【オンライン】268話:サーカス団(3)
「別にNPC達でも問題ない気がするけど。プレイヤー全員が何でサーカス団?」
「そいつぁこの場所が試験的な活動拠点になるかもしれねぇって事だな」
筋肉ムキムキの不良っぽいお兄さんが、僕等の真上から声を掛けて来た。
よく見れば長い竹馬の様な足で、器用にバランスを取りながら立っている。
「高い場所から見下ろす様に喋りかけちまってすまねぇな、いま降りるからよっと」
マンションの二階くらいはあるだろう高さから、猫の様に体を回しながら飛び降りた。
「む……不躾で失礼と先に謝っておくんだな。握手をして欲しいんだな」
「あぁ、良いぜ」
「ふむ、やっぱり違いがあるでござるな。もしかして、ギアヘッドでのダイブタイプではなく、全身で動かすスーツタイプのモノを使用しているのでござるか?」
お兄さんが着地してきた身のこなしや、周りの施設をペタペタと触りながら色々な場所を調べていく。
「ほぉ、お前さんは詳しいみたいだな」
〈どういうこと?〉
「此処は実際にある場所という事でござる。正確にはこの空間と広い場所が、現実世界の何処かにあって、この空間全体を映し出しているんだな。リアルな質感と温度をより繊細に味わえる空間になっているんでござるよ」
この空間内なら水に濡れたり、炎の熱さや熱気が数秒の狂いなくリアルその物で体感できる場所になっているらしい。
正直、素人の僕からしたら普段とそんなに変わらないじゃあないかとしか思えないんだけどね。
「つまり、どういう事よ?」
「ボクに振らないで、ミカっちが解らないんでしょう」
「だからってこっち見ないで、私も分かりません」
女性組は全滅らしい。
「ワザとか使うと、思い通りに体が動かない時とか、勝手に動いてくれる事があるだろう。アレが繊細に、そして自由に動かせるようになるんだよ。ちなみに相手の感触や体温なんかもダイレクトに伝わるから、本当に会って会話してる感じになるみたいだぞ」
握手してみると、確かに相手の体温が伝わってくる。
〈でも、場所までトレースして作る必要はあるの? 別にゲーム内の空間で良いじゃ?〉
「ちっちっち。お嬢さん。俺達はエンターテイナーだぜ。どんな人にもリアルに感じて貰えるように、楽しんで貰えるように全力を尽くす。それには空間から作って行かなきゃあならねぇんだよ。その場所っていう空間は一番手を抜いちゃあならねぇ。空気や雰囲気ってもんはな、見えないが何よりも大事なもんなんだぜ」
物凄い格好をつけながら説明してくれる。
けれど、すぐに何かが彼の頭にクリーンヒットして倒れた。
此処にあるモノがリアルに表現されているなら、本当に何かをぶつけられたんだろうな。
「そういう人から教えて貰った事を得意げに話さないの。後から知られるとダサいわよ」
「痛いんですが……シャープさん」
少しだけ髪の色や、肌の色が日焼けした子みたいなっているけれど……
あの姿と立ち居振舞いには覚えがある。
「それにね、その子達は私の知り合いなの。変な事をしたら捻りつぶすからね」
「ひぃっ⁉ す、すいませんでした~」
筋肉お兄さんが恐怖に身を震わせながら、魔王から逃げる様に脱兎の勢いで遠くへ行ってしまった。僕等から一番遠い場所で、サーカス団のメンバーに慰められている。
〈お、お姉ちゃん?〉
本来なら色白美人で透き通った肌をしているけれど。ズィミウルギアでは運動部で活躍していそうな活発エースのお姉様的な感じに見える。
「ふふ、こっちでも可愛らしさは全く損なわれていないわね」
なんだろう、この肉食獣に美味しく頂かれる前のデザートみたいに見られなければならないのだろうか、物凄く、怖いんですけど。
何此処に居るの⁉ 普通にプレイする訳じゃあなかったのか。
そもそも、姉さんはアイ――、仕事で忙しいからそんなにゲームは出来ないと思ってたのに。
「み、皆? どうしたの? っていうか、どっかで見た事ある人の様な……いや、それよりもスノーちゃんのお姉さんなの? え、なんで?」
ミカさんは状況が良く解らず、戸惑っているけど……いまは構ってあげられない。
「あ~しばらくは、フリーズしてるかもね。此処に居る理由はさっぱり分かんないよ」
シュネーは自分は蚊帳の外だから、みたいな感じでそ~っとミカさんの方へと逃げだそうとしているので、僕は必死にシュネーの体を掴んで逃がさない様にしている。
僕の記憶を持っているんだから、お姉ちゃんがどういう人か知っているからこその逃亡だろう。絶対に、逃がさない。貴様だけ逃げるなんて許さない。
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