第8話 ダンジョン攻略8日目
アラームが鳴る。もう朝か。今日はアヌビスの方が起きるのが遅く、昨日みたいな事にはならなかった。毎日トラブルがあっても困るけどな!今日はダンジョンの5階を攻略しようと思う。いつも通りの時間に弥生とワルキューレが来たので、アヌビスを起こした。
ア「なんじゃ?我は今日は眠い、ぐーっ。」
レ「寝るな!朝飯だぞ。」
アヌビスをグリグリして起こすと、「ふぁーっ」とあくびをして服を脱ぎだした。ちなみに、子供用のパジャマを着せてある。
ヤ「男の人の前で着替えないでください!」
弥生はアヌビスの手を掴むと、奥の部屋へ連れて行った。
ワ「相変わらず騒がしいな。」
ワルキューレも眠いのか、目をつぶって壁に寄りかかっている。
ワ「これは瞑想だ。」
だそうです。しばらく待つと、アヌビスと弥生が戻ってきた。俺達は朝食を食べることにした。
面倒だったわけではないが、全員ホットケーキにした。アヌビスが昨日食べて気に入ったので、また食べたいと言ったからだ。俺も特に反対しなかったら、じゃあ全員それでいいやって感じだ。ケルベロちゃんがすぐに現れると、テーブルに並べてくれた。アヌビスにはハチミツをたっぷりかけてやる。弥生はバターだけでいいようだ。ワルキューレは牛乳と生クリームか。白が好きにもほどがあるだろ。俺はそのままでいいや。
ケルベロちゃんに挨拶をして、ダンジョンに向かう。インターフォンを押すと、ラヴィ様が出た。今日は普通に居るらしい。今日は5階に行くことを告げ、エレベーターに向かった。4階のエレベーターの横から5階に着くと、変な臭いがする。
ヤ「くさいです・・、とっても。」
弥生は鼻をつまんで鼻声だ。
ア「ふむ、ピラミッドのミイラのにおいもするの?」
そう言われると、包帯の臭いもかすかにする気がするが、くさった臭いが強い。
ワルキューレは気持ちが悪そうな顔をして鼻をつまんでいる。この階はトラップ類が無いのか、今のところ見つかっていない。臭いからして敵の想像はつくが、正直遭いたくない。
ゾ「あああああーーー」
曲がり角から急に腐った死体が飛び出してきた。VRゲームの再来かよ!俺達は一旦回避して距離を取る。そして、弥生に鑑定してもらう。
ゾンビ(不死):感染
レ「HPがめっちゃ多いうえにHP自動回復持ちかよ・・。そもそも触りたくないし。」
ヤ「私も触りたくないので、遠距離攻撃します!」
弥生は手裏剣を投げる。手裏剣は、ゾンビの眉間に当たったが、やはり人間と違うのか、クリティカルにならないようだ。そこはリアルにしてほしくないな。あと、衝撃波が発生して汁が飛び散るので、今後は衝撃波は無しの方向でお願いしたい。
ア「我に任せるのじゃ!闇の球!」
アヌビスはゾンビに闇魔法をぶつける。さすが魔力0のゾンビには大ダメージだ。しかし、まだまだHPがあるな・・。俺もゾンビの手をスラタン刀で切る。弥生が残
りHPを見ようと鑑定する。
ゾンビ(不死):HP2662/3100
ヤ「ダメです、回復してほとんどHPが減ってません!」
レ「ワルキューレ、何か手は無いのか?」
俺は明らかに近寄らない様にしているワルキューレに聞く。
ワ「4階の敵よりも素早さは低いようだ。攻撃を当て続けるしかないだろう?」
普通の回答しか得られなかった。有効属性とか、特効武器とか、そういうのが知りたかったんだけど。
ワ「それより、臭いがきつい。それに気になる事がある。私は一旦帰るぞ。」
そう言うが早いか、鼻をつまんだまま鼻声で転移と唱えると、帰っていった。
レ「役にたたねぇ!もともと手伝う気は無さそうだったけど、せめて近くにいろよ!」
俺は悪態をつくと、ゾンビの方を見る。ゾンビは、弥生に向かって噛みつこうとしたが、弥生は倍以上のステータス差でやすやすと回避している。アヌビスも、臭いがきついのか、最初の勢いがなくなり、涙目になって距離を取っている。ゾンビは俺の方に来ると、抱きついてきた。
レ「くそ、このまま抑えているから、攻撃してくれ!」
俺は嫌だけどゾンビの両腕を掴むと、逃げないように拘束した。
ヤ「分かりました!えいっ!」
弥生は投擲武器操作で8つの手裏剣をゾンビの背中に当てた。
レ「もう少しだ!アヌビス、とどめを!」
ア「分かったのじゃ!」
アヌビスが闇魔法を唱え、闇の球を作り出す。しかし、発射する前にゾンビが行動した。ゾンビが俺の首筋に噛みついた。零に0ダメージ。だてに防御力を上げていたわけじゃなく、こういう状況も想定していたんだ!と言えたらいいが、たまたまだ。ゾンビが密着しすぎているため、アヌビスは闇の球をぶつけれないでいた。指先にでも俺に当たったら俺が死ぬ。蘇生出来るやつが今は居ないから勘弁してほしいな。
ヤ「大丈夫ですか!?」
ゾンビはさらにはむはむと俺の首筋に歯を立てる。零に0ダメージ。俺はゾンビの右腕を左手で下に引っ張ると、首にスラタン刀を振り下ろした。態勢を崩したゾンビが転がった。首が弱点のようだ。
レ「アヌビス、今だ!」
アヌビスは待ってましたと闇の球を発射する。転がったゾンビの顔面に闇の球が当たる。ぐずぐずしている間にまた回復したのか、ゾンビは死んでいない。いや、死んでいるけど倒せてないというべきか?まあいいや。
レ「弥生、首が弱点だ!」
弥生は出来る限り呼吸をしない様に、口に空気を貯めたままこくりと頷き、クナイを首に投げた。ゾンビはコアになった。
レ「やっと倒したか。」
俺はため息をつくと、床に座った。
ヤ「ゾンビを倒したら、少し臭いが収まった気がします!」
ア「我は人より嗅覚が優れておるのか、まだ臭うのじゃ。」
弥生はクナイと手裏剣を回収すると、アイテムボックスにしまった。
レ「それにしてもHPの多い敵だったな。」
ヤ「弱点も首だけみたいですし、当て続けるのは辛いですね。さっきみたいに源さんに抑えてもらえれば当てれますけど。」
弥生はそういうが、俺はゾンビを掴んでいた手の臭いをかぐと、吐きそうになった。
レ「いやだ、もうゾンビに触りたくない。」
俺は分裂体を作り出すと、弥生の変化でハンカチにしてもらってゾンビ汁をぬぐった。
それからしばらく歩いたが、新たなゾンビは現れない。
レ「思ったより敵が出ないな?パニック映画みたいにぞろぞろ出てくるかと思ったが。」
ヤ「ぞろぞろ出てこられても対処できませんけどね。2体以上でたら1体は押さえてて下さいね?」
レ「・・・。善処しよう。」
する気はないけどな。もし出てきたらペプシでも作って捕まえさせるか。ところで、アヌビスが静かだな。アヌビスを見ると、くさそうに鼻を両手で覆っている。
ア「だんだんと臭いがきつくなってきているのじゃ。」
ヤ「ゾンビがまた近くにいるんですかね?」
俺達は一旦立ち止まると、廊下の角を覗いて確かめた。T字路になっていたが、両方に敵の姿は見えない。
レ「敵の姿はないようだぞ?」
アヌビスは鼻から手をどけ、臭いをかいでいる。すると、俺の方に向かって指さしてきた。
ア「おぬしがくさいみたいじゃ。」
失敬な、さっきゾンビ汁はぬぐったぞ。
ヤ「うっ、源さん・・、くさいです。」
レ「弥生まで・・。帰って風呂に入るか?」
ヤ「そうですね、一旦帰りましょうか。」
弥生はくるりと後ろを向くと、来た道を帰る。アヌビスもそれに続く。そして、俺は後姿の弥生をみてごくりとつばを飲み込んだ。弥生のお尻がうまそうだ。
ヤ「どうかしましたか?」
視線に気づいたのか、弥生が後ろを振り向く。
レ「いや、何でもない。早く帰ろうか。」
俺がそう言うと、再び弥生を先頭に帰る。後ろから見る弥生のうなじがうまそうだ。じゅるり。
ア「なんじゃおぬし、よだれなぞ垂らして。」
アヌビスはよだれをすする音が気になったのか、俺にそう注意してくる。俺はそででよだれをぬぐうと、弥生に近づいた。俺は弥生の肩に手を置くと、首に噛みつこうとした。しかし、一瞬早くアヌビスの蹴りが俺の顔に刺さる。零に0ダメージ。
レ「何をするんだ、アヌビス!」
ア「それはこちらのセリフじゃ!弥生に何をしようとしたのじゃ?!」
弥生もさすがに不審に思ったのか、俺を鑑定した。
ヤ「えっと、源さん、感染してますね・・。」
それを聞いて俺は愕然とした。正直、実感が無かったからだ。確かに、弥生の事をうまそうだと思ったが、ごく自然にそう思ったのだ。
レ「まさか、感染してるとは・・。ダメージを受けていないから気にしていなかったんだが。」
ヤ「鑑定で感染があったのは知っていましたが、ゾンビが感染しているものだとばかり・・。」
弥生とアヌビスが俺から距離を取る。
ア「治す手段は誰が知っているのじゃ?」
ヤ「ワルキューレ様は見ていると思うのに来ないし、ラヴィ様は知っていそうですけどこの状態でダンジョンから出していいのかどうか・・。」
レ「メィルは居るか?」
そう言うと、メィルは転移で現れた。今日は透明化ではなく、千里眼の方だったか。
メ「呼びましたか?うっ、くさいです。何ですかこの臭いは!?」
メィルは鼻をつまむと、おえーっとえづく。
レ「いただきます。」
俺はその隙にメィルの肩を掴むと、首に噛みついた。
メ「何するの、お兄ちゃん!? 私はご飯じゃないよ!」
ヤ「メィルちゃん、源さんはゾンビに感染させられたんです。近づかない方がいいですよ。」
メ「言うの遅いよ、お姉ちゃん!?」
弥生はメィルを鑑定すると、メィルにも状態異常:感染となっていた。
ヤ「あーっ、メィルちゃんにも感染しちゃった。手に負えなくなるから、アヌビスちゃん、やっちゃう?」
メ「感染って何のこと!?アヌビス、闇の球を準備しないで!」
仮にメィルが俺と同じように食欲を抑えられなくなったら、この場の誰も止められないだろう。女神は死ぬわけじゃないので、一旦倒すのは処置としては正しいと思う。ケルベロスの時の八つ当たりではないと信じたい。
俺はもう食欲を抑えられなくなってきた、じりじりと弥生に近づくが、素早さは弥生が上なので永久に追いつけないだろう。アヌビスは食うところが無さそうだから余り食欲がわかないが、今より飢餓感(きがかん)が増したらどうなるか分からない。メィルもだんだんと目がすわってきて弥生を見つめている。弥生よりメィルの方が素早さは高いため、そろそろどうするか決めないと危険だ。
メ「お姉ちゃん、ちょっと食べさせて?」
メィルはふらふらと弥生に向かって飛んでいく。
ヤ「嫌ですよ!食べられるのも嫌ですし、感染するのも嫌です!」
メ「いいじゃん、おっぱい2個あるし、一つくらいくれても。」
ヤ「そういう問題じゃありません!」
弥生は胸を隠しながらじりじりと後退していたが、俺とメィルに囲まれて、とうとう壁に背中を付ける。
ワ「何をしているのだ、お前たちは。」
ヤ「ワルキューレさん!源さんとメィルちゃんが!」
ワ「千里眼で見ていた。本来、ゾンビに感染なんてスキルは無いし、ゾンビ自体もこのダンジョンには居ない。おそらく魔界の者が関わっている可能性がある。私はこの臭いをかいだ時から対応を考え、魔界にワクチンを取りにいっていたのだ。」
ワルキューレはドヤ顔して胸を張る。それならそうと言ってくれればいいのに。
レ「で、どうすればいいんだ?」
ワ「ワクチンを摂取しなければ、感染から1時間後にはゾンビになる。そうなったら、もう2度と治ることは無いだろう。蘇生自体出来なくなるしな。でも、今ならワクチンを飲むだけで治る。」
これがワクチンだと、ワルキューレは試験管をアイテムボックスから取り出す。まるで青汁のようだ。
ヤ「えっ、メィルちゃんはともかく、源さんはもう噛まれてから1時間は過ぎてますよ?」
ワ「なにーっ!?馬鹿な!はっ、そうか!魔界とここの時間の進みが違うせいか!」
ワルキューレはポンッと手を叩くと、原因が分かって安心したのか、うんうんとうなずいた。ただ、解決はしていないぞ。
ア「納得するのは勝手じゃが、こやつはどうするのじゃ?」
ワ「感染を防ぐためには、これ以上広がらない様にするしかない。」
ア「具体的には何をするのじゃ?」
ワ「コアにして封印するか、砕いて消滅させるかだな。」
ワルキューレは槍を取り出すと、俺に向けた。
メ「とりあえず、ワクチンを頂いてよろしいでしょうか?」
メィルは空気を読まず、ワルキューレからワクチンをもらって飲んだ。そうとうまずいのか、おえーっと舌を出している。舌まで緑になっているな。
ワ「では零殿、何か言い残すことはあるか?」
ヤ「ちょっと待ってください!本当に源さんを治す手段はないんですか?!」
弥生は目に涙を浮かべて訴えている。今までみたいにコアになってからの蘇生が使えないんじゃ、どうしようもない。それ以外で何かないものかと考える。
レ「そうだ、俺自身の分身を作ればいい!」
ワ「無理だ。零殿が今、分身体を作ったとしても、その分身体も感染しているだろう。」
ヤ「そんな・・。ここでお別れなんて・・。」
弥生はポロポロと涙をこぼすと、嗚咽をもらしている。
ワ「せめて、恐怖を感じない様に一瞬で葬ってやろう。」
ワルキューレが槍を構え、突きの態勢を取る。俺は目をつぶると、今までの事を走馬灯のように思い出していた。その中で、一瞬ユウの姿が浮かぶ。あれ?ユウなら復元できるんじゃね?
レ「ちょっと待ってくれ!」
俺がそう叫び目を開けると、目の前に槍の先があった。超ぎりぎりですわ。
ワ「なんだ? 言い残す事ができたのか?」
レ「そうじゃなくて、メィル、前に俺の分身体のユウを持っていったのを覚えているか?」
メ「現在、私の側仕えとして働いてもらっているよ!」
レ「何をさせているんだ、お前は。」
ヤ「えーっ、メィルちゃんずるい!私にも貸してください!」
ワ「話を脱線させるな。それで、その分身体がどうかしたのか?」
レ「ユウは、分身体の中でも特別で、俺の知識を全て与えてあるんだ。つまり、ユウを基に俺を復元する!」
成功するかどうかは分からないが、何もしないよりはマシだ。
メ「じゃあ、ユウを連れてくるね!」
メィルは転移すると、すぐにユウを連れてきた。以前のままのユウは、きちんと装備をしていた。
レ「手順はこうだ。ユウのコアを基に俺を復元した後、元のコアを砕いて経験をすべて新しい俺に渡す。スキルはメィルに移してもらう。コアを砕いたときに感染する可能性はあるが。」
ワ「では、感染した場合はすぐにワクチンを飲むように。」
ワルキューレは俺にワクチンの入った試験管を渡してくれた。俺はユウを見る。
レ「悪いな、ユウ。また作ってやるからな。ワルキューレ、すまないがユウを1撃で倒してくれないか?」
ダメージによる痛みは無いはずだが、何度も攻撃する気にはならない。弥生もメィルもユウには攻撃したく無さそうだし。ワルキューレは槍をアイテムボックスにしまうと、手刀でユウを叩いた。
俺はコアになったユウを拾い、俺と全く同じ姿の分身体に復元した。当然裸だったが、弥生は何も言わずに顔を赤くして目を背けるだけで、メィルは相変わらず手で顔を覆って隙間から見ていた。ワルキューレとアヌビスは無反応だ。
レ「じゃあ、メィル、あとは頼んだ。ワルキューレ、やってくれ。」
俺は元の俺からワクチンを受け取る。ワルキューレは元の俺を槍では無く、手刀で倒した。元の俺は紫色に変色したコアになった。
ア「ところで、我はどうなるのじゃ?」
アヌビスは以前にケルベロちゃんから言われたことが気になるようだ。
ワ「このままこのコアを破壊すれば、アヌビスは一旦コアに戻ることになるだろうな。スキル使用者はコアになった方の零殿だからな。」
ヤ「えっ、目をそらしていますけど、大丈夫ですよね?」
ワ「やったことは無いからな・・。メィル、まずはこのコアからスキルを吸い出してくれ。」
メ「分かりました、はい、分裂スキルを取り出しました。そして、こっちのお兄ちゃんに移しますね。」
俺は散らばっている自分の服を着なおして、メィルからスキルをもらう。なんか変な感じだな。クローンみたいなものか?俺が紫色に変色したコアを砕くと、思っていた通り感染したのでワクチンを飲んだ。うげっ、まずすぎる。食ったことは無いが、腐った魚をミキサーですりつぶして飲んだ感じだ。腹壊さないよな?コアが砕かれると、アヌビスもコアに戻った。俺は吐き気を堪えながらそれを前よりも多めのMPで復元してやる。
復元したアヌビスは、8歳くらいの姿になり、ステータスも元の14分の1と、少し強くなっていた。また、闇魔法も1あがり、飛行スキルが戻ったのと、武器、防具の性能が少し良くなっていた。
ア「久しぶりに飛べるのじゃ~」
アヌビスは嬉しそうに飛び回っている。
レ「それじゃあ、ユウも作り直すか。弥生、後ろを向いていてくれ。」
ヤ「今更ですか!そのセリフは、最初から言ってください!」
弥生はむくれて後ろを向く。俺はユウの元々の装備を集めると、ユウを作り出した。
メ「わーい、イケメンゲットです!」
メィルはユウが装備を付けるのと同時に転移でさらっていった。
ヤ「あーっ!メィルちゃんずるい!源さん、もう一人作って下さい!」
レ「いや、もうMP無いし、今は必要ないだろ?」
ヤ「私もイケメンの側仕えが欲しいです!」
レ「じゃあ、また今度な。」
俺は守る気のない約束をして一旦帰ることにした。ワルキューレは、もう感染する事はないと思うが、念のためワクチンを手に入れてくるといって魔界に転移していった。
俺達はエレベーターまであと少しと言うところでモンスターが出た。もう一方の臭いの元だ。
レ「帰還の巻物で帰っていいか?」
俺はもうゾンビだけでお腹がいっぱいなんです。
ア「懐かしいのじゃ。我の星でも見たことがあるのじゃ。」
アヌビスはむしろ作っていた方じゃないか?その間に弥生がステータスを見る。
マミー(不死)
ヤ「回復は無いですけど、攻撃力が高く、防御力も少し高いですね。素早さなんて源さんより高いです!」
ア「ならば、我に任せるのじゃ!真闇(しんあん)!」
あれ?帰らないの?と思っている間に、アヌビスは闇魔法を唱えると、マミーは闇に包まれた。さっき上がった闇魔法か。マミー自体には何も見えないのだろうが、俺達には闇がマミー型に見える。シルエットクイズに使えそうだ。
ア「今じゃ、攻撃するのじゃ!」
弥生は手裏剣を8つアイテムボックスから取り出すと、指の間に挟み同時に投げた。手裏剣はマミー型の闇に次々と突き刺さる。あっという間に倒してしまった。
ヤ「すごいです!不意打ち扱いで全部クリティカルです!」
レ「これは、使えるな。」
俺は指をあごにあて、にやりとした。
レ「弥生、昼から4階で狩りだ!」
丁度お昼になったので、俺達は一旦エレベーターで戻ると、食堂へ向かった。
は「おう、いらっしゃい。今日のおすすめはアジの開きじゃぞ。」
ヤ「じゃあ、私はそれにします!」
ア「我はホットケーキがいいのじゃ!」
レ「そんなものはない、普通にかつ丼でいいだろ。」
俺は適当に注文すると、テーブルに座った。しばらくして、はじまる様から「できたぞ!」と声がかかり、俺達は食事を取りに行く。おすすめと言うだけあって、弥生が幸せそうな顔でアジを食べている。
レ「アヌビス、空中で食うな。無駄にMP使うな。」
アヌビスは飛行できるのが楽しいのか、結構飛んでいる時間が長い。女神と違ってMP自動回復が無いのだから大切に使ってほしい。椅子にきちんと座りなおしたアヌビスを撫でながら、弥生と昼からの行動について打ち合わせをした。
レ・ヤ・ア「ごちそうさまでした!」
は「お粗末様。」
俺達は食器を片付け、はじまる様に礼をしてから再びダンジョンに向かう。4階に着くと、さっそくとりかかる。
レ「それじゃあ、予定通りモンスターを集めるぞ。」
俺はケルベロスを作ると、ホワイトファングを探させる。1匹のケルベロスがホワイトファングを引き連れて戻ってきた。ケルベロスが攻撃されている隙に俺が捕まえる。ステータス的には俺の方が早いし、防御力もホワイトファングの攻撃力より高いため、ダメージも受けないはずだ。捕まえると案の定、遠吠えを使った。すると、コボルトやホワイトファングが集まってくる。
レ「今だ、アヌビス、モンスターの目隠しをしてくれ!」
ア「分かったのじゃ!真暗(しんあん)!」
アヌビスは闇魔法を唱えると、コボルト達が真っ黒になる。
レ「弥生、クナイで倒してくれ。」
ヤ「分かりました、投擲武器操作!」
弥生はクナイを投擲し、シルエット状態のコボルトに当てる。計算通り、コボルトとホワイトファングなら、今の弥生のクリティカルで1撃だ。
レ「よし、一旦ステータスを上げてヘルハウンドも狩るぞ!」
俺達はコボルトとホワイトファングのコアを割ると、ステータスを振った。
ヤ「これでわざわざアイテムボックスに手を入れなくても、空中からクナイを出して即座に投擲できますね!」
レ「帰還の巻物や回復剤も即使えるから、前みたいなことはなくなりそうだな。」
そうしているうちに、ライカンスロープが現れた。
ヤ「ここは私にやらせてください!」
弥生はワーウルフに変化すると、格闘戦を始めた。以前と比べて、弥生の素早さはもうライカンスロープの2倍以上だ。ライカンスロープのナックルを紙一重でかわすと、弥生は爪でライカンスロープの腕を斬る。ライカンスロープは自己再生があるため、時間をかけると倒せない。弥生は相手の足払いをジャンプして頭上を越えてかわし、そのまま背後から爪を刺す。
レ「思ったより時間が掛かるな。」
ア「HPも多いし、回復持ちじゃ仕方がないのじゃ。」
アヌビスと雑談しているうちに、弥生は指輪を鞭にしてライカンスロープの足を掴むと、空中に逆さにして首に回し蹴りをくらわす。ライカンスロープはやけくそ気味に弥生の顔にナックルと突き出すが、弥生はその手を、腕輪を変化させて掴んで投げる。倒れたライカンスロープの上にまたがってマウントを取ると、喉に爪を突き刺す。回復していたのか、止めに至らなかったようだが、弥生は冷静にもう一度左手で喉を突き刺す。ライカンスロープはコアになった。
レ「お疲れさん、弥生!」
俺は片手をあげると、弥生が勢いよくハイタッチしてきた。零に0ダメージ。
レ「あぶなっ!興奮しすぎだ、攻撃判定になってるぞ!」
ヤ「源さんは固いから大丈夫ですよ、さあ、もう一度!」
弥生は何が楽しいのか、俺が手を引っ込めると背中を叩いてきた。零に0ダメージ。クリティカルになったら怖いからやめようぜ?
その後、同じような事をヘルハウンドでも行い、コアを集めた。弥生だけ先に強くした方が効率はいいと思い、全てのコアを弥生に与える。
弥生は変化を解くと、アイテムボックスからタオルと飲み物を取り出して、汗を拭きながらペットボトルの水を飲んだ。
レ「それも取り寄せてもらったのか?」
ヤ「やはり、タオルと水は日本製に限ります!源さんも飲みますか?」
レ「そうだな、俺にもくれ。」
弥生はペットボトルのキャップを閉めると、投げてよこした。
レ「おい、いいのか?」
ヤ「いいですよ。それ1本しか無いですから。」
俺は間接キスだぞと思って言ったのだが、弥生はもらっていいのかと取ったようだ。指摘するのも変な気がするので、ありがたくペットボトルの水を飲む。ふと、視線を感じて横の壁を見ると、首が生えていた。
メ「みぃ~たぁ~なぁ~。」
レ「ブフォッ!?ゴホッゴホッ!」
俺は口に含んでいた水をメィルの顔面に吹きかける事となった。
メ「お兄ちゃん、汚い事しないでよ!お姉ちゃ~ん。」
メィルは弥生に近づくと、タオルで拭いてもらった。
レ「お前がびっくりさせるからだろ!」
メ「なんか、青春の匂いがしたんだよ!ププッ、もう若くないのにね。」
メィルは半目でニヤリとし、口に手を当てると、笑いやがった。俺は照れ隠しにペットボトルをメィルに投げるが、サッとかわされ、メィルの後ろにいたアヌビスがパシッと受け取った。
ア「なんじゃ?我にくれるのか、ごくごく。うむ、うまいのじゃ!」
アヌビスは左手を腰に当て、風呂上がりの牛乳の様に一気飲みした。メィルが「青春のバトン失敗~。」とか言っているが気にしない事にする。気を取り直して、せっかくだからメィルに聞く。
レ「なんか、思っていたよりモンスターが強いんだけど?」
メ「あ、それ私も思ってたんだよ!女神になる試験なのに、見習い女神並みに強い敵が多くないかなって。」
レ「てっきり見習い女神が余裕でクリアできるレベルだと思っていたんだが。」
ヴァ「おやおや、お客様ですかな。」
俺達が話をしていると、ダンディな髭の大男が近づいてきた。弥生はすぐに鑑定をかける。
ヴァンパイア(不死)
ヤ「源さん!おそらくこの階層のヌシです!」
レ「さっきの話じゃないが、もうメィルより強いよな?」
メ「うぅ、私じゃダメージが与えられないみたい。」
ヴァ「まあまあ、落ち着きなさい。さて、座り給え。」
ヴァンパイアはそういうと、血を操ってテーブルとイスを作る。眷属作成でメイド姿のヴァンパイアガールを作り、カップとティーポットを作る。ヴァンパイアガールが優雅に飲み物を入れてくれるが、ヴァンパイアだからか、中身は血みたいだ。ヴァンパイアはそれを美味しそうに飲んで見せるが、俺は絶対に飲まない。
今のところ、攻撃してくる様子は無いが、警戒していると、ヴァンパイアガールが椅子を引いて待機している。
ヴァ「もう一度言う、座り給え。」
今度は殺気を込めた視線を感じたので、しぶしぶ俺達は座ることにした。
メ「私の分のイスが無いんだけど?」
メィルが小首をかしげている。
ヴァ「女神様は忙しいでしょうから、戻られては?」
ヴァンパイアは言外に帰れと殺気を込める。
メ「ぴっ、よ、用事を思い出しちゃった、またね!」
メィルはすぐさま転移していった。それを見届けると、アヌビスが口火を切った。
ア「おぬし、この階層のヌシではないな?」
ヴァ「ほぉ、何故そう思うのです?」
ヤ「攻撃してきませんし、ズルした時にしか現れないからじゃないでしょうか?」
レ「確かに、今までは問答無用で攻撃されたな。」
ヴァ「いいえ?この階層のヌシですよ、元ですが。」
ヴァンパイアはもう一度メイドに飲み物を入れさせて飲んだ。そして、手で俺達もどうぞとすすめてくる。もしかしてうまいのか?弥生を見ると、ジーっとカップを見てどうしようか迷っているようだ。アヌビスは考え無しにカップに口を付けて飲むと、「ブッ、血が入っているのじゃ!」と叫んだ。
ヴァ「お口に合いませんか?それではこちらをどうぞ。」
ヴァンパイアは懐からワインを取り出すと、新しいカップに入れてくれた。ワインと見せかけた血じゃないよな?クンクンと匂いを嗅いでいたアヌビスが、舌ですこしすくって飲む。今度は、「うまいのじゃ!」とゴクゴク飲み始めた。アルコールは良いのか?と思ったが、見た目は8歳でも実年齢は数万年は下らないだろうし、分裂体だから大丈夫だろう。俺も一口飲んでみたが、今まで飲んだことが無いほど芳醇な甘みがあって、確かにうまい。むしろ、なんで最初に血を出したんだ。
レ「で、元ヌシとはどういうことだ?」
ヴァ「私は、悪魔だ。お前たちに言わせると、魔族になるのかな?それで、このモンスターに憑依している。」
ずいぶん貧弱な肉体になったものだと笑っている。そのステータスで貧弱と言うくらいだから、元はどれだけ強かったんだ?と思っていたらアヌビスが聞いてくれた。
ア「元はどのくらいの強さだったのじゃ?」
ヴァ「ふむ。女神の強さに合わせると、ランクⅤくらいだな。お前たちの言い方に合わせると、下級魔族と言うところか。」
つまり、ワルキューレ並みの強さってことか。俺達が逆立ちしても勝てないな。情報収集に努めよう。
レ「それで、魔族様が俺達に何の用だ?」
ヴァ「そう邪険にするな。私はもう本来の姿には戻れない。命からがら魔界から逃げてきて、ここへ来たのだ。肉体が消滅する寸前に、運よく私に合った肉体があったから何とか助かったのだ。」
魔界と聞いて、アヌビスが話に入ってくる。
ア「我はアヌビスと言う。我の星を襲ったのはおぬしらか?」
アヌビスは、ギシリと手を握り込む。
ヴァ「私は、星の侵略には関わっていない。その件に関しては、他の者の仕業だろう。私は魔王城を守っていた悪魔の一人だ。」
そう聞いたアヌビスは、怒りを抑え込もうと杖をぎゅっと掴んだ。アヌビスが落ち着くのを待って、ヴァンパイアは話し始めた。
ヴァ「もういいかね?単刀直入に言う。手を組まないか?」
レ「どういうことだ?」
ヴァ「女神が正義とは限らないという事だよ。」
ヤ「え?でも、女神の皆さんは良い人ばかりですよ!ちょっと怖い時もありますけど。」
ヴァ「これを聞いてもそう言えるかね?」
ヴァンパイアがそう言った瞬間、ヴァンパイアの口から槍が生える。
ワ「何をしている?悪魔よ。」
ヴァ「ゴブッ、フッ。」
「また会いましょう。」隣にいたヴァンパイアガールがヴァンパイアの代わりにそういうと、ヴァンパイアはコアとなり、ヴァンパイアが作ったヴァンパイアガールも、テーブルもイスもカップも消滅した。ワルキューレはそのコアをアイテムボックスに入れると、イスが急に無くなって尻もちをついている俺を引き起こしてくれた。
ワ「すまない、逃がしたようだ。私が居ない間に何があった?」
俺はヴァンパイアが現れた時の事を話すと、ワルキューレは「報告に行ってくる。」と転移していった。
俺達は、不安を覚えて、今日はホテルに帰ることにした。フロントに行くと、勤務時間内なのにラヴィ様が居なかった。ワルキューレの報告を受けているのだろうか。そう思っていたら、カウンターの下からメィルがそろりとのぞいていた。
メ「お兄ちゃん、怒ってる?」
メィルが上目遣いで見上げている。
レ「何のことだ?」
メ「私が、お兄ちゃん達を見捨てて逃げた事。」
確かに、逃げた事には変わりないが、仮にメィルが居たとしてもどうにもならないし、帰らなかったらヴァンパイアに消されていたかもしれない。どう見てもあいつの方が強いし。
レ「気にするな、仕方ないだろ?仮にメィルが立ち向かっていてもすぐにやられていただろうし。それより、ラヴィ様は?」
メ「私が助けを求めに来た時、試験中はダンジョン内のもめ事には手を出せないと言われて、言い合いをしているうちにワルキューレ様が来て、報告を受けるから、ここで待っていなさいって。」
メィルはしどろもどろで説明してくれる。一応、ラヴィ様に助けを求めてくれてたのか。俺はメィルの頭をなでる。そして、デコピンする。メィルに0ダメージ。
レ「ありがとな。」
ダメージは無いが、おでこを抑えているメィルにそう言ってあげた。
ヤ「私たちはこうして大丈夫でしたから、メィルちゃんは気にしなくていいですよ!」
弥生もメィルをなでる。
ア「そうそう、おぬしにはどっちにしろ無理だったのじゃ!」
アヌビスが余計な事をいうと、メィルはふくれっ面になってアヌビスを殴る。アヌビスに0ダメージ。
ア「何をするのじゃ!」
アヌビスもお返しにメィルを殴る。メィルに0ダメージ。
レ「お前たち、不毛だからもうやめておけ。」
俺は2人を止めると、アヌビスにホテルに帰るぞとうながした。
その夜、晩飯は好きなものを食べるぞと、アヌビスはホットケーキを食べ、俺は久々にアルコールにひかれてビールと枝豆を食べ、弥生はビーフステーキを食べていた。ワーウルフの時に食べたくなったそうだ。その後、ゲームやトランプをして過ごした俺達は、風呂に入り、歯磨きをして寝た。俺は、アヌビスが夜中にうなされているのに気づかなかった。
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