第14話 ダンジョン攻略14日目

ヤ「えっ、カジノが中止なんですか?」


そんな声に起こされた。


メ「何か大事件があったみたいだよ!」


メィルの声も聞こえる。俺が起き上がると、俺が起きるのが最後だったのか、ワルキューレが闇の壁を解除する。


メ「お兄ちゃん、やっと起きたの?」

レ「おはよう。何があったんだ?」

ワ「今日は完全に休日で、カジノもやらない。」


カジノは、ステータス補正の意味もあるはずだから、カジノをやらない理由は俺達のステータスが十分な時だけだ。

ワルキューレはそれだけ言うと、難しい顔をして、何か聞かれる前にとさっさと部屋を出ていく。


レ「メィルは何を聞いたんだ?」

メ「昨日はラヴィ様とワルキューレ様が一緒に行動していたみたい。私はその間フ

ロントに居たんだけど、リリスちゃんが転送されてきたの。そのリリスちゃんが、魔王・・魔王・・ってうなされてた。」


リリスはメィルと一緒で見習い女神らしい。リリスに話を聞く前に、ラヴィ様とワルキューレが戻ってきたので、詳しい話は聞いていないが、今日のカジノ中止を伝えられたらしい。その状況を推測すると、何か事件があったのだろうという事だった。


レ「そうすると、今日は完全にやることが無いな。」


まあ、昨日の事もあるからどっちにしろ戦闘は無い方がいい。ケルベロちゃんに映画でも取り寄せてもらって暇を潰すか?と思っていたら、弥生が提案してきた。


ヤ「メィルちゃんって他の世界にも転移出来るんですか?」

メ「出来るけど・・・どこか行きたいところがあるの?」

ヤ「アヌビスちゃんの星に行ってみませんか?」


アヌビスの星か・・・そういえば、アヌビスはこっちに来たのは侵略の仕返しであって、向こうの世界に帰るつもりだったんだよな。


ア「それじゃ! 我の星に里帰りするのじゃ! 座標は我が分かるし、メィルに頼る必要も無い!」

メ「何それ! 私にも座標を教えてよ! 一緒について行くんだから!」


アヌビスがここに来てから大して時間は過ぎていないが、帰れると分かると気になるらしい。


ヤ「そうですね、メィルちゃんじゃなくてもアヌビスちゃんと一緒に行けばよかったんですね。ついつい、メィルちゃんが一緒じゃないと転移したらダメとイメージしてしまいました。」

メ「お姉ちゃんまで!? 私を仲間外れにしないで!」


メィルがワタワタと手足を動かすのが面白い。


ヤ「からかっただけですよ、一緒に行きましょう。お弁当を用意しましょうね。」


食材も無いので、弁当自体はケルベロちゃんに用意してもらうことになる。朝食のついでに注文しよう。必要そうなものは弥生のアイテムボックスに入れていく。準備が出来た為、アヌビスに転移してもらう。


ア「では行くぞ。転移!」


俺、弥生、アヌビス、イルナ、メィルの5人で惑星アヌビスへ出発だ。

転移した場所は、祭壇の様な場所だった。1段高くレンガで作られた様な地面に魔法陣が描かれている。祭壇の周りには、祭具の様な物が並べられている。


臣「アヌビス様が戻られたぞ!」


神官のように見える人物が、大声で人を呼ぶと、隣の小部屋から数人の人が出てきた。


民「お帰りなさいませ、アヌビス様!」


数人が通路にひざまずく。


ア「うむ、苦しゅうないぞ。」

臣「・・・アヌビス様、少し痩せられましたか?あと、後ろの方たちはどのような?」


神官のような人物は、明らかにアヌビスの胸を見てそう聞いたように見える。きっと巨乳好きだ。


ア「向こうの世界で色々あったのでな、のちのち話をしよう。大臣、皆を案内するのじゃ。」


神官ではなく、大臣らしい。俺達は、アヌビスを先頭に大臣の後ろをついて行く。

ひざまずいていたうちの2人が扉に向かって足早に進み、扉を左右に開けた。扉が開くと、すぐに外だった。周り中、砂漠の様で、俺達が居たのは、小さなピラミッドの様な建物だった。思っていた通り、古代エジプトに近い文明のようだ。


ヤ「そういえば、私達にも言葉が分かりますね。」


弥生が小さな声で話しかけてきた。


メ「転移者には私たちと一緒で自動翻訳されるんだよ。」


近くに居たメィルが教えてくれる。そういえば、今まで言葉が通じない人?は居なかったな。むしろ、女神や悪魔の特権だと思っていた。どこの世界にでも行かなければならない神は言葉を覚えるのも大変だなって思っていたら自動翻訳だったのか。

俺達が連れて行かれた場所は、王の居る城だった。


レ「俺達もここに入るのか?」

ア「あたりまえじゃ、我のご主人なのじゃから。」


アヌビスのその言葉に、大臣はギョッとしたようにこちらを見た。アヌビスは、何でもないと手を振るが、自分の世界の神がご主人って呼ぶと明らかにご主人も神だと思われるだろ。

大臣に連れられて玉座に着くと、王がアヌビスにひざまずく。


フ「アヌビス様、ご帰還お慶び申し上げます。」


そして、俺達の方に向かって立ち上がると、挨拶をした。


フ「余はファラオだ。よろしく頼む。」

レ「私は、零と言います。」

ヤ「わ、私は弥生と言います。」

イ「・・・イルナ、です。」

メ「メィルだよ!」


ファラオは俺達がアヌビスの付き人か何かだと思ったようだ。ここって本当に過去の地球とかじゃないよな?ファラオってよく付けられる名前なのか?


フ「アヌビス様、お疲れでしょう?すぐに部屋を整えさせます。」


ファラオはそう言って大臣を見ると、すぐに大臣は側人に部屋を用意させる。


フ「お付きの方々、ようこそいらっしゃいました。」

ア「むっ?零達はお付きの物じゃないのじゃ。」

フ「と、おっしゃられますと?」

ア「零は我のご主人様じゃ。」

フ「なんですとー!?」


ファラオはそう言うと、倒れた。が、メィルが即座に蘇生させた。


メ「大丈夫?」

フ「あなたは?」


ファラオは羽の生えて空を飛ぶ珍妙な生物を見てびっくりしている。


メ「私は、見習い女神だよ!」


メィルは、立場を聞かれたと思ったので、そう答えたみたいだ。


フ「女神様でしたか、それでは、こちらの方々も・・?」

レ「いや、私は人間です。」

ヤ「私もです。」

イ「・・・私は人間です?」


イルナだけ微妙は回答だが、異世界人も人間でいいと思う。それを聞いてファラオはホッとした表情になった。


フ「それならば、食事でもどうかな?すぐに用意させる。」


そう言うや否や、側人が準備をしに行った。


フ「アヌビス様、準備が整うまで、少し話をお聞きしてよろしいでしょうか?」

ア「うむ。わかったのじゃ。」


そう言うと、ファラオは自室に招いた。俺のなんちゃって知識だと、そうそう王の自室に入れる人っていなかったような気がするが、ここでは違うのか?


フ「ここなら、誰にも話を聞かれることはない。気楽に話そうではないか。」


ファラオは俺達に気を使ってくれたようだ。


フ「まず、ご主人様とは何ですか?ゴシュ=ジンという名前ですか?」


ファラオは混乱しているらしい。さっき自己紹介したじゃないか。それを聞いてアヌビスとメィルは爆笑し、弥生は笑いをこらえている。イルナは無表情で眠そうだ。


ア「それでは、簡単に話をするのじゃ。まず、ここでの戦いが終わって、異世界に転移してからじゃが・・・。」


アヌビスは簡単に話をした。悪魔の事、ワルキューレ達の異世界の神の事、俺に復元された事。


フ「それでは、すぐに再生の儀式を行いましょう!!」

ア「慌てるな、まだその必要はないのじゃ。」

レ「再生の儀式ってなんだ?」

ア「再生の儀式とは、我が倒されたとき、再びよみがえらせる為の儀式だ。これを

行うと、我は再び神としての力を取り戻すことが出来るのじゃ。」

ヤ「? すぐに戻れるのに、必要ないんですか?」

ア「それには、大量のいけにえが必要になるのじゃ。数十人、下手したら数百人規模の、な。」

ヤ「それは・・・。」


いけにえになる人の事を思って、弥生の言葉が詰まる。


フ「我らアヌビスの民にとっては、神のいけにえとなる事は喜ばしい事です!」

ア「人口が減ってよいわけが無いのじゃ。ただでさえ侵略によって大きな被害を受けたというのに。」


俺達が見ていないところで被害が大きかったらしい。そんなところでピクニックとか、すごい不謹慎じゃないのかこれは。


レ「そういえば、侵略からまだ1か月も経っていないだろ? 大丈夫なのか?」

ア「メィルが居るではないか。」

メ「え? 私?」


急に何を言われたのかとメィルは慌てている。


レ「メィルに何が出来るんだ?」

ア「メィルは蘇生、時空魔法を使えるのじゃ。」

メ「私にそんなMPは無いよ!!」

ア「メィル自身のMPを使う必要はない。MPは集めるのじゃ。ファラオよ。」

フ「分かりました!すぐに!それまで、食事をしておくつろぎください。」

ファラオはそう言うと、慌てて部屋を出ていった。

ア「さて、我らは先に食事をするのじゃ。」


俺達は、ここに来て急に大人びたアヌビスに戸惑いつつも、食事をしに向かう。王の私室を出ると、大臣が戻ってきていて、案内してくれる。パン、ワインなどが用意されていたが、食糧事情が良くないのか、周りに仕えている人たちがやつれて見える。


レ「せっかくだから、俺達の持参した飯でもどうですか?」


メィルがある程度大食いしてもいい程度に料理を持ってきている。メィルは無限に食えるが、食わなくてもいいから大丈夫だろう。俺達は出された料理を食べて、側人達に別室で俺達の料理を食べてもらった。次に見た時には、すごく幸せそうな顔をしていたので、おいしかったのだろう。俺達は貴重な太古の食事を経験した。うまくはなかったが口には出さない。アヌビスがホットケーキを好きな理由が理解できた。


フ「準備が出来ました!」


王が自分でやっていい事なのだろうか?誰も何も言わないが気になった。


臣「こちらへどうぞ。」


大臣に連れられて城の地下に入る。すると、祭壇の時に見た様な魔法陣があった。近くに水晶がある。水晶はわずかに発光している。


ア「すまぬが、ここにMPを入れてくれぬか?」


俺達は水晶に触れる。MPが減る感覚がする。


イ「・・・MP、沢山あったほうがいい?」

ア「そうじゃな、出来るだけ多い方がいいのじゃ。」

イ「なら、憑依。」


イルナはヒノトリを憑依させる。ヒノトリはMP自動回復(大)があるので、無限に供給できるだろう。リミットはイルナの憑依時間だが。

しばらくMPを供給していると、水晶の発光が激しくなってきた。


ア「さすがは零達なのじゃ。あっという間に溜まってきたのじゃ。」

イ「はぁ、はぁ、もう、無理。」


イルナの憑依が解けるのと、水晶が七色に光るのはほぼ同時だった。


ア「満タンじゃ!」

臣「おぉぉぉぉ!」


大臣が感動で涙を流している。


レ「・・・どういうことだ?」

ア「あとは、メィルが蘇生か時空魔法で起動させてくれればいいのじゃ。」

メ「魔法はどっちでも使えるけど、どっちがいいの?」

ア「蘇生ならば、じょじょに元に戻り、時空魔法ならばあっという間に元に戻るじゃろう。」

メ「じゃあ、時空魔法のほうがいいってことだね!時空魔法!」


すると、魔法陣が光だし、ものすごい光が世界を包んだ。虹色に光っていた水晶は、真っ黒になっていた。


ア「さすがに、空になったのじゃ。」


大臣は、慌てて走っていく。俺達もついていくと、まるで砂漠の様だった街が、緑あふれる街になっていた。


民「ありがとうございます!神様!」

ア「今回は我の力ではない、メィルの魔法じゃ。」

民「メィル様、ありがとうございます!」


俺達は民が平伏するなかを通り過ぎ、祭壇のあった場所まで戻った。祭壇の周りはまるでジャングルのようになっていた。俺達が最初に見て違和感が無かった砂漠風じゃなくて、本来は緑のあるオアシスだったのか。


ア「みんな、助かったのじゃ。これで気分よくピクニックができるのじゃ!」


少し空いた場所にシートを引くと、各々くつろぐ。


ヤ「あれが、アヌビスちゃんの仕事だったんですか?」

ア「うむ、あの水晶にMPを入れ、魔法陣を蘇生で起動させると植物などが元気に育つのじゃ。」


水晶はタンクで、魔法陣は増幅装置みたいなものらしいな。


ア「住民もMPを補充するが、住民のMPは普通1桁しかないのじゃ。それに、時空魔法を持っておった者は、侵略によって殺されたのじゃ。」


そういえば、アヌビスも本来は鑑定を持っていたな。


レ「俺達も、最初はMP10とかだったな。」

ヤ「私は30ありました!人間にしては多い方だったんですね!」


まあ、神であるアヌビスもそんなに強くなかったから、この世界の住民が弱いだけかもしれないが。

その後、俺達は街の案内や、宴でさわいで楽しい時間を過ごした。


フ「行ってしまわれるのですか?」


ファラオが寂しそうに声をかける。


ア「長くても、あと1か月もしないうちに帰ってくるのじゃ。」


試験は後2週間くらいで期限を迎えるので、試験後にも残って何かするつもりか?


臣「我々は、またいつでも戻れるようにしておきます!」

民「行ってらっしゃいませ!」


大勢の民に見送られて、俺達は祭壇からビジネスホテルの前に帰ってきた。


ア「疲れたのじゃ~、零~!」


アヌビスは俺に抱きついてくる。小さかったアヌビスと違って今は膨らんだ胸が当たってドキドキする。


ヤ「くっつかないでください!」

ア「嫌なのじゃ! 癒されるのじゃ!」


戻ってきたとたんに子供っぽくなったアヌビスを見ると、あっちでは案外無理をしていたのか?俺はアヌビスを撫でてやる。


部屋に戻ってピザ、寿司、なぜかグラタンを注文し、皆で食べた。俺達は雑談しながら過ごしていると、ものすごく疲れた様なワルキューレが戻ってきて、闇の壁をプルプルしながら張ると、バタリと倒れて寝たようだ。弥生がやさしく布団に運んで寝かせると言っていた。闇の壁の上からアヌビスがジーッと尻尾を振っている犬のように見ていたので、手を振ってやった。

俺は歯磨きを終え、軽くストレッチをしてから寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る