【オンライン】200話:ボウガさんの悩みと娯楽の話




「ちゃんと捕まえてきてるじゃあねぇか。エーコー様やカミルさんに話を聞いたからよ。色々と準備して待ってたんだぜ。嬉しかったのによ。忘れられちゃあ寂しくなっちますぜ」


 ボウガさんは慣れていない感じの拗ね顔をしながら、僕等を見てくる。


〈下手に拗ねないでください〉

「ちょっと気持ち悪いよボウガさん。ボクも思わず鳥肌がたった」


 僕とシュネーは揃ってジト目でボウガさんを見ながら言う。


「お前らな、せっかく俺がフレンドリーに接してやってるっていうのによ」


 額に青筋を浮かべて拳を握られるけれど、大きなため息を付いて脱力してしまう。


「ボウガさんなりに色々と悩みがあるんですよ、しばらくお付き合いくださいね」


 イーゴさんが苦笑いしながら、ボウガさんの肩を軽く叩く。


「慰めんな此畜がっ!」


 気持ち悪かったボウガさんを横目にしながら、捕まえたモンスターの入ったカプセルと取り出してイーゴさんの前に差し出した。


〈捕まえてきたのは、この子達です〉


「ふむ…………ツフトゥラにコクレアですか。なるほど、確かにこの子達なら浄化も可能ですね。三か所の汚水を溜める場所を作って順番に使って行けば何とかなるでしょう」


 ヘドロを栄養価のある土に変えた後に水を別の水路に流していき、溜まった土は取り除き畑に撒いたり、別の用途に使用すれば良いらしい。


 水田に向いた土が出来るそうで、お米なんかも後々に作る事も出来そうだ。


「ところで、ボウガさんはどうして慣れない事をしようと思ったんですか?」


 ティフォが珍しいボウガさんの事が気になって仕方がない様子だった。


「あ~、人が増えただろう。その、なんだ……慣れてない奴等はどうも関り難くてな」


 必死に言葉を探しながら喋っている様子を見るに、新しく入ってきて人達とあんまり上手く喋れていないんだろうな、という想像が容易に出来てしまった。


 僕は敢て何も言わずに見守ろうと思っていたのだが、若干二名ほどお人好しと言うか、お節介さんと言うか……むしろ言葉の刃物と言うモノを直に見た気がする。


「まぁボウガ殿は威圧感があるでござるからな~、子供なんかには遠目で見られるか、泣かれるかなんだな。話しかけても怖がらせてしまうのは仕方ないでござるよ」


 ガウさん、それはフォローになってないし、追い打ちです。

 ボウガさんの急所に一ヒット。軽く胸を抑えている。


「何時も眉間にシワがよってるから、怒った顔みたいに見えるんだよ。ほら笑顔だよ」


 ティフォさんや、さっき頑張って笑顔を作ろうとしてたんだよ。言葉的にもそうは見えなかったけどね。頑張って拗ね顔を作ってたでしょう。


 きっとアレが限界だったんだと思う。


 ボウガさんの急所にニヒット目が突き刺さる。ライフ(精神力)は後どれくらいだろう。


「もう、二人ともダメだよそんな事を言っちゃあ。ボウガさんが可哀そうでしょう。言葉選びだって物騒な感じの事しか出てこないんだよ、言い方はキツイし荒っぽいから尚更」


 シュネーよ、程々にしてあげてくださいね。もう事実を受け止めるだけの精神力は残っていないんじゃないかな、ほら見て、今にも言葉だけでボウガさんが膝を付いちゃうよ。


「この際ですから、しっかりと全部を受け止めたらどうですか?」


 意外にもイーゴさんが止めを刺し始めた。


「う、うるせぇ。くそぅ、此処が発展して嬉しいのによぅ」


 大の大人が今にも泣きそうな顔をしている。


〈別に子供と仲良くしなくても良いのでは?〉


「はぁ? なんでだよ」


〈先ずは大人同士で仲良くなっていけば、その内に馴染んでいくのではないかなっと?〉


「そう私も思っているのですが……どうも間が持たないんですよね。ボウガさんって職人気質だし、雰囲気も相まって大人たちでも遠巻きに見られているみたいで」


 意外にも深刻な問題なのかもしれない。


「あぁ、そうか。娯楽が無いから間も持たないよな」

「そうでござるな、釣りだってまだ出来る環境にないんだな」


 言われてみれば、此処の人達はどうやって遊んでいるんだろう。


「娯楽なんて言われてもなぁ、基本的に皆子供の頃から畑仕事やら針子なんかをするくらいだろう。遊びと称して剣術の練習や狩りの訓練が関の山だ」


〈竹細工もあるし、木でも作れる……麻雀でも作って遊ぶ?〉


 でも素人がやるには色々とルールがなぁ。


「将棋の方が良くねぇか?」


「石を磨くなら魔法で出来るでござるから、囲碁や五目並べでも良いんだな」


 囲碁はなぁ碁石に良さそうな石が無いから、パスだろう。


 そうやって話し合っていると、ボウガさんとイーゴさんが目をパチパチと瞬かせている。


 娯楽に飢えている人達の前で、遊びに関する知識を話し合ってはいけないと、僕等が心底思い知ったのは、この数秒後だった。




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