【オン56】役割、開拓、初めの準備


『先ずは何から手を付けていきましょうかね』


 皆の意見も参考にしたい。


「ここに入り口を作るとして、先ずは集落を囲うように壁を作る班と道を造る班と分けると良いだろう。使う物は石と木で別だからな、木々に関しては少ないが私の方から定期的にある程度の数を提供できる」


 イーゴさんがすぐに提案をしてくれた。


 元々、道を造るつもりだったから良いけど、確かにどこからでも入りたい放題なんだよね。


 集落の周辺から手を付けて行くのは良いかもしれない。ある程度の範囲を想像しやすい。


「でも一定距離までしか道は伸ばせないんだよな?」


「そこはスノー姫に頑張ってもらうしかないな。彼女の能力でパニア様がレベルアップしていけば、次の台座へシフトしていける。その頃には道もある程度は出来ているだろうからね、そこにまた新たな台座を用意するさ」


 あの特殊な台座はイーゴさんにしか頼めないだろうし、その時になったらお願いしよう。


「イマ、の、ワタシデハ、ムコウの、ダイザ、マデ、が、ゲンカイダ」


 パニアは分身ゴーレムを楽しそうに操作しているようだ。


 一つ一つの動作確認をしながら、面白いとばかりに唸っては踊っている。


「ねぇねぇスノーちゃん、モンスタースキルボードって何が書いてあるの?」


 ケリアさんが興味深々にオレの元へと寄ってきた。


『え~っと基本的に【力】【知覚】【知性】【魔力】【機敏】って其々に能力値を振れるみたいです。耐久に関しては、ゴーレムだからか素材にしたアイテムに依存と書かれていますね』


 ちゃんと見ていなかったし、見たいと思っていたからすぐに開いて確認した。


「ふむ、それだけかね?」


 考え込むように口に手を当てて、ブツブツと呟き始めた。


『え? はい』


 どうしたんだろう。


「あれでござるな、きっと仮の契約だからと推測するんだな」


 すぐにイーゴさんの考えを察したのか、ガウも一緒に考えながら発言する。


「憶測ではあるが《ギア》も弄れるはずだ、それだけでは“スキルボード”というギアの意味が無い、他の向上系ギアと変わらないからね。仮契約という事で何かしらの能力制限が掛かっているのだろう」


 何かを納得した様子だ。頷きながら同じ考えだという。


「それよりもウサギとか、ハチは見れないのか?」


 ティフォに言われて、隅々まで見てみるけど何も書かれてはいない。


『うん、無理だね』


「そもそもウサギもハチさんも、スノーと契約も使役もしてないからね」


 シュネーの言う通りだ。彼等との友好を結んでいるのはティフォだ。


「そういえばそうだったわね。どちらかといえば、懐かれてるのってティフォナスちゃんだものねぇ。スノーちゃんの関係性って間接的に友好だったかしら?」


 ケリアさんの言葉に、ただ頷いて答える。


「なんだい、彼等は君に懐いているのかい? 流石はテイマーと言いたいところだが……妙だね、君、もしかして何か秘密があるのではないかね」


 興味深そうにイーゴさんがティフォにすり寄っていく。


「あぁ、【魔物の心】ってユニークスキルがあるけど?」


 ティフォは戸惑いながらも、イーゴさんと一定距離を保つ。


「あらあら、良いユニークスキルを貰ったじゃない」


「ティフォナス妃よ。いくつか聞きたいでござる」


 ケリアさんと違い、ガウは妙に考える仕草で鋭くティフォを見る。


「妃とか言うな……なんだよ?」


「そなたのスキルに【魅了】【誘惑】があるのでござるか?」


 持っていると、確信があるような言い方だった。


「あるけど? それがどうした?」


 ティフォも圧に押された様に、腰が引けている。


「両方?」


「それが、どうしたよ?」


 なんだろう、この探偵が犯人を追い詰めているような感じは。


「ある攻略テイマー組織が居たのでござる。テイマー達にとって喉から手が出る程に欲しいユニークスキルが【魔物の心】というんだな」


「ちなみにだ、【魔物の心】を得るには魔獣を使役しているという【獣神】の加護を貰うか、もう一つ、【魅了Lv10】【誘惑Lv10】が必要だよ」


 妙に息のあったイーゴさんの補足とガウのコンビ。


『へ~、良いスキルを貰ったんだね』


「普通であればそうなんでござるがなぁ~、ティフォナス妃よ、お主はバッドステータスを持っているはずなんだな。類似するスキルを所有する場合、効果は倍増するがその代わりに何かしらのバッドステータスを付与されると聞いたんだな」


 なんかガウの目がキラっと光ったように見えた。


「もしかして、女性装備しか出来ないとか?」


 シュネーが気になっていたのか、ティフォの指輪を見て言う。


「いや、それは彼がしている指輪の呪いだ。スキルは別だろう」


 すぐにイーゴさんに否定されてしまった。


「なっ! なんで知ってるの⁉」


 サッと指輪を胸元に隠したその仕草は、ちょっと乙女ッぽいから止めた方が良いぞ。


「ん? 何故って【鑑定】のスキルぐらい所持しているさ。当たり前だろう」


 なにを当たり前な事を聞くなと言う感じで、言い放つ。


『研究者だし、まぁ持ってるよね』


 オレとシュネーは共に頷きながら納得している。


「という事は、もしかして【魔物の心】って、ユニークスキルはバッドステータスの代わりに他の能力が上がってるって事よね」


 なんかケリアさんもノリノリで場の雰囲気に合わせて喋っている節がある。


「あるテイマープレイヤーがテイマー掲示板にて、愚痴を言っていたそうでござるよ。『こんなスキル要らないよっ! 俺は大型のモンスターと共にカッコ良く戦いたかった』と」


 帽子なんてかぶっていないのに、帽子を深くかぶった仕草でティフォを見ている。


「その言い方からするに、もしかして騎乗できるような大型モンスターをテイムするのに、不利な能力って事だよね」


 シュネー? なんで君までそんなノリノリでワザとらしく言うのかなね。


「そ、そんな顔でこっちを見るんじゃねぇ! ニヤニヤすんなよ⁉」


 おっと、オレも思わず顔に出てしまっていたようだ。


「その書き込んだ人物は、こうも言っていたそうでござる。『あの【乙女】とかって女神は何時か泣かす』そうでござるよ」



 これはもう確定ですね。



「まぁ、良いじゃないか。君に良く似合った力だ。確かに【乙女】なら両方のスキルを最初から高レベルで付与する事が可能だろうな」



 物凄く顔を真っ赤にしながら、恥ずかしがって何処かへとティフォが走り出していく。



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