第3話 ダンジョン攻略3日目
アラームが鳴った。もう6時か。3日目になると慣れてきたのかぐっすりと寝ていたようだ。軽く伸びをして鏡の前に行くと、寝癖を直した。はみがきをしてトイレに行き、スーツに着替えた後、カーテンを開けていると、部屋をノックする音がした。
ヤ「おはようございます!起きていますか?」
レ「おはよう弥生。一応6時には起きるようにしているよ。」
弥生はさっそく朝ごはんを食べましょう!と注文してくる。俺はフロントにコールし、ケルベロちゃんに注文をした。弥生はご飯にみそ汁、生卵、納豆と焼き魚という和食で、昨日より1品増えたな。俺はサンドイッチにコーヒーと軽食を頼んだ。
ケ「おはようございますワン。朝食をお持ちしましたワン。」
相変わらず注文してすぐに表れると、「おかもち」から料理をテーブルに並べて行った。空間から直接出さないのはなんでだろうか?出前の雰囲気重視か?
食器を片付け、ダンジョンに行く準備を済ませ、フロントに行くと俺の作ったケルベロスが見違えていた。存在感が増したというか、近づいただけで冷や汗が出るというか。
レ「あれって昨日のケルベロスだよな?」
ヤ「そうだと思いますけど、明らかに強そうですよね・・。」
弥生にステータスを見てもらう。
クリティカルならメィルを一撃で倒せるほど強くなっていた。どんなコア食わせたら一晩でこんなに強くなるんだ?むしろこいつ借りていったらダンジョンクリアできるんじゃないか?
レ「ケルベロちゃん、こいつ借りていっていいか?」
ケ「ダメですワン。メィルが来たら噛みつかせるワン。ちなみに今メィルは自宅に居るワン。」
レ「多分今頃悪寒でもしているんじゃないか?ほどほどにして許してやってくれ。」
ケ「考えておきますワン。それでは、今日もいってらっしゃいませワン。」
ケルベロちゃんはお辞儀をして見送ってくれた。俺達はそのままダンジョンに向かい、ラヴィ様に挨拶をすると2階へと足を踏み入れた。
レ「今日は、サポートできる仲間を作ろうと思うんだ。弥生は斥候タイプで、俺は召喚士みたいなタイプだし。戦闘職がいないからな。」
ヤ「そうですね、私たち一般市民には戦闘は厳しいですよね!」
レ「弥生はすでに一般市民より断然強いだろ・・。」
俺はボソッとそう呟くと、イメージを強く持ち、全MPを使用して分裂を唱えた。イメージ通り、イケメン勇者っぽい見た目の18歳くらいの少年を作り出すのに成功した。当然全裸で。
ヤ「きゃーっ!何で全裸なんですか!昨日はちゃんと制御してたのに!」
弥生は俺に向かって手裏剣を投げてきた。零に10ダメージ。
レ「ま、まて!わざとだけどこれには理由があるんだ!」
弥生は顔を真っ赤にしながらうつむき加減で聞いてくる。
ヤ「ど、どういう理由があるんですか?何か拳法とか宗教的な理由ですか?」
後ろを向きながらもじもじしている弥生をみると、少しからかってみたくなった。
レ「弥生の反応が見たくて。」
ヤ「消しますよ?」
弥生は、今までに見たこと無いようなハイライトの消えた目で一瞬にして目の前に現れると、首にクナイを当てて見上げてきた。
レ「じょ、冗談だよ。服は弥生に作ってもらった方が強くなるから。イメージで作った服には実際防御力が無いから。」
鎧として服を着るのと、鎧風の見た目なだけとは実際に大きな差が出る。
ヤ「はぁ、分かりました。今度やるときは私に見えない位置で作成をお願いしますね?」
弥生はため息をつくとクナイをしまったが、殺意はまだ漏れている。黒いオーラが見える・・。
レ「昨日の夜に作っておいた超固い塊だ。これの変化を頼む。」
俺はカバンから1㎤の塊を10個出した。MPは1分で1%くらい自動回復する。寝るまでの時間でMP30くらい込めた塊を作っておいた。
レ「これで小手や武器、鎧、靴などを作ってほしい。」
弥生に大まかな装備を作ってもらい、分身に当てながら調整してもらった。一応トランクスだけは俺の新品を先に履かせた。うん、ここでやらずにダンジョンに入る前にやっとけばよかった。俺は勇者っぽい見た目の分身にユウと名前を付け、弥生にステータスを見てもらった。
実際に攻撃が当たる場所じゃなくても防御力が加算されるってすごいよな。
レ「あれ?防御10くらいの指輪大量につけたほうが防御効果高くないか?」
メ「ずるはダメだよお兄ちゃん!ずるな事は女神パワーが許さないよ!RPGみたいに装備枠があるんだよ!」
メィルがどこから見ていたのか知らないが、相変わらず急に現れる。
レ「そういえば、ビジネスホテルには近寄らない方がいいぞ?本当に番犬ケルベロスがメィルを待ち構えているから。」
メ「ひっ、悪寒はそれが原因だね。昇神したら倒す!」
メィルは空中でシャドーボクシングしている。昇神までに噛まれないといいな?
メ「また何かあったら来るからね!ちゃんと見てるからね!」
メィルは空中でフンスッと鼻息荒く言ったあと、転移していった。
レ「というわけで、装備はこれくらいにして攻略を進めるか。じゃあユウ、スライム退治だ。」
俺はユウに命令を下すと、ユウはコクリと頷いた。
ユ「わかりました、微力ではありますが、身を粉にしてがんばります。」
ヤ「わぁ、しゃべれるんですね!ペプシみたいに動く人形かと思っていました。」
レ「ペプシは口を作らなかったからしゃべれなくてな。今回は前回を反省して、ほぼフルに近い知識を持たせた上で、性格も面もイケメンにイメージしておいた。」
ヤ「イケメン、イケメン!私もユウさんの援護をがんばります!」
ユ「弥生様、私の事はユウと呼び捨てにしていただいて構いません。そして、弥生様の身は、私が必ずお守りします。」
ユウは弥生の前に膝立で座ると、弥生の手の甲にキスをした。
ヤ「はわわっ、お、王子様・・。」
弥生は目をハートにし、顔を真っ赤にして照れていた。俺の存在感薄くなったな・・。そんなこんなで俺はマッピングをしながら進んでいた。弥生は張り切って、スカウターから戻した鑑定眼鏡で「そこに罠があります!気を付けてください!あ!あそこに落とし穴があります!」とか指さしていた。なぜか弥生が罠を見切っているな・・恋の力か?しばらくして昨日のファイアスライムと思われる個体に遭遇した。
ユ「弥生様、下がっていてください。ここは私が。」
ユウは背中の鞘から剣を抜くと、弥生を背に、ファイアスライムに立ちはだかった。ファイアスライムはさっそく火の玉を飛ばしてきたが、ユウはサッと避けて上段に構えた剣でスライムを斬った。
ユ「お怪我はありませんか?さあ、ファイアスライムのコアをお納めください。」
ユウは弥生にコアを渡すと、さっと後ろを向いて廊下を進んでいった。いや、俺の事は無視か?
ヤ「ありがとうございます、ユウ様!」
弥生は弥生で目をハートにしたままユウの後姿を見つめている。そろそろ先に進もうぜ?
1時間ほど進んだ時だろうか、ファイアスライム数体と、大量のスライムを倒してきたが、この階は複数の種類のスライムが居るようだ。弥生にステータスを鑑定してもらう。
ファイアスライム、アイススライム、サンドスライム、ウッドスライムが現れた。
どうでもいいけど、アイススライムなのに氷魔法じゃなくて水魔法なんだな。
アイススライムは俺達に10㎝くらいの水玉を飛ばし、ウッドスライムは地面から槍の様な木の根を生やして攻撃し、サンドスライムは落とし穴を作った。
ユ「私にお任せください!」
ユウはスライム達に向かって行くと、水玉を切り裂き、ユウに32ダメージ。木の根に刺され、ユウに12ダメージ、落とし穴に落ちた。ユウに8ダメージ。
ヤ「大丈夫ですか!私も攻撃します!」
弥生はスラクナイを構えると、アイススライムに攻撃した。アイススライムに45ダメージ。次いで、ウッドスライムとサンドスライムに手裏剣を投げた。ウッドスライムに39ダメージ。サンドスライムに7ダメージ。
ヤ「うぅ、HP高いし防御力も高いですぅ。」
ちなみに俺は遠距離攻撃の方法も無いため、スラタンを構えながらも戦闘には参加していない。ある程度は大丈夫だろうけど、死にたくないからな・・。
レ「ユウ、大丈夫か!」
ユ「油断しましたが、反撃します!」
ユウは落とし穴から出ると、剣を構えなおし、スライム達に向かって行った。ウッドスライムは自分たちの前に茨を有刺鉄線の様に張ってけん制し、サンドスライムはゴーレムを作り出した。サンドゴーレムではなくストーンゴーレムのようだ。ゴーレムは2mくらいの灰色のブロックみたいな感じで、目が一つだけだ。その目がユウをとらえ、大振りで殴ってくる。
ユ「その程度の攻撃は当たりませんよ!」
ユウは腕を回避し、その腕を斬りつけると、そのままの勢いで茨も切り裂いた。魔法で出来たゴーレムには欠損ダメージがあるのか、腕が切り裂かれて落ちた。茨はダメージのせいか、光の粒になって消えていく。
ユ「これで止めです。」
ユウは両スライムに一太刀ずつ与える。ウッドスライムに50ダメージ。サンドスライムに25ダメージ。サンドスライムが倒されると、ゴーレムも消えた。
ヤ「ウッドスライムはまだ倒し切れていません!えいっ!」
弥生は最後の手裏剣をウッドスライムに投げた。ウッドスライムに39ダメージ。
ユ「ありがとうございます。私もまだまだ未熟ですね。では、このコア達もお納めください。」
未熟も何も生まれたばっかりだろ。まあ、戦闘に参加していない俺がとやかく言うつもりはない。
レ「コアを使ってスライムを復元する事も可能だけど、どうする?」
ヤ「そうですね、邪魔にならないなら作っておいたほうがいいと思います。」
俺は弥生から4種類のスライムコアを受け取ると、復元させた。今思うと、復元したモンスターにコアを集めさせて、それをまた復元すれば俺はダンジョンに入らなくて済むんじゃないか?と思ったが、口に出すとドン引きされる上にまたメィルが「ずるはだめです!」とか言って現れそうだから言わないことにした。
レ「そろそろ昼になりそうだけど、どうする?」
ヤ「そうですねぇ。まだ余裕はありますけど、無理をするといけない気がするのでお昼を食べに帰りましょう!」
ユ「弥生様の仰せのままに!」
レ「いや、お前は俺の分裂体なんだから俺に従ってくれよ!」
ヤ「まぁまぁ、そんなこと言ってると置いていきますよ?」
弥生はそう言うと、ダッシュで階段の方へ向かう。ユウもそれに追従し、俺は一番素早さが遅いために本当に置いて行かれそうになった。弥生達は待っていてくれたのか、なんとか追い付いた。
レ「やっと追い付いた・・。待っててくれてサンキューな。」
ヤ「いえ、新たな敵が・・。今のところ攻撃はしてきませんが、どうしましょう・・。」
ユウは弥生の前に盾となって構え、涙目の弥生の目線の先には、虹色に輝くスライムが居た。弥生にステータスを聞く。
えぇ、倒すの無理じゃね?メィル並みの強さじゃん。ミスリルスライムは素早く動くと、俺の背後から体当たりをしてきた。早すぎて対応できない。クリティカル発生、零に20ダメージ。頭上から体当たり。クリティカル発生、零に20ダメージ。正面から体当たり。クリティカル発生、零に20ダメージ。大して攻撃力はないけど、不意打ち扱いで全部クリティカル発生になってる!
レ「くっ、俺ばっかり狙いやがって!」
HPも100切ってあせった俺はとりあえずスラタンを振り回したが、ミスリルスライムはあっさりとかわして当たる気がしない。
ヤ「私も、えい!」
ユ「ふっ!はっ!」
弥生とユウもスライムに攻撃したが、同様にかわされる。復元したスライム達も魔法で援護攻撃しているが、ダメージは0だ。逆にミスリルスライムの攻撃は相変わらずで、クリティカル発生、零に20ダメージ。クリティカル発生、零に20ダメージ。
ぼこぼこにやられた俺はいつの間にか死んでいた。
メ「死んでしまうとは情けない!ほれっ!」
目を覚ますと、メィルが偉そうな白髭をつけて豪華な椅子に座っていた。
レ「・・・。あれからどうなったんだ?」
俺はメィルを無視し、服をさっと着ると弥生にどうなったか聞いた。さすがに3回目ともなれば慣れた。
ヤ「ミスリルスライムは、源さんを倒したあと、あっさりと逃げていきました!さあ、お昼を食べに行きましょう!」
レ「いや、もう少し詳しい話を!あと、俺が死んだのに結構あっさりしてるな!」
ヤ「もう3回目ですし、慣れもしますよぅ。」
やっぱり、慣れって怖いな。そのうち、嫌な顔をして「あ、死んだんですか?」とか、「またですか、もう知りません!」とかになったら困る・・。
メ「バチが当たったんですよ!源さんがずるしようとするから!」
メィルいわく、ダンジョンの中はきちんと管理されている空間なので、チート行為や悪質なプレイをしたらバチが当たるらしい。いや、ゲームかよ!ちなみに、ミスリルスライムはメィルでもなかなか倒せないらしい。クリティカルでも99%カットされるのですべてクリティカルでも時間がかかるとか。
レ「あと、ユウは?」
メ「没収です、帰ってから私がペロペロします!イケメンばんざい!」
レ「それはお前が欲しいだけだろ!返せ!」
メ「いやでーす。かえしませーん。」
メィルはアッカンベーと舌をだすと、転移していった。
ヤ「うぅ、私の王子様が・・。」
レ「唯一の戦闘職が・・。」
俺達はがっくりしながら食堂に向かった。ちなみに、スライム達は移動速度が遅いため、倒してコアに戻したとの事。食堂で弥生は豚の生姜焼き定食、俺はチキン南蛮を注文すると、これからについて話し合った。
レ「実際どうする?これからの攻略は。」
ヤ「装備を充実させて、地道にスライムを狩りますか?一応私たちもスライムは倒せる強さですし。」
レ「それでもいいけど、制限時間がなぁ。」
まだ3日目で予定よりは早いとはいえ、武術的に俺達が強くなるには30日という期間は短すぎる。ステータス的に強くなっていくしかないか。まあ、いくら時間が無くても残業(夜間のダンジョン攻略)はしないけどな!そうこうしているうちに料理が出来たので、おいしくいただき、食堂を後にした。
昼からは再び2階に行った。
ヤ「そういえば、なんで帰還の巻物を使わなかったんですか?」
レ「あー、そういえばそんなアイテムもあったな。カバンに入れっぱなしで忘れてた。今度からはすぐに使えるようにしておこうか。」
俺は弥生の指摘でアイテムの存在を思い出し、カバンから取り出してポケットに入れた。ん?覚えてたんなら弥生が使えば良かったんだろうが、弥生も忘れてて今思い出したんだろうな・・。
ついでに言うと、回復剤の存在も忘れていた。本当に持ってる意味なかったな。
2階を探索し、ずるじゃ無い程度にケルベロスを作成して援護させたりして、スライム達を倒しながら探索していると、弥生が壁の一部を指さした。
ヤ「あそこの壁、鑑定眼鏡で見てみると、隠し通路って表示されます!」
レ「たしかに、少し色が違うか?スライムの這った跡だと言われても分からないくらいだが。」
鑑定眼鏡様様だな。俺はゆっくりと色の違う壁を押すと、回転扉の様にくるりと向こう側に行けた。隠し通路と言うか、廊下というか、道を進むと、行き止まりに宝箱が3つ置いてあった。
ヤ「ダンジョンで初めての宝箱ですね!何が入っているかワクワクします!」
ちなみに、左から茶色、金色、銀色だ。
ヤ「ふむふむ、左が銅の宝箱、右が銀の宝箱、真ん中が金の宝箱だそうです!」
うん、見た目で大体わかるけどな?ゲームだと、銅、銀、金の順で中身が良くなるよな。
レ「とりあえず金の宝箱を開けてみるか。」
ヤ「源さんは、好きなものは最初に食べる派ですか?」
レ「どっちかといえばそうだけど、なんで?」
ヤ「普通、がっかりしそうな銅から開けて、金で喜ぶってパターンを選びそうな気がするんですけど。」
レ「俺の普通は金からなんだよ。っと、あれ?開かないな。」
俺はがちゃがちゃとやるが鍵がかかっているようだ。
レ「鍵がかかっているな。仕方ない、後回しにして銀を開けるぞ。」
俺が銀の宝箱を開けると、濃い紫色の煙が出てきた。
レ「うわっ、罠か!大丈夫か?弥生。」
俺はとっさに弥生をかばったが、煙の量が多く、通路一帯に広がった。
ヤ「けほっ、けほっ、煙たいけど毒とか麻痺とかの状態異常は無いようです・・。」
見た目は毒の煙っぽいけど実害は無いようだ。しばらくして、煙が晴れてきた。
レ「や、弥生・・!」
ヤ「み、源さん?」
俺達は恐る恐る目を開けると、大変な事が起きていた。なんと、全ての装備が外れて床に散らばっていたのだ。こんな無防備な状態で敵に襲われたら大変だ!うん、大変だ・・。だから、背後から俺の首にクナイを当てないでくれ・・。
レ「わ、わざとでは無いんだ・・。ごめんなさい。」
ヤ「ええ、分かっていますよ?分かっていても許せることと許せないことがあるだけです。」
俺はせめて弥生の方を見ないように目をつぶって床に伏せた。全裸のおっさんが床に伏せるって結構痛い絵面だな・・。
ヤ「服を急いで着るので、絶対に見ないで下さいよ?あれ?パンツが見当たりません!」
弥生は、しばらく辺りをごそごそと調べていたが、一か所だけ調べていないところがあることに気づいた。
ヤ「源さん?ちょっとそこを避けてくれませんか?」
俺は少し起き上がって、薄っすらと目を開けて、床を確認すると、ピンクのかわいらしいパンツを下敷きにしていた。俺は無言で1mほど左にずれて、土下座の格好をした。
ヤ「怒ってはいませんよ?たとえ罠の可能性を考えず、あっさり宝箱を開けた事も、私の下着を隠していた事も。」
レ「罠はごめん!でも、下着はわざとじゃない!目をつぶって伏せたらたまたまあったみたいだ!」
ヤ「へぇ?本当ですか?」
レ「本当だ!それにしてもかわいい下着だな!うん、弥生はセンスが良いな!」
ヤ「・・・。」
弥生は無言で下着を拾って履き、服を着て装備を整えると、廊下を戻っていった。
ヤ「着替え終わったら待っていてもらえますか?少し、頭を冷やしてきますので。」
俺は、着替え終わってから1時間ほど正座をして待っていると、弥生が戻ってきた。
ヤ「おまたせしました、源さん!これが戦果です!」
見た目はいつもの弥生だ。そして、弥生がアイテムを入れる為に持ち歩いていた袋を逆さにすると、山の様にスライムのコアが出てきた。
ヤ「あと、勝手で悪いのですけど、少しコアを食べさせてもらいました。コアを噛み砕いているとすっきりするので。」
レ「はい・・。ご自由にどうぞ・・。」
俺はそれ以上何も言う事が出来なかった。山の様なコアを2人で分け、ステータスを上げた。
気を取り直して、宝箱の確認をする。今度こそ罠が無いかしっかりと確認・・したいけど罠なんか分からないから、俺達は廊下から出て、宝箱を開けるだけの分裂体を作った。
しばらくすると破裂音がした。分裂体は消滅したようだ。最初に罠のある銅の宝箱を開けてたら全滅していたかもしれないな・・。最初に引っかかったのが装備の外れる罠で助かったのか?恐る恐る宝箱の前に戻ると、鍵が入っていた。
ヤ「鑑定!ふむ、魔法の鍵みたいですね。1回だけどんな宝箱も開けられるっていう効果があるみたいです!」
レ「金の宝箱専用のアイテムみたいな感じだな・・。都合がいいというか。」
俺は弥生から鍵を受け取ると、金の宝箱に鍵を刺した。鍵を回すとかちゃりと音がしたが、さっきの事もあってなかなか開ける勇気が持てないな。さすがに鍵のある宝箱に罠は無いと思い、ゆっくりと開けると、中には一冊の本が入っていた。
ヤ「鑑定!空間魔法の書みたいですね!レアっぽいです!」
レ「女神様達が使っているやつか。使い方としてはアイテムボックスか?」
俺が使うとして、分裂体を保存するくらいか。それなら、投擲用のアイテムを入れる場所として弥生が使った方がいいか。
レ「だったら、弥生が使うといいよ。アイテムボックスに手裏剣を山ほど入れればいいだろうし。」
ヤ「そう言う事でしたら、空間魔法を覚えてみたいです!」
弥生は空間魔法の書を開いた。しかし何も起こらなかった。
ヤ「これどうやって使うんですか?」
メ「本を開いた状態で、使用を意識すればいいよ!」
レ「また急に出てきたな・・。」
弥生は「空間魔法の書を使用!」と律義に唱えると、本は消えていった。
メ「空間魔法(1)に入る量は100個だよ!私はまだ空間魔法(2)で空間内の時間停止までだけど、空間魔法(3)になったら容量が無限になるみたいだよ!」
レ「で、どうやって上げるんだ?」
メ「さあ?私は単にコアから吸収して覚えただけだからわかんなーい。ばいばーい。」
レ「おい!?急に現れたと思ったら急に消えて忙しい奴だな。来るときは透明化、帰るときは転移か。近くに転移して透明化で見張っているんじゃないだろうな?」
俺は辺りをきょろきょろと見渡すが、分からない。透明ならどっちにしろ探す意味はないか。
俺は出来る限り分裂体を作り弥生に渡し、弥生はそれを手裏剣にしてアイテムボックスに入れていった。隠し通路を後にし、しばらく進むと、エレベーターが見えた。
レ「やっと2階もクリアか。そろそろ戻って飯にするか?」
ヤ「そうですね、でもその前に敵ですよ!」
弥生がそう言うと、床に散らばっていた粘液が集まり、3mくらいのモンスターになった。
ヒュージスライムが現れた。
ここに来た時ならともかく、さっき強くなった俺達にとってはもうそんなに強い敵じゃないな。弥生からコアを貰う前ならやばかったかもしれないが。
そう思っていたら、ヒュージスライムは分裂し、普通のスライムを20匹作り出した。小さなスライムってこいつの分裂体だったのか。どおりでこの階層にしては弱いと思った。
ヤ「私に任せてください!えいっ!」
弥生はまず小さな方のスライムに手裏剣を投げる。クリティカル発生。スライムに150ダメージ。
ヤ「えいっ、とぉ、やぁ!」
弥生は調子に乗って全てのスライムを倒した。
ヤ「どうですか!えっへん!」
弥生が胸を張っていると、ヒュージスライムが体当たりをしてきた。
ヤ「そんな遅い攻撃当たりませんよ!えいっ!」
弥生は手裏剣をヒュージスライムに向かって投げた。クリティカル発生。ヒュージスライムに121ダメージ。
さすがに1撃というわけではなかったが、遅いスライムの攻撃が弥生に当たることは無く、弥生の手裏剣は貫通属性でどんどんスライムのコアに当たり、あっという間に倒してしまった。俺はその間何をしていたかというと、ペプシを作り、散らばったスライムのコアを集めてもらっていた。
ヤ「無事にエレベーターにたどり着きましたね!」
弥生は、2階のエレベーターのボタンを押すと、うきうきと中へ入っていった。
レ「やっと飯が食えるな。」
俺も弥生に続いてエレベーターに入った。
メ「ばぁ!」
レ「うわ!」
ヤ「きゃぁ!」
俺達は急に壁から頭だけ出してきたメィルに驚いた。
メ「油断しすぎだよ!私が敵だったら二人ともやられてるよ!」
レ「いや、壁ぬけしてくる敵なんて居ないだろ。」
ヤ「ですです!お化けじゃあるまいし、普通はそんなところまで注意しませんよ!」
メ「まあ、これからは気を付けておきたまえ。」
メィルはそれだけ言うと、すーっと壁の中に吸い込まれるようにして消えていった。
レ「なんだったんだ・・。突飛な行動はいつもの事か?」
ヤ「でも、全く用が無いのに出てくるのは珍しいですね?」
俺達はとりあえずフロント行のボタンを押し、エレベーターから降りると食堂に向かった。
閑話 2日目の夜
ゴ「ケケケ、ここが育成場所か?」
一匹のゴーストが壁を抜けてビジネスホテルの中に入り込んできた。真っ黒のぼろぼろの布の様なフードを被っている。フードの中は骸骨であった。フードが無ければスケルトンだが、フードを被ると死神に見えるのは不思議だ。
ゴ「たしか、見習い女神どもを殺していいんだよな?」
ゴーストは背負っていた漆黒の鎌を両手で掴み、くるくると振り回した。
神殺しの鎌、攻撃力100。神に対しダメージ10倍、神の攻撃力90%ダウン。
ゴ「この鎌さえあれば、見習いどころか普通の女神すら殺せるんじゃないか?ケケケ。」
ゴーストはうれしそうに笑うと、ビジネスホテルの中を飛んでいく。
サ「バウ、バウッ!」
ゴ「なんだこの犬?殺されたいか?」
ゴーストは、ケルベロちゃんがサーベラスと名付けた分裂体のケルベロスに向かって鎌を向ける。
ケ「なんだおめーは?あたち達に何か用か?」
ケルベロちゃんは、とっくに侵入に気づいていたゴーストに向かってゆっくりと歩いてきた。
ゴ「お前が見習い女神か?チビで雑魚そうだな、ケッケッケ。」
ゴーストは馬鹿にしたようにゆらゆらと浮遊すると、ケルベロちゃんに近づいていく。
ケ「誰がチビで雑魚だって?」
ゴ「お前だお前、なんだ?鏡も見たこと無いのか?」
ゴーストはさらにケルベロちゃんを煽ると、くるくると空中を回る。
ケ「ぶっ殺す!」
ケルベロちゃんはジャンプすると、ゴーストに向かってパンチを繰り出した。
ゴ「俺に物理攻撃なんて当たらないぞ?」
ゴーストは透過でパンチを回避すると、鎌でケルベロちゃんの背中に攻撃する。クリティカル発生、ケルベロちゃんに11000ダメージ。
ゴ「おや?1万超えのダメージで生きているだと?お前、見習い女神じゃないのか?」
ケ「見た目で判断してると長生きできないぜ?ぷっ、もう死んでるんだったか。ん?攻撃力90%ダウンか、なかなかいい武器持ってるじゃないか。」
ケルベロちゃんは手をグー、パーと開いたり閉じたりしながら、次の攻撃のタイミングを計っている。
ゴ「例え女神でも、この武器があれば怖くねーな。」
ゴーストは警戒するように飛んで離れていたが、攻撃力90%ダウンが効いていると聞いて少し余裕を持ったようだ。
ゴ「魔法も使う様子が無いし、素早さも無い。女神に成りたてか?今だったら勝てるな。」
ゴーストは天井の壁の中へ入っていった。
ケ「おいおい、逃げるのか?」
ゴ「逃げるわけがないだろ?隙だらけだぜ!」
ケルベロちゃんは天井を見ていたが、ゴーストは床から現れると、ケルベロちゃんの背中に斬りつけた。クリティカル発生。ケルベロちゃんに11000ダメージ。
ゴ「弱い!弱いな!これでさらに攻撃力90%ダウンだ!もう攻撃力1000も無いだろ!」
ケ「ぐっ、なかなか厄介な攻撃をする。」
ケルベロちゃんは、バックステップで距離を離すと、ゴーストはあっさりと警戒を解き、煽り始める。
ゴ「魔神様も心配性だよな、この武器があればもう女神も怖くねー。」
ケ「そうか、黒幕は魔神か。」
ゴ「それを知ったところでどうする?お前はここで死ぬけどな?ケケケ。」
ケ「本気で戦っていたわけ無いだろ?遅すぎて逆に当たってやるのがつらかったよ。」
ゴ「けっ、負け惜しみを。魔法も無い、攻撃力も1%になったんじゃもうどうしようもないだろ?」
ケ「別に魔法が使えないわけじゃないが、ハンデで魔法を使わないでやるよ。」
ゴ「くだらない挑発だな、チビ、これで止めだ。」
ケ「くくくっ、あたちのHPも分からないのにもう止めの気分か。」
ゴーストは柱の中に隠れると、また床からケルベロちゃんの背中を狙う。
ゴ「死ね!」
ケ「はぁ、背中ばかり狙いすぎだろ。」
ケルベロちゃんは半身になってあっさりと鎌を回避すると、裏拳でゴーストの顔面に攻撃した。ゴーストに39500ダメージ。
ゴ「ぐはっ、この俺が・・・やら・・れる・・と・は。」
ケ「効果は本物だが、神殺しの武器にしては攻撃力が低すぎる。複製品か・・?」
ゴーストが消滅すると、武器もボロボロと崩れて消えた。ゴーストのMPを使っていたようだ。ケルベロちゃんは、ラヴィ様にどう報告しようかと思案を巡らせていると、戦いが終わって近づいてきたサーベラスが、ゴーストのコアを咥えた。
ケ「おい、それはエサじゃないぞ!でも、今後こういうことがあったときに何かの役に立つか。」
ケルベロちゃんは、そのままサーベラスにコアを与え、サーベラスは見習い女神よりも強くなったのだった。
♦
俺達が食堂に行くと、今日のおすすめ!と食券機にでかでかとポップが書いてある。
レ「今日のおすすめか。何々、オークのステーキに、オーク丼、オークのチャーシュー麺か。」
ヤ「オークって言うと、豚のモンスターですよね?おいしいんですかね?」
は「おう、うまいぞ!豚よりも濃厚な肉汁と、噛み応えのある肉、それでいて筋は無く、油も丁度いいときたもんじゃ。」
珍しく、注文前にキッチンから顔を見せてきたはじまる様。相変わらずのエプロン姿だ。
レ「じゃあ、俺はチャーシュー麺にするか。」
ヤ「私はステーキにします!いっぱい動いてお腹が空きました!」
俺達はそれぞれボタンを押し、注文を終えると、はじまる様は料理を作りに行った。
セルフの水をちびちびと飲んで時間を潰していると、はじまる様が「料理ができたぞ!」と呼んでくれた。
レ「ふーっ、ふーっ、うん、豚骨仕立てか。」
俺はつるつると濃厚な豚骨スープを絡めた麺をすする。
ヤ「わぁ、ナイフがスッて入ります!牛肉のステーキより分厚いのに!」
弥生はナイフで切り分けたステーキを、フォークで刺すとそのまま食べた。
ヤ「おいしぃです!タレをつけなくても、塩コショウの味だけでご飯がどんどん進みます!」
弥生はばくばくと白飯をかき込み、喉を詰まらせた。あわててみそ汁を飲んで、ふぅと息をついた。
レ「そんなに慌てて食わなくても肉は逃げないだろ。」
ヤ「逃げないとしても、おいしすぎて止まりません!」
俺達はおいしく昼食を食べ終え、食器をカウンターへ返した。
レ「今日はどうする?このまま3階を見てみるか?」
ヤ「そうですね、今後の攻略にもかかってきますし。」
俺達は話しながらエレベーターの方へ向かうと、2階のボタンを押した。
2階のエレベーター横の階段を上り、3階に行くと、さっそくモンスターが見えた。
レ「オークか、昼飯に食ったばっかりだな。とりあえずステータスを見てもらえるか?」
ヤ「そうですね。おいしそうに見えます!」
弥生はじゅるりとよだれを吸う音をさせるが、俺は人型のモンスターにしか見えないため食欲は別にわかなかった。見た目は、多少引き締まった体をしているが、ぴんくの豚を二本足で立たせて、棍棒を持たせ、革の鎧を着ている。
オークが現れた。
レ「下の階で最後に戦ったスライムと大して強さが変わらないな。」
ヤ「そうですね、余裕そうですし、このまま攻略しちゃいますか。」
俺達がオークの方へ歩いていくと、オークが話しかけてきた。
オ「やっと来たか人間ども!男はエサに、女は繁殖用に捕まえてやる!」
ヤ「きゃあっ、しゃべりましたよこの豚!一気に食欲が減退しました!」
レ「俺もしゃべる知能があるのを相手にするのは何か嫌だな。」
俺達はしゃべったのにはびっくりしたが、敵のステータスが低いのをいいことに、まだ余裕な態度を崩さない。
オ「なめやがって!」
オークは急に後ろを向くと、逃げだした。
レ「急に逃げ出したぞ?とりあえず経験値になってもらうか。」
ヤ「そうですね、素早さもこっちのほうが高いので余裕です!」
俺達は、数秒間の相談で追いかける事に決め、十数メートル先のオークを追いかけ始めた。
オ「ちっ、足の速い人間どもめ!」
オークはさらにスピードを上げたようだが、素早さのステータスが俺達の半分以下のため余裕で追いつくことが出来た。それでも、300mくらい追いかけただろうか。
レ「手間をかけさせるなよ、豚。」
ヤ「追い詰めましたよ!」
俺達が追いついたとき、オークは行き止まりの通路に居た。俺達は徐々にオークに近づくと、急にビリッと電気が走り痺れた。そのまま床に倒れ込んだ俺達は、顔だけで周りを確認する。
レ「なっ、魔法を使って無いはず・・罠か!」
ヤ「あ、足元に罠が・・追いかけるのに夢中で気づきませんでした・・。」
オ「引っかかったぞ!お前らも出てこい!」
オークが廊下の先に声をかけると、行き止まりに見えた廊下の壁が消え、2体のオークが現れた。
ヤ「源さん、あっちの2体はやばいです!」
ハイオーク、オークマジシャンが現れた。
レ「誘い込まれていたのか・・。しゃべるだけじゃなくて知能も高いのか。」
ヤ「幻惑で行き止まりに見せかけていたようですね・・・。」
ハイオークはオークを黄色に塗って筋肉だらけにし、胴体は鉄の鎧を身に着け、斧を担いでいる姿で、オークマジシャンは女性型で、1mくらいの杖を持ち、ゆったりとした服で体形は分からないが、痩せているのだろう。顔も人間が豚の鼻をつけたくらいで、マスク等をすれば人間と区別がつかないくらいだ。
オ「幻惑にかかったようだねぇ、相手の魔力次第で効かないこともあるけど、この人間たちは魔力がそんなに高く無いようだねぇ。」
ハ「頭も良くないみたいだな?こんなにあっさりと罠にかかるとは!」
俺達は馬鹿にしたようなオークたちを見上げる。まだ痺れは取れない。
ハ「おい、オーク、女の方を立たせて捕まえていろ。」
オ「おら、立て!」
オークは、弥生の首を後ろから掴んで立たせる。
ハ「邪魔な服だな。」
ハイオークは弥生の服に斧を当てると、引き裂いた。
ヤ「きゃぁあ!やめて!」
弥生は痺れて動けないため、口では拒絶しているが、抵抗が出来ないようだ。
レ「やめろ豚ども!」
俺はオーク達をにらみつけるが、動くことは出来ない。
オ「うるさいねぇ、あんたは死ぬんだよ!」
オークマジシャンは木魔法で木の根の槍を作り攻撃してきた。零に69ダメージ。そして、俺の持ち物を漁るため、カバンの中身をぶちまけた。
ハ「ちっ、この鎖みたいな服は固いな。」
ハイオークは、弥生の鎖帷子を破壊するのに苦戦しているが、下はすでに下着姿になっている。白のレースか。一瞬弥生から殺気が飛んできたが、それはオーク達に向けてほしい。
ハ「めんどくせぇ、下から脱がせるか。」
ヤ「それだけはやめて!お願い!」
ハ「こんな布を付けてたら邪魔じゃねーか。」
ハイオークが弥生のパンツを脱がせようとしたとき、俺のカバンの中身が目についた。
レ「帰還の巻物使用!弥生も一緒にフロントまで!」
俺はとっさに帰還の巻物を使用すると、一瞬でフロントに戻ってきた。俺達はまだ痺れがとれず、床に這いつくばっていると、上からラヴィ様の声が聞こえた。
ラ「そんなところで寝ていられると、他のお客様に迷惑になります。」
ラヴィ様はそう言うと、俺達の状態異常を治してくれた。
ヤ「た、助かりました・・、けど、こっち見ないでください!」
弥生は空間魔法で新しい服を取り出すと、サッと着替えてしまった。
ヤ「さっきは痺れてて空間魔法から帰還の巻物を取り出せませんでした・・。」
レ「罠の存在を忘れていた。今度から気を付けよう。」
ヤ・レ「はぁっ・・。」
今回痛い目に遭ったな。豚に襲われるなんて、弥生にとっては死ぬよりもトラウマになりそうだからな。俺は購買に寄って帰還の巻物を買い直した。
レ「魔法を使う敵に、戦闘力が高いオークか・・。」
ヤ「今度会ったら必ずぶち殺します!」
弥生が決意を新たに、殺気を放っていた。
俺達は一旦2階層に行くと、スライムのコアを集めた。スライム狩りの最中、弥生が思いついたように言ってきた。
ヤ「源さん、ちょっと試したいことがあるので、分裂体の塊を作ってくれませんか?」
俺はMPが回復すると塊にして弥生に渡した。そろそろ夕方になるので、俺達はダンジョンを出てビジネスホテルに向かった。出迎えてくれたサーベラスを撫でていると、ケルベロちゃんが歩いてきた。
ケ「おかえりなさいませワン。」
レ「ああ、ただいま。今日は3階層の攻略も行けるかと思ったけど無理だったわ。」
ケ「オークにやられるようじゃ先が思いやられるワン。」
レ「そう言うなよ、油断したというか、あんなに人間っぽい奴らだと思わなかった。」
ヤ「それにエッチでした!最悪でした!もう許しません!」
弥生は憤慨すると、しゅっしゅっとシャドウボクシングをしている。
ケ「オークはメスなら誰とでも子を作れるワン。生まれてくるのは必ずオークだから、生まれたら焼くワン?」
ヤ「生まれませんよ!?ぎりぎり大丈夫でしたから!」
ケ「そうですかワン。それでは今日の夜はオークのステーキにしますかワン?」
ヤ「わざとですか!今日のお昼にもう食べました!」
俺はケルベロちゃんにからかわれている弥生を生暖かい目で見守った。
ケ「それでは、料理が決まりましたらフロントまでコールして下さいワン。」
言葉の応酬が終わったのか、ケルベロちゃんは俺にそう声をかけて部屋の鍵を渡してくれた。
部屋に入り、料理を頼んだ。俺は刺身の盛り合わせ、弥生はマルゲリータピザと、オークに全く関係なさそうな料理にした。料理を食べ終わると、弥生は試したいことがあるとさっさと部屋に帰り、俺は特にすることも無いので、ケルベロちゃんに雑誌を取りよせてもらって暇を潰した。余ったMPは一応分裂体にしておいた。
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