【オンライン】123話:イベント(一日後半)【ティフォナス視点】

     ★☆★【ティフォナス視点】(樹一視点)★☆★




「簡単なテントとかで作る休憩所とかじゃなくって、そのまま要塞でも立ちそうな勢いの建物だな。しっかりと外壁で覆ってるよ」


「スノー姫の考えが当たっていたでござるな。本格的な攻略をしてくるのはヴォルマインからの方だったんだな、立派な外壁でござる」


「近くに来てみないと、本当に分からなかったわね」


 木々や蔦などの葉で上手く隠しているが、内側にはコンクリートの壁がある。

 けりあさんが軽く叩くと、中身の詰まった硬い音がした。


「見せかけって訳でもなさそうね」

「自陣の守りは完璧でござるよ。忍び込める場所が見当たらないんだな」


 四方には見張り台が作られている。


「さて、そろそろこの辺にウロウロしていたら怪しまれちゃうから、正門から堂々と尋ねましょうかね。スノーちゃんの思惑通りにいけばいいんだけどね」


「成功確率は七十パーセント……後は、交渉する俺達で変動って言われるとさ、すっごいプレッシャーがあるんだけど。なんでケリアさんやガウは余裕そうな感じなんだよ」


「拙者は護衛でござるからな」

 悪びれも無くガウが即答しやがった。


「私も貴方の護衛よ。つまり、此処で交渉するのはティフォナスちゃんなのよね」


 ケリアさんも明後日の方を見ながら、さもお手伝いが出来ないで残念とでも言うように心の籠っていない「ごめんなさいね」という答えが返ってきた。


「ま、待って。え、ちょっと待ってよくれよ」

「残念ながら、もう正面ゲートまで来てしまったんだ」

「ティフォナスちゃん。乙女は度胸よ」


 男だよ俺はと言おうとしたが、ケリアさんに背中を押されて門の前まで進んでしまった。


「此処に何の御用かな?」


 見張りをしているのはNPCの様だ。

 プレイヤーが見張っている訳ではないらしい。


「あ~その、自分達はグランスコートから来た者だ。森の事で色々と話せないかと思ってね、お互いの措かれている状況を少しでも話して見ないかっていう感じなんだけれど」


 アレコレを必死に頭の中で考えながら、何とか言葉に出していく。

 心の中では正直、


 ――俺にどうしろって言うんだよ。こういうよのケリアさんみたいな大人がやるのが普通でしょうに、まだ高校生に何てことをやらせてんだ。


 立場的にもガウやケリアさんのが絶対に上だろう。

 こちとらまだまだ生まれたてのヒヨコだよ、初心者だっていうのにさ。

 なんていう愚痴が次々に浮かんでは消えて、すぐに失礼の内容にどう言葉を告げれば良いか、とかもう色々とグチャグチャの思考が渦巻いている。


「入れ」


 重い扉がゆっくり開いていく。


「ついて来てください」


 ヴォルマイン陣地にはまだ家が建っている訳じゃあなさそうで安心した。

 大きなテントは張ってあるけれど、それ以外にはモノが置かれているだけだ。

 中央の一番しっかり作られたテントに連れて来られた。


「此処の指揮官をしている人が居る。くれぐれも失礼の内容お願いしたい」


 フルプレートの騎士が胸に手御当てて令をしてくれながらも、声には警戒心が混じって聞こえてきた。気のせいではないし、ワザと俺達に向けている感じだ。


 一回だけ深呼吸してからテントの中へと入っていく。


「よう、やっぱり来たな」

「貴方は、鍛冶屋さんの」


 中央の一番良い席に座っていたのは、ゴッズさんだった。


「今日はチミッちゃい嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」

「えぇ、彼女には陣営の指揮をして貰ってますからね」


 なるべく笑顔で受け答えをしよう。

 情報はなるべく有意義に使えって教えられてるからな。

 でも、俺は翡翠みたいな芸当は出来ない。


「失礼を承知で単刀直入に聞きますが、やはり森を狙っているんですかね」

「はは、まぁな。資源エリアはやはりメリットが大きいからな。それに素人が管理するよりも俺達の様な熟練プレイヤーが守ってやった方が皆が安心するだろう」


 ヴォルマインには森の様な木材関係の資源が無いから、是が非でも欲しいんだろう。

 しかも、熟練のプレイヤーはケリアさんくらいで、他はまだ初心者の集まりみたいなものだという事も事前に調べてやがる。


 ――確かに、スノーが予想した通りに、面倒な相手だな


 ただ自信過剰なだけって訳でも無い感じだ。


「まだまだ発展途上のグランスコートでは、このイベントで勝ちにいくのは無理だろう。人数やベータテスト組の熟練プレイヤーが多くいるジャンシーズを相手にするにはな」


「なるほど、確かにそうですね」

 相手が下に見てくれているならば『それを正す必要は無い』って、スノーは言ってたな。


 ――ならば、そのまま話に乗っかってみるか。

   つうか、あの翡翠のヤツ。大体の話の流れを幾つか想像してるってどんだけだよ。


 隙を見せすぎないように考えた素振りをしながらも、『弱腰で相手から切り出すのを待ってみるのも一興だよ』という言葉通りに演じてみる。


「そうだ、なんなら俺達ヴォルマインが色々と助けてやろう」

 騙しているのは気が引けるんだけど。


「え、本当ですか⁉」

「あぁ、イベント前にお前らにあったのも何かの縁だ。助けてやるよ」

「それじゃあ、こちらも色々と集められた情報をあげるわね」


 ケリアさんが重要な情報を抜いた、森の大まかな資料をゴッズさんに渡す。


「そりゃあ助かるぜ」


 ……ここまでは、確かにスノーのシナリオ通りに動いたな。


 

 心の中で顔に出さないように注意しつつ、大きく一息ついた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る