【オフ】年越しストーリー
今日はガウ――雷刀の別宅にお邪魔している。
年越しという事でゲームメンバーのオフ会も兼ねての集まりだ。
空調設備も完璧で、床暖もあって思いっきり寛げている。
「お前、女だって自覚をもてよ。なにリビングで堂々とストレッチをしてんだ、スカートで。見えるだろうが色々とよ!」
〈別に僕は気にしない〉
サラッと書いて樹一に文字を見せていると、殺気の無い制裁の拳が僕の頭を小突く。
お母さんに殴られた部分を抑えながら、少しだけ大袈裟にプルプルと震えて見せる。
「気にしなさい。あと、演技が下手ね」
男の時とは違って、優しく叩かれたけれど少しだけ痛かったのに、演技の部分は完全に見抜かれている。というかですね、その残念そうな目で見るのは止めて欲しい。
「そんなことしてると、樹一君に食べられちゃうわよ」
ため息交じりに、とんでもない冗談が飛んできた。
〈ナイない、樹一に限ってそれは絶対にないよ。基本的にヘタレだし。ムッツリの奥手だもんね。前に告白した子には『自分より可愛い子はちょっと』って断られてたんだよ〉
「そりゃあお前もだろうがよ」
〈僕は別に告白はしてないもんね〉
気になる女の子と仲良くお話していた過程で、完全に女友達な扱いだと知ったのだ。つまりは樹一よりはマシだと言える……筈だ。
「どっちもどっち?」
「どんぐりの背比べってこういう事だよね」
「兄ぃ達の恥ずかしい過去が赤裸々に語られていますね。妹としてはどう反応をすれば良いんでしょうかね? とりあえず、さっきの会話は録音しておきましたけど」
〈小鳥ちゃん、そんなモノを録音しないでね、消しちゃいましょうね〉
小鳥ちゃんが録音をしたという携帯電話を取り上げようとしたが、ひょいっと軽く躱されてしまう。すぐに小鳥ちゃんは胸元に携帯電話を仕舞い込んでしまった。
「そんな事よりも、皆で年越しの準備をするんだな」
雷刀は一人黙々と何かを準備していて、それを執事さんも手伝っている。
「今年は賑やかで良いね~」
「そうじゃな」
掘り炬燵の方では、樹一のお爺ちゃんとお婆ちゃんが仲良く御餅のネタを作っている。
ゴリゴリと聞いていて気持ちの良いリズムを奏でながら、すり鉢でゴマとクルミを其々が磨り潰しているようだ。メイドさん達と料理人達が二人の腕前を観察し、逐一メモを取って勉強している様子だ。
「着物の着付けなら任せて、誰よりも可愛く着飾って上げるから」
ケリアさん――基、仁さんも招待されていて、何と言うか、ちょっと違和感がある。
「流石にお嬢様方の着付けは私共がいたしますよ。お持ち頂いた衣装はもう試着室の方に運び込んでございますので」
「あらそう、まぁそうよね~。解らない事があったら聞いてちょうだい」
「かしこまりました」
メイド長さんが仁さんの作った衣装を思い浮かべたのか、どれを着せようかと値踏みするように僕等を見ている。
「なぁ、ケリアさんや……まさかとは思うが、変な衣装は持ってきてないよな?」
「いやね~、ないわよ。ちょ~っとズィミウルギアと同じ衣装は作ってみたりしたけどね」
つまりはそれは樹一が女装をするという事になるのでは、ないだろうか。
〈もうすぐ時間だし、早く着替えてきたら?〉
悪戯っぽく樹一の方を見ながら言う。
「おい、何言ってんだよ。それならお前も道連れだぞ⁉」
しまった藪蛇だった。
「どの道、皆着替えるのよ。初詣もあるんだしね」
お母さんが良い笑顔で僕等の肩を掴む。
「大丈夫だよ二人とも、しっかり可愛く撮って上げるからね」
「さぁさぁ。可愛くしてあげる」
しっかり年が明けるその瞬間まで、僕と樹一の着せ替えで皆が楽しんでいた。
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