【オンライン】132話:イベント騒ぎは大騒ぎ(二日目)



      ♦♢♦♢【樹一ティフォ視点】♦♢♦♢



「さてさて、出番のようでござるぞ」

「やりますかね、後ろは任せるぜ」

「承知」


 スパイクもヤル気十分という感じで鳴き声を上げる。


〈ケリアさん、大きく左から回って逃げ辛くしてください〉


 自分達よりも右側に離れた位置から、筋肉質な男達が飛び出していく。


「了解よぉ~。行くわよ貴方達、スノーちゃんの初陣を華々しく飾る為に大暴れよ」

「おうさ、名一杯に暴れれば良いんだろう。そういうシンプルなのが一番良い」

「我が筋肉が唸るな」


 俺達の陣に一番近い連中を正面方向に移動させる為に、押し戻す感じで小鬼達を囲っていき、森に逃がさない様にケリアさん達には、大回りでワザと動いてもらう。


「向かってくる子達は強い子よ、逃げる腰抜けは放っておきなさい。でも、私達の後ろには行けると思わない事ね。さぁさぁ、いらっしゃい」


「我らと熱く抱擁を交わそうではないか、力自慢は居ないのか?」

「鬼ってさ、よく見ると良い筋肉してるんだよね。力の使い方がなってないだけで」

「分かる。不潔なのは残念なの、ちゃ~んと綺麗にしてあげなくっちゃ」


 ケリアさんと息の合う人達をスノーとシュネーが選んだそうだが、なんだろうな、あの近付きたくない雰囲気が漂う集団は。


 小鬼達も初めは勢い勇んでいた連中が急ブレーキをかけて止まる。


「ちょっと、どうしたのよ。勢いのまま来なさいよね」

「まさか、怖気づいたんじゃあないだろうな」

「ダメダメね、何を思ったのよ?」

「まさか、アタシ達が怖いなんて抜かすんじゃないだろうね」


 魔導士とは思えない体格のお姉さん言葉から、最後は威圧感が半端ないドスの効いた低く周囲に良く通る声が戦場に響く。

 周りに居るプレイヤーを含めた全員がきっと同じおもいだろう、しかし、此処で素直に首を下げる者は居ない。頷きたい気持ちを必死に抑えている。


 味方達は哀れむ視線を敵たちに向けている。

 怖気づいた一匹が逃げだしたため、次々と回れ右をしてケリアさん達から離れて行く。


「逃げたわね」

 笑顔のケリアさんが、腰をくねらせながら頬に手を当ててショックを受けている。

「ふふふ、いい度胸じゃあない」

 全員の顔がケリアさん同様に笑顔だ。目だけは笑っていないけど。

「万死に値する行為って事をおしえなくっちゃね」


「【補助魔法】《スピーダー》――チャイン、ギアシフト【気】《疾風迅雷》パーティー付与……逃げられると、追いたくなっちゃうのよね」


 全員の一歩目が大地を踏みしめた、その瞬間に横一列にひび割れた地面が続く。


「全力で掛かってこんかいっ!」

「恐怖症状ってどういう事だゴラァ⁉」

「玉ついとんかワレェ⁉」


 アレは誰が見ても恐怖だと思うが、この場でその言葉を口に出せる猛者は居ない。


「さ、さぁ、頑張って囮役をやるでござるよ」

「行くよ、スパイク」


 スリスリと俺の脛に頭を埋める。


「逃げるのを追う方が好きなんだけどな~」


 アズミルの怖い発言は総スルーだ。


「援護はしてあげるから、好きに動き回って良いよ」


 苦笑いをしつつも、状況を何気に一番楽しんでいるミカさんが今は心強い。


 ある一画の絵面が濃ゆすぎて色々と注目を集めてしまっているが、気にしちゃいけない。この騒動に乗じて飛び出し、突っ込み過ぎた風を装えば良いだけだ。


「じゃあ、行くぞ~⁉」


 俺の掛け声で一気に皆が駆け出した。


 深く攻めて来ていた一団が戻ってきたところで、ワザと敵陣に突っ込む形で突撃する。坂道をガンガンに下って行き、勢いのままに小鬼達に体当たりをかましてやる。


「ギグ⁉」


 俺達とは反対側では――――、

「坊主共が突っ込んだようだな」

「父さん、無駄に張り切るのは止めてよね」

「あはは――まぁしょうがないさ。こういう戦いをして見たかったって言うんだからね」

「激しく動くのは苦手なんですが、まぁしょうがないですね」

「案ずるな、何かあれば助けてやるぞい」

 ダイチ爺ちゃんを始めとした集落の皆が、反対側で囮役をやってくれている。


 ちなみにだが、ケリアさんと同じ役をやっているのはエーコーさんと軍隊蜂さんです。


「森を蹂躙した罪は、しっかりと変えさせてやるぞい」


 軍隊蜂は統率の取れた動きで鋭いハリと一斉に発射して追い返している。


 それに合わせてエーコーさんが太い御木を鞭の様にしならせて、大人数を転ばせ(吹き飛ばしては、叩きつけ)ているのだ。


 アレはアレで怖いんですが、エーコーさんが美人過ぎるせいでなんか絵になっている。

 モフモフの蜂達が花びらを仲間に振り撒いているせいで、更にその姿が美しい。


「ここで少し維持しながら、じりじりと前方に移動してくよ」


 これ以上は戻れなくなってしまう。

 囲まれる事は最初から計算に入れて、突破してギリギリ戻れる範囲で戦線を維持する。

 多くの小鬼達が、本陣から離れた俺達に気付き始めている。

 囲う様な動きをしていると、スノーとシュネーから連絡が入る。


「体力に余裕があるうちに前まで持ってくぞ」

 倒せる敵は取りあえず倒し、すぐに攻撃されないように離れる。


「フピ! 《旋風》チャイン、《風壁》」

 前方に多かった敵を風の壁でアズミルがこじ開けてくれる。


「よっ、ほっと。火薬ビンのお替りはいかかですか」

 ミカさんは爆弾アイテムを次々に投げていく。


「どうしたでござる? 背中を見せているというのに当たらんでござるな」

 ガウは俺達の方を向きながら、敵に背中を向けて挑発している。


「【挑発】《玄武盾》」

 カメの甲羅の様に背中に大楯を背負って、その全てを背中で受け止めている。

 俺達に飛んでくる攻撃は両手の小さい盾で、その全てをパリィしていくのだ。


「【盾技】《パリィ》チェイン――ギアシフト【回転】チャイン《シールドウェーブ》」

 向かってきた攻撃が全て円状に弾かれていった。



 クルクルとスタイリッシュに回転しながら敵の攻撃が盾にあたるたびに、そこを中心としたショックウェーブが発生して、周りの鬼達が仰け反っている。



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