第40話 自責と祈り
日明は脳震盪と、胸と足の打撲と擦り傷ですんだ。しかし、一応念のために日明は脳に異常がないか見るため、そのまましばらく入院することになった。
次の日、警察や先生が入れ替わり立ち代わり日明のもとに来て、事情を聴いた。学校では、生徒が無免許運転、しかも大事故を起こしたということで大騒ぎになっていた。マスコミにも話が漏れ、地元の地方紙にも大々的に載ってしまった。学校側も隠ぺいすることもできず、対応にてんやわんやだった。そして、日明はまだ未成年であったし、隆史は重体。大人たちはこの事故を越した当事者二人に対しても、どう対処していいものか悩んだ。
だが、そんな大人の事情など知らない日明は、次の日も看護婦の隙を見て病室を抜け出すと、隆史の様子を見に、集中治療室に向かった。
日明が集中治療室に辿り着くと、そこにすでに誰かが立っていた。
「・・・」
隆史の母親だった。隆史の母は何と言えない、不安と悲しみで今にも壊れてしまいそうな、そんな、見ている方が心をえぐられるような何とも危うい表情でガラスの向こうの横たわる隆史を見つめている。日明は子どもの頃から、隆史の母を見ているが、あんな顔を見るのは初めてだった。いや、隆史の母だけではない。他のどんな大人も同級生たちもそんな表情をしているところなど今まで見たことがなかった。日明は、そんな隆史の母親の顔を見ていると、胸をえぐられるような気持ちになった。
「・・・」
日明は合わせる顔もなかった。日明はその場から静かに背を向けた。自分のせいだった。自分のせいで・・。
「・・・」
日明は病院の屋上に立っていた。日明が見た隆史の母は、一晩で十年も老けこんでしまったみたいだった。
「俺がとっさに左にハンドルを切ったからだ。それで俺が助かって、隆史が・・」
どうしてもドライバーは、無意識に自分を守ってしまう。そのせいで助手席の隆史が犠牲になってしまった。
「俺が・・、俺が・・」
日明は、頭を抱えた。それに、そもそも日明が無理に隆史をドライブに誘ったのだ。
「助かってくれ、助かってくれ、隆史。隆史っ」
その日の夜、眠れぬ日明は病院のベッドの上で祈った。
「隆史に何かあったら・・」
そう考えると、日明の目の前は真っ暗になった。
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