【オフ】年越しストーリー(後編)
「二人とも、その感情の宿っていない表情は止めるんだな」
「誰のせいでこんな顔になってると思ってるんだよ」
〈そうだそうだ、もっと言ってやれ樹一〉
僕が煽る様に樹一の後ろに隠れてスケッチブックを皆に見せるが、何故か樹一から頭を鷲掴みにされてしまった。しかも、徐々に力が入っていっている。
「お前にも言ってんだよ」
〈痛い⁉ 痛いんだけど‼〉
ぐにぐにと乱暴に揉みしだく様にして、僕を頭だけで持ち上げそうな勢いだ。
「もう兄ぃ! 翡翠ちゃんに乱暴したらダメなんだから」
樹一の手から逃れて、すぐに小鳥ちゃんの方に逃げたのだけど、そっちもまた違った意味で危ない場所だと知ることになる。
「そうそう、弄るのは私達の特権?」
「お願いだら本音は隠して、心を許した時に囲わないと逃げられちゃうじゃん」
此処に味方は居ないらしい。
そしてお母さんはというと、僕等の事をずっとハンドカメラで追っている。お父さんは呆れながらも止める事無く、むしろ人の邪魔にならない位置に誘導してあげたり、僕等の姿がより良く撮れる位置にお母さんを導いている節がある。
そして僕等の周りにはガードの人達が居てくれる御蔭もあって、変な輩には絡まれない。むしろ、一般の人も遠巻きに見ている節がある。
「俺にこんな格好をさせたのは、お前のせいでもあるんだからな」
〈ちゃんと男っぽい格好もあっただろう。寒いっていうから振袖になったんだぞ〉
文句を言われる筋合いわないね。
まぁ、ノリに乗って可憐で清楚っぽい感じの衣装を選んだことは間違いないけどね。
「そんな事よりも、前進んだんだな」
ちなみに執事さんとメイド長さんは、ケリアさん――じゃなくって仁さんと共に、僕等の屋台で食べたいモノを聞いて参拝が終わった人が並ぶ前にと買い出しに行ってくれている。
全員が一緒にお参りを済ませ、樹一が自然に僕の手を繋いで移動してくれる。
どうも咄嗟の時に、歩幅が小さいせいで出遅れてしまいそうになるんだけど、そういう時に一早く樹一が気付いて助けてくれるのは、本当に助かる。
「たく、お前は危なっかしんだよ」
〈五月蠅いな、仕方ないだろう〉
こういう所は、本当に女の子にモテる要素だと思うけど、如何せん樹一のヤツは恋愛コメディに出てくる鈍感系主人公みたいなヤツだから質が悪いんだよな。
まぁ、僕がコイツに惚れる事は絶対に無いけどな。
「あ~‼ やっと見つけたばいジュンちゃん」
「姉上、方言が出てるでござるぞ」
サッと僕と樹一の間に入って、雷刀がふぶき先輩を止めに入る。
「こほん、置いていくなんて酷いんだよ。初詣は一緒に行こうって言ったのに~」
「えっと、明けましておめでとうございます。ふぶき先輩」
「みんな~、買ってきたわよ~」
にこやかな顔をしていたが、雷刀と樹一が仁さん達の方に気を取られた瞬間に、ふぶき先輩の鋭い瞳が僕の方を向いた。
「ふふ~、こっちでは始めましてね。森田ふぶき、ジュンちゃんとは同じ学校の先輩なの」
自分のスタイルを見せつける様にして、更に樹一との関りを説明してきた。
「はいはい、先輩は兄ぃだけ見ててくださいね~」
そういって小鳥ちゃんが僕に抱き着いて、ふぶき先輩を少しだけ遠ざけてくれる。
「随分と楽しそうじゃない、アタシも仲間に居れて欲しいわね」
「げっ、会長」
「また、厄介な人が現れたんだな」
アズミルこと、生徒会長の西願寺杏さんまで現れた。
「なんか知らないけど、結構な大所帯になった?」
「ん~、別荘行く? あそこなら日の出も見れるしね」
双子ちゃん達がお互いに見合いながら、呟く様に提案してきた。
「良いわね~、皆で遊びながら夜更かしでもしましょう。日の出の時間になったら起こしてもあげられるし、その初日の出が見える別荘とやらに行きましょう」
別荘という言葉に初めは驚いていた仁さんだったけれど、すぐに切り替えて話を纏めてくれる。樹一はふぶき先輩が乗って来た車に連行されていった。もちろん杏会長もそっちの車に乗り込んで、二人でけん制し合っている。ちなみに雷刀も樹一に引っ張られていった。
「アレはきっと着くまで地獄絵図ね」
〈場所って教えたの?〉
「大丈夫です、先ほどに向こうの運転手に道はお教えしています」
流石は執事さんだ。抜かりない……ってしうか、行動が早いな。
その後は色々とゲームをして遊んでいたが、前の僕ならば眠くなることはなかったのに、一番最初に眠りに落ちてしまった。
そして、僕が寝ている間に琥珀が散々楽しんでいた。
初日の出を見る時には、葉月ちゃんと桜花ちゃん、それに小鳥ちゃんと三人で毛布にくるまって寝ていたらしい。
メイドさん達に優しく起こされて、ギリギリだったけれど初日の出を皆で見る事ができた。
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