【オンライン】251話:ハロウィン(7)




「こんな隅っこでもお店を出しているんでござるな。此処は何を売っているのでござるか? 少しばかり品を見せて欲しいんだな」


 こういう時の切り替えと演技力は惚れ惚れする。


 ガウの長所と言える。普通はもっとぎこちない動きや態度に出てしまうものだけれど、声音も自然で動作に不自然な所が全くない。


「……どうぞ、お好きなだけ見ていってくださいな」


 声からして女の人だと思う……ティフォみたいな例外じゃなければ。

 でも若い感じなのは確かだろう、可愛らしく凛とした声をしている。

 マスコットみたいな猫の着ぐるみを着ているから、外見では判断が付かない。


「不思議なモノばかりでござるな」

「まぁ、掘り出し物の品なので。見た目は悪いですね」


 色褪せた玉やら、欠けたコイン。錆びた短剣だったりと何とも変なモノばかりが並べられていて、売り物とは思えない商品しか並んでいない。


「コレなんかは商品っぽいけど……ちょっと不気味なキャラ石だね」


 ティフォが手に取ったのは、人魂の幽霊っぽい小さな石像だった。尻尾は狐の様な形をしていて、それがモフっとした感じに少し丸く膨らんでいる。


「値段が書かれていないんだけど、これって全部商品なのよね」

「はい、そうでございます」

「お金の値段が書かれていないと買いようが無いよ?」

「問題はございません」


「いやいや、タダでくれるって言うの? まぁ、見た目がこんなんじゃあ値段なんて付かなそうだけどさ。流石にダメでしょ」


「いいえ、きちんと対価は払って頂きます」


 その言葉を聞いて、全員が臨戦態勢を取る。


〈対価って、お金じゃあないんだね…………さて、アナタはいったい、何者ですか?〉


「ふふ、物騒なモノはおしまい下さい。別に争いごとをしたい訳ではないのです」


「それなら物騒な言い回しやら雰囲気を出さないで欲しいんだな」


 皆は気を抜く事無く、何が起きても良い様に其々が何かしらの武器だったり、アイテムを手に持って動ける体制を崩すことはない。


「それは失礼しました。もう癖になっていましてね。まぁ、アナタ方と友好的でない事も確かではありますが、少し童の話を聞いてもらえないかと思いましてね」


 皆が手にしていた武器やらアイテムが、何かによって強制的に叩き落とされた。


 そして僕は次の瞬間に、思わず舌打ちが出てしまう。


 僕が舌打ちした事にいち早く気付いたティフォがこちらを振り向いてくれた。


「なっ⁉ 大丈夫かスノー!」

 ティフォの驚きと言葉で、皆の視線が僕達に集まる。

 

「ありゃりゃ、コレはちょっとばっかりヤバいかも」

 シュネーと僕には無数のナイフが突きつけられていた。


〈話し合いという雰囲気じゃあないんですけどね〉


 警戒はしていたけど、急に現れた武器の群れには対処のしようなんて無理だろう。


 猫の着ぐるみを着た店員さんを睨みつけるが、彼女は笑う様な声を出すだけだった。


「この方達を動かさない様にするには、アナタを狙うのが一番でございましょう」


 明るい声が更に僕をムカつかせる。


「良い顔です。童はお主の様な子が大好きなのです」


〈僕は嫌いなんですけどね。好感度はマイナスに急降下ですよ〉


 冷たく突き放す様に言ったのに、猫の着ぐるみは嬉しそうに笑っている。


「話とはなんでござるか? この状況で良い返事が返ってくるとは思わないでほしいんだな。仲間を人質にとったお主は信用に値しないんだな」


「あらら、随分と嫌われてしましました。まぁ別に貴方に興味はないので良いんですけれど。これ以上は話を引き延ばしても、良い結果になりそうにないので本題に入りましょう」


 並べられていた商品が全て僕の方へと飛んできた。


〈……ん? コレをどうしろと?〉


「簡単な事です、この全てのアイテムを元の持ち主に返してきて欲しいのです」


 くすんだ水晶。

 錆びた短剣。

 折れた宝剣。

 欠けたコイン。

 ひび割れたペンダント。

 名前の削れたドックタグ。

 小さな謎の石像。



「それってボク達には何の得もないじゃんか」


「いえいえ、そんな事はございません。それらを全て持ち主に返し終えたらアナタ方にはきちんとした報酬が支払われている筈です。もしくは、持ち主に返した時点で、報酬を手にしているかと思われますね」


 コレが今回のイベントか、人探しのお使いクエストって所かな。


〈それじゃあ何処に居るのかくらいは教えて貰わないと、返すにも返せないよ〉


「そうですね……でも童も居場所は知りませんので、その持ち主のヒントになるモノをお渡しします。この風景がその品から読み取れた記憶ですので、頑張ってくださいな」


 そう言い終えた瞬間にピカッと眩く光り、屋台は何時の間にか消えていた。


 僕の手元には一枚の手紙と、七枚の写真が渡されていた。




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