第十話 好敵手あらわる…?
――タンタンタンタンッ。
俺は今、非常に焦っている。
え? なぜかって? あ、それがですね聞いてくださいよ。
俺、川瀬さんとお昼一緒にいたじゃないですか? え? いやいや、お弁当食べてるときじゃなくて、そのもう少し前ですよ。
――川瀬さんと手をつないで各クラスの前を全力疾走したときのことですよ。
いやーもうね、お昼休み終わる直前に教室に帰ろうとしたら周りからの視線がすごいのなんの、身体に穴が空くかと思いましたよ。(川瀬さんは気にした様子はなく、ニコニコしていた。めっちゃ幸せそうだった)
――タンタンタンタンッ。
え? そのタンタンってなんの音かって? あ、これはですね私(俺)が履いているスリッパを床へ叩きつけてる音ですよ。ん? なんでそんなことをしているか? ははっ、そんなの決まってるじゃないですか〜。
――今、終礼中なのに、教卓に立って話している副担の
…………もう、状況わからん過ぎて頭おかしくなってきてる。
クラスの方々が俺に視線を投げてくるもんだから、俺がどこを見ていいか分かんないんだよね、ずっと窓の外、見るしかないんだよね。お陰さまで変に落ち着けず、思わず足をタンタン。つか副担、話しなげぇ。
――タンタンタンタンッ。
午後の授業の合間にある休憩時間はトイレの個室に逃げ込み、なんとか難を逃れていたが………放課後はそうは行かないだろう。
おそらく、終礼終わったら昼休みのこと洗いざらい聞きだされる………やだ怖い。すぐに帰ってやろっ(←先生に呼ばれてる人間)。
というか担任どこ行った。人呼んどいて終礼来ないのかよ。
………まぁ、本当の意味で放課後じゃないのはわかってたけど……。
しかし、これは月曜日から学校に来るのが
――いや、毎日日光(人の視線)浴びてる川瀬さん、マジぱねぇっす(尊敬)。
………だめだ、今日の俺はやはり調子を崩している。初日から日光(人の視線)浴び続けて、頭が混乱してる。もはや深夜テンション。
うん、とりあえず終礼が終わったら速攻で教室からオサラバしようそうしよう。今の俺ではまだ、この空気に耐えることは厳しそうだ。土日しっかりと休んで月曜日に備えよう。帰る準備は………うん、完璧だ。行ける……!
「――……え〜、では皆さん、今日もお疲れ様でした。これで終礼を終わります」
よしっ! 学級員はやくっ!
「きりーつっ、れーい」
「「「ありがとうございましたぁ」」」
――ガタンっ。
俺はすぐに椅子を直し、肩にリュックをかけて教室を後にしようと廊下にで……――。
「とぉ〜さぁ〜かぁ〜くぅ〜んっ」
――……ようとしたところで、後ろから肩を掴まれ、思わず身体を震わす。
………後ろ振り返りたくねぇ。
だが、ここで無理に振り払うと悪目立ちしてしまうだろう。川瀬さんの隣にいるの決めたのだから、彼女の枷になるようなことは絶対にしたくないし、させない。
……ここは覚悟を決める必要があるようだ。
俺は頬に冷や汗が走るのを感じながら振り返り、肩を掴んできた張本人に向き合う。
そこにいたのは、クラスの女子の――。
「…………えーとっ、誰だっけ?」
「ええええええっ!?」
いくら思い出そうと頭を捻っても名前が出てこなかったので、諦めてその女子に聞いてみると、素っ頓狂な声をあげられる。あまりにも大きな声だったので、その声が廊下にまで響いてしまう。
ちょっ! 耳つぶれるっ!?
「ほ、本気で言ってる!? 同じクラスになって二ヶ月くらい経ったよね!?」
「う、うん、ごめん。人の顔と名前を覚えるのは、あまり得意じゃなくて………」
「え………じゃあ、クラスの中で名前を覚えている人は?」
「え〜………っと…………」
「………………」
対面した女子は額に手を起き、やれやれ、といった感じで首を振った。
うん、絶対呆れられてる。だってしょうがないじゃん、覚えらんないんだもん。
彼女の後ろを見れば、他のクラスメイトも、まじかよこいつ、みないな目で俺を見てくる。
………帰りたい。
「………まぁ、いいわ。私は
某国民的アニメに出てきそうなあだ名を提案してくる夢見咲さん。簡単に容姿を説明すると、彼女は髪をポニーテールにまとめ上げ、スラッとしたスポーティーな身体つきをしている………が、その身体にのる双丘は、かなりのものと見れる。
――つまりは、でかいってことね。
これだけでなんとなく想像出来てしまう貴方は、やはり男としての煩悩がある証拠。誇っていいぞ。
俺が頭の中で訳の分からない説明をしていると「ちょっと、十坂くん聞いてるの〜?」と少し怒った様子の夢見咲さんがズイッと近づいてきて、俺の顔を覗き込んでくる。そんな彼女の行動に、俺は思わず半歩後退り、視線を彼女から外す。
――前かがみの姿勢となったことによって、彼女の母性の塊がチラリと、シャツから『こんにちは』していたからである。
やはり、どうしてもそこに目が行ってしまうのは、男の
「と、そんなことより十坂くん。ちょっとクラスを代表して貴方に聞きたいことがあるんだけど?」
そんな俺のがんばりを知らない夢見咲さんは、気にした様子はなく俺に追求してくる。
「あ、アァーゴメンネー、ボク、急イデ帰ラナイトイケナインダ――」
「先生に呼ばれてるのに?」
「……………ソ、ソウ。ダカラハヤクイカナイト……」
「でも先生、終礼に来てなかったし、用事があるんじゃない? 少しくらい遅れても大丈夫だと思うよ?」
「……………」
やばい………完全に退路を断たれた……どうしよう………。
夢見咲さんは何故か、ニヤニヤとした顔で更に顔を近づけて「さぁ、吐け!」みたいな感じで迫ってくる。怖ぇ…!?――
「――十坂くん?」
――不意に、最近ようやく聞き慣れた声が、後ろから俺の名を呼ぶ。
え? と思い、振り返って見るとそこには案の定、川瀬さんがいた。
そして俺は、半歩下がったことにより、身体が廊下に出ていることにようやく気づく。
川瀬さんはしばらく、俺と夢見咲さんに目を往復させると、突然ムスッとした顔をする、しかも今回は、ぷくーっと右頬を膨らませ始める。
ど、どうされました………?
「十坂くんっ、近いですっ」
すると、川瀬さんが近づいてきて、ずいずいと俺の腕を引っ張り、自分の腕に俺の腕を絡まらせてくる――。
――いやいや、ちょっとまてなんでそーなる!?
「ちょ、川瀬さんっ!?」
「ほほう……」
俺が驚嘆の声をあげ、夢見咲さんが何故か珍しい物を見るような目で川瀬さんを見つめ、小さく声を零す。
そして、教室内から響く男子からの怨嗟の声と、女子からのお幸せに! コール。
………いや、まじでなんでこうなった……。
隣で俺と腕を絡ませている川瀬さんを見やると、小さな子犬が自分の縄張りを守るように、がるがるっ…! と俺の前に立つ夢見咲さんを少し前かがみに威嚇していた。
夢見咲さんは余裕そうな表情を浮かべ、そんな川瀬さんを見下ろす。
俺はそんな二人を見て「はぁ……」と溜め息をつくしかなかった。
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