【閑話:暴走回】女の子のお勉強①


 今は夕食時……そう、オレの一日の言動によって地獄の時間が待っている。


「さぁ翡翠ちゃん、解っているわよね?」

『何がでしょうか、自分には良く解りません』


 女性らしくという、母さん《達》によるオレの矯正時間。


「あらあら、綺麗な言葉を使うようになったわね~」

『えぇ、モチロンですとも』


 ニコニコと微笑む顔が悪魔の笑みに見えるんだよな……特に最近は。


 オレを着せ替え人形にしたいが為の口実だって、そういう事は分かっている。


 ナニがとは言わないが、母の部屋には新しいアルバムが増えているのだ。


 そして、そのタイトルが【翡翠ちゃん成長日記】【琥珀ちゃん成長日記】というモノだ。


 アルバムなのに、なぜ日記かとツッコミを入れたくなったが、そんな部屋を漁った行為がバレてしま

い。半日は撮影会を開催された。


 咲沢双子姉妹……葉月ちゃんと桜花ちゃんがハンディーカメラで動画を撮って。


 小鳥ちゃんが写真を中心で撮っていく。


 母さんが衣服を用意するのだが、その全てに着替えさせるだけでなく女の子っぽい仕草の練習と称して、一から叩き込まれるのだ。


 足を広げない座り方、立つ時に気を付ける事など。


 しかも、ミニスカートを穿かされてだ。


 何なんだよ、あの見えないギリギリのラインって、ズボンで良いじゃんか。


 ホットパンツですら気を付けないとダメだと言われるだぞ、下手に足を広げて座っているとパンツが見えちゃうんだそうだぞ……知らないよ。


 その都度に言われる言葉がある。


「見られても良いの? 知らない人に自分の下着を――」


『…………見られたくありません。すいません』


 というやり取りが、毎日の恒例になってきている。


「でもね~、此処に琥珀ちゃんからの調書によると~……あらあら、まぁまぁ」


『琥珀の調書ってなにっ⁉』


「あら調書は調書よ? あ~ら、随分とヤンチャな行動が多いのね~」


『そ、それはゲーム中の話しでしょう! 別に問題ないと思うんだけど』


「私達があんなに頑張って女の子の注意をしたっていうのに、全然ダメダメだったみたい」


 ワザとらしいため息を付いて、オレから視線を外していく。


 その瞬間に嫌な予感がして、慌てて椅子から飛び降りようとしたのだが――、


「椅子から立つときの注意も忘れてしまわれているようですよ、お義母様」


 椅子を引いて横に飛び降りる時には、オレの両脇に手を入れられて小鳥ちゃんに持ち上げられてしまい、椅子にまた座らされる。


 熱を測る様に御凸に手を当てられてしまう。


『あの、熱はないんですけど』


「えぇ知ってるわよ?」


『それなら手を退けて欲しいなって』


「あは♪ ダメだよ」


 くそっ、体の構造を弱点を突いた手を打ってくるとは予想外だ。


『むぅうぅぅ~~』


 足をいくら動かしたところで、床に届かないからパタパタさせるだけだった。


「ふふふ、可愛いなぁ~」


 一生懸命に抵抗して立とうって頑張るけどどうやっても体が動かない。


 深く座らされているせいで、どうやっても動けない。足は地面に着いていないから更に力が入らないし、椅子を後ろに下げる事も出来ない。


 小鳥ちゃんの目も何か怪しい感じになってない⁉ 熱を帯びている気がする。あと若干だけど瞳の光が無くなっている気がして怖いです。


「それに今日はちょっと危ないと思う所がありました」


「まったくお昼の休憩時とは言えど、男の人の膝上に無防備に乗るのは駄目だと思う」


 葉月ちゃんと桜花ちゃんが其々に段ボール箱を抱えて持ってきた。


 その後ろには執事さんとメイド長さんが心配そうについて来ている……と、思ったのだけど違うらしい。


 三脚やら白い布を持ってきている。肩にはカメラバッグを下げて。


「それって樹一君でしょう……う~ん、微妙な所ね~」


「脚を大きく開いて胡坐をかいてました?」


「少しお昼ねしてたよ? 男の膝上に乗ったままで」


「あらあら? それはちょっと問題かしらね」


『えっ⁉ 何でよ』


 相手は樹一だし別に大丈夫でしょう。


 何がいけないのか全く分からないんだけど。


「男の人の腕の中で寝るのは駄目よ、いくら相手が兄ぃでもね」


「男は狼? 獣だよ」


「適度な距離感は礼儀として必要でしょう?」


 葉月ちゃんと桜花ちゃん、そして小鳥ちゃんの微笑みが般若のお面見たく見える。


『か、母さん?』

「親しい中にも礼儀ありって言うでしょう」

「兄ぃ……今頃は大変だろうな~」

『へっ! 樹一、どうかしたの⁉』

「今は、あの人はどうでもいい?」

「さぁ、コレから着てもらうね」


 桜花ちゃんがセーラ服を段ボールから取り出し、オレの体に宛がう。


「それではお嬢様方、私はお風呂の準備に取り掛かります」


 執事さんが部屋を出て行く前に袖を摘まんで助けを求めたが、優しく手を外された。


 小声で「これも貴方様の為でございます」と言われ、そそくさとリビングから去っていく。


「私達が着替えの手伝いをしますので、細かいセッティングをお願いします」


 メイド長さんと、メイク担当のメイドさんやら着せ替え担当の人達がオレを取り囲む。


「良いですか翡翠様、座るときにそんな足を開いていては駄目です」


 カシャと写真を母さんに撮られて、携帯画面を見せられる。


「コレが今の翡翠ちゃんの座り方よ」


 すぐにセーラー服を着せられて、妙に短いスカートを穿かされ同じように座ると、またすぐにカシャっと写真を撮られる。


「ほら見てみなさい」


 たしかに写真を撮られたら良く解る……パンツが丸見えだ。


『ほぇ~……確かに、コレは、恥ずかしい、です』


 顔から火が出そうなほど熱くなっているのが分かる。


「それじゃあ、女の子のお勉強を頑張りましょうね」


『あぅあぅあぅ』


「まだ家の中だから良いけど、良いの知らないオジサンとかにジッと下着を見られるの?」


『はにぅ~~』


「世の中にはこうやって写真を撮る輩だっている?」


「女の子のお勉強、必要ないっていえる?」


『わふ……がんばりましゅ』




「よろしい」




 母さん満足そうな顔で笑って頷いていた。




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