第7話 異世界の美女あらわる! ②

「少なくとも、彼には害意を感じません」


 高圧的なクディカとは対照的に、リーティアは極めて物柔らかな印象だった。優しげなたれ目と、整った鼻筋に乗った眼鏡が、特にそう感じさせるのかもしれない。


「カイトさん。あなたは、どこからいらっしゃったのですか?」

 安心させるような声色で語りかけるリーティア。それだけでこの場の緊張が少し和らいだ気がした。


「俺は」


 言いかけて、言葉に詰まる。異世界から来たと言って、はたして信じてもらえるか。異世界からの訪問者が認知される世界なのか。

 目の前の女性達が信用に値する人物なのかも定かではない。まずはこの世界の情報を集める方が先ではなかろうか。


「……わかりません」


「またそれか」


 クディカが苛立ちの吐息を漏らす。


「いいかイセ・カイトとやら。我々はマナ中毒で死にかけていたお前を助けたのだ。にも拘らず素性すら明かさぬとは、実に誠意に欠ける振る舞いだとは思わないか」


 カイトは何も反論できなかった。彼女の言う通りだ。


 代わりに口を開いたのはリーティアである。


「中毒の影響で記憶が混濁しているのかもしれません」


「そんな都合のいい症状があるか。この男が意図的に隠していることは明らかだろう」


「クディカ、あなたは取り乱しています。少し落ち着いてください」


「なんだと? 私はこれ以上ないほど冷静だ」


「いいえ。あなたについて私が間違えたことがありますか」


 眼鏡の弦をくいと上げて、リーティアははっきりと言い切った。


 クディカは不服そうに腕を組む。


「ともかく! こいつの身柄は捕虜として扱うぞ。得体の知れない男だ。戦況が落ち着くまでは牢にぶち込んでおく」


「そこまでする必要はありませんわ。言ったでしょう。害意は感じられないと」


 リーティアの言葉に、クディカが呆れたように息を吐いた。


「害意のあるなしは関係ない。身の潔白を証明できないことが問題なのだ」


 クディカの声には芯があり、佇まいには圧力さえ感じる。とんでもない美人であるということが、余計に威容を際立たせていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 カイトはやっと正座を崩した。なんとかベッドを下りるも、長時間の正座で脚が痺れてしまい、勢い余ってたたらを踏んでしまう。


 その行動がいけなかった。


 目にも留まらぬ速度で抜かれたクディカの剣が、カイトの首筋にぴたりと触れていた。


「な……あ……っ!」


「妙な真似をすれば殺す」


 その声は真実の響きをもってカイトの背筋を凍らせた。鋭利な眼光も、ひんやりとした刃の感触も。決してこけおどしではない。

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