第13話 ダンジョン攻略13日目

いつも通り、時計のアラームを聞きつつ起き上がる。


ア「おはようなのじゃ。」


ふとみたアヌビスは、最初の頃と違って大人びて見える。


レ「ああ、おはよう。」


それを聞いたワルキューレは闇の壁を解除する。大部屋はやはり俺が最後の様で、誰も居なかった。


ア「早くホットケーキを頼むのじゃ!」


大きくなっても子供の様なアヌビスの為に、ホットケーキを注文する。俺はサンドイッチと牛乳でいいか。


ヤ「おはようございます、源さん!」

イ「・・・おはようございます。」

ワ「おはよう、もう食べているのか?」

レ「ああ、おはよう、みんな。アヌビスが腹減ったっていうからちょっと先に頂いている。」


それを聞いて弥生もお腹が空いたのか、イルナと一緒に和食をケルベロちゃんに注文した。ワルキューレはどこから持ってきたのか、リンゴを取り出すと、齧りだした。・・・ワルキューレは本気でダイエット中じゃないか?


レ「今日は、8階に行ってみよう。」

ヤ「あと少しでクリアですね!」

ア「クリアしたらどうなるのじゃ?」


そういえば、どうなるんだろうな?まともに聞いた事が無いな。


レ「後でメィルに聞いてみるか?」

ア「どちらでもいいのじゃ。」


アヌビスはそんなに興味が無かった様だ。皆の食事が終わり、片づけをしてダンジョンへ向かう。


レ「メィル、見てるか?」


俺が空に向かって話しかけると、魔法陣が現れてメィルが出てきた。


メ「どうしたの?お兄ちゃん。」


呼ばれた理由が分からないのか、こてりと首を傾げている。


レ「もうダンジョンも8階だろ?クリアしたらどうなるのかと思って。」

メ「10階をクリアしたら、私が女神になるんだよ!」

メィルはフンスッと鼻息を荒くする。

レ「そうじゃなくて、俺達がどうなるのかを聞きたいんだが。」

メ「どうって?」

レ「地球に帰れるのか?」


俺がそう聞くと、メィルはクリア後をイメージしているようだ。すると、メィルは指を1本立てて話始める。


メ「一つは、このまま地球へ帰る。一つは、別世界で生きる。一つは、ここに残る。」

レ「その3つだと、一番最初のこのまま地球に帰るっていう事になるが。」

メ「このまま戻って、地球になじめると思う?」


メィルが神妙な顔でそう問いかけてきた。


レ「どういう意味だ?」

メ「気づいてる? お兄ちゃん達、もう最初の頃の何百倍も強いんだよ? もしかしたら、私なんかよりよっぽど。」


そう言われて気づく。俺達は最初の頃、メィルですら強いと思っていたが、今はもう俺達の方が強い。メィルが本気で殴ってもダメージは0だろう。


ヤ「オリンピック選手も真っ青な身体能力ですよね、私達。」


弥生の素早さなら、それこそ目にも止まらない動きが可能だろう。ハンマー投げとかしたら、投擲武器操作で曲芸までできそうだ。


レ「じゃあ、他の選択肢は?」

メ「別世界で生きるは、地球と似た様な星で、新たに生命を作り出したりして、それこそアダムとイヴの様に最初の人類になるんだよ。」


俺達しか居ないのなら、確かに誰の迷惑にもならず過ごせるだろう。だが、


レ「それは暇そうだな。」


娯楽が何もない中で生きれるだろうか?


メ「それで、最後の選択肢、ここで暮らす?」


ここならラヴィ様の管轄なので、ある程度の融通が利くし、ケルベロちゃんもいるので娯楽にも困らないな。エロい物は取り寄せてくれないけど。


ヤ「・・・今は結論を出せないので、クリアしたら考えませんか?」


俺もそうだが、弥生もそんなに頭を使うのが得意ではない。それこそ、ラヴィ様やケルベロちゃんに意見を聞きながら決めたいと思う。


ワ「もう一つあるぞ、女神予備軍になる事だ。ラヴィ様に伝えれば、すぐにでもしてくれるだろう!」


女神様の下働きか・・・。それはそれで面白そうだけど、厳しそうだな。


レ「考えておくよ。」

ワ「ならば、ケルベロ様にも・・・。」

レ「考えておくって言ったよね!? ところで、イルナはどうするんだ?」

イ「・・・今の選択肢の中なら、女神予備軍になる。そして、神になる!」


イルナの変なスイッチが入ってしまった。普段の寡黙さと違い、やりたいことをずらずらと話し始めてしまった。そうしているうちに、ダンジョンに着いた。


レ「そう言えば、どうやって8階に行くんだ?」


いつもはクリアした階のエレベーターの横から次の階に行くが、7階はカジノのはずだ。


メ「8階はこっちのエレベーターだよ!」


いつも使っているエレベーターは7階までで、8階へ行くには別のエレベーターらしい。


レ「なんでエレベーターが違うんだ?」

メ「うーん、危険だから?」


メィルも良く分かっていないみたいだが、思いつくのが危険だからって言うのは気になる。


ヤ「とりあえず、行ってみましょう!」


弥生は怖い物見たさなのか、行く気満々だ。俺は危険と聞いただけで遠慮したい。

メィルが「とぉー!」と8階のボタンを押すと、8階に着いたらしい。8階に着いたら、メィルは「がんばってね!」と見送りだけした。


レ「ここ、どこだ?」


本当にいつもの場所か? と思うほど、広大なダンジョンだった。今までが学校の中を歩く程度だとしたら、今は東京ドームの様な広さの部屋に居る。今までの人工的な作りとは違って、岩や森があり、異世界に来たと言われても納得するような感じだ。飛行タイプに配慮された6階と同様、8階のタイプに配慮された作りになっているのだろう。


レ「・・・ここのコンセプトは?」

ヤ「えっと、動物になってますけど。」


動く奴はほぼ動物だよな・・・。そう思っていると、岩の陰から、火を纏ったトカゲが出てきた。弥生はサッと鑑定をかける。


サラマンダー(動物)


サラマンダーは、威嚇の為か、近くに生えている木に青い炎を吐いた。すると、一瞬で木が炭になった。物理現象としては炎なんだけど、これでもアヌビスにはダメージ0なんだよな。

魔法の不思議さを感じていると、サラマンダーは俺がぼーっとして隙があるように見えたのだろう、火の玉を吐いて飛ばしてきた。


レ「あちっ!くはない。」


見た目に騙されるが、熱さは感じないし服も燃えない。


ア「我に任せよ!闇の球!」


アヌビスがお得意の闇の球をサラマンダーにぶつける。サラマンダーは「ぐぎゃぁ!」とびっくりしたように叫ぶと、火の壁を生み出した。ここに居た全員がダメージを食らう。

イルナはいつの間にか、ダメージリンクをサラマンダーに使っていたようだ。自分が攻撃したのに、自分もダメージを受けたことにサラマンダーは驚いているようだ。その混乱の一瞬に、弥生が手裏剣を投擲した。手裏剣は、サラマンダーの右目に刺さり、振動する。振動にひるんでいるようなので、俺は追撃に刀で胴を斬りつける。うん、俺の攻撃力低いな! サラマンダーは、それでも邪魔に感じたのか、長い尻尾で叩きつけてくる。零に0ダメージ。俺は反動でふっとびながらも、ぶざまに転ぶことなく着地した。


イ「・・・私も、やる。白炎。」


イルナはダメージリンクを切ると、ヒノトリを憑依させてサラマンダーに火魔法を唱える。火をまとっているが、サラマンダー自体には火耐性が無いので、普通に通じたようだ。サラマンダーはコアになった。


レ「イルナも結構戦闘に慣れたな!」


俺はイルナの頭をやさしくなでる。


イ「・・・いっぱい、練習した。」


イルナは嬉しそうにほほ笑んだ。その後も何匹かのそのそと現れたサラマンダーを倒していると、ズシン、ズシンと大きな音がしてきた。バキバキと木を倒しながら現れたのは、牛の顔に屈強な体を持つモンスターだった。弥生が素早く鑑定する。


ミノタウロス(巨人):装備:斧・鎧


いかにも物理攻撃大好きですと言うステータス具合だ。ミノタウロスは、雄たけびをあげる。周囲が震えるような大声に、イルナは委縮してしまった。雄たけびによって他のモンスターも寄ってくるだろう。弥生はけん制の意味も込めてミノタウロスに手裏剣を投げる。それが気に入らなかったのか、ミノタウロスはもう一度雄たけびを上げながら斧を振りかぶって近づいてくる。


ア「真闇!」


アヌビスの闇魔法で真っ黒になったミノタウロスは、急ブレーキをかけると目をこする。その隙に俺も攻撃した。


イ「・・・憑依、ヨルムンガンド。」


イルナはヨルムンガンドを憑依させると、目が蛇のように黄色くなり、瞳孔が細くなった。イルナは目にもとまらぬ踏み込みで、ジャンプすると、ミノタウロスの鳩尾にパンチを打ち込む。ミノタウロスの巨体がふきとんで大木にぶつかると、大木がメキメキと折れていった。


レ「すごいな・・・。」

ヤ「見かけによりませんね。」

ア「我も負けていられんな。闇の球!」


アヌビスがふきとんで真闇の解けたミノタウロスに、追い打ちの闇魔法を当てる。


ア「むっ、倒せておらんな。」

ヤ「自動回復してしまったようですね。投擲武器操作!」


弥生はミノタウロスの腕に手裏剣を当てる。ミノタウロスはコアになった。


ヤ「やりました!」

ワ「油断するな、次が来るぞ。」


喜んでいる俺達の前に、再びミノタウロスが現れた。まだ憑依時間の残っているイルナがミノタウロスに近づくと、ローキックを放つ。ミノタウロスはゴロゴロと転がっていったが、勢いが弱まったところで手をついて起き上がると、頭の角を前にして俺に突進してきた。俺は角を掴んで受け止める。しかし、受け止めたは良いが、俺はそのままズズズーッと押されていく。


ヤ「投擲武器操作!えいっ!」


弥生は手裏剣を3つ真上に飛ばすと、カーブさせてミノタウロスの首に当てる。ミノタウロスは、コアになった。


ワ「まだまだ来るぞ!」


今度はサラマンダーが3体現れた。


レ「次から次へと!」


イルナは憑依が解けて荒く息をしている。代わりに、元気いっぱいなアヌビスは、闇の球をサラマンダーへ当て、サラマンダーからの炎は0ダメージで受けながら、倒した。装備の力で、アヌビスにとってはこの階層も相手にならなさそうだ。


ア「やったのじゃ!」


あたりにもう敵は居ないかどうか、アヌビスの千里眼で調べたが、付近にはもういないようだ。


レ「ふぅ、いきなりの連戦は疲れるな。」


ダメージ自体はほとんど無いが、巨大な敵を相手にするのは気分的に疲れる。


ヤ「ミノタウロスを見ていたら、お腹が空きました!」

レ「じゃあ、一旦帰って飯を食うか」

ア「わかったのじゃ!」


俺達は一旦戦闘を切り上げ、食堂へいくことにした。


食堂では、弥生はさっそく牛丼を頼み、俺もステーキを頼んだ。アヌビスは、オムライスを頼み、イルナは海鮮丼を頼んだ。ワルキューレは紅茶とクッキーだ。ほぼおやつだな。

昼食を美味しくいただいて、食器を片付ける。ふと、8階のマップを取り出す。


レ「俺達は入口から右の方を優先的に進めてきたが、右側は岩と森がメインだった。昼からは、左の方へ行ってみないか?」

ヤ「思ったより広いですからね。どちらにエレベーターがあるのか分からないので、調べる事には賛成です!」

ア「案外、まっすぐ行ったらすぐにエレベーターかもしれんがの?」

レ「まあ、その時はその時だな。それに、まっすぐ歩くのも案外と難しいんだぞ。」

ア「ならば、我が千里眼で探してやってもいいのじゃ。」

ヤ「それは・・・いいんでしょうか?」

メ「ダメに決まっているじゃない!」


どこで見ていたのか、メィルが現れた。


ア「何故じゃ? クリアして欲しいなら、さっさとエレベーターを見つける方がよかろう?」

メ「過程も大事なの! 8階に行きました、千里眼で見つけました、転移でクリアしましたじゃ面白くないじゃない!」

ワ「面白さの問題ではなく、これが試験だと言う事だ。」


ワルキューレはメィルの頭を抑えると、説明を加えた。


ワ「私も驚いているが、本来はもっと簡単な試験なのだぞ? 10階にいるボスモンスターでさえメィルより弱いはずだ。それに、ラヴィ様が受付をしている事も・・・。はい、黙ります!」

ラ「それでいいわ。余計な事はしゃべらないでね?」


いつの間にか、ワルキューレの後ろにラヴィ様が立っていた。そして、ずるずるとワルキューレを引きずっていく。


レ「・・・ワルキューレが居なくなったけど、昼からの探索は大丈夫か?」

ヤ「もう、メィルちゃんじゃ役に立ちませんからね。」

メ「そんなこと無いよ! 転移もできるし!」

ア「転移なら我もできるのじゃ。それに、今は結界があって使えないのじゃ。」

メ「そ、蘇生もできるし!」

レ「俺達のうちの誰かが倒されるようなモンスターに、隙を見てメィルが蘇生できるのか?」

メ「うぅ、が、がんばるもん!」


メィルは半泣きになって主張するが、弥生からも白い目で見られている。


ケ「あたちに任せな!」

レ「ケルベロちゃん?」

ケ「ラヴィ様から頼まれたんだ。」


ワルキューレへのお説教はそんなに長引くのだろうか? とりあえず、ワルキューレよりも強いケルベロちゃんが一緒なら問題は無いだろう。メィルは寂しそうにしていた。

俺達は8階に行くと、左側に向かって進む。左は草原に近く、遮蔽物がほとんどない。しかし、足の長い草は生えているので、ワニみたいなモンスターが居たら分からないが。


エ「あらあら、敵、敵!排除、排除!」


急に草の間から水の球が飛んできた。俺は水の勢いに押されて吹き飛んだ。


ヤ「か、鑑定!」


弥生は現れた蛇の下半身を持つ美女に鑑定をかける。


エキドナ(合成獣)


エ「攻撃、攻撃!えいっ、えいっ!」


エキドナは背中に生えた翼によって空を飛ぶと、空中から水の球で攻撃してくる。俺達はバラバラに弾き飛ばされてしまった。


エ「きゃはははは、細切れになっちゃえ! 高圧水流(ウォーターカッター)!」


エキドナは一番近くに居たイルナに、指から高圧水流で刃の様な水で斬りつけている。


イ「くぅ、ネクロマンシー!」


イルナはグリフォンを召喚すると、その背中に乗った。


エ「空を飛ぶ、生意気、生意気! とぉ!」


エキドナは尻尾でグリフォンを叩きつける。その隙に、イルナは獣化した。


イ「・・・お返し!」


イルナはグリフォンの背からエキドナに飛び移ると、背中にパンチする。


エ「むむむ、邪魔、邪魔!」


エキドナは尻尾をイルナの首に巻き付けると、地面に叩きつけた。


エ「怒った、怒った! これでも食らえ! 津波!」


エキドナは水魔法を唱えると、どこからか津波が押し寄せ、全てを飲み込む。


イ「・・・やばい、私、泳げない。」

ヤ「私は泳げます!」


弥生は慌ててイルナを抱える。しばらくして水は引いたが、ダメージがでかい。


ヤ「次、魔法が来たら私死ぬかもしれません・・・。」


弥生は元々HPが低いので、もうHPが無いようだ。


イ「・・・HPドレイン付与。」


イルナが呪術を使って弥生にHPドレインを付与する。


ヤ「助かりました! 投擲武器操作!」


弥生はさっそく空を飛ぶエキドナに手裏剣を当てる。弥生のHPが回復した。衝撃を受け、エキドナは落下してくる。


エ「もうやだ、嫌い、嫌い!」


エキドナはそう言うと、地面を這うように逃げて行った。草むらに隠れられると、どこにいるのか全く分からなくなった。


ア「やっと合流できたのじゃ・・・。」


アヌビスは、ダメージ自体は受けないが、泳げない上に水で上下が分からなくなって、どこにいるのか分からなくなったみたいだ。ケルベロちゃんは犬みたいにぶるぶると体を震わせて水を飛ばしている。魔法の水なので、しばらくしたら完全に水気は無くなった。

俺達は、イルナにHPドレイン付与を付けてもらうと、ネクロマンシーで召喚したマミーを殴ってHPを全快させた。


イ「・・・探し出して、倒す!」


イルナは珍しく積極的だ。草むらを探していると、大きな岩が見えた。肌色の岩に近づくと、動き出した。


ヤ「敵ですか!?鑑定!」


ギガース(巨人)


ミノタウロスよりもさらに巨大なギガースは、地面に置いてあった槌を拾い上げると、地面に叩きつけた。それだけで、浮いているアヌビス以外は尻もちをつく。あぁ、ケルベロちゃんは平気なようだ。

その隙に、ギガースは俺に槌を叩きつける。普通ならぺったんこなんだろうが、すこし地面にめり込んだだけだ。そして、その隙に透明になっていた弥生がギガースの背後から手裏剣を投げる。


レ「回復する前に畳みかけるぞ!」

ア「わかったのじゃ! 闇の球!」


アヌビスはギガースの真横から闇の球を当てる。


イ「・・・獣化。」


イルナは獣化すると、ギガースの足を爪で切りつける。ギガースは槌を振り回してイルナを吹き飛ばす。イルナはダメージリンクを使っていたようで、ギガースにもイルナと同じダメージが入った。吹き飛ばされたイルナはくるりと空中で体勢を直すと綺麗に着地した。弥生はギガースのアキレス腱に手裏剣を投げる。また、手裏剣の振動によって足を滑らせ、少しバランスを崩したようだ。ギガースもそろそろ回復したと思うので、HPはあと半分くらいだろうか。


イ「・・・幻痛。」


イルナはバランスを崩したギガースの足先に幻痛を使う。ギガースはタンスの角に小指をぶつけた様な痛みに襲われているんだろう、隙だらけだ!


レ「いけ、攻撃特化型零ゾンビ!」


俺は増えたMPでゾンビの攻撃力を上げた。ギガースは手をグーにして零ゾンビに叩きつける。攻撃特化型零ゾンビは消滅した。倒れているギガースの首に、イルナが噛みつく。


レ「食らえ!」


俺もギガースの足にスラタン刀を突き刺す。ギガースに0ダメージ。まさかのノーダメージにしょんぼりだ!


ヤ「源さんは下がっていて下さい! 投擲武器操作!」


弥生は透明化を解除してギガースの目に手裏剣を当てる。また回復していたようで、ギガースは倒せていない。


ア「我の出番じゃな。闇の球!」


アヌビスは転移でギガースの頭上に現れると、闇の球を叩きつける。ギガースはコアになった。また、槌も土に還った。


レ「ふぅ、疲れるな。」


俺はほとんど何もしていないが、気分的にハラハラして疲れた。


ヤ「透明化、便利です!」


見えない敵ってそれだけで対処できないからな。


イ「・・・憑依温存した。多分、もっと強い敵が出る。」

レ「怖いこと言うなよ。」


イルナの憑依は複数あるが、どれか一つ使うだけで精神力を消耗するので温存で正解だろう。


ケ「あたちも久しぶりに暴れて見たくなるぜ!」


ケルベロちゃんはシュッシュとシャドーボクシングをしているが、それだけで近くの草が切裂かれて飛び散る。


レ「万が一、悪魔が出たら頼むわ。」

オ「じゃあ、俺が相手してやろう。」


声のした方を見ると、ヤギの角と蝙蝠の翼の生えた人体模型の様な悪魔が浮いていた。弥生は鑑定をかける。


オリヴィエ(悪魔)


ケルベロちゃんも鑑定しているようだ。


ケ「ちっ、ルバート並みの悪魔か。」

オ「俺をあんな兵卒長と一緒にするな。俺は大天使だぞ?」


俺達が知っているルバートは、アヌビスより弱い悪魔だったからな。


ケ「元大天使だろ? どうやって入り込んだ? 今はあたちすら入り込む隙の無い結界が張ってあるはずだが?」

オ「はっ、ずいぶん前からルバートが入り込んでいるのに、俺が今入り込んだと思っているのか?」

ケ「結界を張る前に入り込んでいやがったか。」

ヤ「あの人、思ったより親切に答えてくれますね。」

レ「ああ、見た目が人体模型のくせにな。」

オ「雑魚は黙ってな。」


オリヴィエは右手に闇の剣を生み出すと、弥生に投げたようだ。弥生に闇の剣が刺さり、弥生がコアになるまで攻撃に気づけなかった。それを見たイルナは「憑依!」と唱え、アヌビスを憑依させた。


イ「おのれ、よくも弥生を!闇の球!」


イルナは闇の球をオリヴィエに飛ばすが、ダメージは0だ。


ケ「手を出すな! さっさと逃げろ!」


ケルベロちゃんはそう言うが、オリヴィエは逃がす気は無いようだ。


オ「逃がすわけが無いだろう、衝撃拳。」


オリヴィエの右手の先が消えたように見えた。次の瞬間イルナは吹き飛ばされてコアになった。


ア「イルナ! くそぅ!」


憑依が解けて分裂体に戻ったアヌビスは、オリヴィエに魔法を唱えようとした。すると、オリヴィエの目が光る。


ケ「やめろ!」


ケルベロちゃんが制止するより先に、アヌビスは石化した。宙に浮いていたアヌビスは、石化によって浮力を失い、落下と同時に衝撃で砕け散ってコアになった。


オ「人間は殲滅だ。闇の球。」


オリヴィエは俺に闇の球を飛ばすが、ケルベロちゃんが間に入って受ける。ケルベロちゃんを中心に、クレーターが出来、砂ぼこりが立つ。その中から、ケルベロちゃんが飛び出てくる。そして、コアを3つ俺に渡した。


ケ「ちゃんと持ってろ。しばらくしたらラヴィ様が来られるはずだ。」

オ「衝撃拳。」


オリヴィエの右手が消えたと思ったら、ケルベロちゃんが右手で防いだ。そこからは、俺の目には見えないが、ケルベロちゃんとオリヴィエが格闘戦をしているようだ。お互い100万ダメージくらいずつ与えているようだが、自己回復の方が早いのか、決着はつかないようだ。


ラ「待たせたわね。ケルベロ、時間稼ぎはもういいわよ。」


いつの間にか、ラヴィ様が到着していた。ケルベロちゃんはオリヴィエから離れると、ラヴィ様の側に来る。


オ「高ランクの女神だと!! 転移!」


オリヴィエはラヴィ様を鑑定したのか、負けを悟ると転移する。しかし、結界があるため転移できなかったようだ。


ラ「ふぅ、頑丈な結界も考え物ね。私も転移出来ないのだから。」


そういうと、ラヴィ様はオリヴィエに近づいて行く。


オ「く、くるな!」

ラ「何か言い残すことはあるかしら?」

オ「我ら悪魔に栄光あれ!」


そう言うオリヴィエに、ラヴィ様が何かをしたらしい。ケルベロちゃんとの戦闘に時間がかかっていたのが嘘の様に、オリヴィエはあっさりと真っ黒なコアになった。それを拾ってアイテムボックスに入れたラヴィ様は、俺から弥生とイルナのコアを取る。


ラ「殺されたくなかったら、目をつぶっていなさい。」


俺は目をつぶる。


ヤ「はれ? ここは?」

イ「・・・蘇生・・した?」


弥生とイルナの声がしたが、おそらく全裸なのだろう。俺は理性を総動員して目をぎゅっとつぶる。


ラ「もう目を開けて良ですよ。」


俺はそっと目を開けると、いつもの弥生とイルナが居た。


レ「よかった・・・。」


俺はへたり込むと、アヌビスのコアをまだ持っていたことに気づいた。俺はアヌビスを復元する。


ア「むむっ、敵はどこじゃ!」

ラ「もう倒したわよ。」


アヌビスは弥生たちと違って復元だし、神装備だから服は着たままだ。アヌビスはそれでもキョロキョロと辺りを見渡し、敵が居ないことを確認してからしゃがみこんだ。今回はさすがにこれ以上探索する気力も無く、帰ることにした。帰る途中、どこからかまたエキドナが出てきて「敵だ!敵だ!」と攻撃しようとしたが、一緒に居たラヴィ様に睨まれると、ビクリとしてまた逃げて行った。何がしたいのだろうか。ラヴィ様の護衛の甲斐もあって無事ダンジョンからビジネスホテルに戻ることが出来た。


弥生は部屋でぼけーっとしている。


レ「どうしたんだ?」

ヤ「コアになるってあんな感じなんですね。」


弥生がしみじみと語る。弥生は普段から余り攻撃も受けないため、死をほとんど感じていなかったみたいだ。アヌビス、イルナに関しては一回死んでいたこともあるので、そこまでではないみたいだ。


俺の最初はどうだったろうか? 考えてみたが、普通に朝起きた様な感じだった気がする。


レ「俺は正直、あまり気にならないな。」

ヤ「あれは、まるで虫を殺すような目でした。殺気なんて無く、ただ邪魔だからと・・・。」


弥生はそう言うと、両手で肩を抱く。体に痛みは無いが、心に痛みが残ったようだ。


ヤ「今日は、もう寝ますね。」


そう言って弥生は着替えに部屋に戻った。こってり絞られて疲れたのか、ぐったりとしたワルキューレが戻ってきた時には、弥生はすでに寝ようとしていた。


レ「戻ってきて早々に悪いが、闇の壁を張ってくれないか?」

ワ「ああ、分かった。源殿・・・いや、なんでもない。」


ワルキューレは何か言いたそうだったが、言うのをやめると、壁を張る。


イ「・・・私も一緒に寝る。」


イルナも気を利かせて弥生と一緒に寝るようだ。


ア「じゃあ、我も一緒に寝るのだ!」


いつの間に飯を食ったのか、ほっぺたにハチミツを付けたアヌビスも着替えに行った。


レ「アヌビス、ちゃんと歯磨きはしろよ。」

ア「わかっているのじゃ!」


まあ、虫歯にはならないと思うが、どうなるかは分からないからな。


ヤ「ありがとう、イルナちゃん、アヌビスちゃん。」


壁の向こうから、弥生の声が聞こえてきた。俺は小部屋でビールと枝豆で一杯やると、明日の事について考えた。

俺は風呂に入って歯磨きをすると、布団に入って眠った。



閑話 魔界


ラ「ワルキューレ、ちょっと来なさい。」


私の不用意な発言によってラヴィ様に連れて行かれる。


ワ「申し訳ありません!」


私は怒られる前に謝った。


ラ「その事はもう良いわ、魔界へ行くわよ。」

ワ「え? 説教では無いのですか?」

ラ「魔界に動きがあったの。そんな時間は無いわ。」


ダンジョン内では転移が出来なくなったため、わざわざダンジョンの外へ引きづってきたらしい。それならそうと口で言って欲しいものだ。


ラ「あの子たちの前でそんなこと言えるわけがないでしょう?」

ワ「え? 口に出していましたか?」

ラ「読心に決まっているじゃない。」


そうだった、ラヴィ様は心が読めるのだった。

ラヴィ様の転移によって魔界に着いた。魔界は、魔王が居なくなってから大分片付いたはずだが、今はそこら中に魔物があふれている。


ワ「これは?! 魔王の消滅によって魔物も消滅したはずでは!」

ラ「カイザーのコアの行方は分かっていないわ。」

ワ「・・・誰かが魔王を復活させたと?」

ラ「その可能性は考えられるわ。最近の悪魔の出現率も異常よ。」


私もデーモンを倒したばかりだ。ラヴィ様が言うには、ラヴィ様もケルベロ様も悪魔を倒しているらしい。分身が相手したそうだが、悪魔は女神ランクⅡ相当だったみたいだ。今の私では一撃で死ぬだろう。


ワ「私で役に立てますでしょうか?」

ラ「今は猫の手も借りたいのよ。」


むむっ、そこまでひっ迫した状況だったとは。私もがんばらねば。


ワ「分かりました。まずは、どこをお調べしましょうか?」

ラ「あなた一人に任せる訳にもいかないから、私の分身を連れて行ってちょうだい。」


ラヴィ様はそう言うと、バニーガール姿のラヴィ様の分身が出来た。


ワ「よろしくお願いいたします!」

ラ「私は、もう一度祠のあった場所を調べに行くから、あなたは魔王城を調査して頂戴。」

ワ「分かりました!」


私は、ラヴィ様の転移で魔王城へ到着した。


魔王城には魔王の手下と思われる雑魚妖魔が山ほどいた。私には魔族と妖魔の区別はつかないが、そうそう魔族が居る訳も無いので妖魔と判断した。


ラ「邪魔ね。」


ラヴィ様はそう言うと、どこからかカードを出して投擲する。私にも見えない攻撃が、数百匹居た妖魔たちを一瞬でコアに変えた。


一番近くの部屋から順番に調べていく。中に居た雑魚妖魔は私でも余裕で倒せる強さだった。


ワ「やけに弱いですね?」

ラ「鑑定してみたけれど、どれもダンジョンで言うと2階か3階程度の強さしか無いわね。」


つまり、スライムかオーク程度の妖魔という事か。小部屋は調べ終え、王座の間に着いた。


リ「こんばんわぁ、ラヴィ様、ワルキューレ様。奇遇やね? どうされたんですか?」

ラ「リリス、あなたこそ何をしてるのかしら? 試験はどうしたの?」

リ「今日はもう終わりました。明日が休みなので、魔界で休養しようかと思いまして。」

ラ「もしかして、この妖魔たちは・・・。」

リ「魔王の居なくなったこの城を、うちの居城にしようと思って修理や片づけをさせていた家来ですけど・・・あぁ! うちの家来たちがコアに!」


リリスは王座の間の扉から見える範囲の妖魔がコアになっているのが見えてガーンと言う顔になった。


ラ「勝手な事をしないで頂戴! 魔王が復活したかもしれないというのに!」

リ「えぇ! それは堪忍なぁ。すぐに退去しますので・・・。」

カ「余の城で何をしている?」

ワ「誰だ!」


私でもわかるほどの強大な魔力を持った何かが近づいてくる。


リ「あれは・・・魔王はん?」


リリスが「嘘っ、マジや。」って顔をしている。


ラ「魔王・・・? 鑑定。」


邪神カイザー(邪神)


ラヴィ様は鑑定結果を私たちに伝えてくれた。


ワ「邪神だと!?」

リ「あかん、うち、もう・・・。」


リリスは恐怖のあまり気絶したようだ。邪魔だったのか、ラヴィ様がリリスをどこかへ転移させた。


ラ「なかなかのステータスね? どうしたのかしら?」

カ「ふんっ、勇者への恨みで甦ったと言うのはどうだ?」


カイザーはニヤリと口角を上げているので、まじめに答える気が無いのだろう。ステータス的にはラヴィ様と同等なので、私がここに居ても何の役にも立てそうもない。


ラ「一旦引くわよ。」


ラヴィ様も分身では分が悪いと思ったのか、逃げる隙を探している。


カ「余は逃げも隠れもせぬ。」


カイザーはそう言うと、ドカリと王座に座る。

ラヴィ様はそれを見ると、私を連れて本体の所へ転移した。


ラ「どうしたの?」


転移で戻ってきた私たちを見て、不思議な顔をしているが、分身を消して知識と取り込むと、青い顔をした。


ラ「まさか、邪神が復活したなんて・・・。すぐにはじまる様に報告しなければ!」


私は再び転移させられると、ビジネスホテルの前だった。


ラ「神界にはあなたを連れて行けないから、ここで終わりよ。ご苦労様。」


ラヴィ様は挨拶もそこそこに転移していった。

私は、いまさらながら、ラヴィ様と同等の敵が現れた事に疲れを感じ、部屋に戻った。

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