第6話 異世界の美女あらわる! ①

 ともあれ、どうやら命は助かったらしい。


 木材を組んだだけの簡素なベッドの上で、カイトは正座を組んで俯いていた。

 強要されたわけではない。険しい顔を向けてくる女性に反抗の意思がないことを示そうと、カイトが無意識にとった姿勢である。そろそろ脚が痺れてきた。


「いいか。もう一度訊く」 


 こじんまりとした殺風景な部屋。カイトの目の前には二人の女性がいた。


「名前と所属を言え。これは軍令だ」


 一人は、厳しい声でカイトに詰問する金髪の女性。二つの碧眼は蒼穹を宿したように澄んでいるが、その目つきは鋭利な刃物のように鋭い。仰々しい純白の甲冑を着込み、腰には長剣を帯びていた。


「名前は伊勢カイト。所属とかは、多分ありません」


 何度目になるかわからない答えを口にする。

 目を覚ましてからというもの、ずっと同じ質問を繰り返されている。最初こそ戸惑っていたカイトであるが、流石にそろそろうんざりしてきた。


 それは女性の方も同じようで、激しい苛立ちを隠そうともしていない。強かに机を叩きつけられ、カイトはびくりと身体を震わせる。


「誤魔化すのもいい加減にしろ! 我が軍にそんな名の兵士はいない!」


 彼女の語気は一息ごとに強くなる。その度、カイトは頭を下げた。


「何故あの場所にいた?」


 答えられない。


「野戦の真っ只中に、剣も鎧もなしに出る馬鹿がどこにいる?」


 一人、ここにいる。


「挙句の果てにマナ中毒だと? お前に後衛術士がいるとするならば、一体どれほどの間抜けなのか!」


「そんなこと言われたって、俺だって何が何だか」


 あの戦場にいた理由はカイト本人が一番知りたいことだし、マナ中毒とやらも知らないし、まして後衛術士など聞いたこともない。


「落ち着いてくださいクディカ。そのように大きな声で責め立てては……ほら、彼も委縮しています」


 椅子の上。たおやかに座るもう一人の女性が、金髪の女を嗜めた。


「危篤状態から回復したばかりなのです。可哀想ではありませんか」


 彼女は柔和な微笑みを浮かべつつも、どこか困ったように眉尻を下げていた。

 ゆったりとした臙脂色の法衣に身を包んだ彼女は、深い翡翠色に染まる長い髪を一房に編んでいる。緋色の瞳を縁取る長いまつ毛も、少し太めの眉も、頭髪と同じ色彩だ。


 日本人離れした色合いに多少の驚きはあったが、それはすぐそこはかとない嬉しさに変わった。異世界らしい美女の姿に、ちょっと、いやかなり感動した。


「リーティア。お前も言っていたではないか。魔族が間者を用いることもありえなくはないと。この男がそうでないと言い切れるのか?」

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