【オンライン】290話:サーカス団の思いと恋の行方(16)




『向こうが何か騒がしいぞ?』


 ミスユ団長がズミナやティフォ達が居る場所を示して言う。


「あ~、アレは姉さんじゃない? なんでこんな所に居るんだろう」


〈ホントだ……何をしてるんだろう〉


 楽しそうに談話している、という訳ではなさそうだ。

 特に何も言わずに三人で顔を合わせて、ティフォ達の方を指差す。

 ミスユ団長もシュネーも頷いて、皆で一斉に向かう事にした。


「あらあら、やっぽ~。スノー、シュネー。二人とも元気してた?」


 お姉ちゃんが真っ先に気付いて、こちらに向かって手を振ってくる。


〈ただ遊びに来ただけなんだね。敵情視察とかじゃあないんだ?〉


「本音を言えば敵情視察も兼ねてるんだけどね~。それよりも少しだけお話があって来た感じだから、似たようなものかな? 一番はスノーとシュネーの二人と遊びたい心の方が勝っててさ、今現在は葛藤中よ」


 そんな胸を張って答えないでください。


 お姉ちゃんは無駄にスタイルが良いから、そういう動きをするとお馬鹿な男達の視線を集めるんだよね、体の何処とは言わないけど……主に上半身辺りを凝視する。


「話とはなんでござるか?」

「話ってより私の個人的なお願いかな」

「なんでも良いから、もったいぶらずに言ってくれよ」


 ティフォに言われて、少しだけお姉ちゃんの視線がズナミやミスユ団長の方に向いた。


「ちょっと難しいかもしれないけど、どんな感じでも良いから勝ってほしいんだよね」


〈負けて欲しいとかじゃあないんだね〉


「あら、バカにしないでよ。そんな下らない事を言う訳ないじゃない。……ただ、私の後輩達がちょ~っとお馬鹿さんな子が多くってね。天狗になってるというか、悪い方向に変わっちゃっているのよ。上位に入れる実力が付いて来てるのに、社の方針で厳しく鍛えられないせいもあって、心の成長がダメダメで、このままだと間違いを起こしそうで怖いのよ」


 お姉ちゃんの同期や、すぐ後に入ってきた後輩の人達は問題なく頼ったり出来るらしい。

 最近になって仲間入りした後輩達は、ぬるま湯で成長したせいで気が大きくなり過ぎていて、練習にも身が入っていないらしい。


〈そんな身内の理由に僕等を巻き込まないでほしいんだけど〉


 僕がジト目でお姉ちゃんを見ながらコメントを送ると、ワザとらしく擦り寄ってきて泣きそうな目で見つめ、柔らかく綺麗な体を使って縋りつく様に抱き着かれた。


「お姉ちゃんを助けると思ってさ、全力で叩き潰しちゃってよ」


「普通は負けない宣言とか、勝った方がご褒美を貰えるとかって話し合いじゃあないの?」


 シュネーが呟く様に言うと、お姉ちゃんが凍ったように動きが止まった。


「それもアリだね……勝ってくれたら私がご褒美で付いてきます」


 可愛らしいポーズに、ちょっとだけぶりっ子みたいな感じを混ぜて言う。


「それは、報酬になるのか?」

「爆弾を抱え込むようなモノなんだな」


 聞こえない様にとガウとティフォが小声で喋っていたが、しっかりと聞こえてしまっている。僕に聞こえているんだから当然、お姉ちゃんの耳まで届いている。


 比喩ではなく、お姉ちゃんの背後から魔王が出す様な禍々しいどす黒いオーラが噴き出し、ガウとティフォを黒い霧が捉えてしまう。


「ば、バッドステータスが一気に……というか、麻痺は卑怯なんだな」

「ごめんなさい、許してください音姉様」


 僕が見れたのはそこまでで、あとは黒い霧に覆われて中の様子は確認できなかった。


 ただ、お仕置きされている二人の悲鳴は終始聞こえていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る