつを鑑定してみよう。


サザラント(四天王) 装備:ミスリルの盾、ミスリルの鎧、スキル:偽盾術(10)


ワ「四天王!?」

サ「あん? 誰だ?」

ワ「しまった!」

ラ「はぁ、あなたも運が悪いのかしら?」


ラヴィ様も鑑定したようで、あきれた顔をしている。すみません! バレてしまっては仕方がないので、少しでも情報収集に努めよう。


ワ「見たところ、四天王の様だが、今までどこに居たのだ?」


私は出来るだけ冷静に、偉そうに見えるような態度を取る。敵相手にしたてに出るなどありえないがな。


サ「ほぉ、俺を知っているのか。そうだ、俺は東の四天王、鉄壁のサザラントよ! そっちは勇者じゃ無いようだな? なんだ、最近周りの雑魚どもがやられるから、再び勇者がやってきたのかと思ったのに期待外れだな。せっかく復讐の機会が訪れたと思ったのだが。」


サザラントはでかい図体で肩をすくめる。結局どこに居たのかという質問の回答は得られていないな。


ラ「その程度の実力で勇者に復讐ですって? 魔王を勇者に倒された事は知らないのかしら?」

サ「はっ、そっちこそ知らないのか? 魔王様はパワーアップして復活なされた! そして俺達四天王もパワーアップよ! もう勇者どもにも負けぬわ!」


グハハハハと笑っているが、なるほど、こいつも鑑定を持っていないからステータスが分からないのだ、感覚だけで強さを測るタイプか。しかし、ステータスは狙ったかのように私と同じくらいだ。


ラ「私がやってもいいのだけれど、これも経験ね。ワルキューレ、あなたが戦いなさい。」

サ「なんだ? そっちのウサギ野郎はビビりか? しょんべんでもちびったか?」

ラ「失礼ね、死になさい。」


その言葉に、サザラントは一瞬構えたが、ラヴィ様が動いたと思った瞬間にはゴキンと言う音が響いた。スキル効果により、サザラントに0ダメージ。ラヴィ様の移動によって起きた砂ぼこりが晴れると、サザラントの持っている盾は金色に光り、ラヴィ様の蹴りを受け止めている。なぜだ!?


サ「あ、あぶねぇ、何て攻撃をしやがる。」

ラ「そのスキル、偽の癖にきちんと発動するのね。」


ラヴィ様はサザラントの盾に止められた足を下すと、私の側にピョンとジャンプしてきた。


ラ「やっぱりあなたがやりなさい。」

ワ「ラヴィ様の攻撃に耐える敵をですか!? 無理です!」


私は驚いてラヴィ様を見る。


ラ「何を言っているの? ステータスは見たのでしょう? 貴方と大して強さは変わらないわ。スキルの効果よ、ほら、もう効果が切れているわ。」


言われるとおりにサザラントを見ると、盾の光は消えている。私は盾術には詳しくないが、おそらくダメージを無効化するタイプのスキルか? それ以外にあいつのステータスでラヴィ様の攻撃を受けきれる手段は無いと思うが。


サ「やってくれるじゃねぇか、今度はこっちの番だ。シールドバッシュ!」


私はラヴィ様とサザラントの間に陣取る。サザラントは構わずにそのまま盾を私に叩きつけてくる。盾から衝撃波が発生し、私は吹き飛ばされた。物理耐性による30%ダメージ軽減。


ワ「ぐっ、これもスキル効果か!」


私は体制を立て直すと、槍を構える。私は槍を伸ばしながら突きの態勢を取ると、サザラントは地面に手を付けた。


サ「鉄の壁!」


私の攻撃は鉄の壁を破壊したが、サザラントはその隙に槍を回避したようだ。


サ「この壁を貫通するとは、やっかいな槍を持っているようだな。だが、俺の最強技を防げるかな? イージス召喚!」

ラ「まさか!? ワルキューレ、早く倒しなさい!」


ラヴィ様の慌てた声に私はサザラントを倒そうと、召喚ポーズで固まっている間に魔法を撃ちこむ。


ワ「闇の球!」

サ「甘いな! マジック・リフレクト!」


サザラントの盾を緑色のオーラが包む。闇の球がその盾に当たる。スキル効果により、ワルキューレにダメージ反射。


ワ「ばか、な・・。」


私の魔法耐性すら無関係にダメージのみを私に反射してきた。


ラ「召喚が終わってしまうわ! 早く!」


ラヴィ様が慌てて叫ぶ。私は魔法ではだめだと思い、槍を投擲した。


サ「それも甘い! リフレクション!」


サザラントの盾を今度は赤色のオーラが包む。槍が盾に当たると、槍はそのままの勢いでサザラントの盾に反射され、ラヴィ様に向かって飛んでいく。槍先をラヴィ様が受け止めた。ラヴィに0ダメージ。


ラ「ワルキューレ? あなた、やる気はあるのかしら?」


ラヴィ様は槍を私の方に軽く放り投げる。私は急いでそれを拾う。


ワ「申し訳ありません! しかし、魔法も、槍での攻撃も効かないのですが!」

ラ「スキルがそんなに万能な訳が無いでしょう? 見なさい、もう効果は切れているわ。」


サザラントの盾を見ると、さっきまであったオーラが無くなっている。


サ「バレたらしょうがねぇ、だが、時間稼ぎはもう十分だ! イージス!」


私は最後のあがきに一番攻撃速度の速い光魔法を唱える。


ワ「光の剣!」


しかし、地面から巨大な金色の手が現れると、光の剣を防ぐ。ダメージ無効、イージスに0ダメージ。

そして、10mはあろうかという巨大な黄金のゴーレムの全身が地面から召喚されてしまった。


ワ「ラヴィ様、あれは何ですか!? 」


私はラヴィ様に説明を求める。正直、物理攻撃は反射され、魔法攻撃はダメージを反射され、直接攻撃が当たったとしてもラヴィ様の攻撃すら0ダメージにするスキルがある。さらに、あんなに巨大なゴーレムが現れるとなると、私にはどうしようもないように思える。それに、あの金色の輝きは先ほどラヴィ様の攻撃を受けた時の盾と同じオーラじゃないか?


ラ「召喚されてしまったわね。あの巨兵はイージスと言ってすべてのダメージを0にするオーラを纏っているのよ。」

ワ「そんな!? それでは無敵ではないですか!」

ラ「そう、無敵なのよ。私でもイージスを倒すのは不可能よ。見てなさい?」


ラヴィ様がカードをイージスに投げる。スキル無効を無効化、スキル効果により、イージスに0ダメージ。

まさか、スキル無効化すら持っているラヴィ様ですら破壊不可能なゴーレムとは・・・。私は絶望の眼差しでイージスを見る。イージスは主人を守るようにサザラントの前に立ちふさがった。


サ「どうした? かかってこないのか?」


サザラントが挑発してくるので、試しに闇の球をイージスを避けて撃ちだす。しかし、イージスはサザラントに当たる前に自らの手で防ぐ。スキル効果により、イージスに0ダメージ。


サ「どうだ? 手も足も出まい! さっさと降参したらどうだ?」


確かにこちらの攻撃は効かないが、向こうから攻撃してくる様子も無い。


ワ「あの、ラヴィ様? イージスは何をしているんですか?」

ラ「何って見ればわかるでしょう? 召喚した主人を守っているのよ。」

ワ「それは分かるのですが、何故攻撃してこないのでしょうか?」

ラ「イージスの攻撃力は0よ。自分の攻撃すら無効化してしまうのよね。だから、

女神の間ではイージスを召喚する者は居ないわ。意味が無いもの。こちらから攻撃しなければ、なにもされないわ。それに、鑑定でサザラントを見てみなさい。」


ラヴィ様に言われる通りにサザラントを鑑定する。MPが50万・・40万・・30万・・ものすごく減るのが早い。


サ「どうした!? もう終わりか?! 早く降参しろ!」


サザラントは焦ったように降伏を進めてくる。しかし、私達が傍観していると、サザラントのMPが0になり、イージスは砂の様になって崩れ去った。


サ「・・・降参だ。好きにしろ。」


MPが切れたサザラントは、もう何のスキルを使う事もでき無いようで諦めたようだ。こうなることが分かっていたのに使ったのか?


ラ「MP自動回復を持っている女神なら無限に使えるけれど、自分も攻撃できないのよね。あなたみたいに反射されない限りはね?」


それは申し訳ありません! もう2度と同じ過ちは繰り返すまい。しかし、素のステータスでも私ではサザラントを倒すのに時間がかかりそうだ。


ラ「私がやるわ。」


ラヴィ様が諦めて膝をついているサザラントにカードを投げる。クリティカル発生、サザラントはコアになった。しかし、この騒ぎに気づいたようで、他の四天王が着てしまったようだ。私は鑑定で調べていく。

一人は、長い金髪を風になびかせて、綺麗な装飾で彩られたミスリル製の鎧を着て、同じくミスリルで作られた剣を携えている綺麗な女性だ。


クレティア(四天王) 装備:ミスリルの剣、ミスリルの鎧、スキル:偽剣術(10)


一人は、真っ白なローブを着て豪華な杖を構えている、耳がとがり、緑色の髪をツインテールにしている小さな女性だ。


ミリア(四天王) 装備:ミスリルの杖、ミスリルのローブ、スキル:偽魔術(10)


一人は、上半身が裸で下半身だけ鎧を着ている大柄な男性で、両手に付けているナックルをカチンカチンとぶつけて鳴らしている。


ハーフェン(四天王) 装備:ミスリルナックル、ミスリルの鎧、スキル:偽格闘術(10)


ク「これは・・・サザラントが居ないわね?」

ハ「まさか、やられちまったのか? まあ、あいつは防御ばっかりで攻撃手段がねーからな。四天王最弱じゃないのか?」

ミ「キャハハ、最弱、最弱~。」


クレティアが現状を理解し、ハーフェンがサザラントを馬鹿にする。ミリアはそれを楽しんでいるようだ。


ラ「これは、あなただけでは厳しそうね?」

ワ「む、むむむ無理です!」


サザラントと同格の3人を同時に相手するなど不可能だ。サザラント一人にすら苦戦するというのに。


ラ「仕方ないわね、はじまる様から許可は得ているわ。これを使いなさい。」


ラヴィ様が黒いコアを放ってきた。私は慌ててキャッチする。


ワ「これは?」

ラ「ルバートのコアよ。デーモンの時と同様に使ってみなさい。」

ハ「何をする気だ?」

ミ「よくわかんないけど邪魔しちゃお! いいよね? メテオインパクト!」

ク「馬鹿ミリア! こんなところでそんな魔法使わないでよ!?」


ミリアの土魔法によって巨大な隕石が上空に現れる。私は、慌ててルバートのコアを砕いた。


ミ「どっかーん!」


大質量の隕石が私にぶつかり、辺り一帯に隕石の破片が飛び散る。ワルキューレに0ダメージ。


ク「くっ、これじゃあ何も見えないじゃない!」

ハ「ぐはははは、豪快だな! 俺は好きだぞ!」

ミ「別にあんたに好かれたくも無いけどねー。」

ク「とりあえず、散らすわよ。合わせなさい、ハーフェン。」

ハ「おう、分かったぞ。」

ク・ハ「ショック・ウェーブ!」


クレティアは地面に剣を刺し、ハーフェンは地面を拳で叩くと、付近に衝撃波が走り、砂ぼこりを散らす。


ミ「もう、もっと綺麗にしてよ! 操風!」


最後にミリアが風魔法で吹き飛ばす。


ク「・・・ありえないわ。」

ハ「はっ、そう来なくてはな。」

ミ「むー!」


クレティアは愕然とし、ハーフェンは獰猛に口角を上げ、ミリアはふくれる。私はそれを見ながら、自分を鑑定する。


ワルキューレ(女神Ⅲ) 装備:神槍、神装、スキル:透明化、千里眼、異世界召喚、蘇生、物理耐性(大)、魔法耐性(大)、HP自動回復(大)、MP自動回復(特大)、飛行、転移魔法、空間魔法(6)、時空魔法、闇魔法(8)、光魔法(9)、血魔法(7)


ワ「私が、女神ランクⅢ・・・。」

ラ「そうね。おめでとう。」


ラヴィ様が素直に祝福してくれる。ステータス的にはケルベロ様の5分の1ほどしか無いし、スキルも全然足りないが、MP自動回復は大から特大になり、空間魔法、闇魔法、光魔法、血魔法が1ずつ上がっている。また、神装備が大幅に強くなっている。


ク「一気に畳みかけるわよ!」

ハ「いいぜ!」

ミ「うん!」

ク「エクスカリバー召喚!」

ハ「ゼロ・インパクト!」

ミ「水神召喚!」


クレティアの手には何でも切裂ける剣が召喚され、ハーフェンはどこに居ようとも瞬時に必ず当たる攻撃をし、ミリアは触れるものすべてを超水圧で切り刻む水の龍を作り出す。まず、ハーフェンの攻撃が私に当たり、体の中から衝撃が来る。クリティカル発生、ワルキューレにダメージ。さすがに体内の攻撃は防げず、クリティカルダメージを受けてしまうが、この程度のダメージなら1分で回復する。


ク「食らいなさい! 防御無視の攻撃、ペネトレート!」


クレティアのエクスカリバーが私の腹に突き刺さる。防御無視、貫通、クリティカル発生、ワルキューレにダメージ。技自体は装備の防御力を無視し、エクスカリバーは私自身の防御力を無視するようだが、先ほどと同様にこの程度のダメージはすぐに回復するだろう。


ミ「どいて! いけ、水龍!」


ミリアの声ですぐに飛び離れたクレティアの横を通り、私に水の龍が向かってくる。巨大な水龍は私を飲み込もうと口を開ける。


ワ「光の壁。」


仮に水龍を受けてもダメージは0だが、濡れるのが嫌なので光の壁で防ぐ。壁に当たった水龍は潰れるようにぶつかり、そのままただの水となって辺りを濡らすだけに終わった。


ミ「こんなの無理よ! 樹海!」


ミリアはあっさりと私を倒すことをあきらめたようで、木魔法を唱えると、辺り一面が木で埋め尽くされ、四天王がどこに居るのか分からなくなった。


ワ「神槍・グングニル!」


私の槍はその木々をあっさりと貫通し、自動で辺りの敵を攻撃する。

クリティカル発生、クレティア、ミリア、ハーフェンの3人はコアになった。そして、ミリアが発生させた樹海も消滅する。・・・そして、グングニルの槍先を指で挟んでいるラヴィ様が見えた。


ラ「・・・いい度胸ね?」

ワ「も、申し訳ありません!」


私は、槍の扱いに慣れることを第一目標にする事にした。

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