第十七話 玉ちゃんの放課後補習
☆作者コメ☆
はい、こちらでは初めて現れました観鯨タルです。長期間開けてしまい申し訳ありません。また少しづつ再開していきたいと思います。よろしくお願いします! それではどうぞ!
☆★☆
勉強会後の一週間。俺と詩は昼休みは体育館裏、放課後は図書室で二人勉強をした。
詩は自信がないと言う割には案外物覚えが良かったため、スムーズに教えることができた。教えたことはすぐに理解し、応用問題なんかもしっかり自分で考えて、答えを導き出していた。
はっきり言って、詩は一人で勉強してもかなり高い得点を叩き出せると思う。それくらいの才能が彼女にはあった。いや、もうそれは羨ましいくらい。
じゃあなんで俺に勉強を教えてほしいなんて言ったんだ? と俺は疑問に思ったが、俺はすぐに詩の過去を思い出し、察した。
恐らく、勉強出来る状態じゃなかったのだろう。
「………俺と一緒……か?」
そして今日はさらに一週間が経ったテストの返却日。思わずぽつりと呟いてしまった俺は教室の窓の外に目を向けている。
過去の俺も似たような状況があった。というか、まんま一緒なのかもしれない。だから俺は詩に『何か』を感じてしまったのだろうか?
「テストを返すぞー」
教壇に立った現国の男性教師(ムキムキ)の声を聞き流しながら、俺はぼんやりそんな事を考える。梅雨は終わってしまったのだろうか、窓の外を見やるが、もう雨が降る気配はどこにもない。見える景色はただ青く澄んだ、雲一つない大空だ。
そう言えば、詩のテストはどうだったのだろうか? 今頃彼女も隣のクラスでテストを返されているはずだ。テスト後の彼女に調子はどうだったか聞いたが、本人は不安で仕方ないらしい。俺に言わせれば、テスト前の最後の確認で俺が彼女にテストを出したが、文句の言いようもないくらいの成果を出してきたので、自信を持っても大丈夫だと思う。おそらく彼女はクラスでも上位の方に食い込んでくるだろう。
「おーい十坂ー、おまえだぞぉー」
「えっ……あぁ、はい、すみません」
呼ばれていることに気づかなかった俺は慌てて前へと出る。途中、呼ばれた一回目で取りに出なかったせいなのか、最近やけに詩と一緒にいるせいなのか、どっちにしろ変に注目を集めてしまう。しかし……
「(…………なんか……慣れたな)」
人とは恐ろしいもので、嫌だったことでも時間が経てば慣れてしまうこともあるという。でもこれは俺にとって必要なことだった。詩と一緒にいれば必ず注目を浴びることになる。ほんの二週間前はかなり動揺したが、今では少し緊張するくらいで、表情には出なくなった。傍から見たらクールな男に違いないだろうそうであってくれ(願望)。
「(……十坂くんってさ、なんか前と雰囲気違うよね)」
「(……う、うん、髪を切ってから分かったけど、なんか……可愛い……というか、かっこいい……というか……)」
前に出る途中で、通りかかった近くの席の女子たちの話し声が耳に入る。
「(……そうそう、髪で見えなかった目とか切ってきてから初めて見た気もするけど、私意外とタイプかもしんない……!)」
「(……私もちょっと気になるかも……)」
自分のことを話題にしているみたいだが、別にこの髪型が不評と言う訳では無いみたいなので取りあえずは安堵する………ってのを二週間前にもした気がする。まぁ、変じゃなければ全然いい。
歩を進めて教壇へと辿り着き、先生と向き合う。心做しか先生の表情が柔らかい。
「うむ、よく勉強しているな十坂。クラストップおめでとう」
「え」
そう言って返された解答用紙の右下にはデカデカと書かれた『100』の文字。だが、今回の現国のテストには自信があったのでそこには驚かなかった。
俺が驚いたのは『クラストップ』と言うところだった。
……あれくらいのテストなら何人か満点取っててもおかしくないと思うけど……。
「……えっと先生、何かの間違いではないでしょうか……?」
「うん? いや、間違いなんて一つも無かったぞ、寧ろ完璧な解答で先生は泣きそうだったぞ……!!」
おまけに字もキレイだしなっ……! と先生は俺の肩に手を置いて嬉しそうに涙を流す。
いや、泣くなっ! アンタ見た目がクッソゴツいから泣いてると正直気持ち悪いんだよっ!!
――ちなみにこの先生、見た目の割に字が小さくて、とてもキューティクルなのである。
……って、俺が言いたいのはそこじゃなくてっ……!
俺は慌てて先生の手を跳ね除ける。
「お、俺の他にも満点の人はいると思うのですが――!」
「うん? いや、このクラスにはいなかったぞ? 惜しいやつはいたけどな………あとは――」
そう呟いた途端、つい先程まで『教え子の成長を喜ぶ教師』のようだった先生の顔がまるで『えっ!? なんでこの先生鬼瓦の面かぶってるのっ!?』と言いたくなるような顔へと、ぐにゃ、と変わる。もう一度言っておこう。『鬼の面』じゃなくて、『鬼瓦の面』だ。あの対子供用に作られた物とは訳が違う。先生のゴツさも相まって、近くで見てしまった俺は顔の血の気が引いていくのを感じていた。
「………か〜なりヤバいやつも………いたなぁ………?」
そしてその鬼の形相で俺のうしろを睨む先生、思わずつられて俺もうしろをゆっくり振り向くと……――。
『…………ごくりっ……!』
――そこには怯えた表情で冷や汗を流し、生唾を飲み込んだであろう玉ちゃんこと夢見咲さんがいた。今にも泣き出しそうである。
「せ、せんせ……? 私まだテスト返ってきてないんですケド……?」
「あぁ、そうだな…………しかし、俺はお前の答案を知っている……そしてお前も自分でわかってるんじゃないか……っ?」
「ふぎゅっ!?」
鬼の形相をしたムキムキ先生(名前覚えてない)の口から放たれる低い声は、まるで鋭い刃のような冷たさを帯びていた。心臓の弱い生徒なら軽く気絶してしまうだろう。
………いや、なんでこの人を教師してんだよ殺し屋の方が天職だろ絶対。やったらあかんけど。
というかこの状況はまさに『蛇に睨まれた蛙』。おそらく、夢見咲さんは放課後補習の刑になるだろう。さらに、夢見咲さんが部活をやっているなら、顧問の先生にも説教を受けるという特典ももれなく付いてくる。俺からしたら非常に解せない。ただでさえあのムキムキさん(先生)が恐ろしいと言うのに、その後また叱られるなど、俺ならば放心状態になる自信がある。ついでに周りからも視線も少し変わってしまうだろう。まぁでも、夢見咲さんの場合はすでに彼女の人柄がクラス全員に知られているので『ドンマイ』的な意味の視線になりそうだ。俺もこの二週間、少しクラスの雰囲気を
………正直そこしかわからなかった。
しかし、まさか入学最初のテストで蹴る人を見るとは思わなかった。しかもうちのムードメーカーだとは。なんとなく出来るタイプのやつだと勝手に思い込んでいた。
「(………まぁ、どっちにしろドンマイだな)」
俺は受け取っていたテストを綺麗に折って、心の中で夢見咲さんに励ましの言葉を呟いてから、自分の席に逃げるように戻――。
「夢見咲! 貴様は放課後補習決定だ! 次のテストまで十坂に教えを説いてもらえっ!」
「「……………………………は?」」
なんで俺!?
☆★☆
「…………という訳で、宜しくね十坂くん!」
「何故だ………何故こうなった………!」
放課後である。俺と夢見咲さんは教室に残り、お互いの机を対面でくっつけて座っていた。結局俺が教えるということになったのだ。
……いや、勿論俺も先生に聞いたよ? 「なんで俺なんすかっ!?」って。そしたら先生、「俺も忙しいし、お前なら同じクラスメイトなんだから別に問題ないだろ? 部活も入ってないみたいだし、毎日じゃなくて良いから、取りあえず今期の期末試験まで世話してやってくれ」だとさ。
………いや、長いわっ! 何か「取りあえず」だ! 取りあえずの長さじゃないだろ! 一ヶ月ちょっとあるぞ!! 完全に面倒事を押し付けてるだけだろっ!! あと、「クラスメイトなんだから別に問題ない論」やめろっ! 俺が傷つくわ!!
対面に座る夢見咲さんに気づかれないように心の中で先生に愚痴る。たまに表情に出ちゃうときあるから気をつけなければならない。
取りあえず、これからどうしようか………教えるったって、どうやって教えたらいいのか………
「ねぇ、十坂くん。十坂くんっていつもどんな風に勉強してるの?」
「ん?」
俺がどうやって教えるべきか悩んでいると、反対側の机から少し身を乗り出して夢見咲さんが聞いてくる。その際、彼女の大きなたわわが机の上に乗るような形になったの慌てて視線を反らす。
「いや、だからどんな風に勉強してるのって」
「………現国は特に注意して勉強したことないぞ………?」
だから、どう教えればいいか分からないのである。
「……………………まじ?」
「うん」
うん、なんかごめんね。
「…………これが、『才能の差』、なの……?」
「ごめん俺が悪かった俺が悪かったから戻って来て夢見咲さんっ!」
軽く放心状態になった夢見咲さんを慌てて呼び戻し、これからどうやって勉強しようか二人で考えることに。
「…………そうだっ。夢見咲さん、今回のテストの結果見せてよ」
「えっ!? 嫌だよっ!? 恥ずかしいじゃんっ!?」
「いやでも、それ見ないと何処が苦手なのか分かんないし………」
「………ん〜〜〜っ!! でも嫌だっ!!」
「うぇえ………」
これは弱った。弱点が分からないんじゃ何を教えていいか分からない。先はとても長そうだ。どうしよう………。
そう悩んでいたときである。
いきなり教室のドアがガラガラッと開き――。
「――十坂くんっ! 見てくださいっ!! 私、こんな点数とれちゃいましたっ!! これも十坂くんのお陰………で………」
少し興奮状態の詩が教室に入ってくる。そして、机を引っ付けて向き合ってた俺と夢見咲さんを交互に見ると、胸のあたりでテスト持っていた腕をダラリと下げ固まった。
「何………してるんですか………?」
え、ちょっ怖い怖い怖いっ!?
詩の目からハイライトが消え、口から放たれた低い声に思わず背筋をビクッ! と震わす。ムキムキ先生とはまた違った怖さを持っていた。あれが女の怖さなのだろうか……?
すると、教室の入口に立っていた詩がゆらゆらと近付いてくる。勿論、俺めがけて。
ひ、非常にヤバイっ……! がしかし、逃げ道などない。
諦めて俺は目を瞑る。だが、いつまで経っても詩の怒声や痛みは来なかった、なんなら背中に何か柔らかい感触がある。
恐る恐る目を開けると、ぎゅっと俺の首周りに腕が回される。その腕の元を辿ろうと横を向くと、すぐ近くに詩の顔があった。
……………。
…………………………。
………………………………え、なんでこうなった?
「十坂くんは、私の友達です!!」
まさかの後ろから抱きつかれた俺は勿論、困惑状態。あの状況から抱きつかれる意味が分からない。しかし、決して嫌な訳ではない、嫌な訳ではないのだが………。
「(か、香りと感触がヤバイっ……!?)」
肌荒れと言う言葉をまるで知らない詩の整った顔は、もちもちの乳白色の肌にほんのり紅みを指していて非常に魅力的だった。やはり、ぷにぷにと触りたくなってしまう。
がしかしっ!! 今はそっちより、背中の感触の方がやばいっ!! お願いだから詩! 早く離れてくれっ!!
気持ちとは裏腹に、言葉に出来ない俺は一人、二人の女の子の前で理性と戦うのだった。
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