第18話 過去編3日目
ユ「おはようございます。」
レ「・・・おはよう。」
俺が起き上がった音で気が付いたのか、ユウが挨拶をしてきた。起きた時に他人が居る気配は久しぶりだ。厳密には他人じゃないが、人の気配と言えばいいか? 人でも無いって?
ユ「何をぶつぶつ言っているんですか?」
レ「いや、何でもない。ちょっと顔を洗ってくる。」
といっても、汲み置きの水しかないのでカメから桶で水をすくい、桶に顔を近づけて顔を洗う。あっ、顔を拭くものを忘れた。
レ「悪い、何か顔を拭くものをくれ。」
ユ「はい、タオルです。」
そう言ってくれたものは、タオルだった。しかし、昨日はこんなものなかったはずだ。
レ「どうしたんだ、これ?」
ユ「夜、暇だったので編んでおきました。」
やばいっ、俺もユウに惚れそう! って知識は俺の物だから、俺も一応編めるんだよな、面倒くさいから絶対やらないだけで。ついでに、編針なんかも木を削って自作したようだ。器用さはユウの方が上かもしれない。単なる慣れの問題かもしれないが。
レ「サンキュー、じゃあ、飯にするか。」
俺は扉も無い小屋の入口をでると、ラヴィが待ち構えていた。木で編んだ籠に果物の様なものや野菜の様な物が山ほど積まれている。鼻の上に土がついているところを見ると、ラヴィは菜園もやっているのか?
ラ「おはようございます!」
ユ「おはようございます。」
レ「おはよう。ラヴィ、鼻の上に土がついているぞ。」
ラ「えっ本当ですか?」
ラヴィは籠を片手で持つと、鼻の土をぬぐう。
ユ「これをお使いください。」
ユウはそれもいつの間に編んだのか、ハンカチサイズの編み物をラヴィに渡した。
ラ「ありがとうございます! 後で洗って返しますね!」
ラヴィは土をぬぐうとアイテムボックスにハンカチをしまった。洗うだけなら水魔法でいくらでもできそうなので、借りパクしそうだな・・・。
ラヴィの転移によって俺達はダンジョンの食堂へ行く。さっきの野菜を煮たり、切ったりしてサラダとスープが出来たようだ。小麦粉はあったのか、パンの様な物も作ったようだが、発酵させていないので固い。卵と牛乳はあるのでパンというよりクッキーみたいなものか。砂糖は無いので甘くないが、スープに付けて食うには丁度いい。
皆「いただきます。」
俺がパンをちぎってスープに付けているのを見て、ラヴィもマネをした。
ラ「こういう食べ方もあるんですね。」
そもそもラヴィは料理をしないようで、素材をそのまま食うとか、そもそも食わないとかで過ごしているようだ。見た目がウサギなだけに、ニンジンの様な物をかじっている姿が想像に難くない。
皆「ごちそうさまでした。」
レ「今日は7階か? 7階は何が出るんだ?」
未来ではカジノだが、ここにギャンブルという概念は無いだろうし、何があるのか予想がつかない。
ラ「7階はトレーニングルームになっています! もし、今までのダンジョン攻略で自分の力に不安を覚えているならば、そこで鍛える事が出来ます!」
未来のお手軽ステータスアップがここでは自力トレーニングになるのか・・。何か月単位で鍛える気だよ!
レ「いや、トレーニングはいいや・・・。」
ラ「そうですか。思いっきりパンチングマシーンを殴ったりするもの良いと思うのですが。」
それ、ラヴィのストレス発散じゃないか。発案者はだれだよ! そこだけ明らかに昔からあっただろ! ただ、ラヴィが思い切り殴っても壊れないパンチングマシーンは気になる。
レ「どうするユウ。どうせ通り道だろうし見に行くか?」
ラ「あっ、説明し忘れていましたが、8階からは別棟になりますので通り道ではありませんよ。」
そこの作りはやはり未来と同じか。7階で終了ならわざわざ見に行くほどの事ではないか。
レ「じゃあ、8階の方へ行くか。」
ラ「・・分かりました。」
ラヴィは少し残念そうに答えた。
ダンジョン8階扱いとはいえ、ここでは別棟なので実質1階に着いた。ここにもホワイトボードはあるが、ステータスは上がっていないと思うのでスルーする。入口は四角い縦に10m、横に5mほどの鉄格子の様な扉だ。何か嫌な予感がするが、扉の横のチェーンを引っ張る。すると、扉が徐々に上がっていく。
ラ「あっ、私がやりますね。えいっ!」
ラヴィが鎖を引くと、ジャラジャラと高速で鎖がまわり一瞬で扉が一番上まで開いた。ガチャンという音と共に中がはっきりと見える。
レ「・・・闘技場?」
ラ「はい! ここからは1対1の戦いです! あっ、不安があるなら7階に行きますか?」
ラヴィはそんなにトレーニングルームを見せたいのだろうか・・・。
レ「7階には行かないが・・。相手は誰だ?」
ラ「えーと、最初の相手はミノタウロスですね。」
ああ、牛のあいつか。ステーキが食いたくなるな。扉を見た時からそんな気はしていたが、恐らくギガースやもしかしたらドラゴンも見れるかもしれない。あれ? クリア条件って倒す事だけか?
レ「全モンスターを倒せないと次の階には行けないって事か?」
ラ「そうですね。源さんは大丈夫ですが、もしかしたら運だけで階段を上ってクリアする方が現れないとも限りませんから。」
運だけでモンスターを回避できるとは思えないが、透明化を使えば余裕かもしれないな。まあ、未来にはこのシステムを取っていないから、ここで脱落する試験者が多かったんじゃないかな?
ラ「それで、どちらが挑戦されますか?」
レ「とりあえず、ユウが様子を見るという事でどうだろうか。」
ユ「分かりました。接近戦は僕の方が得意ですし、いいでしょう。」
ユウはしっかりと装備を整えて中へ入る。すると、ラヴィは鎖を引っ張って扉を閉めた。
ラ「戦闘はこちらから見れるようになっています。私はモンスターを入場させるために向こう側へ行きますね。」
扉の横の階段を上ると、本当に闘技場のように見学できる様だ。東京ドームのように天井はあるが、20mくらいの高さがあるので飛行するにも問題なさそうだ。円形になっている闘技場は100mくらいの広さがあるな。
ラ「もうっ! 大人しく入りなさい!」
反対側の入口から「ガンッ」と言う音と共にミノタウロスがフラフラと入ってくる。ミノタウロスが闘技場に倒れ込むと同時に扉が閉まる。すると、俺の隣にラヴィが転移してきた。
ラ「両者が入った時点で戦闘開始です! さあ、ユウ様の雄姿を見ましょう!」
レ「・・・ミノタウロスがすでに倒れているんだが?」
消滅していないので死んではいないのだろう。ただ、明らかにダメージを受けている。ユウはどうすればいいか分からずに戸惑っている。
ラ「え? あっ、本当ですね。蘇生!」
ラヴィはミノタウロスを蘇生すると、むくりと起き上がった。ミノタウロスの表情を読める訳では無いが、顔を真っ赤にしているので怒っているのか、醜態を照れているのか。まあ、照れるわけ無いから怒っているんだろうな。
ミノタウロスは後ろ脚を牛のようにザリザリと地面をこすり、「ブモゥ!」と雄たけびを上げた後に角を突き出して突進してくる。このミノタウロスは装備を何も持っていない上に全裸だ。全裸と言っても牛だけどな。
ユウはその突進をサッと避ける。ミノタウロスは急には止まれないのか、しばらく進んだ後にUターンして戻ってくる。それもサッと回避した。それを何度か繰り返していると、少しずつユウは壁に追い詰められているようだ。回避されまくって激怒したミノタウロスは、今まで以上の突進でユウに突っ込む。
ユ「これを待っていました。」
ユウはジャンプしてミノタウロスの頭に乗ると、マントで目隠しする。ミノタウロスはそのまま壁に頭から思い切りぶつかって気絶した。
ユ「とどめを刺せばいいですか?」
ラ「はいっ、今までと一緒で大丈夫です!」
ラヴィに確認したユウは、気絶しているミノタウロスの首を刎ねる。すると、ミノタウロスは消滅した。
ラ「やはり、ユウ様は強いですね! それでは、次のモンスターを用意してきます!」
ラヴィはそう言うと、一旦闘技場の反対側の扉へ転移していったようだ。
ユウも闘技場内から人間だけが通れそうな狭い階段を上ってこちらに来た。
レ「ユウ、お疲れさん。」
ユ「全然平気ですよ。次はどうしますか?」
ユウは暗に俺に参加しないのか? と聞いているようだ。俺は少し考える。ミノタウロスが来たとすれば、次は恐らくエキドナだろう。たまには美女で目の保養でもするか。
レ「よし、次は俺が出よう。」
ユ「分かりました。頑張って下さい。」
ユウはニコリと俺を送り出した。男に、それも自分の分身ともいえるユウに応援されるのも変な感じだが、悪い気はしない。俺は階段を下りて直接闘技場へ降りる。扉の方へ行ってもいいが、開けるのがめんどくさいからだ。
しばらく待つと、ラヴィの準備が整ったのか、闘技場の扉が一気に開く。そこからベヒーモスが姿を現した。
レ「思っていたのと違う!」
と言っては見たものの、よくよく考えると、エキドナは確か合成獣だからまだ作られていないのかもしれない・・・。まあ、ギガースよりは回復力の無いベヒーモスの方がやりやすい方か。俺は前向きに考えてベヒーモスがゆっくりと入ってくるのを眺めた。
ラ「はやくっ、はいってっ、ください!」
・・・ベヒーモスがゆっくりと入ってきている訳では無く、入らないように踏ん張っているベヒーモスをラヴィが押しているようだ。ズズズズズッと音が聞こえるほど地面を擦っている。
ラ「いい加減にしないと消しますよ?」
遠くで呟くようにしゃべったラヴィの声が、なぜかこちらまで聞こえる。その声を聴いたベヒーモスは、ビクッとして慌てて入ってきた。ベヒーモスの全身が闘技場に入ると、扉がドゴンと閉められる。体が一瞬浮いたと思えるほどの衝撃だ。
レ「さて、やるか?」
俺はすでにビビっているベヒーモスに問う。まあ、返事があるとは思っていないのでこちらから仕掛けさせてもらう。
ベヒーモスに突進さえるとめんどうなので、俺はベヒーモスの周りをまわるように走る。そして、弥生のように手裏剣を作成しては投げる。ステータスが反映されていないのか、単にそういうスキルを持っているのか分からないが、ぶあつい表皮によって手裏剣はあまり刺さらないようだ。
ベヒーモスは一応痛みがあったのか、怒ったように突進するが、ほぼ真っすぐにしか突っ込んでこない突進なんて当たるわけが無い。
レ「うーん、やってみるか。分裂、融合、作成アヌビス!」
俺は俺の中の記憶だけでアヌビスを作り、キメラとスペクターのコアを本当の意味でアヌビスに融合させた。以前のように中途半端に見た目が変わるような事は無く、スキルだけを融合させた。また、アヌビスは最初に復元した、小さい時の見た目だ。服は見た目は神装備だが、効果はない。
アヌビス(分裂体):スキル:物理無効、飛行、火魔法(5)、風魔法(5)、闇魔法(4)、MP自動回復(中)
ステータスは体感ではあるが、魔力寄りでステータス合計は俺のMPに依存するのでおそらくユウ程度だろう。
ア「我に任せるがよい!」
アヌビスはさっそく飛行を使うと、ベヒーモスの頭上へ向かう。ベヒーモスもアヌビスを敵と認識しているが、空中に攻撃する手段を持たないようで、「ブモッ! ブモッ!」とおそらく文句を言っている。アヌビスはそれを気にせず闇の玉をベヒーモスの頭に落とす。神装備をしていない分裂体のアヌビスがそんなに魔力が高いわけではないが、巨体のベヒーモスが倒れるほどの威力があったようだ。
ア「どうじゃ?」
アヌビスが褒めてほしそうに俺の方へ飛んでくるが、俺はどうしようかと思案している間にベヒーモスが起き上がった。
ベヒーモスはプルプルと頭を振ると、さっきより素早く俺に突進してきた。
ア「はぁ、それしか攻撃方法がないのかの?」
アヌビスは右手でベヒーモスの攻撃を受けとめる。物理無効があるのでダメージは無い上に、物理的な衝撃は飛行によって相殺したようで、アヌビスはその場にとどまる。逆にベヒーモスは自分の突進の威力分のダメージを頭に負ったようで、脳震盪でも起こしたのか、フラフラとしたあとに倒れる。
ア「闇ではダメージが低いようなのじゃ。ならばこれはどうじゃ? 火の玉!」
アヌビスはベヒーモスに追い打ちをかける。アヌビスの魔法は、ベヒーモスのマンモスの様な全身の長い毛に燃え移る。熱さで目が覚めたのか、ベヒーモスはゴロゴロを転がっているが、火が消えたころには体力が切れたのか、ぐったりしている。
ア「とどめは零が刺すのじゃ。」
レ「・・・いじめみたいでやりにくいな。」
俺はベヒーモスの大きさに合わせた大剣を作ると、すでに倒されるのを待っているようなベヒーモスに止めを刺した。
ベヒーモスが消滅するのを確認してから、闘技場の階段を通りユウの居る観客席に移動する。すると、ユウとラヴィが仲良く隣同士に座っているのが見えた。
ラ「えっと、その浮いている方は?」
俺が声をかける前にラヴィに先制を取られた。まあ、行くときに居なかったんだから気になるよな。
レ「ユウと同様に俺が作ったアヌビスだ。」
ア「我はアヌビスなのじゃ。よろしくなのじゃ。」
アヌビスは空中でぺこりと頭を下げると、ラヴィもつられてぺこりと頭を下げる。本物のアヌビスならやらないだろうが、これは俺の分裂体だからな・・・。
ラ「えっと、女の子ですか?」
レ「そうだ。と言っても、俺の空想の産物じゃなくて実際に存在している人物だけどな。」
ラ「へぇ・・よく出来ていますね、まるで本物の女の子に見えるんですが?」
レ「イメージ元は女の子? 女性を再現したからな。」
アヌビスは子供か? という部分にひっかかりを感じたが、まあ、俺の中のイメージでは子供のイメージが強い。
ラ「ふーん、可愛い女の子ですね? まるで、事細かに見た様なイメージぶりですね?」
レ「ああ、実際に全身を見たことがあるからな。」
ラ「・・・変態。」
ラヴィはそれだけ言うと、そっぽを向いた。
レ「違う!? 誤解だ!! 俺は一緒に風呂に入っただけで・・・。」
ラ「変態、黙らないと消しますよ?」
ラヴィから異常な殺気を感じて口を閉じる。俺はユウを見たが、今は何も言わない方がいいと目で伝えられたので黙る。この空気でどうしようかと思っていると、ユウが口を開く。
ユ「ラヴィ、次のモンスターはいるのかな?」
それを受けて、ラヴィもしゃべらないわけにはいかないので、「はぁ」とから返事をした後に説明してくれる。
ラ「一応何体か戦う予定だったのですが、ここは実力を測る場所なので、ユウ様とコレの実力は十分だと思います。」
俺の扱いがコレになってる!?
ラ「なので、さっさと次の段階に行きましょうか。」
ラヴィはそう言うと、有無を言わさずダンジョンのフロントに戻る。フロントに置いてあった宝石の様な物を握ると、ラヴィは目をつぶり、空中に話しかける。
ラ「メィル様、メィル様、聞こえますか? 闘技場をクリアしたので次の準備をお願いします。」
メィルと交信したようだ。女神はこうやって連絡を取り合っていたのか。メィルから返事があったようで、ラヴィは目を開けると宝石を元の場所に戻し、口を開く。
ラ「次は神界です。」
ラヴィに連れられて、カウンターの奥にある部屋へ向かう。部屋の入口には、何か紋様のようなもので枠が彫られている重要そうな扉がある。
ユ「素晴らしい装飾の扉ですね。ここへ入るのですか?」
ユウがラヴィに尋ねる。俺も同じことを思ったが、さっきの事があるので話しかけにくかったから丁度いい。
ラ「はい、こちらは神界へ行ける選ばれた人だけが入れる部屋です。メィル様の許可が無ければどんな神様でも入れない場所となっています。今は私が許可をもらっているので、私が開けますね。」
ラヴィが扉の横にあるプレートに触れる。まるで静脈認証みたいだな・・・。
それが終わると、さらに本人かどうか確かめるためだろうか、ラヴィが光に包まれる。一瞬服が透けたように見えたが、気のせいか? くっ、もっと動体視力を鍛えておけばよかった!
ラ「認証が終わりました。さあ、入って下さい。」
一旦認証が終われば誰でも入れるようだ。俺達はラヴィに続いて部屋に入る。
部屋の中は真っ白なドーム状で、壁の材質が何か分からない。この白さは石灰のようだが、まさか石灰ではないだろうな・・・。
レ「ここは何だ?」
明らかに他の作りと違う部屋に困惑する。まさか、ここが神界? そう問おうとしたら、ラヴィは何やら部屋の真ん中にある魔法陣で祈りの様な物を捧げているようにみえる。
ラ「ちょっと黙っててください。魔法陣を起動させるには私には負担が大きいので、集中が乱れると・・・あっ、乱れました。」
ラヴィがそう言った瞬間、真っ暗な水中に転移した。
レ「ごぼっ!」
ラ「ああ、ここは深海ですね。」
ラヴィはどうやって水中で話しているのか分からないし、平気そうだし、俺はもう水圧で潰れて死にそうだし・・。
俺は気が付くと、さっきの真っ白の部屋にびしょぬれで戻ってきていた。
ラ「すみません、ちょっとした手違いで死なせてしまって。」
大して悪いと思っていなさそうな感じの謝罪を受けた。そして俺は死んでいたらしい。服を着たままだから、ペチャンコで・・って考えたくない。
レ「おまっ! 死なせてって・・。」
ラ「蘇生したからいいじゃないですか。」
俺のセリフは途中で遮られる。それに、深海へ転移したのは俺だけの様で、ユウもアヌビスも濡れていない。もしかして、わざとじゃないか? そう思って怒りのままラヴィを睨みつけようと思ったら、いつの間にかヴェリーヌが居た。
レ「えっ、ヴェリーヌ・・様?」
そう問いかけたが、ヴェリーヌからの返事はない。また、ラヴィの目は光を失い、無表情だ。
ヴェ「神界への道が開けるのをずっと待っていた。」
ヴェリーヌは右手を地面につける。すると、ヴェリーヌの前に転移陣が現れる。一目で神だと分かるような男が現れた。ヴェリーヌ以上の神々しさと、まるで一流の彫刻家が、生涯をかけて理想の男性像を掘ったかの様な美形だ。
ベ「これが神界へ通じる魔法陣か?」
ヴェ「その通りです、ベルゼブブ様。」
ヴェリーヌが様付けするような格上がここに・・? 何しにいるんだ? 絶対に俺達を見届ける為にいるわけではない事は分かる。
ベ「こういう機会でもないと、神界へは行けないからな。」
ヴェ「今回はラヴィが担当となったので運が良かったようです。情報を得ることが楽だった上に怪しまれずに動くことが出来ました。ついでに、いくつかダンジョン内に時空間の抜け道を作っておきました。」
ヴェリーヌの話で、未来でちょくちょく悪魔が現れたのは、ヴェリーヌの細工だったと分かった。
2人は、まるで俺が居ないかのようにふるまう。確かに、ヴェリーヌの実力を考えれば、人間の立ち話を細菌が聞いている様なもので、目にすら入らないだろうな。しかし、ベルゼブブと呼ばれた神にはそうは映らなかったようだ。
ベ「それで、こやつらは?」
ヴェ「コレらですか? このダンジョンのテストに呼ばれただけの人間の様ですよ。」
ヴェリーヌにもコレ扱いされた!? 俺は反論しようかどうか迷っていると、ベルゼブブが俺に近づいてくる。俺は何故か逃げ出したく感じたため、一歩下がる。
ベ「怖がらなくても良い。何か、変な雰囲気を感じたものでな?」
ユ「どうかしましたか?」
ア「それ以上近づくでない!」
さらに近づいてくるベルゼブブに危険を感じたのか、アヌビスとユウが立ちはだかる。しかし、ベルゼブブがフッと息を吹きかけただけでユウとアヌビスは消滅した。
レ「な、なにを・・?」
俺はさらに下がろうとしたが、すでに後ろは壁だった。
ベ「まあいい、人間が何をしようが我らには関係ないか。」
ベルゼブブは気が変わったのか、さっさと魔法陣の方へ向かうと起動させた。ベルゼブブの姿が魔法陣に消え、続いてヴェリーヌの姿も消える。
レ「待て!」
俺は自分でも何を考えて行動しているのかわからなくなったが、このままいかせてはいけない事だけはわかった。俺が魔法陣へ足を踏み入れ、光に包まれる。光が収まると、追いかけるように手を伸ばした右手にフニョンと柔らかい感触があった。俺はそれを揉む。
ヤ「な、ななな、なにをするんですか!!!」
クリティカル発生、零は死んだ。
俺は弥生のクナイによって死んでいたようだ。体の上には誰が掛けてくれたのか、俺のスーツが掛けてある。
ラ「目が覚めましたか?」
レ「ああっ、ラヴィが蘇生してくれたのか・・。」
俺はスーツを着て、はっと気づく。なんで弥生が居るんだ?
レ「ラヴィ、あれからどうなったんだ?」
ラヴィが怪訝な顔で返事をしてくれる。
ラ「あれからとは・・? 黒い渦に吸い込まれた直後に形無さんのすぐ前に現れ、胸を揉んでクナイを刺されて死に、今私が蘇生したところですが? あれ? そう言えばいつの間に盾を作ったのですか?」
俺は周りを見ると、残念そうな人を見る目でワルキューレが俺を見ているし、アヌビスは普通に宙に浮いているし、イルナはいつも通りにぼーっとしているし、弥生は目が合った瞬間胸を両手でガードした。
レ「えっと、ラヴィ・・様?」
ラ「なんでしょうか? さき程は急に呼び捨てになったので驚きましたが。」
ここまで確認できれば俺でもわかる。元の時代に戻ってきたのだろう。
レ「みんな、話があるんだがいいか? 時間がかかるから、座って話そう。」
ラヴィ様が警戒しつつ、食堂へ移動する。そこで俺は黒い渦に吸い込まれてから今までの事を話す。
ラ「にわかには信じられませんね。実際に、私の記憶にはあなたに会った記憶はありませんし。」
レ「忘れているだけじゃなくて?」
ラ「神の記憶力を侮らないで下さい。それに、それだけ濃い体験を忘れるとは思えません。」
ア「ふむ。何か確認できるような物を探すのじゃ!」
レ「何かって言われてもな・・。7階はトレーニングルームからカジノになっているし、8階は闘技場から普通のダンジョンになっているし・・・そうだ!」
俺はフロントへダッシュして戻ると、神界への魔法陣がある扉を探す。
レ「・・・無いか。やっぱり夢だったのか?」
いや、夢なら俺が盾を持っていることの理由がつかない、それに・・・融合!
レ「あったぞ、俺が過去に行ったことを示すものが! 融合!」
俺はガーゴイルと融合すると、皮膚が石のように固くなり、背中に翼が生え、空を飛ぶ。
ラ「確かに、いままで持っていなかったスキルですが・・。今、覚えたのではないですか?」
レ「そんなに急に覚えられないだろう?」
ラヴィ様は考え込むようにして黙る。俺の翼を珍しいのか、アヌビスがツンツンしているが、飛行しているのはスキルであって翼ではないので見た目だけだぞ。弥生もうらやましそうにこっちを見ているが、目が合うとそっぽを向く。まだ怒っているのかな。俺は弥生の目の前に降りる。
レ「そういえば、まだ謝っていなかったな。ごめん、弥生。」
ヤ「えっ、あっ、わ、私の方こそ攻撃してごめんなさいです。」
弥生は不意を突かれたからか、動揺しているようだ。
ワ「それで、何故ここにきたのだ?」
ワルキューレは不思議そうに壁を見ている。
レ「ああ、過去にはここに神界に繋がる部屋への入口があったんだが、今は無いようだ。」
ラ「・・・総合すると、あなたが過去に行っていたというのもあながち嘘とも言えなくなりましたね。カジノが以前トレーニングルームだったことも、8階が闘技場だったことも、何より、今はもう別の場所に移っていますが、ここに神界への入口があった事を知っているのは私かはじまる様くらいですし。」
レ「ヴェリーヌや、ベルゼブブってやつもだろ? それに、メィルもか?」
俺がそう言うと、ラヴィは大きく目を見開き、ワルキューレはガタガタと震えだす。
ラ「何故・・・その事を・・?」
レ「過去で、神界へ繋がる魔法陣を起動させたのがそいつだったからだ。」
ラ「はぁっ。そこまで知っているのならば、あの渦は時空転移の魔法だったようですね。遡った時間から考えると、信じられませんが。」
レ「ちなみに、ラヴィ様が見習いだった時代っていつだ?」
ラ「少なくとも、あなたの居た宇宙が生まれる前ですね。」
レ「そんなに!?」
石器時代や恐竜の時代どころか、宇宙誕生前だったとは。あれ? ラヴィ様何歳だ?
ラ「女性の年齢を推測するのですか?」
レ「えっ、神でも年齢気にするの?」
ラ「女性ですから。」
そうなのか・・。むしろ、年齢が多いほど偉い気がするが・・。それに、不老不死じゃないのか? まあいい、これ以上は藪蛇だろう。
ラ「賢明な判断です。それで、何故さっきの話でメィルが出てくるのですか?」
レ「え? 本人は上級神とか言っていたぞ?」
ラ「メィルが上級神? 冗談でも笑えませんね。メィルは現在ですら、まだ正式な女神で無いというのに。」
レ「うーん、確かに・・。だけど、ラヴィ様もメィル様って呼んでいたし、見た目は大人だけど、雰囲気はまるっきりメィルだったんだけどなぁ。」
まあ、考えても分からないからいいか。それより、これからどうするかだが。
そう思っていたら、ラヴィ様がこめかみに手を当てた。
ラ「なんですって!? すぐに行きます!」
ラヴィ様はそう言うと、本当にすぐに転移していってしまった。俺達はどうしようか。
レ「ワルキューレ、これからの予定は?」
そう話しかけると、ワルキューレはまだ震えていた。
レ「ん? なんでまだ震えているんだ? 寒いのか?」
ワ「違う・・ラヴィ様はあえて触れなかったが、零殿がさっき言った名前には強い呪いが掛かっている。皆は平気そうだが、何故だ?」
ヤ「何故だと言われましても、どの名前ですかね? ヴェリーヌとメィルちゃんは知っているので、ベルゼブブですか?」
弥生がそう言うと、ワルキューレの顔色が白に近いほど青ざめた。
ワ「そ、そそそ、その名前を言わないでくれ。」
ヤ「あっ、す、すいません!」
弥生は慌てて口をふさぐ。しかし、その名前を聞いても俺もイルナもアヌビスも平気だ。だが、イルナが何故か憑依する。
イ「それは、古の悪魔の名前じゃねーか!? 急にどうしたの? ヨルムンガンド。」
イルナが一人二役の様に話しているが、ヨルムンガンドが憑依した様だ。
イ「そうか、バック・ベヤードが名前を言おうとしただけで石化した理由が分かったぜ。古の悪魔の名前は言うだけで呪いが掛かる禁忌だ。魔力の低い奴が石化する程の呪いがな。」
レ「俺達は平気だが?」
イ「それは、お前たちが神でもないし、過去の戦争の後に生まれたからだろうな。」
ワ「その話はするな!!」
ワルキューレが急に大声を出して止めた。ビクッとしたイルナの憑依も解ける。
ワ「大声を出して済まない。だが、それを知るのは今ではない。とりあえず、ケルベロ様のところへ行こう。転移!」
俺達は一旦避難場所としてビジネスホテルへ連れてこられた。結界があるのでホテル前だったのが微妙に締まらないが。
ケ「おかえりなさいませ、ワン。」
ケルベロちゃんが今まで見たことない様な真剣な顔で立っていた。
ケ「緊急連絡が着ましたワン。とりあえず、結界の中に早く入ってください、ワン。」
ケルベロちゃんはそう言うと、俺達の後ろに回り込んで中へ押し込んでいく。
ケ「ワルキューレは分かっているのかワン?」
ワ「え? 私には緊急連絡が着ていないのですが……。」
ケルベロちゃんは一瞬可哀そうな子を見るような目になったが、目を逸らすと、話も逸らした。
ケ「神界で大変な事が起きたそうだワン。だから、あたちがお前たちを守るワン。」
レ「ものすごくざっくりとしていて何が大変かわからんぞ!」
ケ「それはお前たちが知る必要はないワン。」
レ「ベルゼブブか?」
俺がカマをかけてそう言うと、ケルベロちゃんは目を見開いて驚いている。
ケ「違いますワン。」
違ったようだ。なら、なぜそんな驚いた顔をするんだ……。代わりに、またワルキューレが震えだした。ワルキューレに関係あるが、神界に関係の無いことか……わかんね。
俺達はケルベロちゃんに部屋に戻るように言われたので、部屋に戻る。当然のごとくワルキューレはケルベロちゃんの所だ。
レ「一体何があったんだろうな?」
ヤ「分かりませんけど、ラヴィ様が慌てるような事態ですからね。私たちが心配したところで手に負える気が全くしません!」
イ「……女神関係が相手なら、何もできない。」
ア「我が本来の力を取り戻せれば、何か手伝えるやもしれんのじゃが。」
レ「ワルキューレですらあんな感じだし、無理じゃね?」
ア「言い方と言うものがあるのじゃ! これだから零はダメなのじゃ!」
レ「何がダメなんだよ!? 初めていわれたわ!」
ア「そうなのか? いつも弥生が……」
ヤ「アヌビスちゃん、余計なことを言わなくていいから寝ましょうか?」
ア「眠くないのじゃ!」
ヤ「ね・ま・しょ・う?」
まだ飯も食っていないけど、アヌビスは弥生に連れて行かれた。イルナはどうしようか迷った結果、弥生たちの方へ着いて行った。
注文していないけど、ケルベロちゃんが「今日の晩飯だ!」と勝手にテーブルに料理を並べていったので、それぞれ好きなものを食べることにした。そのケルベロちゃんは分身の様なので、もしかしたらワルキューレと何かしているのかもしれない。明日になれば何かわかるだろうか。俺たちは普段通り時間を過ごし、アヌビスが闇の壁を張ったのを見て、大人しく眠った。
♦
時間を少し遡る
神界にて
マ「うーん、はじまる様からお預かりしたコアの解析が全然進みませんねぇ。上級神であるこの私、マリアの力を持ってすればどんな物でも一瞬で解析できると思ったのですけれど。」
マリアはGカップはあるであろう胸の下に手を組んで考える。
マ「はじまる様の話では、女神の誰かが封印されている可能性があるっておっしゃられたから傷つけ無いように大事に、慎重にと進めてきたのですけど、そろそろ何か進展が欲しいですわね。」
マリアは黒いコアをツンとつつくと、計測器に入れる。もう何日もいろいろな機械にかけているが、何の変化も無い。まるで、強固な封印がなされているようだ。
マ「このままでは私が無能呼ばわりされてしまうではありませんか。もう、中身を調べるよりもいっそ蘇生をして、マズければ再封印をしたほうが早いのではありませんか?」
マリアは独り言でそう言うと、それが一番の方法の様に思えてきた。マリアは悪戯をする子供みたいにキョロキョロと周りに誰も居ないことを確認する。神界へは、下級神以上のランクか、それらの神の許可が無いと入れないため、まずめったに誰かが居るということは無い。
ここで、はじまる様以外に会ったのは、数億年前じゃないだろうか。
マリアは黒いコアにそっと触れる。
マ「……いいよね? 蘇生!」
マリアは何があってもすぐに対応できるように構える。すると、黒いコアが黒い闇に隠れる。
マ「闇魔法? 光よ!」
マリアは光魔法で闇魔法を相殺すると、そこには何もなかった。
マ「あれ? 失敗? コアは?」
マリアはキョロキョロと周りを見る。そして、下界への魔方陣が起動するのが見えた。
マ「何かに逃げられた!? 大変だわ!」
マリアはすぐに緊急連絡を行う。そして、はじまる様にどう言い訳しようか考えるのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます