【オンライン】300話:勝負と試合と勝敗の価値(10)




 ここに来てくれた人達は殆どが参加者として来てくれている。


 お客さんとしてカウントされているのは極少数という感じで、見て楽しんだり、料理やお見上げ品を見て楽しむ人は、主に主婦やご高齢の方々である。


 若い子達は必ず何かしらに参加し、一緒に楽しんでいる。

 少し意外だったのはグランスコートの老人方だ。


 ダイチお爺ちゃんに感化されたおじちゃん達が多い様で、畑仕事や職人技術に活かせそうな事を見ると、率先して教えて貰いに参加している。


 主婦の人達に人気だったのは、風の魔法や水の魔法を覚える講習だった。

 生活に役立ちそうだという事らしい。


 洗濯物を乾かす時に使う風魔法。

 食器洗いや洗濯物を洗う時に使う水魔法という感じで、主婦層の人達から大人気だ。

 ただまぁ、サーカス団の人達にとっては少しばかり困った様子だった。


「あ、あのですね。ここから――」

「そういう遊びは今はどうでも良いのよ。もうちょっと便利な感じにならないかしら? 汚れを落としやすい感じに魔法をアレンジ出来ないの?」


「いやですから、コレはそういう講習の場では――」

「ねぇねぇちょっと、ここはどうすれば良いのかしら? 風が強すぎると服が傷むのよ。そよ風くらいにしたいの」


 今後にこういう催し物をやる時には、こういう事も起きるんだと少しばかり想像しておかないとダメそうだ。講習をしているサーカス団の人達が僕等に「助けて」という思いの籠った視線を全力で向けてくるが、ごめんなさいというジェスチャーで返す事しか出来ない。


 今は頑張ってもらうしかないから手は出せない。


〈今日は頑張ってください。明日から人を派遣してもらいますから、別枠で教える人を付かせますんで〉


「あぁ~、ありがとうございます」


 ここには教師陣営の人達を多めに用意しておいた方が良さそうだ。


「アレは考えてなかった事態だったな」

「おばちゃん達の目の付け所っていうのは、頭に無かったもんね~」


「あの迫力は誰でも怯むんだな。なんというか、バーゲンセールというモノが怖いという友の話を今しがた思い出したんだな」


 ガウにとっては縁遠い話だから、尚更に想像し難かったのかもしれない。


〈サーカス団の人達も、鬼さんもたじたじだったね〉


 僕等が声を掛けた時に、奥様方がわらわらと集まってきて、

「それは良いわね、よろしくお願いしますね首領様」

「流石、話の分かる人で良かったよ」

「やっぱりこういう人がトップに居てくれると助かるよ。男共じゃあ私らの苦労なんか想像が出来やしないんだからさ。本当に助かるよ」

 という感じで、物凄く僕等の事を盛り上げて言ってくれる。


 あのノリにはどうも付いて行くのがやっとだ。


「とにかく、此処の問題点は分かったし。アレ以上の事は問題なさそうだね」

「思惑とは違った感じの客が殺到してるけどね」


 ティフォとシュネーが乾いた笑いを浮かべながら、早々に奥様軍団から逃げる様に撤退していく。あそこに留まっていると、更に別の案は無いのかとせっつかれそうだった。


〈はぁ、あの目は絶対にまた違う良い事を考えてねって、そういう意味も籠ってたよ〉


「まぁ頑張れや」

「他人事じゃあないでしょう。あの場にはティフォも居たんだから、見かけたら絡まれるよ」


 シュネーが疲れた笑いでティフォの肩を叩きながら言う。


 ガウだけが、無害だったけれど、なんというか奥様方には除け者にされた感は拭えない。





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