第九話 勉強……会?

「………ん、そういや今日からテスト期間か……」

 


 ――ビクッ!

 

 

 俺が何気なくつぶやくと、隣から肩を跳ねさせる気配を感じる。

 隣を見やると、ぷいっ、と顔を逸らす川瀬さん。

 あ、そういえば勉強が苦手とか言ってたな。

 ……これは口を滑らせてしまったかもしれない、話題を変えたほうが良さそうだ。

 

 

「あ、あ〜………き、今日は天気がいいねっ………」

 

「そ、そうですねっ……」

 

 

 ………うわ出たよ、話題を逸らそうとして、天気を気にし出すやつ。ヤバいくっそ恥ずかしいんだけどっ。やらかした感が半端ない。

 思わず頭に手をおいて、息をはく。

 

 確かに、昨日今日と晴れが続いているが、まだ梅雨が明けた感じではない。また降ってくるだろう。

 

 しかし、ろくに友達を持っていない俺はどのような会話して、どのように話題を出すかなど知らない。友達との距離感なんかも分からない。先の弁当のことなど、あれは友達同士でもやるのだろうか……………いや間違いなく男同士ではやらないよな、てかやりたくねぇ。

 

 というか話題話題。さて、どうしたものか………

 

 何かいい話題はないかと「ん〜……」と冷や汗をかいて、頭を捻らせている俺に「あの〜……」と控えめに川瀬さんが声をかけてくる。

 

 

「ん、なに?」

 

「と、十坂くんって勉強は得意だったり……します?」

 

「んー、まぁ人並みには出来ると思うけど……」

 

「………大体どのくらいでしょう?」

 

「中学のときは、校内で三十位以内くらいをキープしてたかな」

 

「たかい!!」

 

 

 え? そうかな、普通くらいだと思うぞ?

 学校で習ったことを、家に帰ってから簡単に復習するだけだからな。あと寝て覚える、睡眠は大事。金曜日はたまに夜ふかしするけど。

 

 

「わ、私は勉強が苦手で………いつも下の方だったので………たかいですっ」

 

「そ、そうだったんだ………ありがとう……?」

 

 

 …………めちゃくちゃ反応しにくいな。


 

「あ、あの、十坂くんっ」

 

「うん?」

 

「私に勉強……教えてくれませんか……?」

 

「え、別にいいけど」

 

「ほ、ホントですか!」

 

「うん、減るもんじゃないし、俺も勉強できるし」

 

 

 俺も復習できるので、川瀬さんの役に立てるなら一石二鳥だろう。まぁ、俺に教えることが出来ればだけど。

 

 

「でも、どこでやろうか」

 

「十坂くんの家でしましょうっ」

 

「え」

 

 

 ………ゑ。

 

 

 …………聞き間違いだよな?

 

 

「ど、どこでしましょうか?」

 

「十坂くんの家でやりましょう!」

 

 

 ……ここは聞き間違いであって欲しかった。

 思わず敬語になってしまったが、どうやら聞き間違いではないらしい。

 

 

 ………だ、大胆だなぁ……川瀬さん………

 

 

「(十坂くんの………手料理が……っ!)」

 

「うん?」

 

 

 なんだか知らないが、川瀬さんが決意に満ちた目をして、小声でとんでもないことを口走っている気がする。

 そして、その目で俺を見てくる。

 え、なに………なんか怖いんですけどッ………!

 

 

「明日、十坂くんのっ、手料理食べさせてくださいっ!」

 

「絶対そっちが目的だろっ!?」

 

 

 めっちゃ目をキラキラさせながら、遂に本音らしきことを口走る川瀬さんに思わず怒鳴ってしまうが、川瀬さんは気にせず「そこをなんとかっ……!」と言った表情で懇願してくる。


 うん、もう完全に目的変わってる。そんなに美味かったか?

 

 というか明日土曜日じゃん。え、じゃあ今日俺んちまで案内しないといけないの? まじで? 他のとこじゃ駄目なの?

 

 

「えーと、流石に俺んちはヤバいから他のところに……」

 

「ダメですっ!!」

 

 

 きっぱり断られる。

 

 

「ど、どうしてでしょうか……?」

 

「十坂くんの手料理食べれないじゃないですか!」

 

 

 んー、なんか川瀬さん、ヤケになってない? そんなに食べたいの……? というかもう絶対頭の中に『勉強』のべの字もないよね?

 

 俺は「はぁ……」と溜め息をつく。どうやら勉強会は俺の家で決定っぽい。

 

 でも、友達との勉強を家でやるのは、それはそれでいいかもしれない。実に友達っぽくて。

 

 まぁ、川瀬さんのためだと思えばいいか。

 

 

「………分かったよ。じゃあ今日の帰りに俺の家まで案内するから、青時雨の前で待っててくれ」

 

「(やった……!)わかりましたっ……!」

 

 

 小声で何か呟いて、とても嬉しそうな川瀬さんを横目に、俺はまた溜め息をつく。

 

 

 どうやら俺は、学校の『高嶺の花』の胃袋を掴んでしまったらしい。

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