第17話 過去編2日目

空腹で目が覚めた。よく考えたら昨日は結局昼飯を食っていないも同然の上、夕食も食えていない。人間、腹が減りすぎると痛いんだな・・・。


ラ「おはようございます!」


ラヴィがぺこりと挨拶した。


レ「おはよう。いつから居たんだ?」

ラ「源さんが起きる気配がしたので、転移してきました。なので、今来たところです!」


起きる気配が分かるとか、熟年夫婦にも無理だろうと思うが。日が昇り始めたばかりなので、日本であれば朝の5時から6時頃か? そも思っていたら腹が「ぐーっ」と主張を始めた。


ラ「あっ、お腹が空きましたよね? いま朝食を用意しますね。」


そう言うと、ラヴィはアイテムボックスから何かの巨大な卵を取り出した。


レ「・・・何そのでかい卵は。」

ラ「え? 源さんは恐竜の卵とか嫌いですか?」


好きも嫌いも、食ったこと自体が無い。見た目はニワトリの卵を100倍したような感じだ。煮るにも焼くにも時間がかかりそうだな。


レ「食ったことは無いが、ものすごく腹が減っていて、今すぐにでも食えるものが良いな。」

ラ「分かりました!すぐ焼きますね。火魔法レベル5!」


ラヴィの右手から火炎放射器の様に勢いよく火が出る。卵はあっという間に真っ黒になったが大丈夫なのだろうか?ラヴィはアイテムボックスから大きな石の器を取り出すと、その真っ黒の卵をふちでコンコンと当てて殻を割った。中身は普通のニワトリの卵と一緒だが巨大だ。


ラ「さあ、出来ましたよ!」

レ「・・・ありがとう。いただきます。」


俺はうがいの時に使った塩をかけると、白身にかぶり付いた。


レ「おっ、うまいな。」


うん、普通の卵の味がする。むしろ、濃厚さはこっちの方が上だ。中は予想通り生だったが、時間の止まっているアイテムボックスから出したのなら腐ってはいないだろう。


ラ「何をかけたんですか?」


ラヴィが興味深そうに俺の右手を見てくる。ちなみに、塩は葉っぱの様な物で包まれていた。


レ「塩だよ。使ったことはないのか?」

ラ「えっ、そういう使い方もできるんですか?」

レ「食べてみるか?」


俺はまだ口を付けていない白身部分に少し塩を振ってやる。ラヴィは恐る恐るカプリと小さな口で食べた。


ラ「・・・おいしいですね。」


ラヴィはパクパクと食べ始めた。もしかして、神は食べなくていいからと味見すらしてなかったんじゃないのか?

ニワトリの卵100個分は当然食えないので、途中で腹がいっぱいになった。それに食べあきた。


レ「うっぷ、ごちそうさま。さすがにこれ以上は入らないな。」

ラ「それなら、アイテムボックスで保存しておくので、また食べたくなったら言ってくださいね。」


そういうと、ラヴィは食いかけの卵をアイテムボックスへしまった。


レ「ちなみに、昨日の肉は何の肉だったんだ?」

ラ「ドラゴンの肉ですよ? 奮発しました! めったに手に入らないんですよ?」


あれはドラゴンの肉だったのか。まあ、俺の足ほどもある肉なんてそうそう見たことは無いからな。もしかして、ドラゴンの肉に火耐性とかあったんじゃないのか?


レ「ああ、貴重な食材をどうもありがとう。ただ、俺の胃は消化吸収できないみたいだ。」

ラ「それは、あの、ごめんなさい。」


ラヴィがしゅんとした。別にラヴィを困らせるつもりはなかったので頭を撫でてごまかした。うさ耳がぴくぴく動いているのでおそらく気持ちが良いのだろう。撫でるのをやめると耳が少しションと下がるのが面白い。


レ「それじゃあ、今日もがんばってダンジョンへ行こうか。」

ラ「はい!」


ラヴィは昨日転移した2階の階段前に転移してくれた。俺はそのまま階段を上り3階へ行く。3階は確かオーク達だったはずだ。


ラ「3階はオークですよ! スライム達と違って知能が高いので気を付けてくださいね?」

レ「ああ、分かっている。」


実際、オーク戦はいろいろとやばかったからな。ここのオークはどうなのかな?

俺は罠に気を付けながら歩いて行く。今となれば罠なんて大したことないけどな。ただ、マヒと装備解除はやばい、見た目的な意味で。そう思ってラヴィをちらりと見ると、コテンと首を傾げられた。


ラ「どうかしたんですか?」

レ「いや、何でもない。」


今まで心を読まれていただけに、不思議そうな顔をするラヴィが珍しく感じる。よそ見をしていたのが悪かったのか、ファイアボールの罠を踏んだようだ。一瞬だけ火だるまになる。魔力的にダメージは受けてない。


レ「うあっちい!」


幸いスラマントは燃えなかったが、スーツが少し焦げた。やばい、装備解除じゃなくても火系統の魔法を受けたら服が燃え尽きてしまう。


ラ「罠があるので気を付けてくださいね?」


慌てていないところを見ると、罠があることを今まで言わなかったのはわざとの様だ。罠がある事を知っていてひっかかっている俺はラヴィに文句を言うつもりは無いが。


レ「大丈夫、幸い死んでいないからな。」


最初にこれで死んだのを思い出した。


ラ「そうですね、火力が弱すぎましたか?」

レ「いや、強すぎるとこれからここを使う全員がここで死ぬぞ?」

ラ「あっ、確かにそうですね。」


ラヴィはクスクスと笑うと、先に進むように促してくる。俺は足元に注意しながら進んだ。すると、オークとハイオークが出てきた。オークは棍棒に皮の服で、ハイオークは木の棒に石をツルで縛りつけた斧と、皮の服を着ている。服装は未来のダンジョンよりも貧相だが、服の隙間から見える体は引き締まっていて豚顔の狼男みたいな感じに見える。


オ「ブモッ!」

ハ「ブフモッ!」


言葉はしゃべれないようだが、オーク同士で意思疎通ができるようだ。左右に別れたところを見ると、挟み撃ちにしろとでも言っていたのかな?

まずオークが棍棒で殴りかかってくるが、俺はそれを避けると、足をかけて転ばせる。それを隙と捉えたのか、ハイオークが斧を上から叩きつけてくるが、斧の部分に手を添えて軌道をずらし、オークに当たるようにしむけた。ぐしゃりとオークの頭が砕けて光となって消えた。


ハ「ブモーッ!」


それを受けて激高したのか、めちゃくちゃに斧を振り回しながら向かってくるが、俺の素早さからすれば全然遅い。俺はスラタン刀をハイオークの胸に刺す。刀を抜くと、少し血が出たがそのまま光となって消える。


ラ「落ち着いてますね! ここで多少は苦戦する予定だったのですが、思った以上に源さんが強くてびっくりしました!」

レ「・・・ありがとう。」


アヌビスや弥生が強いので、今まで自分が強いと感じたことが無かった。俺は照れ隠しに刀を振って鞘に納めると、先へ進んだ。


通路が壁の様な物で封鎖されている。


レ「幻惑か。」


今の俺の魔力ならオークマジシャンの幻惑にはかからない。幻惑の壁の後ろに待機していたオークマジシャンを見破ると、分裂で作ったナイフを投げる。オークマジシャンは布のフードを被っているので表情は分からないが、驚いているはずだ。が、俺のナイフはオークマジシャンが持っていた木の杖に当たった・・・。俺、投擲スキル持っていないしな。一応、オークマジシャンが持っていた杖は俺のナイフによって折れて消滅した。


オ「ブモッ、ブーッ!」


何か文句を言っているのだろうが、言葉が分からない。オークマジシャンは木魔法を使ったのだろう、足元から尖った木の枝が生えてきたが、ウッドスライムの時と同様に俺の靴は貫けないようだ。

オークマジシャンは魔法が効かないと判断したらしく、逃げ出そうとしたが、俺はケルベロスを作るとオークマジシャンの足に噛みつかせた。


レ「悪く思うなよ。」


俺はスラタン刀を構えると、倒れ込んだオークマジシャンの背中に突き立てた。思ったよりも抵抗なく刺さり、オークマジシャンは光となって消えた。


ラ「魔力も高いんですか? 普通の人間ならオークマジシャンの幻惑はほぼ看破不可能なのですけど。」

レ「ああ、前に幻惑を食らったことがあるから知ってるよ。罠と合わせて不覚をとったから良く覚えている。」

ラ「そうだったんですか。やはり、経験者だとこのダンジョンは簡単過ぎますかね?」

レ「いや、簡単ではないと思うぞ。実際に何度か死んだことがあるからな。」

ラ「えっ、死んだことがある?」


ラヴィは小さく「人間なのに・・?」と呟いているのでマズイと思い、言い直した。


レ「ああ、死ぬ思いをしたことがあるんだよ、何度か。」

ラ「死ぬ思いですか、そうですよね。なんか聞き間違えたようです。」


ラヴィはテヘヘと照れたように言っているが、聞き間違えじゃないので指摘はしない。


ラ「もし、ここで源さんが死んでも私がすぐに蘇生させるので安心してくださいね!」

レ「できれば、死ぬ前に助けてほしいけどな。」

ラ「私が直接手を出しては意味が無いじゃないですかー。」


実際にどこまでが危険かは判断がつかないだろうしな。防御していると思っても、貫通して即死という事もありえるし、蘇生されるのが確定している分だけマシだと思うことにした。

またオークやハイオーク、オークマジシャンが出てくる。そこで、ふと思い出した。


レ「・・・水の玉。」


すると、10cmくらいの水の玉が現れてオークを吹っ飛ばした。そのままオークは消滅した。昨日は感じていた抵抗感を感じなかったので忘れていたが、俺はまだアイススライムと融合している様だ。グリフォンの時と違って見た目がまったく変わらんしな。

俺は寝ているときに勝手に解除されなくて助かったが、いつ勝手に解けるか分からなかったので融合を解除した。すると、何もしていないのにスライムは消滅した。


ラ「あら、まだスライムと融合していたんですか。ダンジョンのモンスターは管理された階層から移動できないので消滅した様ですね。」


なるほど、どおりでずっと階段があるのに違う階層に移動しないわけだ。まあ、階層移動が自由なら、1階からすでに高レベルモンスターで溢れてしまうか。

俺は残りのオーク達もケルベロスを使って倒した。なんだかんだで自分で止めを刺すのは嫌なんだよな。


ラ「犬が好きなんですか?」

レ「ん? どうしてそう思ったんだ?」

ラ「だって、昨日から犬の様なモンスターを作っているじゃないですか。」

レ「こいつはケルベロスと言って、地獄の門番をしていると言われているんだ。カッコいいから好きだ。」

ラ「地獄・・ですか? 私は、カッコいいというより可愛いと思いますよ。」


俺はさすがに口の周りを血だらけにしている犬を可愛いとは呼べない。きちんと止めを刺して血が消滅した後なら撫でてやろうと思っていたら、ラヴィはケルベロスを撫でていた。まだモンスターを倒しきっていないんで邪魔しないで欲しいんだけど!


レ「じゃあ、これならどうだ? いでよ、ユウ!」


俺はカッコつけて召喚する様なポーズをとる。俺は伝説の勇者と言われるような豪華な装備と共にユウを作り出す。変化じゃないから装備の色は水色で固定だけどな!本当なら金色にしてゴールドセイントみたいな見た目にしたかったんだが。


ラ「あら、かっこいいですね!」


ラヴィは皮や布じゃない服にも興味があるようだ。


ユ「可愛いお嬢さん、ありがとう。僕の名前はユウと言います。貴方のお名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」


ユウはラヴィにニコリと笑いかけると、ラヴィも「わぁっ」とまんざらでもなさそうに頬を赤くする。それはそれでなんかやるせない気になるが。嫉妬の力に目覚めそうだ。


ラ「えっと、私の名前はラヴィと言います。見習い女神をやっています。」


ラヴィは面接を受けに来た女子大生の様に緊張しているように見える。


ユ「そんなに緊張しなくてもいいですよ? 貴方は笑顔の方が美しいです。」


ユウはさりげなくラヴィの肩に手を置く。ラヴィも「はい・・。」と言ってそっとユウの手に自分の手を重ねる。


レ「そろそろいいか?」


俺は我慢できなくなって声をかける。ラヴィは「はっ!」と慌ててユウから離れる。


ユ「分かっていますよ。僕がモンスターを狩れば良いのですね?」

レ「分かっているならいいが・・・。」


知識は共有しているので、説明する手間が省けるのは助かるが、余計な事はしないで欲しい。いっそ美女の分裂体でも・・。そういえば、アラクネのコアってどうしたかな?


ラ「その顔、やめませんか?」

レ「へっ?」

ラ「いえ、何か気持ちの悪い笑顔をしていたので・・・。」


考えが顔に出てしまっていたようだ。俺は「コホンッ」と咳をしてやり直す。


レ「戦力の増強を図ろうかと思ってな? まあ、今はいいか。」

ラ「そうですね。まったく苦戦しているように見えませんので、戦力の増強は不要だと思います。」


ラヴィの対応が心なしか冷たくなったように感じる。俺は戦闘をユウに任せてどんどん進み、3階をクリアした。クリアしたと言っても、セーブ&ロードはラヴィだけどな!


レ「よし、この調子で4階へ行こう。」

ラ「そうですね。まだ昼食には早いですし。」


朝が早かっただけにまだ時間は早い。ここに時計は無いが、女神には絶対時間と呼べるようなものがあるのだろうか?


ユ「僕が先に行きますね。」


ユウを先頭に階段を上ると、ボロ布をまとったようなコボルトが待ち構えていた。手には黒曜石のナイフを持っている。前はコボルトの鎧に苦戦した様な気がするが、ここでは単なる獣人だな。


ユ「ラヴィ、下がっていてください。」

ラ「はい・・。」

レ「いや、ラヴィはいつも下がっているだろ。大体、俺の方の心配をしろよ!」


素直に下がるラヴィもラヴィだし、本体より強いラヴィを心配するユウもユウだ。コボルトもそれにイラッとしたのか「グルルルル」と唸っている。見た目が弱そうだから怖くはないけどな。

コボルトはナイフを器用に構えると、突進するように体重を乗せて攻撃してくる。今のユウは俺のステータスの半分くらいはあるはずなので、おそらくコボルト程度は余裕で倒せるだろう。


ユ「遅いですね。フッ!」


ユウは半身になって回避すると、ズザザと止まったコボルトに駆けていく。コボルトは再び突進しようとするが、それよりも早くユウの攻撃が届く。


ユ「十字切り!」


ユウは浅くコボルトの腹を斬ると、勢いをそのままに剣を上に持ち振り下ろす。コボルトは対応できずに真っ二つになって消滅した。消滅するまでの間がグロい・・。


レ「もう少し早く消えないかな?」

ラ「完全に絶命するまで消えませんよ? 例え首を刎ねてもしばらくは生きていますね。」

レ「怖い事を言うなよ・・・。」


コボルトの血の匂いに誘われた訳では無いと思うが、ホワイトファングも現れた。


レ「ユウ! 遠吠えをする前に倒せ!」

ユ「承知しました。」


ユウは遠吠えをしようと口を開けたホワイトファングの口に剣を差し込む。剣は喉を貫通してさらに頭まで貫通した様で、一言も発することなく消滅した。


ラ「さすがです! ユウ様!」

ユ「ありがとう、ラヴィ。」


ラヴィは胸の前で手を組んでキラキラの笑顔でユウを褒める。ユウはニコリとラヴィに微笑んでから、血糊のついていない剣をブンッと振ってから鞘に納める。まあ、剣も実質ユウの体の一部みたいなものだが。

下手にラヴィとユウの恋愛とか始まったら困るのだが。今消すわけにも行かないし、どうしたものか。


そう考えているうちに、ヘルハウンドが3体近づいてくるのが見えた。ヘルハウンドはドーベルマンの様な感じだ。警戒しているのか、ゆっくりと近づいてくる。


レ「ユウ、何体相手にできる?」

ユ「3体とも相手にできますが、少なければ少ないほど負担が減るので助かりますね。」

ラ「私が一体引き受けましょうか!」

レ「いや、それはダメだろう・・。」


ラヴィがとんでもないことを言いだしたので注意する。未来のメィルですら言わなかったことだが、万が一恋による暴走ならそうそうにユウを消す必要が出てくるな。逆にラヴィがユウを守った場合、俺が死ぬかもしれんが。

考え中の俺を隙だらけと見たのか、ヘルハウンドの1体が俺に向かってくる。体感的にゆっくりと向かってきているので、ユウが言う通り3体同時でも相手をできそうだ。


レ「よっと。おっ、2体がユウの方に行ったぞ。」


俺はヘルハウンドの噛みつきを避けて腹をけり上げると「ぎゃんっ」とよだれを垂らしながら倒れる。こちらを見ていたユウの方に残り2体が向かったようだが、ユウは既に剣を構えている。


ユ「二段切り。」

ウはヘルハウンドの足を切って突進の勢いを殺し、そのまま振りぬいた剣をもう一度切り返して斬りつける。2度目の斬撃で顔を斬られたヘルハウンドは、すぐに消滅した。俺はピクピクとしている目の前のヘルハウンドの心臓にスラタン刀を差し込み止めを刺す。ユウは最後の1体のヘルハウンドを、すれ違いざまに首を落とすと、ヘルハウンドは消滅した。


ユ「思ったよりも弱いですね。」

レ「そうだな、ほとんどオークと変わらない強さだ。」

ラ「お見事です。私が手を出す必要も無かったですね。」

レ「だから、手を出したらダメだからな。」


ユウの手助けをしたいラヴィに釘を刺しておかなければならないと思ったが、よく考えたら別に手伝ってもらってはダメともペナルティがあるとも聞いていないな?


レ「・・・、ラヴィが手伝った場合、何か問題があるか?」

ラ「私がメィル様から怒られますね!」

レ「・・・それだけ?」

ラ「それだけじゃないですよ! バレたら私の評価値が下がるじゃないですか。」


ラヴィが手を出しても俺が困るようなことは無いようだ。ならば、次に手を出そうとした場合に止める必要は無いな。


ユ「続々と来ましたよ。あれは、ライカンスロープですね。」


ここのライカンスロープは、腰に布を巻いただけの貧相な装備だ。また、狼ではなく虎だ。黄色と白の柄は背中だけで、腹は真っ白で綺麗だな。

ライカンスロープは軽くステップを踏むと、ジャブを打ってくる。俺は紙一重で避けてみる。ライカンスロープは次に蹴りをシュシュッと放ってくるが、それも避けてみる。苛立ったのか、ストレートを打ってきたので、カウンターでパンチを顔面に打ち込んでみた。


レ「えっと、弱いな。」

ラ「うーん、要改善ですかね。」


ラヴィも全く相手になっていないライカンスロープに疑問を覚えたのか、考えている。この結果、未来のライカンスロープが狼になったのかもしれない。

ユウの方にもライカンスロープが向かって行ったが、リーチの差は歴然で、ユウの剣が肩に当たってひるんだところを袈裟切りに斬って倒していた。

いつの間に着ていたのか、ヘルハウンドが遠吠えをする。複数のヘルハウンドが現れて口から炎を吐いてくる。


ユ「この程度の炎、僕には効きませんよ。」

レ「あちっ、熱いけどダメージは無いな。」


気持ちの問題なのか、ついつい火に触れると「あちっ」て言ってしまうな。ユウの知識も俺と一緒のはずなのに、あいつは平気そうだが。

ユウは炎の隙間を縫うようにしてヘルハウンド達に接近すると、胴を斬り、首を刎ね、眉間に剣を刺す。あっという間にヘルハウンド達は消滅していった。

それ以降、モンスターは出てこないようなので、ユウは剣を納め、俺も休憩する。


ラ「そろそろお昼にしますか?」


俺も腕時計を見ると、そろそろ12時のようだ。しかし、昼飯をどうするか・・。


ユ「僕がお昼を作りましょうか?」

ラ「えっ、作れるんですか? 食べてみたいです!」


ユウの提案で、お昼はユウが作ることになった。さすが俺の分身、分かっているじゃないか。


ラヴィの転移によって食堂へ着いた。材料はラヴィが用意するが、見たことも無い食材も多いため、似た様な食材に当てはめて餞別していく。目が8つある魚とか、足が20本ほどあるカニとか、真っ赤なウニっぽいものとかセーフかアウトか分からんものはユウに食ってもらって判断しよう。クモとかハエをでかくしただけの食材は例えうまいとしても却下だ。

ユウの手によって海鮮丼に近いものが出来た。残念ながら醤油は無いが、ワサビは似た様な物があったので、塩とワサビで誤魔化すか。


ラ「わぁ、おいしいです! ユウ様って料理がお上手なんですね!」

ユ「ラヴィの為に愛情を込めたから美味しく感じるんじゃないのかな? 食材も美人に食べてもらう方がうれしいと思うよ。」

ラ「まあっ。うれしいです。」


ラヴィは頬を赤くしてパクパクと食べ進める。俺は比較対象が未来の海鮮丼の為、そこまでうまいとは感じないが、愛情のせいではないと思う。


ラ「あれ、ユウ様は食べないんですか?」

ユ「作る過程でいろいろと食べてしまったので、大丈夫ですよ。」


ユウには一応毒見をしてもらっている。食っても死なないし、食わなくても死なない分裂体の利点だ。食っても死なないが、食ったら死ぬものは分かるみたいだし。実際、フグの様に見えた魚を食った時はダメージを負っていたからな。


ラ「ごちそうさまでした!」

レ「ごちそうさま。」


食後のお茶が欲しくなるが、怪しい葉っぱを入れただけの飲み物が出てきそうなので、どうしようか迷う。


レ「何か飲み物はあるか?」

ラ「ジュースならありますよ? ヤシの実でいいですか?」


ラヴィはそういうと、素手でヤシの実を割ってくれる。ヤシの実って昔からあるんだな。たまたま似ているだけか? 一応少しだけ飲んでみたが、大丈夫そうなのでそのまま飲むことにした。


食堂でしばらく雑談した後、腹も落ち着いてきたので眠くなる前にダンジョン攻略を進めることにした。


ラヴィの転移で4階から再開だ。


レ「転移直後に襲われることもあるんじゃないか?」

ラ「あっ、そういえばそうですね。何か安全に行き来できる方法を考えないとマズイですかね?」

レ「俺は大丈夫だけど、ここで苦戦するような人が居た場合、いきなりヘルハウンドに囲まれるとかがあったら即死するだろうな。」

ラ「むむっ、その場合は私が助けるかもしれませんが、私が居ない場合も考えられますよね。何かいい案が無いか考えてみます。」


いい案が将来的にエレベーターになるのだろうが、今現在はエレベーターなんてどこにも存在しないからアドバイスしても意味が無いだろう。放っておいても大丈夫そうだし、俺にとっては今の転移の方が歩く距離が短いので楽だ。


ユ「またライカンスロープやケルベロスがやってくるようですね。」


耳を澄ますと、確かに複数の足音がする。2足と4足の足音の差は分からないが、チャリチャリと爪の音がするからケルベロスは居るのだろう。十秒後には接敵するだろう、ユウがすでに剣を鞘から抜いて警戒している。


レ「来たぞ!」


見たところ、ライカンスロープと・・・フェンリルじゃないか? 青い巨体で白い息を吐いているので間違い無いだろう。


ラ「珍しいですね。あれはレアモンスターのフェンリルです。」


やっぱりフェンリルだったか。ここではレアモンスターという扱いみたいだな。


レ「レアモンスターは普通のモンスターと違うのか?」

ラ「普通のモンスターより強いのです。ずっと同じ階に留まろうとしたりした時に、対象者を排除する時にも出ますが、私達はまだ来たばかりですしね。」


メィルが言っていたズルとはまた違うのか? どの程度の強さか見てみるか。


レ「ユウ、苦戦するようだったら手伝うからな。」

ユ「分かりました。僕が先に戦います。」


ユウは剣を正眼に構えると、眉間に突きを出す。ユウの剣は見事に突き刺さり、フェンリルは消滅した。それを見て、ライカンスロープは戦意を無くしたのか、虎耳が下がる。ユウは容赦なくライカンスロープにも斬りかかり、殲滅した。増援が無い事を確認した後、ユウは剣をしまう。


ユ「思ったよりも弱かったですね。」

ラ「いいえ、ユウ様が強いんですよ! きゃっ。」


ラヴィがユウを褒めるが、ラヴィの方が断然強いので、比較対象は常人なのだろう。俺もユウも常人と比べるなら遥かに超人だ。


ラ「あ、あとレアモンスターは次の階層付近に出やすいので、そろそろ次の階ですかね?」


ラヴィ自身もダンジョン内の構造を教えられていないのか、疑問形だ。俺の記憶によれば確かこの辺りに階段があったはずだ。


レ「お、あったあった。」


俺達は、まだ時間があるので5階層に進むことにした。

5階層は不死者の階層だ。俺は一応警戒しながら臭いをかいでみる。


レ「くんくん、よしっ、腐った臭いはしないな。」

ラ「どうしたんですか? ここはアンデットやスピリットと呼ばれるモンスターがでる階層ですが、不死者といえども腐っている訳では無いですよ? あれ? アンデットが出るっていいましたっけ?」


ラヴィは可愛く首を傾げているが、俺の知識は未来の物なのでラヴィより詳しいはずだ。


レ「何となく、臭いが気になっただけだ。前の階層は獣臭かったからな。」

ラ「そうですか。でも、臭いを無くすことは出来ないので、ご了承くださいね。」


一応ラヴィを誤魔化して探索を開始する。最初に接敵したのはマミーだった。不死者は基本的に刀の様に斬ったり突いたりする攻撃に強いはずだ。俺はスラタン刀の代わりにハンマーを作り出した。


ユ「僕にも棍棒を作ってもらえませんか?」


俺はユウに棍棒を作ってやった。オークが持っていたただの木の棒と違って、トゲトゲのついた威力が高そうなやつだ。

俺がハンマーでマミーの足を砕く。マミーの右足が折れたようで、倒れ込む。しかし、痛みを感じていないようで、折れた足でも歩いてきた。

マミーは掴みかかるようにユウに近づいたが、ユウは棍棒をマミーの右肩に当てると、右腕が落ちた。


レ「うげ、気持ち悪いな。」


マミーの右手は切り離されても動いている。こういう時、魔法があればいいんだが。そう思った時にピンときた。あれ、俺ももう魔法使えるじゃん。


レ「融合、ガーゴイル!」


俺はガーゴイルと融合すると、体の表皮は石のように固くなったが、体の動きを阻害する事が無い不思議な感覚だった。さらに、体感的に飛行と火魔法が使えるようになったと分かる。


レ「これでどうだ、火の玉!」


俺はアイススライムと融合していた時のように、10cmくらいの火魔法を使う。乾燥していたマミーは予想以上に燃え上がり、あっさりと燃え尽きて消滅した。


ユ「助かりました。ここでは物理攻撃は不向きですね。」

レ「仕方ないさ、昔は俺もアヌビス頼りだったからな。」


ラヴィも声をかけようと思っているっぽいが、うまくかける言葉が見つからないようで、「あー、うー。」と言っている。さらに出てきた3体のマミーにも同様に火の玉をぶつけて消滅させた。楽に倒せるとこれはこれで面白いな。

次に出てきたのはスペクターだった。相変わらず霊体の癖に透明でも無ければ飛行もしていない。のんびりと歩くように近づいてくる。


レ「ユウ、俺がやる。」

ユ「分かりました。」


スペクターには物理無効があるはずなので、ユウの出番はない。

スペクターは周りを夜のように暗くし、その暗さに紛れて闇の玉を撃ってくる。


レ「その程度の攻撃は効かないな。」


俺は盾でそれを受けると、衝撃は受けたがダメージは無い。闇の玉が飛んできた方へ逆に火の玉を撃ち込んでやると、風船が破裂したようにパァンという音と共に闇が晴れて明るくなった。


レ「あいつ、中身はガスだったのか?」


誰も答えを知らないので、俺の独り言になってしまったが気にしない。


それからマミーを数体倒し、スペクターも数体倒したころ、グーラが現れた。ここのグーラは少ない布で大事なところを隠しただけの格好なので、未来よりも色っぽい。


ユ「女性には手を出したくないので、僕は待機ですね。」


ユウはそう言ったが、グーラは早々に獣化した。また、しゃべる様子も無いので知能が低いのだろうか? どっちにしろ言葉は通じないかもしれないが。


ユ「僕は女性には手を出したくないのですが、獣化したならば容赦はしません。」


ユウはそう言うと、あっさりとグーラに対して攻撃する意思を見せる。獣化したグーラはスラリとした狼風で、布もどういうわけか巻かれたままだ。ただ、元々の見た目が獣のモンスターよりは知能が高いようで、こちらの様子をうかがっているようだ。そのグーラがチラリと上を見た。


レ「ん? 何かあるのか?」


そう思って俺もつられて上を見ると、その隙に足を噛みつこうとした。


レ「おっと、あぶないあぶない。」


俺にとってはスピードが大したことなかったので、ひょいと足を上げて回避した。そして、上げた足でそのままグーラの頭を蹴ると、「ぎゃんっ」と思ったより吹っ飛んで行った。


ユ「次は、僕が行きますね。」

ウは追撃の為にグーラに向かって走って追いつくと、倒れて隙だらけの腹を刺した。グーラはしばらく痛みに体を捻った後に消滅した。それから、剣を携えたモンスターが現れた。剣と言っても、がたがたで鉄の塊を剣みたいにしただけという様な粗末なものだが。


レ「ん? あれは初めて見るモンスターだな?」

ラ「え? 今までのは見た事あるモンスターだったんですか?」

レ「あー、いや、あんまりモンスターに見えないなって意味だ。」


ラヴィには適当に誤魔化すと、確かオークやライカンスロープも未来と違っているから、こいつも恐らく黒騎士に該当するモンスターなのかもしれない。この時代にはまだ鎧とか無さそうだしな。


剣士は型も何もない、ただ剣を振り下ろすような攻撃をしてきた。


ユ「全然なっていませんね。」


ユウはそれを剣で受け流すと、剣士の剣は地面にカツンと当たり、大きな隙を見せる。その隙を見逃さず、ユウは剣士のがら空きの脇腹を切り裂いた。


レ「・・・人型の傷は見ていると自分も痛く感じるな。」


今にも内臓がこぼれそうな傷を見て、俺は自分の腹を押さえてしまう。それを聞いてユウは気を使ったのか、心臓に当たる部分に剣を刺して止めを刺した。


ユ「物理攻撃だと、どうしても痛そうに見えてしまいますね。」

レ「まあ、仕方ないのかもしれないが、できるだけ痛そうな攻撃は無しだな。」


そう言ったところで弥生がグリフォンのお尻の穴に手裏剣を刺していたイメージが頭に浮かび、つい自分のお尻を押さえてしまう。


ラ「さすがにグーラのそこを攻撃するのはダメですよ!」

レ「いや、しないよ!?」


ラヴィが変な勘違いをして注意してきたので、即時訂正する。幸い、その後のグーラもすぐに獣化してきたので、そこまで忌避感無く倒せたが、ユウは慣れたのか、剣士の首を落としていた。うぅ、今夜は悪夢を見そうだ。

そして、そろそろ次の階が近いのでヴァンパイアっぽいモンスターが出てきた。


レ「・・・なんか、貧弱に見えるな。」


どちらかと言えばグールくらいに見える。耳がとがっていて目が赤く、口から長い犬歯が見えるが、服はただの布だし裸足だし。


レ「ちょっと試してみるか。復元!」


俺はヘルハウンドのコアを復元した。未来であればヴァンパイアの10分の1ほどの強さしかない。これで強さを測ってみたいと思う。


ラ「へぇ、いつものケルベロスとは違うんですね?」

レ「ああ、これは復元で作ったから、元のモンスターだ。」


ここのヘルハウンドとも少し見た目が違うのは時代の流れなのだろうな。俺のヘルハウンドの方がスラッとしていてカッコいい。


ヘルハウンドはさっそく貧相なヴァンパイアを敵と認識し、走っていく。ヴァンパイアの方は血魔法を使って眷属の蝙蝠を召喚し、ヘルハウンドに攻撃した。蝙蝠はあっさりとヘルハウンドに蹴散らされたが、ヴァンパイアに噛みつこうとしたヘルハウンドの攻撃は回避された。


レ「思ったよりもいい勝負をしているんじゃないか?」

ユ「そうですね、僕たちが知っているモンスターの強さの10分の1くらいでしょうか?」


ラヴィに聞こえないように俺とユウは話し合う。といっても、両方の知識量は一緒なので余り意味は無いが。

そうしている間に、ヘルハウンドはヴァンパイアに負けてコアに戻った。ヴァンパイアの方も何カ所か噛まれた傷があるようで、すでに満身創痍だ。ユウはヴァンパイアに近づくと、あっさりと首を落とす。ヴァンパイアはアンデットなので、傷口から血が出なかったため、まるで人形の様で少し安堵した。そう言えば、全部アンデットだったな。今思えば、剣士の傷も痛そうではあるが血はほとんど出ていなかったし、グーラもそうだった気がする。その割に心臓が弱点なのか? よくわからんな。全員スペクターくらいあっさりと消滅してくれると助かるんだが。


丁度階段があったので、ここで一旦戻ろうと思う。


レ「ラヴィ、そろそろ昼飯にしようと思うんだがどうだ?」

ラ「ユウ様はお腹が空きましたか?」


ラヴィはユウの方を気に掛ける。


ユ「僕はどちらでも大丈夫ですけど、せっかくですから戻りましょうか。」

ラ「わかりました、転移!」


ラヴィによって食堂に転移してきた。ユウの意見が優先されるのは釈然としないが、世の中やはり顔なのだろうか・・。


レ「今日は魚が食いたい気分だ。」

ラ「魚ですか? うーん、このあたりでどうですか?」


地球のカンブリア紀に出てきそうな奇妙な魚が多い。アンコウっぽいものがあるので鍋でもいいかもな、調味料も塩しか無いし。


レ「ユウ、鍋にしようか。」

ユ「分かりました。作ってきますのでしばらくお待ちください。」

ラ「あっ、私もお手伝いします!」


ラヴィも野菜を切るだけなら大丈夫だろう・・大丈夫だと良いな・・。

しばらくして、熱々の鍋ができあがったようだ。ユウがチョイスしたのか、白菜の様な野菜や、ニンジンの様な野菜、大根の様な野菜も入っている。


皆「いただきます。」


今回はみんなで食べる。鍋はやはりみんなで食べないとな!


皆「ごちそうさまでした。」


塩だけで味付けされた鍋でも、魚の出汁が出ていて旨かった。これからずっと鍋でもいいかもしれない。いや、さすがに飽きるか。そもそも、いつまでここに居なければならないんだろうな。確実なのは10階をクリアしてメィルに元の世界に戻してもらう事だが、そんなにうまいこと行くのだろうか?


俺は食後の眠い頭でそう考えていると、思ったより時間が経っていたようで、ラヴィから「そろそろ行きますよ。」と言われてしまった。


今回は6階への階段手前からだ。運良くモンスターは居ないようだ。ユウを先頭に階段を上っていく。未来では6階から確か廊下が少し広くなって天井が飛行できるように高くなっていたはずだ。


レ「ふむ。5階と変わらないな。」

ラ「作られたばかりのダンジョンなので、すべての階層は一律一緒になっていますよ。あ、マップは違いますけどね。」

レ「だとすれば、ドラ……なんでもない。」


この広さでドラゴンが入るのか? と聞こうとしたが、それを知っているとまた疑われるので聞くのを止めた。未来でもまだドラゴンは見ていないので、もしかしたら小さいのかもしれない……わけないか。ドラゴンだもんな。


通路に並んだ石像は、俺が持っているガーゴイルよりも作りが雑だ。俺のガーゴイルが一流の彫刻師が掘った物だとすれば、ここにあるのはまるで学生が一生懸命に作りましたっていうレベルの物だ。ガーゴイルと言うよりシーサーか?

俺は像の頭にポンと手を乗せる。すると、像は動き出し噛みつこうとしてきた。それをサッと手を引いて回避する。


ラ「不用意に何でも触れないほうがいいですよ?」


ラヴィはドヤ顔で言ってくるが、わざと触ったに決まっているんだが。


レ「ユウ。」

ユ「分かりました。」


ユウは不死者用にと用意した棍棒で像を殴る。こういう固そうなものには剣は向かないよな。


ユ「……壊れた?」


殴られた像は首部分が取れて動きを止めたが、消える様子はない。その代わり、他の像も動き出し始めた。偽物の像が無いのか、すべての像が動き出しているようだ。


ラ「ガーゴイルは、石像に動きを埋め込んだもので、モンスターとはまた違うのです。ちなみに、設計は私が行いました!」


ラヴィが胸を張って威張る。だからドヤ顔だったのか。でも、下手だと言わなくてよかったな。

また、ここのガーゴイルは石像に羽が無いので飛べないのだろう。どちらかと言うと狛犬かこれ。


レ「攻撃力特化型零ゾンビ、行け。」


俺は物量には物量と、10体の零ゾンビを作成した。


ラ「何ですかその変なのは! 噛みついたら増えそうで嫌ですね。」


俺のゾンビに感染能力なぞ無いわ。でも、この時代にもゾンビは居るのかもしれないな?

石っぽいくせにゾンビの攻撃であっさりとガーゴイルが壊れていく。壊れるたびにラヴィが「あぁっ」と少し悲しい顔をするので俺が攻撃しなくてよかったと思う。ユウが攻撃した時は特に顔色を変えていなかったはずだが……。


10分ほどして、通路は石の破片だらけになってしまった。


ラ「……この階は要改善ですね。」

レ「少なくとも、下の階と同様に消えるようにした方がいいだろうな。」


それに、ラヴィが作ったのなら有限だろうし、蘇生できるのか? と思っていたらさっそくラヴィが時空間魔法でガーゴイルを直していた。一応、今すぐ動くようにはしていないようで、ただのオブジェクトになった。

少し進むと、次はキメラが出てきた。もしかして、これもラヴィが作ったのか? キメラと言うよりもヌエじゃないかこれ。猿っぽい頭に蛇の尻尾、胴体は虎か?


レ「このモンスターは……?」

ラ「はい! 私が作りました!」


やっぱりか。このキメラも飛べないようだが、蛇の尻尾から毒液を飛ばしてきた。


レ「おっと。盾があって助かるな。」


そして、俺の後ろからユウがキメラに近づき尻尾を切る。すると、キメラは猿の口から火を吐いてきた。その火はユウに当たったが、ダメージは無いようだ。


レ「ほぅ、魔法まで使えるのか。」

ラ「そうですよ、いろいろ考えて作りました!」


いろいろ考えた結果、未来では飛行させるのだろうが、今は飛行が無くて助かる。俺もガーゴイルと融合すれば戦えるが、楽に戦える方がいいに決まっている。未来のためにも少し苦戦しておくか!

俺はユウにアイコンタクトを送ると、ユウも分かったようで、火魔法でダメージは受けていないはずだが、まるで重傷を負ったかのようによろめいて膝をつく。


ラ「ああ! ユウ様、大丈夫ですか! 蘇生!」


ラヴィは鑑定が無いのでユウにダメージが無いことに気が付かない。ただ、ラヴィはユウに対してサポートしすぎだと思う。ユウもさすがにそのまま倒れるわけにもいかず、張り付けたような笑顔で「助かりました。」とスッと立ち上がる。それを勘違いしたラヴィが「それほどでもないです。」と照れた顔で言っているのが微妙に腹が立つ。


俺は苦戦作戦をやめて、スラタンでキメラに切りつけた。作られたモンスターだからか、ガーゴイルと同じく血が出ないので俺にとってはやりやすい。ついでにガーゴイルと融合して火の玉で燃やし尽くしてやった。


ラ「うぅ、作り直しですか……。」


俺がやりすぎてしまったのか、時空間魔法で直されることも無くキメラの作り直しがラヴィの中で決まったようだ。


ラヴィがとぼとぼと後ろをついてくるのが気になるが、あえて気にしないようにする。次に出てきたのはグリフォンだった。これは俺が使っているのと変わらない姿をしている。つまり、飛行するという事だ。だが、このダンジョンの天井は低い上に横も狭いので飛行が有利になっていないと思う。実際、旋回できずに壁に一回足を付けたり、地面に降りたりしている。


レ「よし、ユウ、投網だ。そっちを持ってくれ。」

ユ「分かりました。」


俺は分裂でクモの巣のように網を作ると、ユウと手分けして通路をふさぐ。グリフォンはその網に向かって風魔法を使ってくるが、それは予想の範囲内だったため、魔力を上げてある網は破れない。網を破る前提で突っ込んできたグリフォンはあっさり網で捕らえられた。


レ「このグリフォンもラヴィが作ったのか?」

ラ「いえ、ヴェリーヌ先輩が設計した物を上司が作りました。」


ここでヴェリーヌが出てくるのか。まあ、仮に敵に回ると分かっていても俺がどうこうすることは出来ないが。メィルあたりにチクっても信用してもらえるとは思えない。俺も会社の同僚が知らない人から「この人、未来で裏切りますよ。」と言われても「じゃあ、そうならないように気を付けるよ。」と口だけで答えるだろう。

俺がそんなことを考えている間に、ユウはキチンと戦っていたようで、網の隙間から剣をグリフォンに刺して消滅させた。


ラ「ユウ様、お見事です!」


ラヴィが作っていないからだろうか、グリフォンを倒したことを褒めている。いや、もしかしたらヴェリーヌの事が嫌いなのかもしれない。


レ「ちょっと聞いてみるが、ラヴィはヴェリーヌの事を尊敬してるか?」

ラ「ダンジョンに関係の無い質問なので、ノーコメントとさせていただきます。」


ラヴィは誰が見ても分かるような作り笑顔で返事をした。こういう時は尊敬していると言わない限り、尊敬していない事になるんだがな。

そろそろ夜が近くなってきたが、ガーゴイルとキメラとグリフォンにしか会っていない。別に、ブラッドサキュバスが見たいわけじゃないんだからね! でも、聞くぐらいはいいよな?


レ「なあ、ラヴィ。この階って3種類しかいないの?」

ラ「今はまだ3種類ですね。作るのは大変なので、増やすとしてもどこかから連れてくるしかありませんが。そうですねぇ、コンセプトを決めてから何にするか考えます。」


コンセプトが飛行に決まってからダンジョン通路の拡張とブラッドサキュバスの配置がされるんだな。じゃあ、もうこの階には用は無いな。


レ「じゃあ、そろそろ帰ろうか。ユウ、晩飯は何にする?」

ユ「大豆でもあれば、少しは栄養のある物が作れそうですが。」

ラ「あっ、豆でしたらありますよ! ポップビーンズと言って破裂する豆が。」

レ「・・・ポップコーンか? ちょっと気になるが料理には使えなさそうなので却下だ。」

ラ「じゃあ、このビックシードですかね。」


ラヴィがそう言って見せてくれたのは、ほぼほぼ大豆に似た豆だった。ちょくちょく英語なのが気になるが、神の自動翻訳あたりがそうなっているのだと思う。


レ「じゃあ、ユウに任せた。」

ユ「分かりました。時間短縮の為に加圧してもらえると助かりますが。」

ラ「じゃあ、私が空間魔法でお手伝いしますね!」


いつの間にか料理を通してユウとラヴィが仲良くなっている気がする。

ラヴィの転移によって食堂へ移動する。寝るところには料理できる場所が無いから、晩飯を食うなら食堂が一番いい。俺は料理しないから適当に分裂体で遊んでいると、料理を終えたユウが戻ってきた。


ユ「ハンバーグにスープ、煮豆にポップコーンです。」


結局ポップコーンも作ったのか。俺は最初にポップコーンに塩を振って食べてみると、思ったよりうまい。


レ「本当にポップコーンに近いな。」

ユ「さあ、他の物も冷めないうちに食べてください。」

皆「いただきます。」


野菜の出汁や何かの肉を細切れにしたものを混ぜてあって、ほどほどに味のついた料理を食べる。俺には物足りないが、いつものようにラヴィには絶賛だった。俺も数日間、素材の味の料理だけを食べていればラヴィと同じような反応になるかもしれない。


ヴェ「あら、いい匂いがすると思ったら。元気かしら? ラヴィ。」

レ「ヴェ、ヴェリーヌ先輩! お久しぶりです!」


本当にヴェリーヌだ。ただ、未来と違うのは赤い髪の間には角が無く、背中は蝙蝠の羽の代わりに美しい白い翼があるという事だろうか。


ヴェ「えっと、そちらは?」


ヴェリーヌは俺とユウの方に目を向ける。その瞬間、雰囲気が変わったような気がした。


ラ「このダンジョンのテスターの冒険者で、源さんとユウ様です!」

ヴェ「冒険者・・・人間よね?」


ヴェリーヌは少し目つきが鋭くなったきがする。もしかして、鑑定した?


レ「初めまして。俺は人間ですが、こっちは分裂体と言ってホムンクルスみたいなものです。」


ホムンクルスがこの時代にあるかどうかは知らないが、うまく説明する物が無いな。ああ、普通にスライムの分裂って言えばよかったかな。


ヴェ「そう。」


ヴェリーヌはそれだけ言うと、もう興味はないのか去っていった。去って行ってから1分ほど経ってからラヴィが口を開く。


ラ「ふぅ、緊張しました。ヴェリーヌ先輩はものすごく短気なので、どんな発言が地雷になるか分かりません。この間なんて、原住民が無礼を働いたとか言って星を一つ破壊しましたし。」

レ「それはスケールがでかいな・・・。」

ラ「能力はあるので。ああ見えても複数の惑星を管轄する事が出来る上位女神なのです。」


ラヴィ様と同ランクと聞いていたから驚きはしないが、なんで女神が悪魔になったんだろうな?

ラヴィのヴェリーヌの理不尽話を聞き流しながら寝る場所へ向かう。

ユウは寝る必要が無いので、適当に夜番をさせておくことにした。俺は指で歯を磨き、塩水でうがいをする。風呂もそうだけど、汗をかいてスーツがなんかべとべとする気がするな・・。俺は明日ラヴィになんとかならないか聞くことにして、藁の布団に寝た。

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