【オンライン】311話【閑話】:アイドル達のテントでは




「どうなってるんですか⁉」

「そうっスよ。俺達がいない間に何で勝負が拮抗してるんですか⁉」


 他のサーバーに遊びに行っていた者。


 仲間が負けそうだからと自分達が担当しているサーバーから移動して、わざわざ助けに向かった者などが、シャープとその同僚達を囲んで騒いでいる。


「私は言ったはずだよ。気を抜かずに自分の持ち場御で頑張る方が良いよって」


「そもそも、今回の企画はキミら後輩、新規生の君達が主軸となってイベントを成功させることだ。我々のネームバリューは一切使わず、余計な手助けもしないと前もって言っているだろう。なにより、シャープもそうだが、他の者達からも助言はしていたはずだ」


「甘えてんじゃねぇよ」


 何時になく苛立ちを隠さずに、後輩達を睨みながら全員に殺気に近い圧を飛ばしていく。

 騒いでいた後輩達は口を噤み、心当たりのある者達は軒並み視線を泳がせて沈んだ顔を見せている。


「つぅかな。なんで事務所全体でこんな大掛かりな企画を動かしてると思ってんだ? アイドルだからって自分達だけが一番忙しいとか勘違いしないために、企画から設備の準備なんかの手配を学ぶためだぞ」


 一番偉そうに言う赤髪の青年を、シャープ含めた同僚達が冷たい視線を向ける。


「アンタが偉そうに言う?」

「半分くらい理解してなかったのにね」

「うるせぇ! ここは茶化すところじゃないだろう」


 理解するまでに時間が掛かっていた事を未だに弄られる。

 遊ばれる先輩をみて、少しだけ場が和み始めた。


「はいはい、トウジを弄るのはそれくらいにして」

「シャープの言う通り。きっちりと反省会をするよ。まだ負けた訳じゃないんだからね」


 事務所の姐御と言われている、ボーイッシュな女性が仕切りだした。


「さて、アンタ達はずっと勝っていると勘違いしてたみたいだけどね。ちゃんと資料に纏められた数値は見たのかい? 大方、客の数を比較した数値しか見てなかったんじゃないの? 少しは自分で何があったのか、何が起きているのか、何が駄目だったのか見直した者はこの場で手を上げてごらんよ」


 ちらほらと手を上げた者達は、このサーバーに残った子達しか居ない。大半の者達は俯くか視線を合わせ内容のに他所を向いて居る者が殆どだった。


「なにが? えっと、すみません。分かりません」

「分かる者は居るかい?」

「えっと、その。初めっから勝負は拮抗していたと思います」


 おずおずと気の弱そうな女の子が手を上げて答える。


「はぁ! あんなに客の数が違ったのにかよ」


「全体的な数を見れば、リピーターは圧倒的に向こうが上ですよ。それに全体的な人数で言えばこちらは遥かに下回ってました」


「なんで言わなかったんすか!」


「言いました。言ったのに先輩達がまともに話しを聞いてくれなかったんじゃないか‼ 楽勝だって言って、バカにした様に鼻で笑われましたよ」


 大先輩達の話を真面に聞いて、クソ真面目と言われながらもNPC達に自分達の最高のパフォーマンスを見せよと頑張っていた新規生や後輩達が、不真面目だった者達を非難するように睨みつける。


「はいはい、まだ負けたって決まってないよ~。アイディアを出し合って何とか挽回するくらいはしてくれないと、私らも困るんだよね~」


「客の数字だけでも、何とか勝つよ。誰かさんが焚き付けたせいで、完全敗北しそうなんだからさ。本当に鬼畜だねシャープってば」


「あら、あっちには私の妹達が居るのよ? 侮ってる方が悪いのよ」


 シャープのワザとらしいセリフを聞いて、数名のアイドル達は顔色が真っ青になる。

 あの時に最終警告はされていたんだと、今回のイベントリーダー達が気付いた。


「あの時の子って、マジに先輩のリアル妹って事っすか」

「そうよ? だから言ったでしょう」


 悪魔に魂を抜かれたように、リーダー達がカックンとその場でへたり込んでしまう。


「一からやり直しね。浮かれるのも、舞い上がる気持ちも解るけどね、アイドルならファンやライブに来てくれた人達の事も思わなきゃ、破滅するのは自分自身よ」


 悪魔の様に笑いながら、リーダー達を見下す様に言う。


「大隊長~、此処に魔王が降臨してま~す」

「俺は勇者じゃねぇから無理だ。きっと立ち向かえるのシャープの妹ってヤツだけだぞ」

「ほらアンタ、いまなら英雄になれるからさ。シャープを倒しに行きなさいよ」

「そりゃあお前な、俺様に死ねって言ってるのと同じだからな」

「自分はパスだね。誰が好き込んで死地にいくかって~の」




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