第120話 手詰まり。
「……デウス・エクス・マキナか」
『デウス・エクス・マキナ? ご都合主義。機械仕掛けの神がどうしたの?』
「俺達の組織でそれを呼ぶ時。結愛専用の禁じ手のことを言う。今この街は、結愛の手に落ちた」
『えっ、なにそれ怖い』
「あともう一つ。あれも使われたら、流石に俺もキツイな」
『やはは。キツイで済むんだ』
「まぁな」
ここまでしてくるとは。本気で俺と争う気らしい。
さっきから俺が行く先々の信号が赤にされる。
「面倒な」
この時点で、俺が監視されているのは確かだ。
……ん、待てよ。
「奏、すぐに逃げろ……いや、違うな。窓のカーテンを下ろせ、入り口を固めろ」
『えっ? なんで?』
「良いから!」
「潜伏先を特定しました」
「よし。アルファ部隊を向かわせろ、治療は終わっている筈だ。そして、逃げ回ってるガキの方にはオメガ部隊を向かわせろ」
「了解……オメガ?」
「フハハ」
データベースを照合。……装備が完全に非合法だ。拳銃の装備を許可されているのか。
まぁ、この程度なら先輩なら問題無いでしょう。名前負けしてますね。
「アルファ部隊はホテル到着後、受付を無視してそのまま三階です。エレベーターに乗ってください。ロックはこちらから解除します。エレベーターはその後、全て最上階で止めます」
先輩、早く戻ってください。
お願いです。先輩。先輩なら!
デウス・エクス・マキナ。結愛が自分で用意しした、自分専用のパソコンと簡単に紹介できるが。結愛専用というのは、まさに文字通り、扱いきれるのが結愛くらいしかいない。
詳しいことはよくわからないが、結愛の使い心地が良いように作られ、結愛が普段使うハッキング用の諸々がすぐに使えるように準備されていて。さらに、普段使いのタブレットには入りきらない、結愛が今まで発明した諸々が全て入っているとか何とか。
さらに、同時に複数の複雑な処理を可能とし。例えば信号を操作しながら同時に監視カメラを乗っ取ることができる。それをしながらさらに、近くのホテルの顧客データを収集するとかもできる。。
志保が持っていた黒いカードで、セキュリティがしっかりとした駅前の高級ホテルに、志保と奏、そして妹たちは今いる。
もうすでに特定されているだろう。
「そして、俺も、か」
五人か。さっきまでの奴らと雰囲気が違う。
すぐに身を隠す。
たとえ強い奴が送り込まれようと、たとえ、何人用意しようと。
たとえ、装備が強力になろうと。
「こちらオメガ。ぐわっ」
「何者。ぐぁっ」
二人。落ちてた石を顔面にぶつけられ昏倒する。
飛んできた石の方向を見て、二人、向かってくる。一人は倒れた二人の様子を見るのか。
路地裏、すぐには入って来ないか。そうだ。これまでの部隊もこのパターンで倒されている。
だが、それが命取りだ。
奴らは俺が路地裏に逃げ込んだと思っている。
俺がその手前のゴミ捨て場に隠れると思ってもいない。
後ろから近づいてスタンガンを当てる。先に入って行った奴はすぐさま銃を抜くが。味方を盾にされて一瞬止まる。
あぁ、こいつも、そんなに場数踏んでいないんだな。
投げナイフを投げる。狙い通り、銃を持っている腕に刺さる。痛みで銃を取り落としたところを警棒で殴る。
「残り一人」
『オメガ、応答しろ、オメガ』
残り一人、異常を察知したようだが。もう遅い。
彼は、倒れた味方二人を見つけたところで、横から殴られ壁に頭をぶつけ、気絶した。
急げ。ホテルに戻るんだ。
「なるほど。本当に来たね」
志保さんが扉に耳を当てながらそう答える。
「五人、だね」
覗き窓から見て、志保さんはすぐに離れる。
ホテルの部屋は基本的に簡素なものだ。ごちゃごちゃと物があるわけでは無い。
テーブルや一人掛けのソファーを運んで扉を抑えた。でも、頼りない。
ここは三階。窓から来ることは無いとは思うが、警戒したい高さだと、思う。
わからない。史郎君、いつもこんな風に色んなことを考えているのか。
「志保さん、姉ちゃん、音葉、私の後ろに」
「花音。あなた」
「あたしは、戦える。姉ちゃん達と違って」
「……花音」
花音の目が、史郎君みたいになっている。
覚悟を決めた目。何が何でも、守り切ることを決めた目。
「……わかった」
敵がどうやってここまで侵入してきたかわからない。高級ホテルとは、プライバシーを徹底しているという。
カチッと、ロックが解除される音がした。
花音が、構える。
ホテルの扉は内開き、つまり、ちゃんと押さえておけば、と思ったのだが。
大の男が三人で押せば、ズリ、ズリっとソファー二つ、テーブルが押されて、人が通れるスペースができる。
そこに入って来た男、既にスタンガンを構えている。
「オラぁっ!」
その顔面に、花音の膝が叩きこまれる。
「もういっちょ!」
そのまま倒立の勢いを利用した蹴りが顎を打ちぬいた。
「はい、一人目。五人だっけ。大したことないね。史郎兄ちゃんより弱いよ」
一人目が倒されたことで、残り四人は入ってくるのを躊躇する。
「史郎お兄さん、そのまま駅前通りを走るのが近い」
『はいよ』
音葉の計算力で地図上の位置から行きたい場所への最短ルートを割り出し、私はその行動に対する結愛ちゃんの手を予想する。
結愛ちゃんはきっと監視カメラから生の情報を得ているだろう。そこに私は、二人で対抗する。
ほぼ想像でどうにかしているが、そこは史郎君が現場判断と経験則でカバーしてくれている。
「結愛ちゃんは、恐らく、もう殆ど手は無い筈」
『だよな』
「史郎君の組織の人じゃないんだよね。さっきから送り込まれているのは。ということは、志保さんを捕まえたいという人は、史郎君のところの組織の手を、なるべく借りたくない」
信用していないか。なるべく自分たちの手柄にして、後で分け前を主張されたくないか。
そして、その手の人は、プライドが邪魔して、思い切った手を、段々打てなくなる。
『よし。着いた』
「入り口前。階段の方が早いと思う」
『俺もそう思う。結愛なら、エレベーターを全部最上階で止めるくらいはしている』
そして、一分後、扉の前で呻き声が四つ聞こえた。
「花音、開けてくれ」
「う、うん」
「よく頑張ったぞ、それ、花音がやったのか?」
「あぁ」
「よくやったぞ」
さて、ここからどうしよう。
電車で移動するのが妥当か。
「そういえば、社長の方の車はどうした?」
「残念ながら既に、朝倉邸の方についています」
「なるほど、そちらを攻めるのは手間だな。やはり、娘の方に注力して正解だったか」
史郎先輩の狙いの片方は達成されたか。
その情報は既に先輩も確認しているだろう。となると、予想できるのは、再び襲撃をかけた場合、車を強奪される恐れがあるということだ。
「私が現場に出ては駄目ですか?」
「そうだな。こうなった以上」
「ちょっと待て。勝手に決めるな」
「しかしこうなった以上、彼女の手は必要です。車を強奪された場合、有効な止める手段を提示できますかな?」
「ぐっ」
タイヤを撃つ。車を衝突させる。色々あるが、それは街中でできることではない。
「彼らの移動手段を制限しつつ、止められるのは私だけです。室長」
「あぁ、ミストルテインは用意させている」
「了解」
デウス・エクス・マキナを一度片付け、私の最終兵器を受け取り、車に乗る。
史郎先輩が恐らく次に向かうである場所。そこを狙撃するのに一番のポイントへと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます