【閑話:暴走回】樹一の女難①
==【視点:樹一】==
「さて兄ぃ、なにか申し開きはあるかしら?」
「申し開きも何も……俺はなんにもしてないじゃないか」
現在、俺は何故か知らないが正座させられて床に座らされている。まるで、今から尋問される囚人の様に、三人の人物に囲まれる様にして。
一人は我が妹である。
腕を組んで、椅子に深々と座って俺を見下ろしてくる。他の二人も同じだけど、目から光が消えうせて無機質で背筋が凍るような瞳でだ。
いや~、恐ろしいね。ほんと、心当たりがないな~。
「兄ぃが注意しないとダメでしょう。一番近くにいる男は兄ぃなんだから」
「そうは言うがなぁ。翡翠だって俺との付き合いは男友達としてだな」
笑って場を和ませようとしたけれど、更にこの場の気温が下がっている気がする。
「それは分かってる? でも男として言わなきゃダメ?」
「分かってるけど、ダメな事は駄目と言わなないとね~。男として」
双子からの容赦ない言葉が俺の心に突き刺さってくる。
確かに翡翠の距離感は近すぎる気はするけど。
「理解してない?」
「はぁ、コレだから男って嫌い」
辛辣だ、俺がいったい何をしたというのか。
胃がキリキリ痛くなってくるよ。
「……会長やふぶき先輩に男として一から鍛えられたら?」
もう少し何か言ってやろうと思っていた俺の体が、一瞬で凍り付いた。
我が妹の言葉で凍てついた様に動かない俺を、双子が不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「誰それ?」
「弱点発見?」
面白いモノを見つけたかのような笑みで、双子から嫌な笑みを向けられる。
「別に弱点って程のモノじゃないですよ。ただちょっと兄ぃにとっては苦手意識のある人達の様でして、色々と厳しく躾て下さる方なのではないかと思っただけです、ねぇ兄ぃ?」
小鳥は小さく口を動かして「良識があるかは別として」と付け加えていた。
まるで俺だけに読み取らせる様な口の動きだった。
「しかしだな、翡翠が引っ付いて来るんだからしかたな――」
なんだっ! 体が震えてやがる。
「やっぱりまだまだ私に頼ってくれるように頑張らなくっちゃダメね」
「そこは私達と言って欲しいな?」
「そうそう、抜け駆け禁止だよ~」
ニコニコと笑いあってお話をしている筈なのに、この場は絶対零度の空間の様で凍えそうなほどに冷え切っている。
アイツら誰一人として笑ってないよね。
すっごく怖い……きっとあの微笑みに見える瞼の裏がは鋭い刃物の様に瞳が睨んでいるに違いない。
「良く言うよね、抜け駆け常習犯が居るのにさ」
チラッと鋭い視線が双子へ向けられる。
「何のことか良く解らない?」
葉月ちゃんがその視線をさらりと躱す様に顔を他所に向けてしまう。
「一番に抜け駆けするのは葉月でしょう」
しかしそこには桜花ちゃんが回り込んでいたよだ。
「それに便乗するのが桜花ちゃんよね?」
口笛を吹いて何のことか分からないと言うように小鳥とは顔を合わせない。
「翡翠ちゃんのベッドにいの一番に潜り込むの止めて貰えないかな~」
「なに、嫉妬?」
しれっと飲み物を飲みながら葉月ちゃんが答える。
小鳥の眉間がピクピクと痙攣して様子が此処からでも良く解る。
もう妹の額に青筋が浮かんで見える様だ。。
「知ってる? 翡翠、隣で寝てると抱き着いて来るんだよ?」
「知ってます~、翡翠ちゃんの抱き枕は私が上げたモノなんだから、寝る時の癖くらい知っていて当然でしょう」
「甘える様に抱き着てくるから、くすぐったいんだよね~」
「柔らかいし、温かいからすっごく寝やすい?」
「だから、今日は私に代わりなさいよ」
「それは、早い者勝ち?」
「双子でも先に入った方が勝ちなんだよ~」
くんずほぐれつしているのか、うらやまケシカランな翡翠の野郎……今は、女だが。
ふむ、想像してみると案外と良いかもしれん。
シスコンではないが、我が妹も性格を省けば見た目がかなり良い女だしな。
双子も其々に違う可愛さがる、そこに翡翠という美少女が加わる構図は何とも――。
「兄ぃ?」
「はっ⁉ な、なんだ⁉」
妄想していて話しを聞いていなかった。
「……変態?」
「ド変態ね」
「兄ぃを翡翠ちゃんと一緒に居させて良いのか審議が必要かしらね」
「意義なし?」
「むしろ分からせた方が良いんじゃないの?」
此処はリアルだというのに、まるで手品でも使ったかの様に小鳥が紐を取り出した。
そして何時の間にか双子が布団を持ってきている。どっから持ってきた。
よく見ると執事さんが後ろに待機している。
なにやら家の母ちゃんと話しをしている様子だ。メイドさん共々、なんか馴染んでる。
「まぁとにかく、今後とも翡翠ちゃんには女の子として意識して貰わないとダメなの」
無表情でゆっくりと小鳥が迫って来る。
逃げようとしたが、今まで正座だったために足が痺れて扱けた。
そこに双子が布団で俺をくるんで簀巻きにされた。
「た、助けて翡翠!」
俺の声は虚しく響いただけだった。
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