【オン57】役割、開拓、初めの準備



「あぁそうだ、最後にコレを君にあげよう」


 ダチョウの卵みたいな感じの、不思議な物体を渡された。


『これは……なんですかね?』


「おっきくて、卵っぽいね」


 形からしたら、確かに卵っぽい。形だけはね。


「それにしては、なんかタネっぽい表面よね」


 ケリアさんが言うように、表面は木の皮っぽいゴツゴツのシワシワだ。


「正解、それはタネだ。しかしね、私にはデンドロ達がいるが、畑なんて持っていない。デンドロ達は其々が勝手に育ち、勝手に増えていくからね。私には植物を育てる才能はない。そこでだ、君にこのタネをあげてしまおうと思ってね」


 自分では何にも出来ないから、ついでに在庫処分的な言い方をされた。


 石材を持ってくるついでに、倉庫の中で見つけたんだろうか。


『なんのタネなんですか?』


「知らない」


 即答された。しかも胸を張ってハッキリと。


「なにも分からないのに、育てろっていうの?」


 ジト目でシュネーがイーゴさんを見つめる。


「君の所には使っていない畑があるじゃないか、ちょうど良いだろう?」


 オレ達と必死に顔を合わせないように背けつつ、日汗を流しながら答えた。


 絶対に石材やら台座を用意していた時に、倉庫で見つけたに違いない。


 忘れていたモノを、押し付けた感じだろう。


『まぁ、たしかに何にも育ててない畑は、オレの場所ですけど』


 自分の畑を見ると、何にも植えていない寂しい畑があるだけ。


 もう耕して土もフカフカな状態を維持しつつ、土を十分に休ませてある。


 いつでも植えられる状態なのは確かだ。


「ついでで良いんだ、育ててみて欲しい。タネ自体はきちんと生きているから、安心してくれよ。私の魔法で保存していたからね」


 イーゴさんの事だから、何かしら魔物に関するモノな気がしてならない。


「なんのタネか分からないっていうのは、ちょっと怖いわね」


 ケリアさんも、横目でイーゴさんを睨みながら言う。


「なに、もしもそのタネが原因で被害が出たら、私が弁償しよう」


 大量の汗を拭きながら、必死にお願いしてくる。


『それならまぁ、良いですけど』


「それでは、また面白そうなことやモンスターについて聞きたかったら何時でもおいで。私は何時でも歓迎だ。特に、モンスターに関する情報は絶対に私の所に来る様に」


 あぁ、絶対に何か魔物関連のタネだよ。


 イーゴさんは逃げるよに去っていった。


「はぁはぁはぁ、まったく、あのデンドロ達は容赦というモノがないんだな」


 ボロボロになりながらも生還していたガウが、棒を付きながら歩いて来た。


「ただジャレついてただけじゃない?」


 シュネーには、囲まれて逃げられない上に攻撃を仕掛けられている場がそう見えたのか。


「半殺しにあうのを、ジャレつくで済ませないでほしいんだな」


 相当疲れたのだろう、ガウはその場で腰を下ろした。


「はんっ、そのまま死に戻りしてこいよ」


 いつの間にか、ひっそりと戻ってきたティフォが、ガウの後ろから恨みがましく言う。


「ちっちっち、それは無理な相談なんだな。いくらティフォナ妃の願いでもね」


 人差し指を振りながら、決めポーズで言う。


 ただし、疲れているのか座ったままで。


『無駄にカッコイイね。絵にはならないけど』


「そうね、色々と残念だね~」


 イケメンがやれば、映えるのだろう。


「ほっといてほしいんだな……良いかい、君達みたいな可愛い子の何気ない言葉はね、時に鋭い刃物で刺されるよりも、心をえぐる事があるんだから、気を付けるだな」


 ポンポンとオレとシュネーは、ガウに撫でられる様に叩かれた。


「その無駄にキメ顔を作って言わなきゃな~、まだカッコ良く映るのにぃ。アナタってつくづく残念なのね。サラッと言いなさいよ」


 ケリアさんが物凄い残念だという顔で言う。


 オレもシュネーも一緒になってケリアさんの言葉に頷いた。


「無駄無駄、コイツのはもう染みついた癖だから。未だに治そうと思ってはいるみたいだけど、少しでも『あれ? コレはカッコいいセリフ』とか頭の中でよぎると、さっきみたいになっちゃうんだよ」


 小馬鹿にしたように言いながら、ガウを弄り倒している。


「慰めるなら、きちんと慰めて欲しいんだな。半分以上が貶されているんだな」


 ガウは疲労でやり返す気はないらしく、されるがまま遊ばれている。


「ははは、さっきの仕返しだ愚か者め」


「ぬぉ~、ティフォナ妃がダークサイドに落ちたでござるよ~」


 ある意味、こっちの方がジャレついていると言えると思うのだけど。


「それにしても、結構な時間やっていたわね。そろそろお開きかしら?」


 空を見上げながら、ケリアさんが背筋を伸ばしていた。


「うぅ、もうちょっとやってたいな~」


 寂しげな表情のシュネーだけど、流石にこれ以上は母さんに怒られる。


『明日も出来るから、今日はここまでだよ』


「わかったよ~」


 出来るだけ優しくシュネーの頭を撫でてあげる。


「長くやっていてもペナルティをくらうだけだからな」


「そのタネだけ埋めちゃう? 水撒きはハチさん達がついでにやってくれるでしょうし」


『そうですね。パパっと埋めてきちゃいます』


「大きさ的に、真ん中あたりに埋めちゃう?」


 少し元気になったシュネーは、オレと一緒に畑まで行く。


『うん、なんか妙に大きいしね』


 畑の真ん中にシュネーと二人で穴を掘って、優しく土を被せていく。


「しっかし、今日は色々と進んだな」


「そうねぇ~」


「ガウっちはさ、このまま仲間っていうか、此処の手伝いをしていく感じで良いの?」


「そうでござるな。どうせティフォナ妃と合流が出来たら、共に行動をしようと決めていたでござるからな。皆が良かったら、このまま開拓の仲間に入れて欲しいんだな」


『うん、大歓迎だよ』


「なんもないけどね~、一緒に楽しくやってこうね」


「ふふ、新しいお仲間ね。よろしく」


「じゃあ、お前は情報収集やら偵察担当な」


「その言い方だと、すっごく無理難題を言われてこき使われる役に聞こえたんだな?」


「間違ってないだろう」


「拙者は騎士なのでござるが……」



「回避やらスピード特化って聞いたことない感じのね」



『むしろ、密偵とか言った方が良い?』



「なんで死地に行くような雰囲気なんだな⁉」



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