【オンライン】312話:勝負と試合と勝敗の価値(20)




「ふぁた~! たぁ~たぁーやっ!」


「あの掛け声は必要なの? 子供が見たら泣くんじゃない?」


〈本人曰く、気合とノリとリズムを取るのに必要らしいよ。他の人達は別に叫び声を必要とはしてないから、必要性は特に無いと思う。個人の問題じゃないかな〉


 手元だけを見ると鮮やかでも、やっていること自体は地味なんだよね、ただ野菜やら果物を切ってるだけなんだから。


 料理人達から見たら、物凄い技術だと解るみたい。キラッキラの瞳をして手元を崇めて見ている様子は、あんまり近付いてみていたくはない。


 ド派手に大きな火を出して中華鍋を振るっている人も居れば、飴細工を繊細に弄って幻想的な世界を表現している人達もいる。


「良い感じの集客率ですね」


 カミルさんが満面の笑みを浮かべて、天パン焼きで作って貰った料理を頬張っている。


「このような食べ物があるんですね……中の具材がデビクラーケというのが、未だに信じられませんが、物凄く美味しいです」


 アンさんは躊躇していたタコ焼きを、興味本位で食べてからハマってしまい。もう三パックも一人で食べてしまっている。


「しかし、シャープ令嬢には踊らされっぱなしでござるなぁ」

「もっと楽に勝てると思ってたけど、かなり拮抗した勝負になっちまったしな」


〈全力で楽しむのが格言みたいだからね。叩き潰せと言いに来た時点で僕等を成長するためのライバルにでも仕立てた作戦でも考えてたんじゃないかな。後輩達の指導から始まって、今後の活動に生かす為にって感じでさ〉


 本当に丁度良かったんだろうな。無名ながら実力は新人や後輩達よりも上じゃないと意味が無く、必ず追い込んでくれる者でありながら、ギリギリで勝てる部分を残せるって。


〈僕が下手に考えてなければ、お客さんの人数でも勝ててたかもなぁ~〉


「それはしょうがなくない? たらればな話をしても始まらないよ」


 シュネーに慰められながらも、ちょっと今の状況に口を尖らせてしまう。

 それでも、お姉ちゃんが向こうに居るって意識し過ぎたのは、反省すべき点だった。


「まぁ、音先輩の策略にハマったのはしゃあないだろう。テレビ電話とかの話からみて、絶対に意図的に連絡してきたんじゃねぇかな」


「初めからシャープ令嬢が動いていたなら、スノー姫の作戦自体は間違いではないんだな。下手に負けてしまって、グランスコート全体のヤル気が下がってしまっていたかもしれないんだな。妖怪達も仲間に加わったかどうかも、怪しい所でござるよ」


 ズナミを筆頭にした鬼達の御蔭で、妖怪達とは良縁という感じで接し易くなっている。


 サーカス団である妖怪達が間に入って、グランスコートの村人や森の住人であるエーコーさん達とも、険悪な状況にならずに和気藹々とした雰囲気が保てている。


〈危ういんだよね~。ズナミとの縁が切れちゃったら、妖怪達も含めて敵対になるし。エーコーさんとの関係だって、崩れちゃえば今の金策案も白紙に戻って、借金だらけになる〉


「もう、スノーはネガティブに考え過ぎじゃない? そうならない様に頑張ってるんだから大丈夫だってば。もっと自信を持ちなさいって」


「まぁ、自分達の作戦を逆手にとって、牧場に来てくれている人達を軒並みサーカステントのアイドル達に持ってかれてちゃあね~」


 お姉ちゃんが逐一牧場に足を運んでいたのは、最終日に向けての布石だったらしく、こっちの動向を探りつつも、牧場から帰っていく人達を客として、テントの方へと誘っていき、此処で身に付けたパフォーマンスをテントのアイドル達と遊べるといった感じで、取られれてしまっている。


「あれはメイド喫茶ならぬ、アイドルの触れ合い広場なんだな。そりゃあ誘われるように皆が付いて行ってしまうんだな」


 なりふり構わずに試合には勝とうっていう魂胆が丸見えだよ。

 もっと楽に勝てると思ったのに、お姉ちゃんには裏切られた気分だ。


 それを見透かしたように、お姉ちゃんから「ごめんね~」というメールが届いた。





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