第16話 ダンジョン攻略16日目 過去1日目
朝起きた時、まだ闇の壁が張ってあった。時計を見ると6時30分で、いつもの弥生なら起きている時間だ。
レ「アヌビス?起きてるか?」
ア「起きてるのじゃ。闇の壁を解除!」
ヤ「ちょっと!待ってください!あっ・・・。」
ちょうどパジャマの上着を脱いだ弥生が目に入った。白のブラジャーだった。俺はそっと布団の中へ潜り込んだ。アヌビスは珍しくすでに着替え終わっていた。
ヤ「源さんに見られちゃったじゃないですか!」
ア「下着くらいなんじゃ。我なんて風呂も一緒に入っていたのじゃ。」
ヤ「アヌビスちゃんは良くても、私は良くありません!」
ア「そんなに嫌なら自分の部屋で着替えればよかろうに。」
ヤ「つい癖で・・・。いつもなら大丈夫だったのに!」
その後結構な時間言い合いが続いたようだが、いくら言い聞かせても理解しないアヌビスに疲れたのか、弥生が折れた。
ヤ「もういいです!今度からは気を付けてくださいね!」
そう締めくくった声が聞こえたので、「もういいか?」と布団越しに聞いたが、まだ着替えてなかったようで「もう少し待ってください!」と言われた。
ヤ「イルナちゃんも早く着替えてください!」
イ「・・・おはよう。」
イルナも今起きたようで、ついでに着替えさせられたようだ。
ア「さっそく朝食を食べるのじゃ!ホットケーキ!」
アヌビスはさっそく腹ペコアピールをする。
俺はまだ起きたばかりで食欲もないため、アヌビスのホットケーキだけ注文した。ホットケーキを持ってきてくれたケルベロちゃんに聞いてみる。
レ「ワルキューレはどうしたんだ?」
ケ「ワルキューレは別室で寝ています、ワン。護衛はきちんとあたちがしていますワン。」
どうやらワルキューレは寝落ちしたらしいな。着替えに戻ってきた気配がないからな。
俺はストレッチと歯磨きをして大部屋に戻ってきた。弥生もきちんと身だしなみを整えたようだ。イルナはまだ眠いのかいつも通りなのかボーッとしている。アヌビスは食べ終わったようで、俺と入れ替わりに歯磨きをしにいった。
レ「朝食を頼むか?」
俺は弥生とイルナに聞く。
ヤ「そうですね。私は朝カレーにします!」
イ「・・・納豆ご飯。」
俺はカレーと聞いて食いたくなったので、カレー2つと納豆ご飯を注文した。イルナの世界にも納豆ってあるんだな。またケルベロちゃんが食事を配膳していってくれる。
イ「・・・納豆が違う、ヒキワリがいい。」
イルナがそう注文をつけると、ケルベロちゃんは一瞬で入れ替えた。俺達は食事を終えると、ダンジョンへ向かうことにした。
ヤ「今日はドラゴン退治ですか?それとも、ステータスを上げますか?」
結局ドラゴンのステータスは見られなかったが、一旦ステータスを上げるのもありだろう。しかし、ドラゴンを見てみたいな・・・。
レ「アヌビスはどっちがいいと思う?」
すでにアヌビスにとってはドラゴンすら倒せそうな強さになっているが。ステータス的には装備込みならアラクネを一人で倒せる。実際はクモの巣に引っかかって倒せなかったが。
ア「先にステータスを見てから決めれば良いのじゃ。まあ、最終階じゃないからそうそう今までと変わるとは思えないのじゃ。」
レ「イルナは?」
イ「・・・どっちでもいい。」
どちらかと言えばステータスを上げたい弥生、とりあえず9階を見ておきたいアヌビス、どっちでもいいイルナと、結局俺の判断に任せられることになってしまった。
レ「俺もせっかくだからドラゴンを見てみたい。」
そう言うわけで、一旦9階に行くことになった。そして、さあ行くぞと思ったところでワルキューレが転移してきた。
ワ「私を忘れるな!」
レ「結局、今日は俺達と一緒なのか?」
ワ「うむ。そうなるな。」
ワルキューレは連勤が続いた後に有休が取れたサラリーマンみたいな顔をしている。俺達の護衛を休暇だと思ってもらっても困るが。
ダンジョンに着くと、ラヴィ様がいたので聞いてみる。
レ「ラヴィ様、ダンジョンへ入っても大丈夫ですか?」
ラ「まだ結界が張られてないからダメですよ。とりあえず、明日にしたらどうかしら?」
俺は後ろを見るとワルキューレがガッツポーズをしていた。
ラ「ただし、ワルキューレは借りるわね。」
ラヴィ様がそう言うと、ワルキューレは絶望した顔をした。ワルキューレの周りがまるで闇魔法を使ったかのように真っ暗になっている。
ラ「離れなさい!」
ラヴィ様がそう言った時、その黒い部分からワルキューレが飛びずさるが、黒い範囲が広がっていく。
その黒いものに俺は吸い込まれるような感覚がして意識を失った。
ラ「大丈夫ですか?」
気が付くと、まだダンジョンのフロントに居るようで、ラヴィ様がいる。
レ「あれ? ラヴィ様、着替えました?」
ラヴィ様はいつものスーツでは無くて、動物の皮の様な物を着ているというか、まとっている程度の服装だった。
ラ「あら? 自己紹介をしましたっけ? 服装はいつもこれですよ?」
ラヴィ様は不思議そうな顔をして返事をしてくれる。
レ「あと、俺の仲間は無事ですか?」
ラ「ここにはあなただけしか転移してきていないようですけど。どなたに召喚されたんですか?」
微妙に話が噛み合ってない気がする。しかし、返答しないわけにもいかないだろう。
レ「ラヴィ様もご存じの通り、メィルですよ。」
ラ「まぁっ! メィル様ですか! あなたはエリートなのですね!」
ラヴィ様の反応がおかしい。最弱の見習い女神とか、やっぱりメィルね、くらいの扱いだった気がするが。
ラ「あっ、申し遅れてすみません! 私、ここの担当になった見習い女神のラヴィ=キラーと言います!」
そう言うと、ラヴィ様はペコリとお辞儀をした。
レ「・・・見習い女神?」
ラ「はい、そうです! ダンジョンの管理は見習い女神の仕事なのです!」
ラヴィ様は両手をグッと握ってやる気をアピールする。見習い女神のラヴィ様ってことは、ここは過去か?
メ「ほぉ、先に来ていたのか。」
ラ「メィル様!」
ダンジョンの入口からメィルを大人にした様な女性が歩いてくる。実際、ラヴィ様がメィル様とか呼んでいるのでメィルなのだろうが・・・。服は白いワンピースのようなゆったりした布の様な服装だ。
レ「メィル・・なのか?」
メ「そうだ、私がメィルだ。異世界の冒険者よ、これからよろしく頼むぞ。」
レ「えっと、何をすれば?」
メ「これからダンジョンの試験を行うのだ。その為に呼んだのだぞ?」
メィルは作られたばかりのダンジョンを本格的に稼働する前のモニターとして召喚したと説明してくれた。
メ「ここは特に初心者向けにするために、始まりのダンジョンと名付けたいと思う。」
俺が通っていたダンジョンははじまるのダンジョンだから、そんなに変わらんな。
レ「さっきラヴィ様にも聞いたんですが、俺の仲間は知りませんか?」
メ「今回は試験なのでお主一人だけしか召喚しておらん。」
あの黒いので召喚されたのは俺だけだったのか? なんか腑に落ちないが、戻れるのか?
レ「えっと、戻る事ってできますか?」
メ「まだ初めてもいないのにもうリタイアか? 気が早すぎるだろう。死ぬことは無いから少し入ってみてはどうだ?」
レ「そうじゃなくて、元の場所に帰れますか?」
メ「それでは、クリアしたら時間を巻き戻したうえで元の場所に返してやろう。 私はこう見えても上級神なのでな。」
メィルは胸を張って自慢するが、見習い女神のメィルしか見ていない俺は懐疑的だ。
メ「その証拠にお主にスキルを・・・と思ったがもう持っているのか。他に何か欲しいスキルはあるか?」
欲しいスキルか。透明化とかは弥生に禁止されているからなぁ。
レ「分裂はできるので、融合なんてどうでしょうか?」
メ「融合か。まあ、面白そうだから良いだろう。ほら、頭を出せ。」
メィルが俺の頭に手を置くと、温かい光が降り注ぎ、俺は融合を使えるようになった。
メ「これでいいだろう。どうだ?」
レ「どうだと言われても・・そうだ、融合!」
俺はポケットに入っていたグリフォンのコアに融合を使ってみた。すると、俺の背に翼が生えてグリフォンのスキルが使えるようになった。イルナの憑依と違って有効時間は無さそうだ。融合してから気が付いたが、解除できるのか? あっ、できた。よかった。
メ「ほぅ、面白いな? 融合したのは何だ?」
メィルは俺から無理やりグリフォンのコアを奪うと、しげしげと見つめる。
メ「これは、封印玉か? 面白い。スキルを与えた代わりに一つもらうとしよう。いくつか持っているのであろう?」
メィルは勝手にそう言うとコアをアイテムボックスにしまった。
メ「ほら、そろそろダンジョンへ入れ。ラヴィ、お前が着いていけ。私は忙しい、さらばだ。」
メィルはそう言うとどこかへ転移していった。
ラ「よろしくお願いします! えっと・・・。」
レ「源零だ。よろしく、ラヴィ様。」
ラ「まだ見習いなのでラヴィでいいですよ! よろしくお願いします!」
俺は呼び捨てするかどうか迷ったが、本人が良いというのでラヴィと呼ぶことにする。
ラ「それではこちらに来てください。1階はゴブリンです。」
ラヴィと一緒に行くと、通いなれた扉があった。そして、ラヴィは扉の横のホワイトボードを指さす。
ラ「これ、面白いんですよ! 触れると、触れた人のステータスが見られるんです! すごいですよね!」
ラヴィはハイテンションで説明してくれるが、いつものラヴィ様と同じ姿で様子が違うと困惑の方が大きい。俺が試しにホワイトボードに触れると、エラーと出た。
ラ「あれ、おかしいですね? 故障ですかね?」
ラヴィはそう言ってホワイトボードに触れる。
ラヴィ(見習い女神):スキル:千里眼、異世界召喚、蘇生、物理耐性(大)、魔法耐性(大)、HP自動回復(大)、MP自動回復(大)、飛行、転移魔法、空間魔法(8)、時空魔法、火魔法(8)、水魔法(8)、木魔法(8)、土魔法(8)、風魔法(8)、闇魔法(8)、光魔法(8)
うわぉ、見習いですでにランクⅤのワルキューレ並みのステータスだ。こう見ると、本当にメィルは弱い見習いだったんだな・・・。
ラ「壊れてないですねぇ。これじゃあ源さんのステータスが見られないです。困りましたね。」
レ「えっと、ラヴィは鑑定が使えないのか?」
ラ「とんでもないですよ! 鑑定なんて高位の女神様くらしか使えませんよ!」
そうなのか。鑑定って結構レアスキルなんだな。
レ「まあ、ゴブリン程度には負けないから安心してくれ。」
ラ「万が一、死んでも蘇生できますから任せてください!」
ラヴィがドンと自分の胸を叩くと、ケホケホとむせている。ラヴィ様も見習いの時はこんな感じだったのか・・・。
俺はダンジョンの1階に足を踏み入れる。久しぶりの1階だ・・まあ、他の階と作りはほとんど一緒なのだが。
さっそくゴブリンが現れる。見た目は一緒だから恐らくステータスも一緒だろうが、先制攻撃させてもらおう。俺はナイフを分裂で作り出すと、ゴブリンに向かって投擲した。投擲スキルは無いが、ゴブリンの腕に当たってゴブリンの腕がちぎれる。ゴブリンは痛みに「グギャギャ!」と叫びながら転がっている。
レ「うげっ、コアにならない!?」
ラ「コアってさっき源さんが持っていたやつですか? 普通、生物はコアになんてなりませんよ?」
ラヴィがもっともなことを言うが、コアに慣れていた俺にとっては生々しい戦闘に忌避感が生まれる。それを躊躇していると捉えたのか、ラヴィがアドバイスをくれる。
ラ「倒しちゃっても大丈夫ですよ! 蘇生して再利用しますから。」
レ「それを心配しているんじゃないのだが・・。いけ、ケルベロス。」
俺は自分で止めを刺すのが嫌で、ケルベロスを作るとゴブリンに攻撃させる。首を噛みつかれたゴブリンは、光となって消えたが、コアは無かった。ちぎれた腕や血も一緒に消えたようだ。残っていたらもうこの道通れないよ!
ラ「やりましたね! さすがエリート、この階は余裕そうですね!」
ラヴィは喜んで拍手してくれているが、俺は微妙な感じがした。
レ「コアなしでどうやってステータスを上げるんだ?」
ラ「え? ステータスって自分で上げられるんですか?」
レ「じゃあ、どうやって強くなるんだ?」
ラ「戦闘経験ですかね? こう、敵を倒す時におりゃーとか、とりゃーとか気合入れるとか。」
良く分からないが、ここではステータスは自動で上がるという事か? とりあえずコアを割ってステータスを上げるという方法が使えないことが分かった。
そうしているうちに、ゴブリンがもう一体現れた。俺はケルベロスを待機させると、攻撃を食らってみることにした。ゴブリンは俺に向かって爪で攻撃してくる。俺は掌でそれを受け止めた。
レ「痛っ!」
体感的にダメージを受けてはいないが、紙で指を切ったときみたいな痛みを感じた。ステータスでの0ダメージというのが無いのだろうか。一旦倒してしまおう。
レ「やれ、ケルベロス!」
ケルベロスはゴブリンの足に噛みついて引き倒し、首に噛みつき直して止めを刺す。ゴブリンは光となって消えた。掌を改めてみるが、傷は無い。
ラ「わざと攻撃を受けたんですか?」
ラヴィはおかしな行動をするなと思ったのか、首をかしげている。
レ「こう見えても、防御力には自信があったんだ。たぶん、ラヴィの攻撃を1回くらいは耐えれるくらい。」
ラ「へぇ、その話が本当なら、もはや人間じゃありませんね!」
ラヴィは冗談と取ったのか、キャハハと笑っている。
レ「ちなみに、戻りたくなった時はどうするんだ?」
ラ「え? トイレですか? 転移で戻りますか?」
戻りは転移らしい。それと、ここにトイレは無いようだな。
レ「いや、まだ大丈夫だ。単に確認したかっただけだ。」
ラ「そうですか。トイレがしたくなったら我慢しなくてもいいですからね! 漏らさないで下さいよ?」
ラヴィの余計な一言を受けて、立ちションしてやろうかと思ったが、殺されそうなのでやめた。この世界、痛みを感じるし・・・。
俺はサクサクとゴブリンを倒しながらマッピングをして進む。
ラ「さすが冒険者さん、慣れていますね!」
レ「いや、冒険者じゃないが・・、いや、冒険者か?」
やってることは冒険者っぽいからそれでいいか。いつも基本的に黙ってついてくるワルキューレやメィルなんかと違って、こうやって話しかけてくれると何かうれしいな。
俺は少しやる気を出してゴブリンを倒して行った。マッピングをしていて気が付いたが、これ、未来のダンジョンとマップが一緒だ。俺はエレベーターの方へ歩いて行く。すると、階段が見えた。
レ「ん? エレベーターが無いな・・・。」
ラ「え? エレベーターって何ですか?」
俺の独り言が聞こえたのだろう、ラヴィが質問してくる。よく考えたら、ここが過去ならエレベーターが作られるのは当分先の話じゃないかと思い当たった。
レ「いや、何でもない。どうしたらクリアになるんだ?」
ラ「あっ、説明していませんでしたね。階段を上って行って、10階のボスを倒したらクリアです!」
俺が意図した質問とは違った答えが返ってきたところを見ると、1階ごとのクリアはやはり無いようだ。
レ「じゃあ、途中でトイレとかで帰った場合、また最初からになるのか?」
ラ「いえっ、その時は私が同じ場所へ転移しますから大丈夫ですよ!」
自動セーブ&ロードみたいな感じか。未来よりよっぽど楽だな。担当の見習い女神は大変かもしれないが。
階段を上りスライムの階に着いた。
ラ「ここはスライムが出てきます。魔法を使ってくるので気を付けてくださいね。」
レ「ああ、分かった。」
知っていると答えるわけにもいかないだろう。俺はビックスライムの分裂体である通常のスライムをスラタン刀で中心のコア事切り裂く。スライムはゼリーの様に飛び散った後に消えた。
ラ「ここのモンスターもあっさり倒せるんですね! スライムの倒し方を知っていたんですか?」
ラヴィがコテッと首を曲げて尋ねてくる。
レ「前に戦ったことがあるんだ。」
ラ「さすが冒険者さん、経験が豊富なんですね!」
ラヴィは目をキラキラさせながら見ている。俺は念のため分裂で盾と防具を作った。あっちと違って装備した箇所しか守られないからだ。分裂も大分慣れたもので、変化程ではないがある程度の形は自由に作れるようになっていた。
ファイアスライムとウッドスライムが出てきた。ファイアスライムが火の玉を飛ばしてきたのを盾で防ぐ。表面が少し焦げたが壊れる様子はない。同様に、ウッドスライムが足元から木の枝を槍の様に生やしてきたが、分裂で作った靴を貫通することは無かった。
俺は盾を構えてスライムたちに接近すると、スラタン刀でウッドスライムを切り裂いた。ウッドスライムは光となって消えた。ファイアスライムの火の玉を再び盾で防ぐと、ファイアスライムを踏み潰す。ファイアスライムのコアが割れて、光となって消えた。
レ「思ったより戦えるな。」
まあ、この階程度なら普通に余裕なんだが、どう変更があったか分からないし、緊張する。
ラ「全くダメージを受けていませんし、余裕そうに見えますよ!」
ラヴィは「その調子で頑張ってください!」と応援してくれた。
アイススライムが出てきたとき、ふと試したいことを思いついた。俺はアイススライムを捕まえる。アイススライムはウネウネと逃げ出そうとするので、分裂体の箱を作って入れる。
ラ「そのスライムをどうするんですか?」
レ「こうするんだ。融合!」
俺は箱の中のスライムに手を突っ込むと融合を使う。すると、見た目は変わらないが、水魔法を使える様になった。ただ、抵抗するような意識を感じるので、コアと違って長時間の融合は無理そうだ。
丁度、サンドスライムが現れたので試してみる。
レ「えっと、水の玉?」
俺の手から10cmくらいの水の玉が出てサンドスライムに当たる。すると、見た目以上にダメージがあるのか、サンドスライムがパァンと飛び散った。
レ「うぉっ、ビックリした!」
ラ「うえぇ、こっちにも飛び散ってきたじゃないですか!」
さすがにラヴィ様はこの程度は回避できるようで、当たってはいない。壁に飛散した黄色いゼリー状の物体は光となって消えた。
ついでに、アイススライムの意思の抵抗を受けて融合が解除されようとするが、雑魚いスライムでは俺の融合を解除できないようだ。
俺は調子に乗ってスライムを水魔法を手加減しながら使って倒していった。すると、2階の階段付近にビックスライムがいるのが見えた。
レ「ふっふっふ、一度やってみたかったことを試させてもらう!」
ラ「はわーっ、大きいですねぇ。」
俺は大量のMPを使用し、巨大な剣を作り出した。長さにして5m程。天井に当たらないように頭上に構えると、ビックスライムに振り下ろす。ビックスライムは数体のスライムを分裂で作り出している途中で真っ二つになり、光となって消えた。
ラ「おー、かっこいいですね!」
レ「おっ、ラヴィにもわかるか? この大剣のかっこよさが!」
俺は大剣を横なぎにスライムたちを葬り去る。ただ、階段は狭くて持ち込めなかったので大剣は破棄した。弥生の変化と違って俺の分裂は一回作ると変更が効かないんだよなぁ。
ラ「もう3階もいっちゃいますか? お腹は空いていませんか?」
レ「おっと、もう12時か。じゃあ、食堂へ行こうか。」
ラ「はいっ、腕によりをかけて作りますよ!」
ラヴィ様も昔は料理が出来たのか? 俺は不思議に思いながらラヴィの転移で食堂に着いた。
レ「……これが食堂?」
ラ「はいっ、そうですよ?」
全てが石だ。ここは石器時代か? いや、もっと昔の可能性もあるな。
ラ「ちょっと待ってて下さいね!」
俺は石の椅子に腰かけると、石のテーブルを撫でる。これ、大理石か? 頭打ったら痛そうだなとか考えているうちに、ラヴィが料理を持ってきた。
ラ「どうぞ食べてください!」
葉っぱの上に何かの肉がデンと置かれている。うん、比喩でも何でもなくただの焼いた肉だ……。
ラ「どうしたんですか? 食べないんですか?」
俺は恐る恐る肉をかじる。……調味料も何も使われていない、ただの焼いた肉だ……それもちょっと生の部分もある。
ラ「おいしいですか?」
ラヴィがニコリと微笑んでいるので、まずいとは言えない。言ったら殺されるかもしれない。
レ「お、おいしいよ? 素材の味が生かされているというか、素材そのものと言うか……。」
ラ「えっへん、こう見えても料理できるんですからね!」
ラヴィは胸を張っているが、これを料理と呼ぶならば、俺は電子レンジで温めただけの物も料理と呼ぶね!
ラヴィが見張っているので肉を捨てるわけにもいかず、吐き気を我慢しながら食べた。
レ「ごちそう……さまでし……た。」
ラ「お粗末様でした! 夕食も作ってあげますね!」
レ「いや、今度は俺が作ってあげるよ。ほら、毎回作ってもらうのも悪いし。」
ラ「そうですか? いつでも作ってあげますのでまた言ってくださいね!」
ラヴィはニコニコと悪気はなく提案してくれるが、もう頼むことは無いだろう。俺は自分の水魔法で水を出すと、ゴクゴクと飲んだ。
レ「……ところで、トイレはどこかな?」
ラ「あっ、はい! こっちですよ。」
俺はトイレに入ると個室へ急いだ。それから10分後。
ラ「大丈夫ですか?」
レ「もうちょっと……。」
それからさらに30分後。
ラ「……大丈夫ですか?」
レ「もう、ちょっと……。」
それからさらに30分後。
ラ「本当に大丈夫ですか?」
レ「今日はもうだめかもしれん。」
それから落ち着いたのはさらに2時間経った後だった。いや、1時間でだいたい落ち着いたんだけど、何も出なくても何かでそうで、トイレから出られなかったのだ。
ラ「えっと、私の料理が原因でしょうか……。」
レ「さあ、分からん。融合の副作用かもしれないしな。」
ラ「……お気遣いいただきありがとうございます。」
さすがに誤魔化せないか。しょんぼりしているラヴィと撫でてみる。
ラ「くすぐったいです。」
けれども、ラヴィは手を払う事はしなかった。なされるがまましばらく撫でた後に手を離すと、ラヴィは少し名残惜しそうだった。
レ「今日はもう休むことにするよ。どこで寝ればいいかな?」
ラ「ダンジョンの隣に小屋がありますので、そちらで休んでください。」
ダンジョンの隣にある小屋は、100%木を組み合わせただけの小屋だった。まあ、想像していたよりはマシだけどな。正直、縄文時代並みを覚悟していたからな。
ラ「また明日、日が昇ったら迎えに来ますね。」
レ「ああ、よろしく頼む。」
この時代には時計が無いのか、太陽の動きで判断するようだ。今の季節はいつなのか分からないが、冬では無さそうなのでそれなりに早起きになりそうだな。
歯ブラシが無いので塩水でうがいだけして、布団代わりにワラを腹の上に乗せた。……塩あるじゃん。俺は明日の朝食は何になるのか戦々恐々しながら眠りについた。
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