【オンライン】133話:イベント騒ぎは大騒ぎ(二日目)



   ♦♢♦♢【樹一(ティフォナス)視点】♢♦♢♦




 中隊規模の中で一際大きな個体がチラホラと見える。


「あのデカい奴等が部隊長だよな」

「多分そうなんだな、一定間隔で居るから右翼や左翼って感じで分かれているようでござるな。ただ、あの周りにいるフルアーマーを着こんだ奴等が厄介なんだな」


 小隊の時にいたリーダーを守る部隊って事だな。

 アーマーを着こんでいる奴等の後ろにチラホラといる、魔導士っぽい装備の小鬼が何匹か紛れ込んでいるのが確認できた。


「小隊の時とは数が違うわね」

「流石にアタシらだけじゃあ、絶対に太刀打ちできないね」


 少しでもあの一画が釣れたら良いんだけれど、流石に上手くはいかない。


「ガウ、左後方に注意な約三秒、その後に後どれくらいで合流が出来そうだ?」

承知シールドバッシュ


 大きな斧を振り下ろしてきた敵に合わせて、敵の攻撃を弾いた。

 その後にチラチラと俺達の後方辺りに目を向けてくれる。


「百メートルほどでござるな、多少無理してでも合流した方が良いんだな」

「なら、ここはアタシがやりましょうかね【投擲】《連投起爆雷》チャインシフト【風水】《土陣水流》おまけにおまけに麻痺ビン付きだ~」


 ミカさんが札とアイテムを投げて爆発を起こし、左右に湧き出る水で強引に道を切り開いた。噴水みたいに噴き出す水に麻痺薬が投げ込まれ、紛れて流れていく。


「アズミル、先陣突破で向こうを荒らして来てくれ、ガウは最後尾ギリギリでよろしく」


 二人の「了解」という声が重なり、一斉に動き出す。

 素早くアズミルが一人で先に向こう側に合流する為に走り出した。


「スパイク、合わせるぞ」


 小さい鳴き声と共に、一瞬だけ息を吐きだして両手を地面に当てる。


「ニードルだスパイク! 【モンスターマジック】《ヴォルトス》」


 自分達の道以外を泥沼状態にして、地面からスパイクの技であるトゲが飛び出していく。コレで一旦は足止めが出来る。


「よし今だ、行くよ」


 ミカさんとガウに声を掛けて、三人で道が閉じる前に駆け抜ける。


「簡単には追いかけさせないんだな、《バックタックル》を御見舞いでござるよ」

「アンタって本当に器用ね、なんで後ろを見ないで攻撃が決まるのよ」


 俺達と同じように、後ろから次々と追いかけてきた小鬼をガウが後ろ向きのままで、背中にある大楯を押し付ける様にしてタックルをかましている。


「ふっ、コレもティフォナス妃の愛ゆえに」

「そんなもんはねぇよ」

「即答は酷いでござるぞ」


 そんな茶番を冷めた目で見られるんだが、俺は関係ないよね。理不尽じゃないかな。


「アンタ達って変よ。絶対に変よ」

「そこまで言わんでも良くないか?」

「拙者は被害者でござるよ。おかしいのはティフォナス妃なんだな」


 コイツ勝手に被害者みたいな立ち位置に行こうとしてやがる。


「俺達は普通だから、やり方を知ってれば誰でも出来るって。というか変人が俺を売ろうとするんじゃあねぇって。お前は絶対に変人の類だろうが」


「はぁ、コレだから無自覚な人って嫌いなんだな」


 ガウがワザとらしく肩を竦め、残念そうに俺を見下ろしてくる。

 以上に腹が立つんだが、此処一発ぐらい誤射で殴れないかな。


「ちょっと色々とギリギリでやってるんだからさ、余裕なお二人さんはもっと集中してくれないかな、私に負担を掛け過ぎじゃないの」


 アズミルの叫びは耳に届いているが、別に彼女が居ればどうとでもなりそうな気がしてしまう。リアルで知ってる友人だけあってまだまだ余裕だってバレバレだ。


 というよりも、ダイチ爺ちゃんとかボウガさんとか居るんだから、向こうの方が余裕あるだろう、何をそんなに焦ってるんだ。


 ズドーンッ――と地響きが間近で聞こえた。


「コレって何、どういう状況だ?」

「きっとリーダー格が突っ込んできたんだな」

 俺達三人は恐る恐る、地響きの方を向く。


「いやいや、もうちょっと後ろの方に居るでしょう。なんで前の方に出て来てるのよ」


 ミカさんの言う通り、前線に押し出される形で敵の大将がこの辺をうろついてる訳がないと思うんだけど、いったいどういう事だよ。


 高台に居るスノーの方を見ると、なんかシュネーと一緒に拍手している。


「ド派手に一発、《大地豪拳》ん~、ストレス発散よね」

「良いわね、じゃあこっちは《大車輪・豪炎乱脚》とかやっちゃうんだから」


 物凄い敵の後方から砂塵が上がっている、主に味方のせいである事が恐ろしい。


「良いのぉ、コレは面白い道具じゃな」


 カタパルトよろしく、巨大なヤリ(ほぼ尖った丸太)が次々に発射されて行く。



「みんな、逃げるぞ~⁉」


 気付いたのはほぼ全員だろう、俺の掛け声で作戦通りの正面入り口を目指して逃げる。

 敵の方も状況把握で動きが止まっていた事もあり、俺はただ大声で叫んで駆け出す。

そう、ただ全力で逃げ込むことにした。


 敵が怖くて逃げるんじゃない。味方の攻撃に巻き込まれる方が遥かに怖かったからだ。


「ティフォナスさん、アレなに。アレも作戦の内なの⁉」

「奴ら俺達の存在を忘れてんじゃあねぇだろうな」

「怖い、怖いんですけど」


 ダイチさんと娘のトワちゃんがほぼ半泣きで横並びに逃げている。


 そしてウラさん。悪いが知らない。作戦ではあるがあそこまで暴れているのは知らない。怖いのは俺も一緒だからだ。


「てか爺ちゃん達! 逃げ足が早くねぇか」


 爺ちゃんと婆ちゃんは俺達よりも前を走って逃げていた。



「行動が遅いぞお前達」

「常に敏感に周りの把握は必要だよ」



 あの人達はいったい何かのプロなのかよ。



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