【オンライン】301話:勝負と試合と勝敗の価値(11)




「さてさて、拙者達も何か参加して盛り上げるでござるかな」

「ガウっち、さっきの奥様方に無視されたからって頑張らなくても大丈夫だよ」


 騎士の恰好をしているせいか、家事を手伝わない男性代表みたいな扱いで、奥様方から少しばかり冷ややかな視線と、何時もはあんまり言えない男共に対する愚痴の捌け口にされていたので、かなりのフラストレーションが溜まっているのだろう。


 カタカタと震えて、振り返ったガウの目からは血の涙でも出そうな勢いで泣いていた。


「シュネー妃……楽しい楽しいサーカス体験を是非ともやってみるでござるよ」


「え、いや、あの――」

 アレはもう逃げられないだろうな。


 まぁ僕もガウの事を庇うとか、助ける事が出来なかったけどさ、シュネーみたいに余計な一言を発して巻き込まれたくはない。


〈ほら、その体じゃあアレだからチェンジしようか〉


 ガウが逃がさない様にと捕まえていたシュネーと入れ替わるよにして、シュネーと体を入れ替えて、すぐにガウの手の中から飛び出し、ティフォの方へと逃げる。


「ちょっとスノー⁉ ズルくない」


〈ズルくない。ガウを揶揄ったシュネーの自業自得だよ〉


 シュネーが半泣きの顔で僕を非難してくるが、頭を振って答える。


 僕からの助けを期待できないと悟ると、シュネーは次の標的であるティフォに狙いを定めた。縋りつく様にティフォを見上げて、潤んだ瞳で見つめる。


「ティフォっち! 助けてよ」


「ふっ、すまん。あぁなったガウを止められるほど、今の俺は強くねぇ」


「ちぇ、チェンジ!」


 無理なんだよね。僕の意識レベルが異常ではない場合、他のギアと同じくリキャストタイムというモノが存在するので、しばらくは入れ替わる事は不可能です。


 今のシュネーは浮遊は無いので、しっかりと僕の言ったことを理解して欲しいね。


「ちょっと待ってよ。ね、ほらガウっち落ち着いて」


「なに、盛り上げに行くだけでござる。やはりこういうモノはリーダーである者が、率先して色々な事に取り組む姿勢を見せてこそ、お祭り行事とは成功するものなんだな」


「それはスノーでしょう⁉」


「シュネー妃よ、何を言っているのでござるか? 其方もリーダーであろう」


 無表情の顔で見下ろされて、恐怖に負けたシュネーが逃げようとしたが襟首を子猫の様に掴まれて舞台の上へと引き摺られていく。


「ふぅ……助けなくて良かったのか?」


〈それはティフォもでしょう〉


「まぁそりゃあそうだがよ。後でガウに睨まれる方が面倒だからな」


〈それに、シュネーには色々と覚えて貰っておいた方が役立ちそうだし。リアクションとかの客引きも、僕よりは断然シュネーの方が向いてるよ?〉


「お前のそういうストイックな所は嫌いだわな」


 驚きやら楽しいむというよりも、僕はそれがどうしてそうなったとかをすぐに考え込んでしまい、リアクションがいまいち弱くなってしまう。


 こういう場所では、僕よりも感覚で行動するようなシュネーが最適だろう。


 浮遊が使えないせいで初めは怖がっていたシュネーだったが、空中を飛び上がって移動する感覚を直ぐに覚えて、楽しそうに空中アクロバットを披露している。


 それを見た子達が尻込みしていた様子から一転して積極的に参加してくれるようになる。

 周りにはそれを補助してくれる妖怪達が居てくれるという安心感も、初めのシュネーが怖がっていた時の反応で伝わったのだろう。


〈ほらね、僕だったら絶対にあんな反応にはならないよ〉


 予想通りの結果になったので、胸を張ってシュネーを指差しながら言う。

 ティフォは何故がジト目で僕を見て、眉を曲げている。


「そうでもないと思うがね。確かにああはならないだろうがよ。また別の反応にはなると思うぜ、全く違う人達が参加するだろうがな」


 ティフォの言っている事がいまいち理解出来ず、小首を傾げた。

 それにしても、シュネーは体を動かす感覚的な事ならすぐにマスターするな。


 まぁお陰様で、空中ブランコや空のアクロバットの演出が映え始めて、このエリアも人が集まり始め出したのは上々だろう。





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