第二章:一年後の桜
あれからもうすぐ一年か。
ベッドの上でストレッチしながら、レースカーテン越しに見える水色の空に息を吐く。
山下櫻子とはその後、廊下や学校の駐輪場で顔を合わせても、向こうが目を合わせずに挨拶を寄越してこちらも素っ気なく返すような間柄だ。
そもそもクラスも違うのでそんな調子でも学校生活の表面上はさして問題はなかった。
どたりとベッドに倒れ込んで一人ごちる。
「今年は同じクラスなんだよな」
コロナウィルスの影響で三月から休校のまま、新学年のクラス名簿が学校のメールシステムで回ってきた。
二年二組のクラス名簿で“
「やだな」
向こうはそう感じているだろう。そう思うと、胸の奥がまた疼いて見えない血が流れ出す気がした。
*****
あれはゴールデンウィークも開けた辺りだった。
あの日はバレエのない曜日で所属の体操部で定時まで練習をした帰りだった。
駐輪場に向かう途中で女子バスケ部のグループに擦れ違った。
「
「何回言われても声ちっちゃいし、邪魔だよね」
ヒソヒソ声で語り合う内容から、櫻子のことだと分かった。
自分の通う国立大学の附属中学では、彼女のように外部から受験して中学から入ってきた生徒を「外部」と呼んで小学校からの持ち上がりと区別する。
外部の生徒の方が成績等は優秀なことが多いが、どうしてもちょっとした場面で疎外されやすい。
振り返って良く確かめることは出来ないが、囁き合っているグループは自分たち兄弟と同じ小学校からの持ち上がり組のようだ。
恐らくは附属小学校時代のミニバスケ部からの仲間だろう。
ああ、これだから球技とか集団競技系の連中は嫌なんだ。
バレエでも虐めや嫌がらせをする人は個人単位でいるけれど、こういう連中はすぐ徒党を組んで仲間外れを作る。そのくせ「自分たちは明るくてさっぱりした仲間」と信じて疑いもしない。
今、男子バスケ部に入っている同級生にも小学校の頃はバレエやってる俺を「オカマ」とか「ダンサー」とか囃し立てて小バカにしていたのが何人もいる。
櫻子ちゃんは何でわざわざバレエを辞めてそんな連中の仲間に入ろうとしてるんだ。
下手で除け者にされているのに。
五月のどこか湿っぽい緑の匂いが漂う帰り道を自転車で走りながら、自分が陰口を叩かれた本人であるかのように誰とも目を合わせたくない、他人の視野に入りたくない気分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます