【オンライン】291話:勝負と試合と勝敗の価値




 僕には見えなかったけれど、一部始終が見えていた二人が顔色を青くして体を震わせお互いに抱き着き付いている。きっと、恐怖が勝っているせいで無意識にお互いに寄り添っているんだろう。


 今はほっとこう。


〈お姉ちゃん、「勝って」とか言うけどさ。手加減とか絶対にしてくれないでしょ〉


「そりゃあもちろんよ。手抜きなんて面白くないじゃない」

「勝ってほしかったら手を抜いてくれてもよくない?」


 シュネーが少しだけ頬をふくらませて不機嫌そうに言う。


 お姉ちゃんはそれを笑ってシュネーをスルーしながら、気絶状態のティフォとガウに軽く水球の魔法をぶつけて、目を覚まさせる。


「ぶふぁ⁉ はっ、ケホッ――」

「冷たい⁉ ほぼ氷水でござるぞ」


「男が何時までも寝てないの。全く見っともないわね。そんなんじゃあ妹達は任せられないわよ。もっと強くなりなさい、男の子でしょう」


 半目で蔑む様に見ながら、ワザとらしく肩を落としている。


 ティフォは服装のせいでもあるんだけど、起き上がり方が女の子みたいになっちゃっている。

 服がちょっと透けていて色っぽさが上がっている。


「シャープせんぱ~い、何処っすか?」

「こっちに来たと思ったんだけどな~」

「しっかり探してくださいよ。私はそれよりも妹ちゃんの方が気になるんですけどね」

「シャープ先輩の妹だもん、絶対に可愛いよね。はぁ、後輩にしたいよ」

「でも歌えないんでしょう? 心因性失声でしたっけ」

「楽器とか得意って言ってなかった? ダンスとかも得意だったらそっちで目立てば良いだけだし、意外と何とかなるんじゃない。絶対に外見で人気になりそうだしさ」


 色々と好きかって言っている人達がこっちに向かって歩いてくる。

 男性二人に女性が二人、全員がスタイル抜群で歩き方も綺麗で人目を引く感じだ。


「あらあら、もう逃げ出したのがバレたみたい」


 つまらなそうにため息を吐きながら、僕の方に寄ってきてギュッと抱きしめて来た。

 周りから見たら、もっと妹と一緒に居たいから抱き着いた様に見えただろう。

 けど、僕は絶対に騙されない。

 コレは計算された行動だ。


「あ~いたっすよ先輩!」

「あそこで抱いてるのって妹ちゃんじゃない⁉」

「良いねイイね、この世界でもかなり可愛い感じゃんかよ」

「私も抱きしめてお持ち帰りしたい」


 ほらみろ、お姉ちゃんのお仲間さん達がすぐに僕を見つけてしまった。お姉ちゃんに抱き着かれている事ですぐに僕が妹だと、周りに認識させている。


 多分だが、テントから勝手に出て行くときにも「妹と遊ぶ」系の事を含んだ言い方をして出て来たに違いない。ゲーム内とは言ってもは、やっぱり外見はかなり整った人達だ。


 男性は女の子受けしそうな顔に、程よい筋肉の付き方した体をしている。


 女の子達は流行りのふんわりヘアーに編み込みの髪をアクセントにした髪形をして、スタイルも良い。胸は控えめだけどヒップラインや足の見せ方を分かっている格好だ。


「ちょっと来るのが早すぎるんじゃないの?」

「そう言わないで下さいよ。先輩が居ないと練習の進行が止まっちゃうんですから」

「少しは自分で考えて動きなさい」

「他の先輩方は忙しそうでさ~、声を掛け辛いんですよ」

「仲良くなる努力をしなさいよ」

「頼みはしましたよ~、断られちゃいましたけど」

「自分優先に頼んだって協力はしてくれないでしょう。キチンとお話はしたの?」

「練習を見て下さいってちゃんと言いましたよ~、やだなぁ、そんな失礼な他の味方はしてませんって」


 なるほどね、お姉ちゃんが手を焼く訳だ。

 ガウ達は鼻っから無視して話している。


 それにお姉ちゃんに対しても、ちょっとフレンドリー過ぎると言うか、ちゃんとお願いするような感じで頼みに来ていないな。


 シュネーと密かに視線を合わせた。

 チラッとだけミスユ団長やズナミの方を頼むと言うアイコンタクトを交わす。


 ガウもそれに気付いて、すぐに動き出してくれた。


 ティフォは万が一に備えてか、僕を守る様に近くに寄ってくれる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る