【オンライン】314話:勝負と試合と勝敗の価値(22)




〈それで、お姉ちゃんは何がしたいの?〉


「もう~最近冷たいぞ。お姉ちゃんに甘えていた頃のスノーは何処に行っちゃったのかしら。寂しくって悪戯をしに毎日通いたくなっちゃうな」


 お姉ちゃんの甘い声が僕の体を凍り付かせていく。


「ちょっとお姉様はさ、スノーを氷漬けにしたいの?」


 何とか突き放そうと、お姉ちゃんの頬を一生懸命に押し返そうとしてくれているけれど、シュネーの力では敵わないようで、逆に僕とお姉ちゃんに挟まれてしまっている。


 元々、僕等では筋力的に最弱なんだから負けちゃうのは当然なんだけどね。


〈本題は~?〉

「は~い、もう少しスノーちゃん成分を取り込みたかったんだけどな」


〈僕は栄養ドリンクじゃあないんでね〉


 良いから早く話を進めて欲しいと半目がちに睨むと慌てたように取り繕い、ワザとらしく咳をする。


「まぁちょっとした話し合いよ。最終日である今日が終われば私達って居なくなるじゃない。このペースで行けば私達の勝ちは揺るがないけど」


 流石にお姉ちゃん達が本気になってからというもの、お客さんの数は徐々に離されていくばかりで、全然追い付けそうにはない。


「話し合いって。最終日なんだよ音姉。なんの話をするんだよ」


「そりゃあお疲れ様会的なものよ。この企画に参加してくれたメンバーや、設備提供に建設等に関わってくれた人達の労いを込めてね。敵味方は関係なく無礼講で盛り上がろうっていうお話よ。サプライズなんかあったら面白いでしょう」


〈いやお姉ちゃん、いまはまだ一生懸命に競い合ってる最中なんだからね〉


 今日が最終日って事で、テントの方もう牧場でも大いに盛り上がっている。


 派手さはないけれど、今できる最高のパフォーマンスをしようとアイドル達も魔法を駆使した演出をしながら、歌って踊ってを繰り返し、お客さん達と一緒になってテントの周りでも会場全体が熱気に包まれているのが良く解る。


「私達の出来る事はもう無いのよ。この舞台は後輩や新規生の為に用意したんだから、最後くらいは私達抜きでやり遂げて貰わないとね。今後の成長にならないでしょう」


「シャープ令嬢には踊らされっぱなしで、拙者達の方は疲労困憊なんだな」


「無茶振りに答えた俺達を労ってくれるっていうなら、まぁ乗らない事はないけどさ。絶対に最後の最後まで俺達に何かをさせる気だろう」


 ガウとティフォが若干引き気味で、疲れた表情を隠そうともせずに二人がそっと僕を救出して、何とかお姉ちゃんから遠ざかる事が出来た。さっきお姉ちゃんがサプライズとか言っていたから、僕等に何かをさせようとしているのは判り切っている。


 ティフォ達は何とか回避できないかと、言葉を慎重に選びながら話を進めているが……その成果は芳しく無いようである。


「んふふ~、せっかく面白そうな材料があるのに、料理しない料理人が居ると思うの」


 お姉ちゃんは妖艶な笑みを浮かべて、無駄に色っぽく舌なめずりしながら、ティフォを品定めして舐る様な視線で見る。


「魔王からは逃げられないって、本当だったんだね」


〈無駄に実力があるんだから、逃がさないって事なんだろうね〉


「覚悟を決めるしかないんだな」

「イヤだ、俺は逃げるぞ。絶対に碌な事にならないんだから」


「あら良いのかしら? テントはイベントのルールで上げる事は出来ないんだけど、私との約束を守ってくれるなら、色々と融通できる部分はあるのよ」


 お姉ちゃんがティフォの足を黒い霧で拘束して、絶対に逃げられないよに組み付いた。


 スパイク達はというと、ティフォに攻撃した訳でも敵対している訳でもないので、攻撃する事が出来ずに何とか主人から離れて貰おうと、ポカポカと可愛らしく擦り寄る事ぐらいしか出来ていない。


 ティフォも何だかんだ男の子だから、トップアイドルとも言える、そんなスタイル抜群な体をしているお姉ちゃんに取っ付かれ、恥ずかしそうに身をよじっている。


 センシティブにならないギリギリのラインを責めている辺り、さすがはお姉ちゃん。


「スノーちゃんは、演奏をよろしくね。こっちの世界でもハープは弾けるんだし、専用のスキルがなくてもある程度はカバーできるでしょう。シュネーと一緒に演奏してね」


 また無茶ぶりを……まぁ、歌も踊りをしている時にスキルがなくても出来るって事を確認はしてたんだろうから、こっちでも弾けるとは思うけど。


「はい、コレは渡しておくからね~」


 半場無理やりにトレードを申し込まれて、インベントリにハープを突っ込まれた。


〈ペダルじゃんか、シュネーのはちゃんと小さいヤツなのに〉


「スノーと一緒に演奏……頑張るね」


 まぁ、シュネーなら大丈夫なのかな。体を使う感覚的には優れてるっぽいしね。

 音感も、多分だけど大丈夫だろう。


「ふふん、ティフォちゃんにはバッチリ可愛い衣装を用意して貰ってるから、楽しみにしててね。ケリアちゃんが力作を作るって息巻いてたから」


「いやだ~」


 もしかして、ケリアさんがずっとアトリエに籠りっぱなしなのは、お姉ちゃんからの注文があったからなのかな。最近は凄く忙しそうにしてたしな。




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