第15話 ダンジョン攻略15日目

目が覚めると、闇の壁が張ったままだった。時計を見ると、7時になっていた。


レ「弥生? 起きているか?」

ヤ「あ、源さん! おはようございます!」

レ「ああ、おはよう。アヌビスとイルナは?」

ア「起きてるのじゃ!」

イ「・・・寝てる。ぐー。」


イルナは冗談まで言えるようになったようだ。


レ「ワルキューレは?」


弥生はひょっこりと闇の壁の上からワルキューレを確認する。


ヤ「それが、まだ寝ているみたいです。」


寝なくても大丈夫と言っていたワルキューレが寝坊とか珍しいな。


レ「先に朝食を食べるか?」

ヤ「そうですね。そちらは狭いと思うので、こっちに来てください。」


俺達が朝食を注文すると、すぐにケルベロちゃんが来た。現在は転移ができないので、玄関を開けてやる。


ケ「おはようございます、ワン。あれ? ワルキューレはどちらですか、ワン?」

レ「それが、まだ起きてないんだ。」

ケ「そうですか、ワン。」


ケルベロちゃんはそう言うと、闇の壁を破壊して寝ているワルキューレに声をかける。


ケ「ワルキューレ? そろそろ起きないと降格・・。」

ワ「おはようございます!」


ワルキューレはガバリと起き上がった。


ケ「しっかりと護衛をするワン。」

ワ「分かりました!」


そう言うと、ケルベロちゃんは一旦戻っていった。


ヤ「大丈夫ですか?」

ワ「ああ、すまない。寝坊したようだな。ちょっとシャワーを浴びてくる。」


ワルキューレは寝ぼけているのか、鎧をここで脱ぎだした。


ヤ「ちょっと! 浴室はあっちです!」


弥生はワルキューレの腕をひっぱっていった。


ア「大分疲れておるようじゃの、もぐもぐ。」

イ「・・・目に、クマあった。もぐもぐ。」


アヌビスとイルナはウマウマと食事を続けている。

シャワーから戻ってきたワルキューレはすでに鎧姿だった。鎧自体は神装備なので、汚れないのだろう、洗濯の必要が無くていいな。そういえば、アヌビスの服も神装備だから洗った記憶が無いな。

ワルキューレはケルベロちゃんを呼ぶのが怖いのか、自分でパックの紅茶を作って飲んでいた。その間に、俺達はダンジョンに行く準備を終えた。2日ぶりにダンジョンへ来たが、様子は変わっていなかった。フロントに行くと、さっそくラヴィ様がワルキューレを手招きする。


ラ「さあ、ワルキューレ、行きましょう?」

ワ「・・・はい。」


ワルキューレは肩を落としてラヴィ様について行く。


ラ「そうそう、今日は私の分身を護衛に付けるわね。」


そう言うと、バニーガールのラヴィ様の分身を生み出して行った。


レ「ワルキューレも大変そうだな。」

ラ「これも仕事よ。」


具体的にワルキューレがどんなことをしているのかは知らないが、きっと聞いても教えてくれないだろう。ただ、体を壊さないようにしてもらいたい。


ラ「大丈夫よ、死んでも蘇生するから。」


心を読んだラヴィ様はそう言うが、死んでも逃げられない仕事ってブラック企業も真っ青のブラックさだな。俺はワルキューレに合掌しつつ、エレベーターに向かう。


ヤ「じゃあ、押しますね。」


弥生がエレベーターのボタンを押し、8階に着いたので探索を開始する。前回はほとんど探索できてないから、今日は探索中心だな。

さっそくお出ましのギガースをサクッと倒した。弥生は戦闘に対する恐怖が無さそうでよかった。エキドナも出てきたが、イルナが幻痛を使うだけで、「痛い、痛い!」と言って逃げて行った。戦う気が無いのか?


草原を抜けると、赤い山が見えてきた。


ヤ「あれ、モンスターです。」


ベヒーモス(動物):HP20000、MP4800、攻撃力1700、防御力500、素早さ600+180、魔力0、スキル:素早さ補正(中)


弥生は鑑定結果を教えてくれた。


レ「ほとんどギガースと変わらんな。」


むしろ、HP回復がないだけこっちのほうが弱いと思う。

ベヒーモスはこちらに気が付いたのか、さっそく突進してくる。思ったよりも早い!


ヤ「大丈夫ですか? 源さん!」


弥生は手裏剣を正確にベヒーモスの目に当てる。


ア「我らもいくのじゃ! 闇の球!」

弥生の攻撃でふらついたベヒーモスにアヌビスの闇の球が横っ腹に当たる。それを見て、イルナは魔法の方が良いと思ったのか、ヒノトリを憑依させる。


イ「・・・白炎。」


真っ白な炎がベヒーモスを包む。イルナは憑依時間節約の為に憑依を解除する。


イ「・・・ダメージリンク。」


イルナは怒って突進してきたベヒーモスにダメージリンクを使う。イルナは突進をまともに受けて吹き飛ばされる。ベヒーモスにも同じダメージが入る。

ベヒーモスは火を消そうとするが、簡単には消えないようだ。


ア「もう一丁、闇の球!」


隙だらけのベヒーモスに、アヌビスが闇魔法で追撃する。

今度は目標をアヌビスにしたのか、アヌビスに突進してくる。アヌビスに0ダメージ。まさか、小さなアヌビスに突進を止められると思わなかったのか、ベヒーモスが動揺するのが分かる。白炎は丁度消えたようだ。


レ「いけ、攻撃特化型零ゾンビ!」


俺は動けないでいるベヒーモスにゾンビを10体噛みつかせる。


ヤ「あと少しです! 変化!」


弥生はワーウルフに変化すると、ベヒーモスの鼻先を蹴る。ベヒーモスはくっついているゾンビを先に倒そうと、でかい図体で転がると、ゾンビは全部潰されて消滅した。


ヤ「えいっ、投擲武器操作!」


弥生はベヒーモスに手裏剣を当てた。ベヒーモスはコアになった。


結構吹き飛ばされていたイルナが戻ってきた。ベヒーモスが居たあたりは、このダンジョンの端だったようで、これ以上先は無かった。一旦戻って真ん中に進む事にする。俺達はギガースやエキドナを倒しつつ、エレベーターまで戻ってきた。結構コアがたまったので、一旦戻ることにする。


ステータスを増加させ、増えたMPで武器の一新と、アヌビスの分裂体も作り直す。


復元したアヌビスは、17歳くらいの姿になり高校生くらいに見える。弥生が計ると、身長158cm、Dカップらしい。大分元の姿にもどってきたな。ステータスも元の5分の1となっていた。また、新たに鑑定魔法が増え、闇魔法も1あがった。武器、防具の性能も良くなった。


ア「どうじゃ、零? 我も大分もどったじゃろ?」


アヌビスはポーズをとる。プロポーションが良くなったせいか、その姿にドキッとする。俺が返事をしないので無視されたと取ったのか、アヌビスは胸を腕に当ててくる。


ア「これならどうじゃ?」

ヤ「あわわ、ダメです! アヌビスちゃん離れて!」


弥生はそれを見てあわてて俺からアヌビスを引き離す。イルナはぼーっとしているように見えて、アヌビスの胸を見ていたのか、自分の胸をそっと押さえた。イルナはステータスが上がっても体形が良くなるわけじゃないからな。

エレベーターに戻ってきたことだし、ついでに飯を食う事にする。食堂に行くが、そこに居たのはケルベロちゃんだった。


ケ「こんにちは、ワン。何になさいますか?ワン。」

レ「なんでケルベロちゃんがここに?」

ケ「今日は、はじまる様が居ませんですワン。追跡スキルでこっちにくるのが分かったので先廻りしましたワン。」

ラ「私が頼んだのよ。」


はじまる様が居ないので、お昼はケルベロちゃんが用意するらしい。やっぱりラヴィ様は料理ができな・・。


ラ「できなくはないのよ?」


ラヴィ様が殺気を発したので俺達はその話題に触れるのをやめた。無関係のケルベロちゃんも殺気を受けて尻尾を下げている。俺をにらまないでくれ!


ケ「で、何にするんだ?」


ケルベロちゃんの態度が悪くなった・・・。すまぬ、みんな。


イ「・・・牛ステーキ。」


イルナはメンタルが強いのか、ケルベロちゃんを怖がっていないのか、普通に注文した。それに続いて他のみんなも注文する。


ア「ケルベロちゃんがいるなら、ホットケーキがいいのじゃ!」

ヤ「私もステーキが良いです!」

レ「俺は・・・。」

ケ「水ですよね?ワン。」


俺の前にドンッと水の入ったコップが置かれた。うぅ、何で俺だけ・・って理由は分かってるけど。


ラ「私は、キャロットパイをお願い。」


もう、俺は何も思いません!みんなが美味しくご飯を食べている横で、おれはチビチビと水を口に含むだけで昼食は終わった。


皆「ごちそうさまでした。」

レ「・・・。」


食器を片付けて、エレベーターに戻る。8階に到着すると、予定通りまっすぐの道を進む。真ん中は右で出たモンスターと、左で出たモンスターの両方が出るみたいで、サラマンダー、エキドナ、ミノタウロス、ギガースを倒して行った。ベヒーモスはあそこだけだったのか、見かけないというか、見えたらすぐわかる。

エレベーターはこの階の中心にあったようだ。壁に沿って探索していたら永久にたどり着けないパターンだ。木の間から見えるエレベーターは2mほどの箱だけが置いてある感じだ。そこへ近づいて行く。


レ「ぷはっ、なんだこれ?」


俺の顔にくっつくものがあった。顔をぬぐってみると、クモの糸の様だ。ダンジョンには虫なんか居ないので、おそらくモンスターだろう。


レ「弥生、付近を警戒してくれ!」

ヤ「分かりました!」


それを聞いてアヌビスも空中から見ようと木の間を抜けようとした。


ア「なんじゃ!・・・糸か?」


アヌビスは見た目空中に浮いたままでジタバタしている。すると、ガサリと葉が揺れる音がして、下半身がクモで上半身が美女のモンスターが現れた。胸は水着のブラみたいなものを付けている。弥生はチラリと俺を見た後に鑑定をした。どういう意味だろうか。


アラクネ(動物)


アラクネは合成獣ではなく、そういう種類のモンスターらしく、エキドナと違ってしゃべることは無いようだ。アラクネは手からも糸が出せるのか、アヌビスに近づくとグルグルと糸を巻いていく。


ア「もがもが、もがー!」


アヌビスはあっという間に体を鼻の下までグルグル巻きにされた。意外にも、口をふさがれると魔法が使えないようで、転移して逃げる事ができないようだ。


ヤ「待っててください! 今助けます!」


弥生はワーウルフに変化すると、爪でアヌビスの糸を斬る。しかし、ステータスが糸にも反映されるのか、糸に0ダメージだった。糸は魔法扱いのようで、魔力の低い俺や弥生では破壊できなさそうだ。もしかしたら、糸自体にサイレントみたいな沈黙効果があるのかもしれない。

アラクネはお尻から糸を網状に飛ばしてきた。弥生はサッと避けたが、俺は糸に捕らわれる。俺は分裂を使おうと思ったが、分裂も使えなかった。沈黙どころかスキル無効化か!


レ「やばい、俺も糸から抜けられなくなった!」


アラクネは俺に近寄ると、アヌビスと同じようにグルグル巻きにする。そして、人間の様だった美女の顔が、口だけパクリと裂けたように開くと、首にがぶりと噛みついてきた。状態異常:毒

噛みつきが魔法扱いの毒攻撃だったようで、クリティカルは受けなかったが、代わりに毒を受けた。俺の肌が緑色になる。


ヤ「源さん!? 投擲武器操作! 複製!」


弥生が新しく覚えた投擲武器の複製効果によって、1つだけ投げた手裏剣が10個に別れてアラクネを襲う。アラクネのクモの体に全部刺さるが、どこも急所では無いようだ。さらに、振動効果によってアラクネはよろける。その隙に俺は糸にグルグル巻きのままイルナの方へ転がっていく。


イ「・・・憑依。ヒノトリ。」


ちょっと考えるように首をかしげていたイルナは、思いついたようにヒノトリを憑依させた。


イ「・・・ボッ。」


俺の体を包むように火魔法を使うと、俺に巻き付いていた糸が燃え尽きた。俺は以前にイルナから毒魔法を使った後に念のために用意しておいた解毒薬をカバンから出して飲んだ。


レ「ふぅ、イルナありがとう、助かった。」


イルナはコクリとうなずくと、同じようにアヌビスにも火魔法を飛ばす。アヌビスに0ダメージ。アヌビスの糸も燃え尽きて、自由になったようだ。


ア「怒ったのじゃ! 闇の球!」


アヌビスは弥生の手裏剣でひるんでいるアラクネに闇魔法を当てた。アラクネは吹き飛んで木に叩きつけられる。


イ「・・・憑依。ヨルムンガンド。」


イルナはヒノトリを解除してヨルムンガンドを憑依させた。そして、一瞬でアラクネに近づくと、人とクモの境目の腹にパンチする。アラクネは両手でイルナを掴み、噛みついた。魔法無効、イルナに0ダメージ。無効化したので毒にもならないのか、イルナは緑色にならなかった。イルナはアラクネの腕を左手で引っ張って引き離すと、腰に蹴りを放つ。


ア「真闇!」


アヌビスは転がるアラクネに闇魔法を与える。俺は10匹の攻撃特化型零ゾンビの攻撃力1000バージョンを10体作ると、噛みつかせる。アラクネは手から出した糸を剣のように硬化して振り回し、零ゾンビを攻撃した。アラクネはあっさりとゾンビを消滅させ、追撃を警戒して樹上へ逃げた。見ると、頭上はいつのまにか糸で覆われていた。そこから、小型のアラクネが降ってくる。


レ「なんだこれは!」

ヤ「これ・・糸で出来てます!」


アラクネの魔法攻撃らしく、小型のアラクネがくっついた場所で爆発する。アラクネの攻撃は無差別らしく、ラヴィ様にも攻撃した様で、ラヴィ様はイラっとした顔を一瞬したように見えた。実はクモが苦手とか?


ラ「早く倒してくださいね。別にクモが嫌いという訳ではありませんよ?」


早く倒せと言われても、まだHPを半分も削っていない。それどころか、また小型のクモが降ってくる。


ア「闇の壁!」


アヌビスは魔法障壁である闇の壁で小型のアラクネを防いでくれた。


レ「ナイスだアヌビス!」


そして、真闇の効果が切れたのか、再びアラクネ本体が降りてきた。イルナは憑依を解いて呪術を使うようだ。


イ「・・・デバフ。」


アラクネはHPとMP以外のステータスが半分になり、半分になった素早さに体が追いつかなかったのか、前のめりに倒れた。


ヤ「チャンスです! 投擲武器操作! 複製!」


アラクネの背中に弥生の10個に増えた手裏剣がカカカカカッと刺さる。


ア「闇の球!」


アヌビスの闇魔法も追い打ちをかける。アラクネに4400ダメージ。


ヤ「これで止めです! 投擲武器操作!」


弥生はアラクネの右目と左目に1個ずつ手裏剣を当てた。クリティカルじゃないところを見ると、アラクネの弱点は人型の部分には無いのじゃないだろうか。


ヤ「あれ? 計算ミスりましたかね?」


弥生はそもそもクリティカルじゃなくても倒せるつもりだったらしい。それなら計算ミスだな。


イ「・・・獣化。」


イルナが獣化し、アラクネに近づく。アラクネは近づかれたくないと糸の網を飛ばすが、イルナは木の棒を拾うと、網を振り払う。そして、アラクネの頭上を飛び越えて胴体に乗ると、クモ部分にパンチをした。それが止めになり、アラクネはコアになった。


レ「やったな!」


そう言ったのも束の間で、頭上から数十体のアラクネが降りてきた。


レ「た、退却!」


さすがに相手をするのは無理だ。


イ「デバフ! デバフ! デバフ!」


イルナは慌てて追いついてくるアラクネにデバフをかけて、素早さを下げて追いつけないようにした。なんとかアラクネたちを撒いた俺達は、気分的に疲れたので座り込む。


レ「あれ? 弥生は?!」


気が付くと、弥生が居ない。まさか、逃げ遅れたのか? いや、弥生は通常でもアラクネより素早さが高いから、逃げられなかったという事はないので、はぐれただけだろう。

そう思っていると、透明化していたのだろう弥生が、透明化を解除して姿を現した。


ヤ「ボタン、押してきました!」

レ「おぉう、それはナイスだな?」


最近はずっとボスの様に出てきた階層ヌシを倒してからエレベーターを押していたから、そのルールを忘れていた。逃げながらでもスイッチを押したらクリアだったんだよなぁ。


ア「ナイスじゃ、弥生!」

ヤ「もっと褒めてもいいんですよ? エッヘン!」


弥生が胸を張って威張る


イ「・・・すごい。ぱちぱち。」


イルナも無表情ながら拍手をするので、俺もつられて拍手をした。


レ「せっかくだし、9階を見てくるか?」

ヤ「そうですねぇ、ただ・・・。」


弥生はアイテムボックスからパンフレットを取り出し、ラヴィ様を見る。


ヤ「これ、今の私達で倒せますか?」


俺もパンフレットを見ると、9階はドラゴン他と書いてある。


ラ「アラクネを倒せたのなら倒せると思いますが・・・見た目が気になりますか?」

ドラゴンと言えば大抵のRPG等で強敵もしくはボスレベルの強さを誇る。俺の知識だと、ドラゴンにもピンキリがあって弱いドラゴンなら8階よりも弱いはずだが。ただ、パンフレットに描かれているのは強い方のドラゴンだよな、うん。


レ「分裂体にでも行かせるか?」

ヤ「それなら、私が透明になって偵察した方がマシだと思います。」

ア「我も千里眼で見るのじゃ!」


俺達は一旦入口のエレベーターに戻り、そこから8階エレベーターに乗った。アラクネが居ないことを確認し、9階の階段を登る。9階に着くと、バリバリという音がした。


ラ「結界が破られた!?」


いつも冷静なラヴィ様が驚いた表情をしている。そして、転移魔法による転移陣が展開され、そこから蝙蝠の翼と真っ赤な角、真っ赤な髪の長身な美女が現れた。


ヴェ「結界なんて張るんじゃないわよ、イラつくわね。」


美女は苛立たし気にダンジョンの壁を殴る。ゴガンと言う激しい音と共に壁が破壊されて外が見えるようになった。


レ「は?」


俺はついていけなくてアホ面になっていたようだ。


ラ「ヴェリーヌ! 今更何しに現れたの!」


ラヴィ様は即座に時空魔法を使って壁を元通りにしながらヴェリーヌに尋ねた。


ヴェ「何で答えなくちゃならないワケ? 忙しいから帰るわね。」


そう言うと、ヴェリーヌは転移魔法でどこかへ帰って行った。


ヤ「えっと、今の方は?」


俺と同様に固まっていたのか、弥生もやっと動き出したようだ。


ラ「彼女はヴェリーヌと言って、元女神ランクⅠの女神で・・・私の元上司よ。」


ラヴィ様はそう言って以前のステータスを教えてくれる。


レ「ラヴィ様と同等のステータス?」

ラ「素早さだけなら同ランクの誰にも負けないわ。」


ラヴィ様はそう言って胸を張るが、今はそれどころではないはずだ。


ヤ「結界を張りなおさないんですか?」

ラ「同じ強度の結界では意味を成さないでしょうし、仮に同じ強度の結界を張ろうにも・・・。」


ラヴィ様は何もない空間を見る。


ア「ふむ、空間が歪んでいるのじゃ。」


転移を使える者には分かるのだろうか?俺もその空間をジッと見つめると、ちょっとだけぼやけて見える気がする。


ラ「はぁ、しっかりと邪魔をしていくあたりは優秀なのよね・・・。」


ラヴィ様は困ったわと手を頬に当てて首をかしげる。


ヤ「どうしてラヴィ様の上司の方が悪魔になっているんですか?」

ラ「それは秘密・・・というのも酷かしらね?でも、ワルキューレには黙っている

ようにと言っている手前、私が伝えるのもおかしいわね。とりあえず、結界の事も含めてはじまる様にご相談してからになるわ。」


俺達は一旦ダンジョンから出ることにした。またヴェリーヌが戻ってきた場合、俺達が足手まといになる。結界が消えた事でダンジョンでの転移が可能になったため、俺達はラヴィ様の転移でビジネスホテルの前まで転移してもらった。


レ「大変な事になったな。」

ヤ「まさか、ラヴィ様ですら対処に困る事態になるとは思いませんでした。」

ア「我もあのくらい強くなりたいのじゃ!」

イ「・・・私も。」


思い思いの話をしながら部屋に戻る。時間的にはまだ早いのでトランプでもして遊ぼうと思う。しばらく遊んでいると、ワルキューレが帰ってきた。ゲッソリと痩せているように見えるが、HP的には全快だと思うので死ぬことは無いと思う。


レ「・・・大変だったのか?」


俺はワルキューレに声をかけると、ワルキューレはコクリとうなずいた。まるでゾンビの様に無言でたたずむワルキューレにイスをすすめる。


ワ「・・・すまない。」


ワルキューレはイスに座ると、「はぁっ」と大きなため息をついた。


ヤ「ワルキューレさん、お茶をどうぞ。」


弥生は温かいお茶を湯飲みに入れてワルキューレに出した。俺達の分もテーブルに並べて行ってくれる。


ア「何があったのじゃ?」


アヌビスがワルキューレに尋ねるが、ワルキューレは口を開くと、少し考えてから口を閉じた。話したくても話せないと言ったところか。


ワ「・・・おそらく、ラヴィ様から話があるだろう。」


口を滑らせた事をよほど気にしているのか、今日のワルキューレは口数が少ない。


レ「明日の予定は決まっているのか?」


俺はワルキューレに尋ねる。


ワ「明日の予定は聞いていないが、おそらく今日と同じだろう。そう言うわけで、先に休ませてもらう。」


ワルキューレは着替えの為に小部屋へ移動しようとしたところで固まった。ワルキューレの目線を追うと、いつの間にかケルベロちゃんが部屋の外から覗いていた。無言でワルキューレに向かって手招きすると、ワルキューレはゾンビの様にケルベロちゃんの方へ歩いて行った。


ヤ「大丈夫ですかね、ワルキューレさん。」

レ「一応死ぬことは無いからな・・・。」

ア「それはそうと、お腹が空いたのじゃ。」

レ「よし、飯にしよう。」

イ「・・・賛成。」


俺達は夕食を頼むと、ケルベロちゃんの分身が届けてくれた。ビジネスホテルではまだ結界が張られているので転移は使えないようだ。俺は海鮮丼を、弥生はカレイの煮つけを、イルナはリゾットを、アヌビスはハンバーグを食べた。今日はまだ寝るには時間があるので、サーベラスと遊ぶことにした。弥生たちは3人でトランプをするそうだ。俺はサーベラスにドラゴンの骨を投げながら、この骨の持ち主と戦うのかと思い、骨を折ろうとしたが折れなかった。もし折れていたらサーベラスが悲しんだかもしれないが。


遊び終わって部屋へ戻ると、ワルキューレが戻ってきたらしく、闇の壁が張ってあった。その壁の上からひょっこりとアヌビスが顔を出す。


ア「ワルキューレが戻ってこないので我が張ってみたのじゃ。我は無くても困らないのじゃが。」

ヤ「私が困ります!」


壁の向こうから弥生の声が聞こえる。壁が張ってあるのでおそらく着替え終わったのだろう。俺は風呂に入って着替えると、歯磨きをして寝ることにした。

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