第9話 ダンジョン攻略9日目

アラームが鳴る。朝か。この世界は天候が晴れしかないのか、毎日同じ天気だ。どうせダンジョンとホテルの往復しかしていないから余り関係は無いが。俺は歯磨きをして、軽く体操をしているが、今日もアヌビスがなかなか起きてこない。そろそろ弥生も来る頃だし、起こすか。


レ「アヌビス、そろそろ朝食の時間だ。起きろ。」


俺はアヌビスをゆすると、眠そうな目をこすってゆっくり起き上がってきた。


ア「昨夜はお腹が痛くてあまり寝れなかったのじゃ。」

レ「腹でも冷えたか?今日はおかゆでも食べるか?」


アヌビスはお腹が痛いと言っているが、さすっている場所はお腹と言うよりも胃だろうか。ホットケーキしか食べてないのにな?


ア「嫌じゃ、今日もホットケーキがいいのじゃ。」


アヌビスは顔の前に両手でバツを作ると、「ホットケーキ、ホットケーキ。」とうるさい。そう言っているうちに、弥生とワルキューレが来た。


レ「おはよう、2人とも。」

ヤ「おはようございます!」

ワ「おはよう。」


俺は2人を中に入れながら、ワルキューレに尋ねる。


レ「昨日の件はどうなった?」

ワ「昨日の件も極秘事項に当たるため、詳細は語れない。」


俺はサンドイッチとコーヒーを、アヌビスはホットケーキを、弥生はアジフライ定食を、ワルキューレは紅茶を頼むと、ケルベロちゃんがすぐに用意してくれる。ケルベロちゃんは何か知っているだろうか?口を開く前に一瞬で帰ったため結局聞けなかった。仕方なく、ワルキューレにもう一度聞く。


レ「じゃあ、話していい事はあるか?」

ワ「ヴァンパイアに悪魔が憑依していたことだけだな。」


それは当事者である俺達の方が詳しいだろうな。今のところ、対処のしようがないのだろうか。


レ「それじゃあ、今日もダンジョン5階の探索でいいか?」

ワ「ダンジョンを探索する事自体に問題は無い。今日も私が一緒に行動する。」

ヤ「私も、問題ありません!」


アヌビスの方を見ると、調子が悪いのか、大好きなホットケーキを半分残している。


レ「調子が悪いのなら、アヌビスは留守番するか?」


戦力的にはアヌビスが抜けるのは痛いが、絶対に必要という訳でもない。マミーなら普通に戦っても勝てるしな、弥生が。


ア「我を置いていくでない!一緒に行くのじゃ!」


アヌビスは痛みを我慢して無理やり笑顔を作った。


レ「じゃあ、無理はするなよ?無理そうなら言ってくれ。」


俺はアヌビスにそう言うと、食器を片付ける。アヌビスが残したホットケーキはどうしよう?と思ったが、サーベラスが食うらしい。役に立っているようで何よりだ。

俺達はケルベロちゃんに「行ってきます。」と言うと、手を振って送り出してくれた。大分愛想が良くなったんじゃないか?

ダンジョンに着き、ラヴィ様にも挨拶をして、エレベーターに入る。途中で、ワルキューレに「転移でここに来た方が早くないか?」と言うと、「ほぅ、女神をアッシーにする気か?いい度胸だな。」と槍を突き付けられたので、今後も徒歩だろう。

相変わらず包帯くさい5階でマミーを狩っていると、新しい敵が出た。見た目はハロウィンに出てきそうな、シーツに目の部分の穴を開けたようなふざけた格好だ。弥生が鑑定する。


スペクター(霊体)


レ「物理無効って初めてだな。弥生、ちょっと手裏剣を投げてみてくれ。」

ヤ「分かりました、八方手裏剣!」


弥生が投げた手裏剣は、スペクターに当たるとキンッと音がした。スペクターに0ダメージ。


レ「こいつ、設定間違ってないか?てっきり幽霊だから当たりません~かと思ったら、普通にダメージ0かよ。防御力の意味無いじゃん。」

ワ「そう言うな、耐性無効とか、固定ダメージとか対策できるいろいろなスキルがあるんだ。」


ワルキューレは目をそらしながら答えてくれた。おそらく、誰かが透過と間違えて設定したのだろう。飛べないからか、普通に歩いているし、スペクター感が0だな。


レ「魔法の無い俺達じゃ対処のしようがないし、アヌビスに任せた。」


俺は振り向いてアヌビスを見ると、アヌビスは腕を自分の体を抱くようにクロスさせ、うつむいている。


ヤ「アヌビスちゃん、大丈夫ですか?」


弥生がアヌビスに近づいていくと、アヌビスは「おえぇっ!」と口から血を大量に吐き出した。


レ「おいっ!大丈夫か!」


見たところ、ダメージ判定は無いので、怪我をしているわけではなさそうだが、大量の血を吐き出したアヌビスは、気絶したのか倒れた。びっくりしたのか、スペクターは逃げ出した。おばけが血を見て逃げ出すなよ・・・。

そう思っていると、血だまりが人の形を取り始めた。そして、完全に人の形になったとき、そこには20歳くらいの裸のアヌビスが居た。弥生は倒れたアヌビスを回収すると、俺の近くに連れてきた。弥生はステータスを鑑定すると、真っ青な顔で固まった。


デーモン(悪魔)


デ「これは、予想以上に素晴らしい肉体です。おや、また会えましたね?」

レ「お前は・・・吸血鬼か?」

デ「これは失礼、自己紹介は初めてですね。私はデーモン、下級魔族です。」

ヤ「なんで・・・、なんでアヌビスちゃんの姿なんですか?」


弥生は震える声で尋ねる。デーモンは、自分の姿を確認し、裸だと気づくと、「これは失礼。」と血で赤いドレスを作った。


デ「姿は私が選んだわけではないですよ?この体の持ち主の姿ですから。」


俺は隣のアヌビスを見るが、分裂体だったから体が残ったのかもしれない。


デ「それにしても素晴らしい。スキルは多少消えたようですが、まさか本来の私の実力が戻るとは思いませんでした。ヴァンパイアの時は弱すぎて、弱すぎて、絶望したものです。あの時、血を飲んでくれたのは小さな少女だったので、次の憑依先のつなぎくらいにしか考えていませんでしたが、まさか神だったとは運がいい。」


あの時、カップに血を入れて飲ませようとした理由はこれだったのか、飲まなくてよかったって言ってる場合じゃないな。アヌビスに触れると、気絶しているだけで大丈夫そうだ。しかし、弥生からデーモンのステータスを聞かされると、俺も絶望した。ステータスだけで言えば、ワルキューレより断然に強い。


ワ「下級魔族だと?魔界で殲滅されたと思っていたのだがな。」

デ「殲滅されましたよ?私は、なんとか憑依で助かりましたがね。」

ワ「ならば、もう一度殲滅するまでだ!」


ワルキューレは、デーモンのステータスを知らないからか、普通に突進して攻撃する。


デ「あなた、強そうに見えても見習い女神ですか?遅すぎますね。」

デーモンはあっさりと槍を避けると、ワルキューレの首に手刀を落とす。ワルキューレは地面をバウンドしながら吹き飛ばされて廊下の先に叩きつけられた。


レ「ワルキューレ!大丈夫か!」


俺はそう声をかけたが、大丈夫なわけがない。残りHPは半分を切っているはずだ。もう一度同じ攻撃を受けたら死ぬ。ワルキューレは起き上がると、MPを使って蘇生しHPを全快した。


ワ「このぐらいのことで、神槍グングニル!」


ワルキューレの槍が一瞬で伸びた。


デ「危ない、危ない。なかなかいい武器をお持ちですね。」

デーモンは右手の平で槍を受け止めた。デーモンはそのまま槍を掴むと、ワルキューレを槍ごと引き寄せた。引っ張られるまま空中に浮いたワルキューレは、鳩尾にデーモンの膝蹴りを受けた。

ワルキューレは蹴りの勢いで天井にぶつかり、自然落下で地面に落ちる。残りMPは少ないので、蘇生しても次のクリティカル攻撃に耐えることはできない。スキルの使用音ためにMPを温存しているようだ。


デ「ほらほら、寝ている暇はありませんよ?」


デーモンはワルキューレの背中を踏みつけた。デーモンはそのまま足を上げ、再び踏みつける。弥生はワルキューレを助けようと手裏剣を投げるが、あっさりと手刀で真っ二つにされて消滅する。


デ「そろそろ、止めを刺しましょうか。」


デーモンはワルキューレを左手で掴んで持ち上げると、右手を首に向かって突き刺す。


レ「ワルキューレ!」


デーモンの手がワルキューレの首に触れる寸前、ワルキューレは閃光の様に強い光を生み出し、目くらましをする。デーモンは両手で目を押さえたため、ワルキューレは拘束から解放された。


デ「くっ、小細工を!」

ワ「今だ、真闇!」


ワルキューレはアヌビスが使っていた闇魔法を唱えると、デーモンは真っ黒になった。


デ「なんだこれは!?何も見えん!」


デーモンは無茶苦茶に手を振り回すが、当たるわけがない。ワルキューレはその隙に、デーモンの心臓部分に槍を突き刺す。


ヤ「デーモンの残りHPは3400です!」


弥生は鑑定結果をワルキューレに伝える。


デ「け、眷属召喚!」


あせったデーモンは、数体の眷属メイドを召喚し、自身も蝙蝠になって真闇から抜け出す。


デ「お前たちのHPを寄越せ! HPドレイン!」


デーモンは眷属メイド2体の首を右手と左手でそれぞれ掴むと、光がデーモンに流れ、眷属メイドは消滅した。

眷属全員のHPを吸ったデーモンだが、HPはほとんど回復していない。そして、デーモンは致命的にもワルキューレを見失っていた。


デ「くそっ、女神! どこへ行った!」

ワ「ここだ。」


透明化を使ってデーモンの背後に回っていたワルキューレは、デーモンの心臓を突き刺し、胸から槍が生えているように見える。デーモンは、憑依先を探すが、近くには誰も居ない。そして、すぐにコアになった。


ワ「悪魔はコアのまま放置しておくと、コアからでも復活するからな。」


ワルキューレはそういうと、デーモンのコアを槍で砕いた。すると、神々しい光がワルキューレを包んだ。


ワルキューレは女神ランクがⅤからⅣになり、ステータスが10倍になった。またデーモンが使っていた血魔法も覚え、神槍と神装の性能も解放されたようだ。


ワ「女神のランクが上がったようだ。こんな短期間でランクが上がるなんて。」


ワルキューレは嬉しそうに頬を赤く染めている。体を見回すが、体形は全く変わっていない。装備が少し豪華になったくらいだろうか?ケルベロちゃんより全然弱いのは、スキルが充実していないからだろう。


レ「ワルキューレ、アヌビスを!」


ワルキューレは、そうだったという顔をして、アヌビスに蘇生を使う。しかし、HP自体は減っていなかったため効果は無いようだ。


ヤ「だめ、ですか?」


弥生はウルウルをしはじめた。ワルキューレは少し考えるように手をあごに当てる。


ワ「今なら出来るかもしれない。」


ワルキューレはそう言って時空魔法を使い、アヌビスが血を飲むより前に戻した。MPを大量に使ったようだ。といっても、自動回復(大)で2分あれば全快するそうだが。アヌビスは目を覚ました。


ア「ここはどこじゃ? 我のホットケーキ!」

レ「お前はホットケーキばっかりだな。」


俺達が笑うと、アヌビスは頬を膨らませてフンッと横を向く。


ヤ「治ってよかったです!」


弥生がアヌビスをなでていると、さっき逃げたスペクターが歩いて戻ってきた。


ア「我に任せるのじゃ!」


復活したアヌビスの魔法によってスペクターはあっさり倒された。俺達は一旦昼飯を食べにエレベーターに向かった。そして、ステータスを振って増えたMPで装備を作り直し、充実させた。


レ「こうしてみると、俺達ってもうメィル並みに強くなったよな?」

ヤ「ですです。そろそろ倒しますか?」

レ「いや、倒さないよ!? まだ根に持ってたのか?」


俺が驚いて弥生の方を向くと、弥生はクスクスと笑っていた。


ヤ「冗談ですよ、冗談。それに、強くなったと言っても、あの悪魔やワルキューレさんの強さを見ると、強くなった気がしないんですよねー。」

レ「まあ、それこそ桁が違うからな。」

ア「我はもっと精進すれば、ワルキューレ並みに強くなるのじゃ!」


アヌビスはワルキューレが急に強くなった事に嫉妬を覚えたのか。まあ、アヌビスの体を使ってデーモンが本来の強さを取り戻したのだから、アヌビスもデーモン並みのステータスになる潜在能力はあるのだろう。今は俺のMPに依存するから大して強くないけどな。そういえば、MPも増えたし、アヌビスを復元しなおすか?


レ「MP増えたし、分裂体を作り直すか?」

ア「お願いするのじゃ、少しでも強くなるのじゃ!」


アヌビスは、ワルキューレに倒されてコアに戻ると、俺は復元しなおした。


復元したアヌビスは、9歳くらいの姿になり身長133cmでバストがAカップに、ステータスも元の13分の1と、少し強くなっていた。また、千里眼スキルが戻ったのと、武器、防具の性能が少し良くなっていた。


レ「よし、飯にするか!」


俺達は食堂に行くと、はじまる様が居た。話しかけようとしたら、そそくさと奥へ行ってしまった。俺はヒレカツ定食を注文し、アヌビスはハンバーグ定食、弥生は前に気に入ったのか、寿司を。ワルキューレは紅茶を注文すると、テーブルに着く。


ヤ「ワルキューレさん、デーモンの件は報告しなくていいんですか?」


弥生の指摘に、ワルキューレは冷や汗を流しまくっている。


ワ「勝手にデーモンのコアを割ったことがバレたら、どんな罰が下るか・・・。」


復活するとはいえ、復活までに相当な時間がかかるため、調査してからでも遅くなかったらしい。


レ「でも、はじまる様やラヴィ様に鑑定されたら即バレするんだから、時間の問題じゃないか?」


俺がそう言うと、小さな声で「あとで報告する。」と言っていた。


料理ができたようなので、取りに行く。ワルキューレは決心がついたのか、紅茶をズズズーッと一気飲みすると、「報告してくる!」と言ってラヴィ様の所へ向かった。俺達はゆっくりと食事を取ると、片付けるころにワルキューレが戻ってきた。見るからに青い線がエフェクトでかかっていそうな程肩を落としている。


ヤ「どうでしたか?」

ワ「今回は特例で、デーモンを倒した功績とデーモンのコアを勝手に使った罰を相殺してくれるそうだ。ただ、当分ランクを上げることは無いと言われた。」


数百年が最近と言える女神が、当分というのはどのくらいの期間だろうな。


レ「まあ、出世の前払いだと思えばいいじゃないか。たった数千年でランクⅣになった女神なんて居ないだろ?」


と言っては見たが、女神の内情なんて知らないけどな。


ワ「そうだな、私が初めてかもしれん!よし、やる気が出てきたぞ!」

ワルキューレも結構単純なんだな。昼飯も食い終わったし、また5階で狩りの再開だ。


俺達は元気になったアヌビスを中心に5階の攻略を進めていた。マミーは魔力が低いし、スペクターはそもそも魔法じゃないと倒せない。マミーは俺と弥生でも対処できるため、時間はかかるが俺がマミーを押させて弥生が攻撃、たまに現れるスペクターはアヌビスの闇の球で攻撃とサクサク狩り始めていると、新しいモンスターが出た。

真っ黒な騎士鎧を着て、ヘルムから見えるのは、スケルトンの様な骸骨だけだ。ただ、立派な大剣を持っている。ガシャガシャとうるさく歩いてくる間に、弥生がステータスを鑑定する。


黒騎士(不死)


弥生からステータスを聞いたアヌビスが、「我に任せるのじゃ!」と言うと、黒騎士は右手を前に出して止まれとジェスチャーした。


黒「我は剣士、魔法は無しでお願いしたい。」

レ「いや、お願いされても困るんだが・・・。」


下手にしゃべれるモンスターが相手だと、問答無用に攻撃しにくいよな。これが無言で突っ込んできたならアヌビスに「やっちまえ!」って言うんだけど。


ヤ「ここは、私の出番ですか?」


さっそくワーウルフに変身した弥生が、首をゴキゴキと鳴らしている。


黒「剣士の決闘に女が出るものではないわ!」

ヤ「なんか怒られました・・・。」


いつの間に決闘になったんだ?それに、俺の攻撃力じゃ黒騎士にダメージを与えられない。俺はチラリとワルキューレを見ると、ワルキューレはコクリとうなずいた。


ワ「よし、私が審判をつとめよう。」

レ「そっちじゃない!」


俺は別にワルキューレに公正な審判をお願いしたわけではなく、相手にする必要あるの?と訴えたかったのだ。人間、口に出して伝える事って大事だね!言わなくても心を読んでくれるラヴィ様みたいなパターンもあるけど。


ヤ「ルールは、寸止めルールでいいですか?」


弥生が勝手に進めるが、ルール有なら俺でも何とかなるか?寸止めルールは、クリティカル判定になる場所に先に武器を突きつけたら勝ちだ。スポーツなら実際に当てたら反則負けだが、今回はそこまで厳密にはしない事となった。

ワルキューレと反対側に弥生が移動し、アヌビスは空中から不正が無いか見張る。


黒「それでよかろう。いざ尋常に勝負!」


俺は刀を構えると、黒騎士の動きを見た。素早さは俺の方が高いため、じっくり見れば俺に有利なはずだ。


黒「うぉりゃー!」


黒騎士が大剣を振ると、斬撃が飛んできた。俺はなんとか避けると、文句を言った。


レ「おいっ!?魔法は禁止じゃなかったのか!」

黒「何をおかしなことを言う。これは剣術であるぞ。」


俺はワルキューレを見る。


ワ「うむ。これは剣術スキルであって魔法ではない。よって有効な攻撃方法だ!」


ワルキューレは公平に審判をしている。俺に有利にする気が無いのか?


レ「ちなみに、俺がこの決闘で負けたらどうなる?」

黒「当然、首をもらう。」


何を当たり前のことをというニュアンスで言われたが、当然じゃないだろ!ここでも口で伝えなかったことの弊害が出ている。武人の常識は一般人の非常識なんだよ!


黒「そういうわけだ、くらえ!」


黒騎士は2回、3回と斬撃を飛ばしてくる。俺は何とか斬撃をかわす。


レ「そっちがそのつもりなら、俺にも考えがある。これでも食らえ!」


俺は20体のペプシを作り出すと、黒騎士に向かわせる。


黒「なんのこれしき。」


黒騎士が地面に剣を突き立てると、剣の壁が地面から生えてきた。3体のペプシが剣の壁に当たり、消えた。それを見て、他のペプシの行動が止まる。俺はペプシのダメージ量を見て、剣術スキルのステータスアップ分が考えから抜けていた事に思い至った。


レ「ちょっと待ってくれ。」


俺は手帳を取り出し、黒騎士のステータスを書くと、スキル補正を書き込む。あれ、実は素早さも負けてるじゃん。


黒「そろそろいいか?」


律義に待ってくれた黒騎士が尋ねてくる。


レ「ああ、サンキュー。もういいぞ。」


俺は手帳をしまい、改めて刀を構えなおす。


黒「それでは、それ、それ、それ!」


黒騎士は斬撃を3つ飛ばしてきたが、俺は分裂体で壁を作って防ぐ。思ったんだけど、飛ぶ斬撃に寸止めって絶対無いよな!俺は砕けた壁の後ろから、ペプシを2体、両手で掴んで黒騎士に向かって投げた。


黒「その程度か!」


黒騎士はあっさりと2体とも斬り伏せる。そのまま黒騎士は俺に向かってくると、喉に突きを入れてくる。


黒「我の勝ちだ!」


黒騎士は勝ち誇るが、それは俺そっくりのユウだ! 俺は消えたユウの後ろから刀を突き出して黒騎士の喉に突きつける。きちんと寸止めしたぞ!


黒「ぬぅ、認めん!認めぬぞ!分身とは卑怯なり!」


黒騎士は決闘を無視して俺に向かって大剣を振り下ろしてくる。


ワ「見苦しいぞ。」

ワルキューレは横から槍で黒騎士に攻撃する。

ワルキューレは黒騎士のコアを拾うと、俺に投げ渡す。


ワ「ほら、零殿の戦利品だ。」

レ「いいのか?」

ワ「うむ。勝負はお主の勝ちだ。勝つと信じていたぞ!」

ヤ「私も、源さんが勝つと信じてました!」

ア「我もじゃ!さすが我の主じゃ。」


みんなが褒めてくるので、照れ隠しにコホンと咳をする。


レ「じゃあ、この調子で攻略を続けるか!」

ヤ・ア「おー!」


その後、黒騎士も出てきたが、おかしな提案をしてくることも無く、アヌビスが魔法で倒した。


5階のエレベーターが見えてきた。


レ「エレベーターが見えてきたな。」

ヤ「じゃあ、そろそろですかね?」


俺達は経験として、そろそろ何か出てくる気がしていた。


ネ「ヒヒッ、お前たちか?私の邪魔をしているのは。」


予想通り、新しい敵が出た。人間の頭蓋骨の様なものがついた杖をもって、ボロボロの布を頭からかぶって目だけ見えるように穴をあけた様な見た目だ。声からして女だと思うが、小さいな。老婆か?弥生にステータスを鑑定してもらうが、鑑定できなかったようだ。鑑定できないなんて初めてじゃないか?


ア「なんじゃ、おぬしは。」


アヌビスは警戒して杖を構える。

ネ「私はネクロマンサーさ。せっかく魔界から持ち込んだ感染ゾンビを倒すわ、マミーを倒すわ、知能を改善した黒騎士を倒すわ。私に何か恨みでもあるのかね?」


この階に来てからの問題は、全部こいつのせいらしい。


レ「そう言われると、恨みしかないが。」


こいつのせいで、感染して死にかけるわ、一騎打ちさせられるわ、臭い思いをするわで一つもいい事は無い。


ア「敵だという事は分かったのじゃ、闇魔法!」


アヌビスは闇の球をぶつける。魔法無効、ネクロマンサーに0ダメージ。


ワ「むっ、まさかその衣は「死者の衣」か?」

レ「なんだ、その死んだ人が着る服みたいなやつは。」

ネ「失礼な!私は死んでなぞいない!」


ネクロマンサーは何がそんなに腹が立つのか、わめいているが無視する。


ワ「魔界でもリッチと呼ばれる高位のアンデットが持っていた物だ。どこに行ったかと思えば、お前が持っていたのか。」


ワルキューレはそういうと、槍を突き出す。物理無効、ネクロマンサーに0ダメージ。


ワ「ばかな!まさかその杖は「死者の杖」か!」

レ「なんだ、その死んだ人が持ってた杖みたいなやつは。」

ネ「お前、ばかにするのも大概にしろ!」


とうとう我慢できなくなったのか、ネクロマンサーは俺を杖で叩いた。零に0ダメージ。


レ「えっ、思ったより弱い?」


ワルキューレはこのやり取りの間に死者の杖の説明をしてくれる。


ワ「魔界でもデミリッチと呼ばれるリッチの中でも最強のリッチが持っていた物だ。どこに行ったかと思えば、お前が持っていたのか。」


デジャブみたいなやり取りだな。じゃあ、このネクロマンサーって物理攻撃は効かないし、魔法攻撃も効かないとか無敵じゃね?


ヤ「魔法が効かないから、鑑定も効かなかったんですね。どうします?逃げますか?」

弥生が言う事も一理ある。パワーアップしたワルキューレの攻撃すら効かないやつと戦ってられるか。


ネ「逃がすわけが無いだろう?ネクロマンシー。」


ネクロマンサーの周りに黒い穴の様なものができると、その中からゾンビやマミーがうじゃうじゃと湧いてきた。

ワルキューレは、手を出すかどうか迷っているようだ。ネクロマンサー本体はともかく、ネクロマンシーされたモンスターは通常の敵扱いらしい。


ネ「さあ、お前たち、あいつらをやっつけろ!」


ゾンビとマミーが襲ってくるが、俺も弥生も素早さが高くなっているため、余裕で対処する。俺に関しては攻撃が当たってもクリティカルじゃない限りはダメージ0だな。

俺達がゾンビ達を対処していると、何か動きがあったようだ。


ネ「や、やめろぉ!返せぇ!」


見ると、アヌビスが死者の衣をひっぱって脱がせ、空中に逃げている。衣を脱がされた姿は、ツインテールの小学生にしか見えない。黒いパンクみたいな格好だ。老婆じゃなくて幼女か。


レ「そうか、攻撃は効かなくても脱がせることは可能なのか。弥生、鑑定を。」

ヤ「はい!鑑定!」


ネクロマンサー(悪魔)


ネ「返せ、返せ!」


ネクロマンサーはジャンプして取り返そうとするが、届かない。

ネクロマンシーしたゾンビやマミーは倒され、衣が無くなったため、ワルキューレに影の牢獄に入れられる。


レ「お前、何そのHP極振りみたいなステータスは。」

ネ「死にたくないんだもん。」


防御力を上げても、魔法で攻撃されるとダメージを受けるし、魔力を上げても物理で攻撃されるとダメージを受ける。じゃあ、両方に対応するためにHPを上げようという発想らしい。


ネ「魔界のどさくさでリッチ師匠達がやられて、師匠達が持っていた杖と衣を手に入れる事ができた。これで無敵だと思ったのに・・。」


今は、杖も衣もワルキューレが没収し、アイテムボックスに入れられているので、ネクロマンサーのステータスじゃゴブリンくらいしか倒せないな。


レ「どうするんだ?もう無害に近いこの少女は。」

ヤ「あー、親戚の姪っ子みたいです~。」


弥生は牢屋の隙間から手を入れると、頭を撫でている。


ネ「触るな!」


ネクロマンサーは手を振り払った。弥生に0ダメージ。


ワ「悪魔は漏れなく殲滅だな。とりあえず、ラヴィ様に突き出すか。」

ネ「くっ、転移!」


ネクロマンサーは転移を使うが、転移の魔法陣が完成する前に、ワルキューレが魔法陣を槍で壊した。


ワ「転移させるわけが無いだろう。弥生、縛ってくれ。」


物理的につながってしまえば、仮に転移したとしても、接触先も一緒に転移されるらしい。弥生は分裂体をロープ状にすると、ネクロマンサーを縛り、端をワルキューレに渡した。


ヤ「それじゃあ、5階クリアです!」


俺達は、エレベーターで帰る事にした。すでに夜の7時になっていたらしい。思ったより長く戦っていたようだ。結構集まったコアを使ってステータスを上げておくか。


俺達はフロントに向かうと、受付はメィルだった。まあ、もう夜の7時だしな。


メ「お帰りなさいませ、ワルキューレ様。おかえり、お兄ちゃん、お姉ちゃん達!」


メィルはうれしそうにほほ笑んでいる。


ワ「ラヴィ様に連絡を取れそうか?」

メ「少々お待ちください!」


メィルは、奥にひっこむと、連絡を取りに行ったようだ。しばらくして、メィルが戻ってくる。


メ「今は手が離せないそうで、用件は明日にして欲しいそうです。」

ワ「緊急と言えば緊急だが、逃がさなければ大丈夫だろう。このままホテルへ連れていくか。」

メ「そちらは誰ですか?」


メィルはネクロマンサーを見る。ネクロマンサーは目をそらす。


レ「ダンジョンで捕まえた悪魔で、名前はネクロマンサーだ。」

メ「えぇっ、悪魔!」


メィルはびっくりして戦闘態勢に入る。


ヤ「悪魔と言っても、ゴブリン並みに弱いですよ。」

ネ「くぅ、せめて杖と衣があれば・・。」


ワルキューレは引きずるようにホテルへ連れていく。メィルは、「明日、朝一で連絡を取ってみます!」と言って帰っていった。


ビジネスホテルに着くと、ケルベロちゃんにも報告する。


ケ「これが問題の悪魔ですかワン?」


ケルベロちゃんは攻撃にならない程度にネクロマンサーのほっぺたを突っつく。


ネ「触るな!」


弥生の時のように指を振り払おうとしたが、触れる前にサッと指を引かれたため空振りした。当たってたらネクロマンサーの方が死んでたりしてな。


ケ「あたちに任せてもらっていいかワン?」

ワ「はい!ご自由にどうぞ!」


まあ、ケルベロちゃんに逆らえるわけがないので、任せることにした。

俺達は部屋に向かう。


ワ「ケルベロ様に任せれば、万が一にも逃げられることは無くなったな。安心だ。」

レ「追跡スキルを使うのかな?とりあえず、飯にするか。」

ア「我はホットケーキにするのじゃ!」

ヤ「そればっかりだと、いつか健康を害しますよ?」

ア「その時は、再現し直してもらうのじゃ!」


弥生は「はぁ」と嘆息すると、ご自由にと諦めた。フロントに電話すると、ケルベロちゃんが出た。ネクロマンサーの声も聞こえるから、そこに捕まっているのだろう。


レ「ネクロマンサーがいるようだけど、飯の注文しても大丈夫か?」

ケ「あたちの分身が見張っているので、大丈夫ですワン。」


大丈夫なようなので、俺は刺身を。アヌビスはホットケーキを、弥生は牛丼を、ワルキューレは珍しくホットパイを注文した。すぐにケルベロちゃんが現れた、テーブルに料理を並べてくれる。俺は刺身をつまみにビールを飲み、皆もそれぞれおいしくいただいた。皆が帰った後、俺はアヌビスを風呂に入れ、寝る準備をしていると、ドアを叩く音がした。


レ「誰だ?」

ケ「あたちだ!面白いものを見せてやるから、開けろ!」


ドアを開けると、メイド服のネクロマンサーがいた。


レ「どういうことだ?」

ケ「聞いてくれよ!こいつ、他の世界でネクロマンシーに失敗して悪魔に憑依されていた、ただの人間みたいだぞ!」


ネクロマンサーは涙目でメイド服のスカートを握りしめている。


ケ「そういうわけで、悪魔も取り除いたから自由にしていいぞ!じゃあな!」


ケルベロちゃんはそういうと、霧の様に消えていった。本人じゃなくて分身なのか。


ネ「ご、ご迷惑をお掛けしました。私の名前はイルナと言います。」


俺は、「ちょっと待っていろ。」と伝え、着替えて戻ってきた。そして、弥生の部屋に行く。


レ「弥生、起きているか?」

ヤ「起きていますよ?入りますか?あっ、着替えるのでちょっとまっててください。」

レ「じゃあ、先にワルキューレも呼んでくるよ。」


俺はワルキューレの部屋をノックすると、ワルキューレは普通に起きていたのか、ネグリジェじゃなくて普通の鎧姿だった。


ワ「どうしたのだ? ネクロマンサーを連れて。ケルベロ様は?」


ワルキューレは矢継ぎ早に質問してくるが、それをまとめて弥生の部屋で説明をすると伝えると、弥生の部屋に向かった。と言っても隣だが。


レ「もう入ってもいいか?」

ヤ「はい、大丈夫ですよ!」


俺達は弥生の部屋に入ると、先ほどの話をした。すると、弥生は鑑定し直した。


イルナ(人間)


ヤ「あ、本当に悪魔から人間になってますよ!ただ、スキルもいろいろ減っていますが。」

イ「・・・憑依中は、対象のスキルを使えるようになるから・・。」


悪魔の場合は、魂じゃないのでほぼ肉体を乗っ取られているような状態だったようだ。性格は本人の影響が大きいらしく、そのおかげでHP極振り状態だ。


レ「ケルベロちゃんからは好きにしていいって言われたけど、どうする?」

ワ「悪魔じゃなかったのなら、私はどうもこうもしない。」

ヤ「じゃあ、私の部屋で一緒に暮らします!」

イ「・・・いいの?」

ヤ「姪っ子だと思えば、全然大丈夫です!」


こうして、イルナは弥生と一緒に暮らすことになった。俺とアヌビスは、部屋に戻ると、アヌビスはすでに半分寝ているような状態だったので、寝かせた。俺はこれから事について考えながら、横になっていたら、いつの間にか寝てしまっていたようだ。


閑話 ケルベロVSルバート


ケ「さて、こいつをどうしようかな?」


あたちはステータスを鑑定する。


ネクロマンサー(悪魔)


雑魚だな。悪魔にしては弱すぎる。これだけ弱いなら、縛っておく必要は無いな。


ケ「ロープは外してやる。それで、お前はどういう悪魔だ?」


悪魔は大抵強い。上級魔族なら女神Ⅰ~中級神並み、中級魔族なら女神Ⅲ~女神Ⅱ並み、下級魔族なら女神Ⅴ~女神Ⅳ並みだ。一番ランクの低い下級魔族だったデーモンですら、普通にランクⅤだったワルキューレより強い。

まあ、悪魔は悪魔でも、魔王の部下である自称悪魔とか言う低級妖魔とかもいるから一概には言えないが。

鑑定を持っていないワルキューレには分からなかっただろうが、あいつが最初にダンジョンで倒したのは、自称悪魔の方だ。本物の悪魔だったらワルキューレの方がやられている。で、だ。こいつも自称悪魔の方か?


ネ「私は、ネクロマンサーだ。」


ネクロマンサーは、ネクロマンシーを使うと、ゴーストを召喚した。


ケ「ああ、こいつを召喚したのはお前だったのか。」


あたちはゴーストが透過する前に素早く殴り飛ばす。ゴーストはコアを残して消滅した。


ネ「ばかな!私のとっておきが一発でやられただと!」


あたちは、この程度なら大した情報も持っていないなと思い、さっさと処分することにした。


ケ「じゃあな、弱っちぃ悪魔さんよ。」


あたちはネクロマンサーの腹を殴った。おや?コアにならないな。


ケ「あたちの攻撃を、耐えただと?」


あたちはネクロマンサーから距離を取る。ネクロマンサーから煙が立ち上ると、黒い蝙蝠の様な羽の悪魔が現れた。できる女スパイの様な格好だ。


天「あーあ、せっかく潜入に成功したと思ったのに、ばれちゃった。」


悪魔は大して残念そうな感じではなく、首をゴキリと鳴らした。


ケ「もう一度聞く。お前は誰だ?」

天「あら、相手に名前を聞くときは、自分から名乗れって言われなかった?」


悪魔はクフフと口に手を当てて笑っている。


ケ「・・・あたちはケルベロ、女神ランクⅢの女神だ。お前は?」


あたちの攻撃で死んでないって事は恐らく下級魔族では無いはずだ。


天「へぇ、そんな見た目で女神なんだ?私はルバート、天使ルバートよ。」


ルバートの名前は聞いたことがある。かつて、女神ランクⅢだった天使だ。


ケ「あ?堕天使の間違いだろ?」

天「言ってはならないことを言ったわね・・、殺すわ!」


ルバートは、異様に長い腕をあたちに突き刺す。ケルベロに0ダメージ。


天「なんで?攻撃が通らない!?女神ランクⅢって言うのは嘘なの?!」

あたちも不思議に思ってルバートを鑑定した。


天使ルバート(悪魔)


ラ「女神ランクⅢの中でも下の方だな。スキルも少ないようだな?」


あたちはニヤリとしてルバートを見ると、ルバートは冷や汗を流して苦笑いをしている。ルバートは鑑定をもっていないため、鑑定されたことに気づかないようだ。


天「な、なんの事かしら?」

ラ「昔と今は違うって事だよ!」


あたちは一瞬でルバートの背後に回ると、首を蹴り飛ばした。ルバートは吹き飛んでいく。吹き飛んだ先で、気絶していたネクロマンサーを抱き寄せて盾にする。


天「て、転移!転移よ!」

ケ「させるわけ無いだろ?」


あたちは一瞬でルバートの横に移動すると、横腹を蹴った。吹き飛ばされたルバートは、霧の様に消えた。


ケ「ん?追跡スキルの対象がネクロマンサーになってやがる。」


さっきクリティカルの時に自動的についた追跡スキルだ。ルバートが消えた今、意味は無いと思うが、念のために残しておくか。


ケ「おい、起きろ。」


あたちはネクロマンサーを攻撃にならない程度にゆする。


ネ「うっ・・うん?」

ケ「自分の状態は分かるか?」

ネ「・・・はい、悪魔に憑依されていたようですね。私はイルナと言います。ネクロマンサーとして、実力を示そうと無理にネクロマンシーを使いました。すると、見たことも無い悪魔が現れて、憑依されて・・。そこから意識は薄くなりましたが、ゴースト達を召喚して自分の星をめちゃくちゃにしたのは覚えています。最終的には、ゴーストは倒されたようですが、その時点で転移したので、詳細は分かりません。こちらの世界に来る前は魔界に居ました。魔界では、悪魔の憑依の影響が薄まりましたが、その代わり、リッチ達に見張られながら育てられました。あとは、ここにきて、ゾンビを仕込んだり、マミーを召喚したりしましたが、目的は分かりません。」

ケ「そうか。だったら、しばらくあいつらと行動してみてくれ。」


あたちはネクロマンサー、ああ、今はイルナか。イルナから話を聞くと、ボロボロになった服の代わりにメイド服を渡した。あたちは、大した問題が無かった事にしようと、弱い分身でも倒せたという様に振舞い、あいつらにイルナを任せることにした。



閑話 魔界


ラ「また、悪魔が現れたようです。ワルキューレが何とか対処したようですが、もしメデューサ並みの悪魔がまた現れた場合、対処できない可能性があります。」

は「うーむ、こちらも黒いコアの解析が思ったより進んでおらんしのぅ。魔界の様子はどうじゃ?」

ラ「メデューサを倒してからは、目立った動きは何もありませんが、嫌な感じはします。」

は「よろしい、引き続き調査を頼む。」

ラ「かしこまりました。」


私は、魔界に分身を送る。戦闘力は私の1000分の1ほど。仮にメデューサ並みの悪魔が復活していたとしても対処できるだろう。ここからは、分身の視点である。


私は、魔王城の近くの村に着いた。勇者との戦闘の為、生き残りの魔族は居ないはずだ。しかし、魔族未満の雑魚悪魔はまだ生き残っている。誰かの眷属だったのだろうか、目玉に翼が生えた様な悪魔と、一つ目の蛇が話をしている。私はウサミミをしっかりとそちらに向けて聞き逃さないようにした。目玉に翼が生えた方は目玉、一つ目の蛇の方は蛇と呼ぶことにする。


目玉「おい、知っているか?魔族様が殲滅されたらしいぞ。」

蛇「知ってるも何もつい最近の話で、知らない奴なんて居ないだろ?」

目玉「それもそうか。じゃあ、これはどうだ?実は、魔王様が生きているらしいぞ。」

蛇「何!それは初耳だ。だが、勇者に倒されたと聞いたぞ?」

目玉「それなんだが、魔王様と勇者が相打ちになったとき、その後どうなったか誰も見ていないのだ。」

蛇「え?勇者が元の世界に帰ったって聞いたから、てっきり魔王様が負けたのかと思ったんだが。」

目玉「それが、勇者は魔王様の核を壊さずに帰ったらしいぞ。魔王様の核が壊されたら、眷属たちも消滅するが、四天王様も消滅していないらしいからな。」

蛇「へー、それは初めて知ったな。じゃあ、魔王様は復活するのか?」

目玉「いや、その核が見つからないって四天王様もおっしゃっていた。もしかしたら、古の悪魔である・・・が復活されたのかもしれないな。」

蛇「え? 誰だって?」

目玉「ばか、名前を言うとそれだけで影響がでるんだってよ。何にかはしらないけど。とりあえず、魔王様よりヤバいってことだけは確かだ。」

蛇「じゃあ、この話は終わりだな、飯でも食いに行くか?」

ラ「いいえ、その話、詳しく聞かせてもらえないかしら?」


私は、ウサギの魔物に変身すると、会話に混ざることにした。


目玉「お前誰だ? 見ない顔だな。」

ラ「最近生まれたの。魔王様の部下の・・・誰だったかしら?」

蛇「お前、自分の作り主も知らないのかよ。もしかして、勇者に倒されたとかか?」

ラ「そうかもしれないわ、気づいたら誰も居なかったもの。」

目玉「それなら仕方ないな。で、何の話を聞きたいんだ?」


目玉は噂話が好きなのか、誰かにしゃべれるのが嬉しそうだ。口は無いけれど、どこでしゃべっているのかしら?


ラ「古の悪魔というのは何かしら?」

目玉「ちょ、聞いていたのかよ!?」


目玉はキョロキョロと周りを確認するが、誰も居ないことに安心する。


ラ「見ての通り、耳が長いから、たまたま聞こえたのよ。」

蛇「確かに、耳は良さそうだな!ついでだから、俺にも詳しく教えてくれよ、俺も気になる。」

目玉「ちっ、仕方ないな。絶対俺が話したって言うなよ?」


目玉は少し小声になって話す。


蛇「絶対誰にも言わないって。」

ラ「私も誰にもしゃべらないわ。」

目玉「よしよし、じゃあ話すぞ?俺も見たわけじゃないから、正確かどうかは知らないが。昔、魔王様よりもさらに強大な王が何人も居たらしいのだ。当時の最高神とやらに反旗をひるがえしたらしくてな?何人か封印されたらしい。そのうちの一人が復活なされたらしいぞ。」

蛇「さっき名前を伏せたやつか?誰なんだ?」

目玉「それはな・・・ベっ。」


そこまで言うと、目玉は石化した。


蛇「な、名前を言おうとしただけで石化した・・・ひぃぃ。」


蛇はそれを見て逃げ出してしまった。あぁ、貴重な情報源が居なくなってしまったわ。


ラ「魔王の核が見当たらない事と、四天王の対処について、早急に行動する必要がありそうね。」


ロ「あらあら、いけない子達ね。」


声のした方を見ると、綺麗な女性が空中に浮かんでいた。左手には、さっきの蛇の悪魔が握られている。


蛇「た、助けてくれ!」


蛇は助けを求めるが、私が接近に気づかないほどの敵だ、助ける義理も無いが助け

られると思えない。


ラ「あ、あなたは誰?」

ロ「私?私はロキエルって言うのだけれど、知らないかしら?」


私は背筋がゾワリとした。ロキエルと言えば、中級魔族だ。メデューサなんてこの悪魔から比べれば雑魚だ。私は逃げるタイミングを計るように、後ずさりする。


ロ「そんなにおびえなくてもいいわよ?それで、何の話をしていたのかしら?」

蛇「俺達は単に魔王様の話をしていただけだ!それ以外しらねぇ!」

ロ「あなたもそうなのかしら?」

ラ「そうよ、それ以外何も話していないわ。」

ロ「変ねぇ、じゃあ、それは何かしら?」


ロキエルが指さした方を見ると、石化した目玉がある。


蛇「そいつは、なんか古の悪魔の名前を言おうとしたら勝手に石化したんだ!俺は何もしていない!」


蛇はビタンビタンとシッポを振る。


ロ「そう、じゃあ、さようならかしら?」


ロキエルはそういうと、蛇の頭を砕いた。


ロ「かわいらしいあなたも、さよならね?」


ロキエルは、私を蹴り飛ばした。


ロ「あら?おかしいわね、下級魔族並みの防御力があったわ。鑑定しておけばよかったわね。」


ロキエルは少し首をかしげたが、まあいいかと石化した目玉を踏み抜くと、転移していった。


ラ「まさか、中級魔族まで現れるなんて・・・。」


分身が倒されたことにより、情報が私に伝わる。魔神と呼ばれたカイザーも、実は中級魔族で、女神ランクⅢ程度のステータスだった。だが、ロキエルはその10倍は強い、女神ランクⅡ並みだ。

私本体が行けばロキエルには勝てるけど、敵がロキエルだけとは限らない。もし、それ以上の悪魔がいたら・・・。私ははじまる様に報告しに行った。


ラ「はじまる様、報告が。」

は「おお、ちょっと待っておれ。それじゃあ、後は頼んだぞ。」


はじまる様は、黒い球を上級神に渡す。


は「それで、どうじゃった?」

ラ「中級魔族も復活しておりました。また、カイザーの核も見つかって無いようです。」

は「ふむ、黒いコアに誰が捕まっているのか、早々に確認する必要が出てきたのぅ。ラヴィよ、引き続き調査を頼むぞ。」

ラ「はい、分かりました。」


私は、再び分身を作ると、魔界の調査に向かわせた。

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