【オフ58】役割、開拓、初めの準備


  ==★☆★【視点:琥珀】★☆★==




「ふぅ、よっと? ん?」


 ベッドから起き上がろうとすると、何かが両腕に絡みついていて起き上がれなかった。


「なんだ琥珀ちゃんか~。お疲れ様」


 ちょっと残念そうな声の桜花ちゃん。


「楽しかった?」


 葉月ちゃんは耳元で息を吹きかける様に、喋ってくる。


「なんで二人とも引っ付いてるの? まぁ、楽しんだけどさ」


 桜花ちゃんと葉月ちゃんが左右からヘッドギアを持ち上げて、僕の顔を覗き込んできた。


「体を冷やさない様に?」


「マッサージ?」


 二人して小首を傾げている。


「……センサーが仕事してない気がするんだけど?」


 たしか安全面の為にって、そんな感じの機能が付いていたはずだ。


「アレは体に何かしらの害があるか、地震や体を障られて揺らされるとかしない限り反応はしないよ? 後は室内センサーだけど~。家族と私達に小鳥ちゃんとかの登録者には、ある程度の接触や近付いても大丈夫なように、なってるからね」


 いつの間に登録をしていたんだろう。


「入る際に専用のギアは必要」


 チラチラと腕についているギアを見せびらかしてくる。


「起きる時は僕が居るから、大丈夫なんだけどさ」


「保険は必要?」


「そうそう、常に万全を期すのが一番でしょう?」


 うぐっ、確かに翡翠の事を考えたら、居てくれた方が良い気がする。


「それでも限度ってものがあるっての」


 僕が何も言えないの呆れたのか、双子に対して呆れているのか分からないけど。ため息交じりに入り口のドアに寄り掛かった小鳥ちゃん居た。


「げっ、小鳥ちゃんっ⁉」


「不覚、気配を消された?」


 確かに、いつの間に入ってきたんだろうか。


「はいはい、離れた離れた。全く隙を見せたとたんにコレだもの、困った子達ね」


 手を伸ばして引っ付いていた双子を引きはがしてくれた。


「僕が居るから、そうそう翡翠には近付けさせないけどね~」


「その調子で頼むわね琥珀ちゃん。翡翠は気を許した相手にはポヤポヤし過ぎててすぐに付け込まれるんだから」


 いや、僕的には小鳥ちゃんも油断ならないと思ってるんだけど。


「そうだね~、本当に心配になるレベルだよね」


 なんて僕が相槌を打っていると、双子と小鳥ちゃんの攻防が始まっていた。


 同意しつつも、桜花ちゃんは僕にすり寄ってこようとしている。


「む~、琥珀ちゃんだけズルい」


 葉月ちゃんは堂々と引っ付いてきた。


「そうだそうだ~、一緒にゲームだってして~。こういう時間くらい私達に譲れ~」


 桜花ちゃんが葉月ちゃんの言葉に同調して声を上げていう。


「へっへ~ん、良いだろ~」


 ちょっと優越感に浸りたくて、偉そうに言ってしまう。


「はいはい、琥珀ちゃんもそんなに煽らないで。それよりも、どう? 皆で楽しめてる?」


 すぐに小鳥ちゃんに宥められてしまった。


「うん、全力で楽しんでるよ~」


 ゲームの中なら翡翠と遊びながらお話出来るのは、本当に嬉しいし、楽しい。


「情報の提供を要求」


「それくらいは、良いよね」


「えぇ、それくらいはしてくれないと……不公平よね」


 さっきまで其々が牽制しあっていたはずなのに、いつの間にやら協力体制を築かれてしまい、三人に囲われてしまった。


 しかも、なんかちょっとだけ顔が怖い、みんな笑顔だというのに。


 というかさ、打ち合わせもしてないのに連携が良すぎないか三人とも。


「むぅ、多勢に無勢だね。はぁ、仕方ないな~」


 逃げ出すのは無理だし、此処で逆らっても良い事がない気がする。


「翡翠が起きるまで、話し相手になってあげる?」


「むしろ、根掘り葉掘り聞いてあげるの方が正しくない?」


 目が笑っていない双子の背中には、悪魔の小さい羽が見える様だ。


「小悪魔が二人も居るよ~」


 なんとか脱出しようと小鳥ちゃんに助けを求めて近づいたのが間違いだった。


「ほら、皆の分のおやつがあるから、皆で女子会といきましょうか」


 僕の行動を見越した様に体を持ち上げられてしまう。


「わわっ! こ、小鳥ちゃん、なんで僕を抱っこするのさ」


 お姫様抱っこで抱えられてしまい、暴れようにも怖くて出来ない。


「急に体を動かすと危ないでしょう」


 何ともだらしない笑みで、そんな事を言ってくる小鳥ちゃん。


「一番に油断ならないの、小鳥だと思う?」


「葉月に一票。私もそう思うよ~」


 その投票に僕の一票も混ぜて置いてください。


「体をほぐせば大丈夫だから、下ろしてよ~」


 落とされない様に足だけをバタつかせるが、余計にがっしりと抱き抱えられてしまう。


「私達だっていつまでも入れる訳じゃなないんだから、時間は有限なの大事に使わないと」


「そんなこと言って~、ずっと翡翠と琥珀の部屋に入り浸ってるの知ってるんだぞ~」


「あれ? そうだっけ?」


 口笛を吹きながら、勝手にリビングへと琥珀ちゃんは歩いて行く。


「寝るときまで一緒はズルい、だから今日は私達が一緒にいる」


 葉月ちゃんは付かず離れず、僕の服を掴みながら移動している。


「ちょ、どういうこと~。僕は知らないんだけどさ⁉」


「起きるのは琥珀が早いけど、寝るのは翡翠が遅いからね。しっかり寝るまで付き添ってるだけよ。気にしないで良いよ琥珀ちゃんはさ」




 ニッコリと微笑む小鳥ちゃんに、少し背筋が寒くなった。





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