第2話 ダンジョン攻略2日目

アラームが鳴った。もう朝か。俺は窓のカーテンを開け朝日を浴びると、のびをした。そういえば、服や下着はどうしよう?1か月とは言え、ずっと着の身着のままじゃまずいよな?1着だから洗濯もできないし。ストレッチをしながら考えていると、コンコンとドアを叩く音がした。


ヤ「源さん、起きていますか?朝ごはん一緒に食べましょう!」


扉を開けると、弥生が居た。


レ「おはよう、弥生。」

ヤ「おはようございます!」


俺は、服のことを考えていたためか、じーっと弥生の全身を見てしまった。


ヤ「な、なんですか?!そんなに全身を嘗め回すように見て!」

レ「いや、悪いな。って嘗め回すようには見てないよ!?これから服をどうするかなって思って。」


俺はとりあえず弥生を部屋の中に入れて朝食を注文することにした。


レ「俺はとりあえず食パンと牛乳でいいや。弥生はどうする?」

ヤ「私はご飯にみそ汁、焼き鮭と生卵の和食がいいです!」

レ「旅館の朝食みたいだな・・。それじゃコールするか。」


フロントにコールすると、ケルベロちゃんが出たので、注文を伝えた。


ケ「お待たせしましたワン。冷蔵庫の減った中身や、消耗品等はお出かけの間に補充しますので、安心してくださいワン。」


相変わらず注文して1分もたたずに現れたケルベロちゃんは、昨日と変わっていなかった。


レ「ケルベロちゃんはずっとここにいるのか?」

ケ「そうですワン、利用される方がいついらっしゃるのか分からないので、24時間ここにいますワン。」


ラヴィ様と違ってケルベロちゃんは不眠不休か。地獄の門番のケルベロスも寝なくていいらしいし、名前が似ているから似たようなものか。俺は勝手に解釈すると、質問をした。


レ「ところで、服とか消耗品を買える場所ってないか?」

ケ「ありますワン。ホテルの売店に行けば、身の回りの大抵のものはありますワン。」


ケルベロちゃんは、他に聞きたいことはないか?と確認し、ないと言うとお辞儀をして転移していった。転移する女神相手だと扉の鍵が全く意味ないな。まあ、そもそも転移できなくても扉くらい簡単にぶち破るか。


ヤ「じゃあ、ご飯を食べ終わったら売店に行ってみましょう!」


売店に行くと、ケルベロちゃんが待っていた。


レ「さっきの話を聞いて準備してくれていたのか?」

ケ「いいえ、追跡スキルで売店に向かっているのが分かっていたので転移しましたワン。」

ヤ「追跡スキル、まだ切ってなかったんですね・・。」


俺達はうんざりした顔で売店を見回す。置いてあるのは、誰が買うのか分からないようなお土産類ばかりだった。


レ「大抵の物はあるっていう話だったが、お土産しか見当たらないが?」

ケ「欲しいもの言ってくださいワン。あたちがアイテムボックスから出しますワン。」


そういう事か。場所も取らないし劣化もしない、誰も居なくても盗られる心配も無いな。盗っても逃げきれないだろうけど。


レ「服が欲しいんだけど、どんなのがある?」

ケ「ただの服でしたら、これはどうですワン?」


ケルベロちゃんは空中からいくつかスーツを出してくれた。


レ「おー、俺が持っていたのと同じようなスーツだな。」

ケ「生前のあなたの部屋から取り寄せましたワン。」

レ「まじで俺のかよ!?そりゃ、取り寄せれるならなんでも揃うわ。」


サイズを測ったりする必要がない分だけ楽だと喜んでおくか。1か月なら十分だろうし。


ヤ「じゃあ、私のも取り寄せられますか?お気に入りの忍者服!」

ケ「これですかワン?」


ケルベロちゃんが取り出した服は正直、今着ているのとまったく差が分からん。


ヤ「これですこれ、やっぱり中の鎖帷子(くさりかたびら)は本物じゃないと!」


鎖帷子、RPGで言うとチェインメイルか。なんでそんな物を持っているんだ?忍者おたくだったとかか?


レ「ついでに下着類も取り寄せてもらえるか?」

ケ「お前の下着なんて触りたくないから、取り寄せずに同じサイズの新品を取り寄せてやるワン。」


何気にひどいことを言われた気がするが、使用済みより新品をくれるならそっちでいいや。


ヤ「あ、私もお願いします。ここに出されても困るので、102号室に届けておいて下さい!」

レ「じゃあ、俺のは101号室でお願い。」

ケ「かしこまりましたワン。商品分のMPを頂きますワン。」


お代はMPなのか。ケルベロちゃんは見た目何もしてないが終わったようだ。あんまり減ったような感じはしないな。


ヤ「ちょびっとだけしか減った気がしないんですが、それだけでいいんですか?」

ケ「アイテムの取り寄せくらいは、MPが10もあれば十分ですワン。大きなものだと50とかですワン。今のあなた方のMPでは無理ですが、もっといい装備を異世界から取り寄せることも可能ですワン。」


まあ、面倒くさくてやらないだけで、俺の分身を弥生に変化してもらえれば作るだけなら出来るしな。サイズ調整とか難しいし、一定のダメージ受けたら消えるから。体が無傷でも服だけ無くなるのも困る。MPが増えたら、異世界のドラゴンアーマーとかミスリルプレートとか取り寄せて着る日が来るのだろうか?


時計を見ると、8時になっていた。ラヴィ様も出勤してきているだろうし、そろそろダンジョンに向かうか。俺達は部屋の鍵をケルベロちゃんに預け、昨日の道をダンジョンに向かって歩いて行った。ダンジョンの門のインターフォンを押す。


ラ「はい、こちらはじまるのダンジョンの受付を勤めていますラヴィです。お名前とご用件をお願いします。」

レ「おはようございます。源です。昨日に引き続き、ダンジョンの攻略に来ました。」

ラ「かしこまりました。今、扉をお開けしますね。」


昨日と同じようにスライドして開いた扉をくぐり、受付に向かった。


ラ「おはようございます。本日もがんばってくださいね?」

レ「ありがとうございます。昨日と同じ入口でいいですか?」

ラ「はい。あと、昨日、こういうアイテムを作ったのでよろしかったらどうぞ。」


ラヴィは空間から黒縁眼鏡を出した。


ラ「あったら便利だと思いまして、鑑定眼鏡です。」


眼鏡の効果は、アイテムやモンスターを見ると鑑定してくれるのだそうだ。入口にあるホワイトボードの眼鏡バージョンだな。これでこちらから連絡の取れないメィルにいちいち聞かなくても自分で調べれるようになるのか。


レ「ありがとうございます。えっと、お代はどうすれば?」

ラ「お代は・・と言いたいですが、特別ルールの事もありますし、今回は無料という事でよろしいですよ。」

レ「それは助かります。弥生が着けるか?」

ヤ「そうですね、後方から鑑定します!戦闘力たったの5か・・。とかやってみたいので!」

レ「いや、ステータスは見れても戦闘力は見れないと思うぞ・・。」


俺は一応つっこんでおいた。弥生は眼鏡に「変化!」をかけて色を赤く細いフレームに変えていた。さっそくステータスを見ているのか、「源さんのステータスは昨日と一緒です!」とか言ってる。コア使ってないんだから当然だろう。


レ「それじゃあ、行ってきます。」

ラ「いってらっしゃいませ。」


ラヴィ様はお辞儀をするとフロントの方に帰っていった。俺達は再びゴブリンの待つダンジョンの中へと入っていった。別にゴブリンに会いたいわけではないけど。


レ「昨日の夜考えていたんだけど、俺達はゴブリン程度の攻撃ならもうほとんどダメージを受けることは無いし、注意すべきは罠だけだ。」

ヤ「そうですね、私たちは魔力が低いので、魔法ダメージはほぼそのまま受けちゃいますし。」

レ「そこで、分裂スキルに知能を与えてみようと思う。分裂!」


俺はMP20くらい使って、上半身だけの分身を作った。


レ「はいよる君だ!ひたすらほふく前進だけする上半身をイメージして作った。最初は足だけ作ろうと思ったけど、裸の下半身とか嫌だろ?」

ヤ「裸の上半身だけなのも嫌ですけど、下半身だけよりはマシですかね・・。」


弥生は漫画であれば顔に縦線が入るような表情をしつつ、ひたすらほふく前進をする上半身を見ていた。分身は、壁にぶつかってもひたすら直進しようとするので、位置を直すのが面倒くさい。失敗か?でも、せっかく作ったししばらく様子を見るか。


俺達は分身の後をついて行って、位置を修正しながら進んだ。角を曲がったあたりでゴブリンが現れ、上半身だけの分身を見て一瞬ぎょっとしたようだが、普通に攻撃してきた。分身に8ダメージ。分身は消滅した。


レ「罠にかかる前に普通にやられたな。」

ヤ「そうですね、それに弱すぎませんか?」

レ「確かにな。ダメージからみて防御力2しか無いようだな。ステータスは見たか?」


会話しながらもゴブリンを倒し、コアを拾った。


ヤ「いえ、そもそも見たいとは思わなかったので見ていません。」

レ「じゃあ、今度はもう少しマシなやつをイメージして作ってみるか。分裂!」


俺はMP20を使って今度はある程度自分で判断できる知能をもつようにイメージしてみた。イメージはペプシマンだ。イメージしやすかったからか、単なる慣れかわからないが、自分以外のイメージでもある程度作れるようになったみたいだ。MPが少ないからか、大きさは1mくらいだが、命令を待つように待機している。


ヤ「うーん、水色のペプシマンはまずいので、スパイダーマンカラーに変化!」


いや、それもどうかと思うが、分身の色が赤黒のネット模様になった。


ヤ「ステータスは、HP20、MP0、攻撃力5、防御力5、素早さ4、魔力0ですね。」

レ「イメージが良かったのか、さっきのやつよりはまともだな。よし、分身よ、色の違う床や、他と違うところを見つけたら教えてくれ。」


分身はなんちゃって敬礼をするとほふく前進で調べていった。会敵したゴブリンはすべて弥生が投擲で倒し、俺はコアを拾いながらマッピングをしていた。投擲の材料は俺がMP2で作った。2時間ほど進んだろうか、分身がほふく前進をやめて立ち上がった。俺達の方を向くと、床を指さしている。分身を作るのに慣れたらしゃべれるようにしたいな。


レ「青色の床か。昨日は赤でファイアーだったから、これはアイスってところか?」

ヤ「鑑定眼鏡で見ても、罠としか出ませんね。何か投げてみますか?」


俺は弥生にMP1で1センチの立方体を作って渡した。弥生は分裂体に変化をかけてクナイ型にすると、投擲で床を攻撃した。床に刺さったクナイは急に凍結し、砕けた。


レ「よし、この調子で罠を解除しながら進むか!」


俺は再び分身に罠を探すように命令し、ダンジョンを進んだ。それから2時間ほどして十数回の戦闘をこなし、数個の罠を回避してエレベーターを思われる場所に着いた。


レ「これが1階のエレベーターか?」

ヤ「そうみたいですね、眼鏡にもエレベーターと出ています!」


俺はマップにエレベーターの位置を書き込むと、エレベーターのスイッチを押した。これで記録されたはずだ。


レ「さっそく使ってみるか?時間もそろそろ12時だし、戻って飯でも食うか。」

ヤ「そうですね、そういわれるとお腹が空きました!早く帰りましょう!」


俺達はエレベーターに入ると、「フ」と書いてあるボタンを押した。おそらくフロントだろうと予想をし、動いた感じはしなかったが扉があくと見慣れたフロントだった。そもそも上下に動いて1階からフロントまで行けるわけないから、実質ドコでもドアみたいな転移方式か。2階のエレベーターの位置も1階の真上ってわけじゃなさそうだな。


ラ「おかえりなさいませ。1階クリアおめでとうございます。眼鏡は役に立ちましたか?」

ヤ「確認がとりやすくて便利です!まだアイテムの鑑定とかはしていませんが、賢くなった気分です!」

ラ「それはよかったです。これで1階とフロントを自由に行き来出来るようになりました。この後どうしますか?」

レ「お昼を食べてから、2階に挑戦しようと思います。ゴブリンは余裕で倒せるようになったので。」

ラ「分かりました、それではまた後程。いってらっしゃいませ。」


ラヴィ様はお辞儀をして食堂に行く俺達を見送ると、フロントに戻っていった。


ラ「ところで、この人形は何でしょうか?」


俺達はスパイダーマンカラーのペプシマンをエレベーターに忘れたままだった。

俺達は食堂に着くと、さっそく注文することにした。


レ「俺は今そんなに腹減ってないから月見うどんでいいや。」

ヤ「私はほどほど動いてお腹が空いたので、山盛りのチャーハンにします!」


俺達はそれぞれ食券のボタンを押すと、席に着いた。


は「おまちどう!月見うどんとチャーハンじゃ!」


はじまる様がキッチンから料理を持ってきてくれた。そういえば、ここでは料理の取り寄せはしてないのだろうか?ケルベロちゃんと違い、はじまる様はしっかりと作っているようだ。それとなく聞いてみると、「単なる趣味じゃ!」と答えてくれた。


だったら、特別ルールはラヴィ様が料理しないことと関係なさそうだな。料理できなくてもケルベロちゃんみたいに取り寄せればいいだけだしな。


俺達は雑談しながら料理を食べ終えると、食器を返却し、はじまる様にごちそうさまを言うと、購買に向かった。購買にはすでにラヴィ様が待機していた。アイテム数が増えていたけど、今回は、鑑定眼鏡もあるので、ラヴィ様にアイテムの説明をしてもらわなくても何とかなる。


レ「今回はこれにしよう。」


俺は一つの巻物を取ると、弥生に渡した。


ヤ「帰還の巻物ですか?ピンチになったら帰るためですか?」

レ「それもあるけど、一番の問題はトイレだ!エレベーターに着くまで4時間!ダッシュで行って敵を無視しても1時間はかかるだろ?入口とエレベーターの真ん中の時とか困るだろうと思ってな。」

ヤ「そういわれれば・・、今まではそんなに長くダンジョン内に居ることも無かったですけど、これからもそうだとは限りませんし!でも、分裂と変化でなんとかなりそうですけど?簡易トイレを作るとか。」

レ「た、確かに。でも、MPもいつもあるとは限らないし・・?」


そういわれて俺は必要性が下がった感じを受けた。でも、何回も入るダンジョンの廊下にトイレした後が分かるのも嫌だろ?


ヤ「まあ、他に買えそうなものも無いですし、ピンチになったときには使えるので買っておきましょう!」


俺達は、今回の冒険で手に入れたゴブリンのコアの大半を使って帰還の巻物を2枚買った。これって一人1枚使うのか?


ラ「トイレはところどころにありますよ?きちんと男女別れていますし、水洗です。あと、帰還の巻物は半径2m以内に居て、使った人が連れていきたいと思った人も一緒に戻ってこられますよ。」

レ「相変わらず心を読むんですね?でも、一応ばらばらになったときのために一人1枚ずつ持つことにします。」


俺達は購買を後にすると、エレベーターに向かった。忘れていた分身と一緒にエレベーターに入ると、1階のボタンを押した。


エレベーターからでて、横にある階段から2階へ向かった。思った通り、2階の階段の横にエレベーターがあるような事は無く、予想を言えばダンジョン入口の真上が3階の階段だと思う。


レ「今思ったんだけど、非常階段で上に登った方が早いんじゃないか?」

ヤ「そんなズルして大丈夫ですかね?」

メ「大丈夫じゃないよ!あれは本当に非常時にしか使えないよ!」

レ「びっくりした!毎回急に出てくるなよ!」

メ「え?今回はずっと透明になってついてきてたんだよ?」


実際に、メィルは透明になったり現れたりを繰り返して見せてくれた。幽霊みたいだ。「それに、転移なら魔法陣で分かるでしょ?」と。


ヤ「全然気づきませんでした・・。」

メ「今日は一日暇なので、千里眼で見るより実際に見た方が楽しいと思って!」


右側で消えたと思ったら左から現れたりと、透明を無駄に使われるとうざい。


レ「俺達は暇つぶしの為に冒険してるんじゃないぞ・・。そういえば、最終的にお前の為じゃないか!」

メ「はい!がんばって、お兄ちゃん!がんばってくれたらきちんとお礼をするからね!」


メィルはうるうると上目遣いでお願いしてきた。


ヤ「か、かわいい!がんばりましょうね!源さん!」

メ「ふっ、チョロイン。」

レ「おい、今こいつチョロインとか言ってたぞ。」

ヤ「チョロインって何ですか?」

レ「ちょろいヒロインの事だな。」

ヤ「ひどっ!がんばる気無くしました、ええもう帰りましょう!」

メ「どっちにしろ、ダンジョンをクリアしないとここから出られないし?期限も30日切ってるし?」

ヤ「むかっ、源さん!こんなこと言ってますよ!超むかつきます!」

レ「むかって口で言うやつ初めて見たよ・・。まあ、やるだけやってみようぜ、実は異世界生活もやってみたかったんだ。」

ヤ「あ、私もです!小説を読んでると自分ならもっとうまく出来るのに!とか思いますもん!」


一瞬で機嫌を直した弥生である。今のうちにメィルには帰ってもらおうか。


レ「そういうわけで、俺達はこのままダンジョンクリアをがんばるから、遠くから見てろよ。」

メ「わかったよ!お兄ちゃん!」


メィルもタイミングに気づいたのか、魔法陣が現れ、転移していった。自宅に帰ったメィルは、千里眼での観察に変えた。


改めて2階を見渡して、相変わらずぬるぬるの床だなと思った。


レ「さっきメィルを見て思い出したんだけど、前にコアから分裂体を作れるって説明を受けた時は、てっきり倒された分身のコアを使いまわせるって意味だと思ったんだけど、ほらこれ。」


俺はゴブリンのコアを元にした分裂体を作った。姿はゴブリンだが、色は水色で、体の中心にうっすらとコアが見える。今回、MPは10しか使っていないので、ステータスは低いだろうな。


ヤ「へぇ、コアを基にした場合でもちゃんと腰布付けているんですね。」


弥生は暗に「源さんは裸だったのに!」って言っているんだろうが、イメージの差だろうな。腰布をつけたゴブリンっていうのが基本になっていて、それ以外想像がつかないだけだ。それに、あくまで見た目が布なだけで、実際は裸だぞという事は黙っていよう。虫や動物を裸だと判断しないようなものだ。


とりあえず、ゴブリンとペプシ(区別するために名付けた)に罠を探すように命令してダンジョンを進むことにした。


すると、見たことが無いスライムが現れた。スライムは様子を見ている。そんな感じで2階での戦闘開始だ。


レ「赤いスライムだな。さっそくだけど、モンスターのステータスを見てもらえるか?」

ヤ「わかりました!スカウターをぴぴっと。」


弥生はいつの間にか鑑定眼鏡をスカウター型に変化させていた。誰かに怒られても知らんぞ。


普通のスライムと桁違いの強さだな。初日に来た時にこいつと会ってたら死んでたなきっと。素早さがスライムのくせに昔の俺より高いし。


俺は試しにゴブリンをけしかけることにした。


レ「いけ、ゴブリン、切り裂く攻撃!」


俺は右手でファイアスライムを指さすと、ゴブリンに命令した。ゴブリンはスライムに向かって爪で攻撃するが、当然ダメージは0だった。このゴブリン、おそらく攻撃力が5もないだろうしな。


ところで、スライムの急所ってコア以外あるのか?いろいろ考えているうちに、ファイアスライムはゴブリンに向かって火の玉を飛ばしてきた。ゴブリンに21ダメージ。ゴブリンはコアを残して消滅した。


レ「やはりゴブリンじゃ無理か。一旦退却だ!ペプシ、時間を稼いでくれ!」


俺達はペプシを囮に1階へ戻った。素早さは俺達の方がスライムより上だから、囮の意味は無いな。ペプシの無駄死にか?


改めて自分たちのステータスを確認する。


ついでに、装備の確認もしてもらうと、スラタン(短刀)、プラスチックのクナイ、プラスチックの手裏剣、俺が渡した分裂体で作った手裏剣が3つ。ちなみに、俺のスーツは防御力0だが、弥生の忍者服は防御力5だった。


レ「弥生がスラタンを装備したとしても与えれるダメージは0か。投擲すればダメージは通りそうだが、1回で倒せないと武器が無くなって、結局意味が無いしな。」

ヤ「そうですね。クリティカルの出る部分がもしコアだけなら、少なくともぶよぶよの部分は貫通しないといけないと思いますし。」

レ「もうシリカゲルも無いしな・・。取り寄せてもらうか?」

ヤ「見た感じ、それじゃもう効かなさそうですけど。それにきちんと倒せないとこれから戦うとき、きつくないですか?」


弥生の言葉に最もだと思った。


レ「じゃあ、地道にゴブリンを倒してステータスを上げるか。何か効率がいい方法が無いものか。」

ヤ「影分身はどうですか?」

レ「いや、俺は忍術使えないし・・って似たような事は出来るか?」


俺はMPを10使って戦闘向けのイメージをして分裂と唱えた。


ヤ「かわいいですね!」


俺は40cmくらいのケルベロスを作った。なぜか戦闘用の猟犬をイメージしたらこうなったのだ。ドーベルマンの首を3つにしてデフォルメした感じだ。


レ「まあ、この強さならゴブリン相手には十分だな。」


俺は残りのMPを使ってもう3体作った。


レ「よし、ケルベロス達よ、ゴブリンを倒して経験を得てくるんだ!ステータスは攻撃力と素早さ重視で!4時間経ったらここに戻ってこい!」


ケルベロス達は「バウ!」と元気に吠えてゴブリン狩りに突撃していった。

ケルベロス達が狩りに行っている間、俺達はエレベーターを使ってフロントに戻り、さらにビジネスホテルに向かうと、ケルベロちゃんに漫画を取り寄せてもらうなどして時間を潰し、4時間ほどしてから再び1階に戻った。


え?一緒に戦わないのかって?疲れるから嫌です。


ケルベロス達はきちんと4時間で戻ってきた。よしよし、偉いぞ!


ヤ「わぁ、この子達結構強くなっていますよ!」

レ「ほんとうに強いな、そしてステータスも予定通りの上がり方だ。急所じゃなくても1発でゴブリンを倒せる攻撃力に、素早く連戦できるように素早さを上げていると。あとは、こいつらを倒してコアを取るだけなんだけど・・。」

ヤ「だ、だめですよ!かわいそうですよ!せっかく頑張って強くなったのに!このまま育ててこの子たちにスライムも倒してもらいましょうよ!私が世話をしますから、連れて帰りましょう!」

レ「確かに、このままこいつらを強くした方が安全で楽か?じゃあ、そのまま狩りを続けてもらうか。」

メ「だめですドーン!」


メィルは突然現れると、ケルベロスに飛び蹴りを食らわせた。もう一匹には回し蹴り。もう一匹にはサマーソルトキック。最後のケルベロスには心臓抜き(コアを抜き取る)。すべてのケルベロスがコアになった。


ヤ「ひどい!何てことするんですか!源さん、急いでコアからケルベロス達を復活させてあげてください!」

メ「はっ!ケルベロスと聞いてついついやっちゃいました。これがコアだよ!早く経験値をどうぞ!他意はないよ!」

レ「いや、他意は絶対にあるだろ。それで、なんでダメなんだ?安全でいい手段じゃないか。」

メ「そんなズルはダメだよ!クリアの過程も大事なんだよ!それに、上の階に透明な敵とか居て不意打ちで自分が死んでもいいんですか!」

レ「いや、細かいところまでは聞いていないけど、ラヴィ様から10階までに出る敵の種類は聞いているから。全部物理なやつだよ。」

メ「だーめーなーんーでーすー!」


メィルは床に寝転がると、子供みたいに背中でぐるぐると回り始めた。相手をするのが面倒で、無視して2階に行こうとしたら、コートの端をしっかりと握られて動けなかった。こんなんでも俺より強いんだよなこいつ。


メ「自分が戦わないにしても、毎回ケルベロスが敵を倒しましたじゃつまんない!代り映えのある戦闘を!」

ヤ「源さん、何か理由があるのかもしれませんし、今回は言うとおりにしてあげましょうか。このまま言い合っていてもきりがないですし。もし理由がなかったら、私たちがメィルちゃんより強くなってメィルちゃんを倒しましょう。えっと、メィルちゃんのステータスを見ると、攻撃力1260か、クリティカルなら攻撃力600もあれば一撃ですね。」

メ「そんなに詳しく!?形無しさんって頭悪いキャラじゃなかったの!?」

レ「ケルベロスがそれだけ可愛かったらしいな。ホテルでも戻ってきたらブラッシングしてあげるんだーとか言ってたし。そういえば、犬関係の本も取り寄せていたな。」

メ「そ、それはごめんなさい・・。でも、あなた達に強くなって欲しいの!本当だよ!」

レ「分かったよ、とりあえずファイアスライムを倒せるくらいのステータスにするか。」


俺達はケルベロスのコアを2個ずつ割ることにした。弥生はいつものように食べず、合掌をしたあと握りしめるように砕いた。俺はそこまで思い入れは無かったから普通にいつも通り叩き割った。


ファイアスライムにダメージ通る攻撃力と、さっきのメィルの話じゃないけど不意打ちの一撃とダメージの蓄積が怖いからHPと防御に結構振った。しばらく、増えたMPで出来ることを試してみると、自分と同じ大きさに分裂するにはMPが100あればできることが分かった。


弥生は変化時にMPを多めに注ぎ込むことで強化できることが分かった。これを機に武器も一新することにした。新装備はスラタンの刃を伸ばして刀にした。


スラタン(刀)とコートを分裂体で作って変化してもらった。弥生はプラスチックのクナイと手裏剣を持つのをやめ、スラクナイとスラ手裏剣3つにし、新たにスラマフラーを装備した。


MPを注ぎ込んだ装備は、見た目よりも防御力があって地球の鉄よりも固いようだ。コートの色はもともと持っていたコートと同じ色にしてもらった。分裂体で作ったと分かるように、武器とマフラーは水色のままだ。スキルを試したりとかしていたら時間が経っていたので、今回はここまでにして、エレベーターで帰ってご飯を食べることにした。


レ「メィルはどうする?」

メ「今日はこのまま帰るよ、お兄ちゃん!嫌な予感がするからね!」


メィルはそういうと、逃げるように転移していった。


レ「じゃあ、俺達はホテルに帰って飯にするか。」

メ「そうですね。今日はほとんど戦闘していませんけど、お腹は空きました。」


俺達はビジネスホテルに向かった。


ケ「こんばんワン、おかえりなさいませワン。ルームメイキングは終わっておりますのでいつでもご利用可能ですワン。」

レ「ああ、ありがとう。まずは飯にしようかと思うんだけど、部屋に戻ったら電話するよ。」

ケ「かしこまりましたワン、こちらがお部屋の鍵になりますワン。」

ケルベロちゃんは、俺に101号室の鍵を、弥生に102号室の鍵を渡してきた。

ケ「ところで、メィルは逃げたのかワン?」


ケルベロちゃんはかわいく首を傾げた。


レ「今日は嫌な予感がするからって帰ったぞ。」

ケ「そうですかワン、あたちに見立てた何かに八つ当たりしたような感じがしたので、確認しようかと思っていたのですがワン。」

レ「ケルベロスの事か?こんな感じで分裂、ほれっ」


俺はダンジョンで作ったケルベロスと同じ様な物を作った。大きさはMPが増えたのもあって1mくらいに大きくした。


ケ「これが地球のケルベロスですかワン?もらっていいですかワン?」

レ「いいけど、何に使うんだ?」

ケ「とりあえず、番犬にしますワン。」


ケルベロちゃんは、ケルベロスを撫でながら、これをあたちだと思って八つ当たりしたのか、覚えてろ。と小声で言っていた。


ヤ「今日は天丼にします!早く部屋に行きましょう!」


腹をすかせた弥生にせかされて、部屋に向かった。俺は広島風お好み焼きを注文した。


夕食を食べ終わると、食器を片付けて弥生は部屋に戻っていった。俺はケルベロちゃんにバスローブを取り寄せてもらい、風呂に入って歯磨きをしてからバスローブに着替えて寝た。


アラームは6時にセット。携帯も充電。おやすみなさい。

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