【オンライン】279話:サーカス団の思いと恋の行方(5)




 とにかく場所を見に行こうという話になって、皆でズナミの居る集落へとやってきた。


『のう、本当に行くのか? 早くないかのう』

『せめて挨拶くらいは済ませないと先方にも失礼ですよ。団長なんですからしっかり』


 エリエさんの方がしっかりしたお姉さんに見えるな。


「おや主、おはようございマス。コンナ時間にどうしたんでス? お祭りなら順調デス」


 集落に入ったら、すぐにズナミが出迎えてくれる。


〈うん、まぁ見回りって意味もあるけどね。お祭りが続いて、年末年始と色々と終わった後にでちょっとした勝負があってね、その時に此処の牧場を貸してほしくって〉


「そうですか、我ラは何時デモご協力シマス」


「……ズナミんさ、結構馴染んだというか。喋りが段々と上手くなってるね……っていうか、少し変わったのかな」


 確かにシュネーの言う通りだ。

 姿も前よりも人間っぽく、肌の色なんかが変わってきている。


「ソウですかね? 自分では良く解りません」


 何が変わったのだろうと、自分のメニュー欄を開く。


 それで分かった事は、掘っ立て小屋の集落から、少しだけランクが上がり生活の水準も上昇している状態になっていた。


 グランスコートとの信頼関係がしっかりと結ばれて、好感度もかなり高くなっている。


 あと少しで町と呼べるレベルで、此処に住む者達には恩恵やらパラメーターのバフが掛かる様になっているらしい。発展の様子というファーマー特有の報告メールが何時の間にやら大量に届いていた。


 イベントによる人口上昇バフやら、発展の促進という恩恵で急激に変わったという訳だ。


「所で、後ろの者達ハ? 近くのサーカスとやらのテントで見かけタ、者達ですガ?」


「あぁ、それはな――」

 ティフォとガウが掻い摘んで、今後に起きるであろう勝負の話やイベントの事を説明していく。その間に、僕等の後ろで緊張の余り硬直しているミスユ団長を復活させる。


『しっかりしてください団長ぉ~』


「ほらほら、恋する乙女が頑張らなきゃダメな所ですよ」

「ダメだ、完全に放心状態だよ。アズミルんはこういう時に効果的な手段知らないの?」


「知らないわよ。私だってそんな恋愛経験がある訳じゃあないんだから。……そもそも、いくらアタックを掛けたって当人が鈍感過ぎて、空廻る事が多いのよ⁉」


 惚れた人物が、数日も見ないうちに更にカッコ良くなっていたものだから、ミスユ団長の口から魂が半分くらい漏れ出てしまっている。


 皆が様々な声を掛けるが、反応は芳しくない。


 というよりも、此処にはまともに恋に関するアドバイスが出来る人物が居ない気がする。僕はまぁ論外だし、シュネーも外れる。ミカさんは応援してるけど的確なアドバイスには程遠いし、背中を押してあげる事しか出来ない。


 アズミルは言わずもがな……というか、初期装備の初期レベルでラスボスに挑んでいるようなモノだから、失敗の経験値しか知らないだろう。


〈……そんなんじゃあ、誰か他の人に取られちゃいますね〉


 話せもしないなんて、この先が思いやられると呆れながらコメントを打ったら、それに食いついたのか、ミスユ団長の魂が口の中へと戻って行った。


『こほん、童は、その……サーカス団の団長をしておった者だ』


 何とも閉まらない自己紹介だね。確かに今は乗っ取られているから、素直に団長と名乗れる立場にはないんだろうけどさ。僕等の前では堂々と名乗ってたよね。


「自分ハ、主……この地の君主たるスノー姫にお仕えする鬼人族のリーダー、ズナミだ」


 挨拶とばかりにズナミが握手をしようと、バッと手を前へ伸ばした。


 数秒間、ジッと手を眺めてチラチラとズナミの顔を見てはすぐに地面に視線が落ちてしまうミスユ団長が、そっと勇気を振り絞る様にズナミの手を握った。


「そう緊張シナクとも大丈夫ダゾ。主に気概を加えヌ限りはお互いに協力してユコウ」


 なんだろうな、僕の周りの男は鈍感なヤツが多いんだろうかね。


 今この場で「違うそうじゃない」って叫んでやりたい。



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