【オンライン】263話:ハロウィンイベント(12)
「でもよ、どういう事だ? 街から出て来た時には居なかったじゃない」
アズミルが五月蠅い位に騒いでいたのに、急に考え込んで僕の方をジッと眺めてくる。
〈街からくると逃げるんじゃなないかな? だから写真には誰も映っていない桟橋の風景が収められてたんじゃないかなって思う〉
「何も写っていない事がヒントだった訳でござるか」
「でもさこっからどうするの? 誰か来たら逃げるって事だよね」
シュネーの言う通りで、きっと視界に人が映ったら尻尾が二又になっている猫は逃げてしまうのだろう。探索をテイマーの二人にお願いしているから、猫は警戒せずに大きな木の根元でまったりとしている所を観察出来ているんだけど。
「ストップ、此処までが限界みたい」
アズミルが密かにゆっくりと近付く僕等の足を止める。
テイムモンスター達の視点を借りているアズミルが見たのは、気配探知でこれ以上近付いてしまうと逃げていってしまうらしい。草蔭で僕等は見えていないのに、二又猫はこっち側に耳を向け、何度か警戒の視線を此方へと向けていたらしい。
〈シュネー、小っちゃいゴーレムを作って貰って良い?〉
「オーケー、何時でも動かせるよう準備しとく」
小さくすればパニアの力を借りているシュネーでも遠隔操作が可能だ。
〈アズミルはそのまま二又猫の監視をお願いします。それとティフォはスパイクちゃんを猫の近くに待機させておいてね〉
「了解、スノーちゃんの考えに乗ろうじゃないか、何を考えてるか知らないけど」
弾むような声で楽しそうにしながら、アズミルが三匹のモンスターを囲う様に配置してくれる。チルは十分に距離を取って、フールとキュスは木の上から猫の死角になる位置で待機させてくれた。
〈ガウはちょっとだけ近付いてみてくれる?〉
「御意に、しかし拙者でござるか? 防具は脱いだほうが良いでござるよな」
〈いや、そのままで。普通に歩く感じで音をたてて貰えば良いよ〉
皆が僕のコメントに「え?」という感じで疑問と驚きの表情を向けてきた。
言われた通りにガウが少しだけ近付くと、音に反応して二又猫がすぐに木の上に移動し始めた。皆が逃げちゃったよってきな目で僕に視線を送ってくる。
〈シュネー、ゴーレムで落とし穴作成をお願い〉
「ほいよ~、ササッと作ってくる」
〈ミカさんは逃げられた時ように、痺れ薬でも用意してもらえたらと思います〉
「わかった、ちゃちゃっと準備しとくよ」
真下にきたゴーレムを二又猫は不思議そうに見ているらしいが、何をしているのかは猫には解らない要で、首を傾げながら興味深そうに覗き込んでいるらしい。
〈丁度良いね、シュネーが穴を掘り終わったらアズミルの子達で驚かしてあげてよ〉
「……なるほど」
面白そうという笑みでアズミルが了解という気持ちの籠った顔で親指を立てて手を付き出してきた。
「それなりに深い穴で良いんだよね?」
〈うん、あぁそうだ。足元は物凄く柔らかくしといてくれる〉
「落ちてもケガしないようにだね」
〈ん? 違うけど。落ちたらすぐにティフォとガウが捕獲に向かってね〉
猫だし、ある程度の高さからなら驚いた所ですぐに体制を直せるだろう。
足元が柔らかすぎれば、とっさの踏ん張りが効かずに動きが遅くなるのが狙いだ。
アズミルが合図と共にキュスとフールで挟み撃つようにして驚かせて、二又猫を真下に落とす。案の定、体をくるっと丸めて穴の中に着地した。
ガウに遅れてティフォが近付き、穴から這い出そうとする猫をガウが捕まえようとする。
「つかま――うぶぅへ⁉」
それを逆手に取られて、手元から駆け上がっていってしまう。
ガウの背後へと逃げられたかに思えたけど、後ろから遅れてきたティフォと正面衝突してしまう。ティフォは顔面にぶつかりながらも、しっかりと耐えて優しく二又猫を抱き抱える。
今度は逃がさない様にしっかりとホールドして。
「ナイスキャッチなんだな」
「ギリギリだったね~」
猫も参ったという感じで、ティフォの手の中で大人しくしている。
「スコティッシュフォールドがモデルかしらね。耳がぺたって寝てるし、真丸顔だもん」
猫の種類は良く解らない。
ミカさんが赤ちゃんを見る様な目で撫でたそうに手をワキワキさせている。
「もう、そんな風に近付くと嫌われるよ。ねぇ、キミ」
ティフォが怖がらない様にと猫に顔を近付けると、ペロッと唇を舐められキスされた。
「あ、それって」
「あ~結局、小さきモノに好かれるんだな」
きっとティフォの画面では、テイムしますか的な表示が出ているんだろう。
あざといウルウル瞳で猫がティフォをジッと見つめている。何度か耐える様にティフォが視線を逸らせ、顔を背けていたが、観念したようにテイムする事にしたらしい。
「しってる、猫ってじっと見てるよりも視線を逸らせたり、する方が好意的に取られるのよ」
ミカさんからの変な豆知識の追撃を受けて、その場に崩れ落ちた。
「今度こそは、大きくてカッコイイ感じのモンスターをゲットするはずだったのに」
「どんまい、もうティフォっちには無理なんじゃないかな」
ケタケタとシュネーが笑いながらティフォの頭をポンポンと撫でている。
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