【オフ59】イベント騒ぎは大騒ぎ



  ==★☆★【視点:樹一】★☆★==





「樹一~、お爺ちゃんから電話よ~」


 珍しい時間に家の電話が掛かってきたと思ったら、爺ちゃんか。


「あん? なんで爺ちゃんから電話が掛かってくるんだよ?」


「ちょっと聞きたい事があるんですって」


 なんだよ聞きたい事って、爺ちゃんが絡むと基本的に碌な事がないんだけど。


 まぁ今は爺ちゃんの悪乗りを助長する初音さんは居ないんだけど。


「はぁ……なんだろ?」


 基本的に良い思い出はないんだよな~。


 大体が、俺や雷刀ともう一人がいじめられて終わる。


「さぁ知らないわよ。ただ、なんか妙にテンションは高かったけど」


 ますます電話に出たくなくなったぞ。


「…………嫌な予感がするから切っちゃわない」


 受話器に伸ばした手が止まる。


「そうすると深夜くらいに我が家へ突貫しに来るわよ?」


 気持ちは分かるという顔をしていたが、冷静な分析結果を言われた。


「あぁ~マジですか、それはそれで面倒だな」


「はいはい、観念して電話に出ちゃいなさい」


 半場押し付けて、台所の方に向かって行ってしまう。


「あ~、もしもし。電話変わりましたけど?」


 受話器を取って、電話を待機から通話へと切り替える。


「おぉ樹一か~、元気か~」


「そりゃあ元気だよ。つうか最近に遊びに行っただろう」


 つながった瞬間には、もう元気溌剌とした声が響いて来た。


「ははは、そうじゃったな」


「んで、聞きたい事があるって聞きましたが? なんの御用でしょう?」


 少し酔ってるのか、距離を取るような感じで話しを進めよう。


「なんじゃ余所余所しいのぉ~」


 妙な甘え声で言ってくるところが、ちょっとイラッとさせる。


「いやいや、そろそろ飯食って風呂入って寝るからさ」


「最近の若者にしては、えらく健康的じゃのう」


 関心関心とか言いつつも、すっごくバカにした感じに聞こえるのは何故だろう。


「切って良いかな?」


 ほぼ考え無しで、次の言葉が出てしまっていた。


「待て待てそう急くな。まったくそういう所は誰に似たんじゃかのぉ」


 別にスピーカーに切り替えていないのに、母さんが台所から顔を出してきた。


「樹一~、切っちゃって良いわよ~」


 お許しが出たようだ。


「わぁ~⁉ 馬鹿者が、素直に切ろうとするな。戻せ戻せ、全く地獄耳じゃな」


 なんというか、爺ちゃんもだけど、母さんといいなんでエスパー的な言動をするかね。


 以心伝心と言う感じですかね。


「ほれ、早く聞きたい事とやらを言わないと」


 ウザく絡まれるまえに、脅しを入れて置く。


「お主、いま話題のゲームとやらをやっておるのじゃろう?」


「ん? ゲームってフルダイブのヤツかな?」


 意外だ。爺ちゃんからゲームの話しを振られるなんて思わなかったな。


「なんと言ったかのぉなネズミキュア? じゃったっけ?」


「なんだその珍妙な名前は……ズィミウルギアな」


「おぉそれじゃそれ。ワシにもやり方を教えてくれ」


「は? え~っと、なに? どういうこと」


 いきなりやりたいって、びっくりするんだけど。


「いやな、ワシとハナとで一緒にゲームでもやろうと思ってのぉ」


 婆ちゃんも誘ってやる気なのか? また何でだろう。


「そもそも、専用のヘッドギアとかパソコンってあるの? つうか使えるのか?」


「じゃからそれを教えいっと言うとるんじゃろうが、あぁ、PCに関しては使えるぞ~。何かと便利じゃからのぉ。野菜や果物の出荷にも使える」


 妙に英語を強調して言うあたり、本当に勉強して使える様になったんだな。


「……パソコン使えんのは意外だな」


「ははは、老人じゃからってなめるでないわい。まぁ、他の使い方など知らんがな」


 得意げに言った割には、最後はぼそぼそ声になっていた。


「ヘッドギアは? あるのか?」


「おぉあるぞい。本当はお前さんらにあげるつもりじゃったんだがの」


「はぁ……なんで持ってんのさ?」


「老人会の景品で当たった。未だに新品同然じゃぞ~、なにせ箱から出してすらおらん」


 老人会よ、なんでそういうモノを景品にしたんだよ。いや、孫にでもあげる為かな。


「だろうね……今年の最新モデル?」


「うむ、今年発売モノじゃぞ」


 モノを見ないと何とも言えないけど、本物っぽいな。


「なんで急にゲームなんてやろうと思ったんだよ?」


「いくつか理由はあるぞ。先ずは近くに住んどる近藤さんってヤツがおってな、コイツが幼馴染なんじゃが、最近になってゲームを始めたそうなんじゃよ。憎々しくも若者に囲まれて、自分もその世界では皆に頼りにされとると自慢しやがる」


 すげぇ私的な理由じゃん。


「端的に言えば、ちやほやされたいと?」

「うむ、そうじゃな」


 即答だった。秒も掛かってないんじゃないかな。


「素直だなおい」


 呆れながら言うと、少し爺ちゃんが深呼吸し始めた。


 だからって訳じゃ無い、ちょっとした悪戯心もあって、スピーカー音声で会話を流す。


「まぁ、それはきっかけじゃよ。一番はやはりボケの防止かのぉ~。最近じゃあ畑仕事も若者が中心になってきておるし。婆さんも足を悪くしてから元気に出歩かなくなった」


 確かに、この前に行ったときに真っ先に世話を焼きに来てくれる婆ちゃんの姿は無かったのを覚えている。


「あぁ、なるほどね」


「それならいっそ、ワシらもゲーム世界とやらで遊ぼうと思うてのぉ。自由に駆け回れる感覚を思い出せばハナも元気が出てくるじゃろう。それに二人して遊ぶ機会というのも、最近は無かった。何処かへ遠出というのもこの年になってくると色々と億劫でな。せっかくの貰い物を使わぬのも、その、勿体無いじゃろう」


 そういう理由なら、むしろ積極的に協力してあげるっての。


「ふ~ん、そういうちゃんとした理由があるなら最初から言えよ」


「はん、こんなこっぱずかしい事を早々に言えるわけないじゃろうが、お主だから言っとるんじゃぞ。こんなことを娘に話してみぃ、絶対にからかわれるわい」


 電話越しだけど、きっといまの爺ちゃんは耳を真っ赤にしながらそっぽを向いている。


「へいへい、わ~ったよ。それじゃあ明日の昼くらいにはそっちに行くから」


「おう、婆さんと楽しみに待っとるわい」


 受話器を置いて、電話が切れた音が家に響いた。


「…………だよと。まだまだ長生きするんじゃね~の」


 台所にいる母さんの肩が微かに揺れているのが見えた。


「アンタ、そういう小技はどっから覚えてくるのよ」


「最近の携帯電話ってのは便利だよな~」


 玉ねぎは目に染みるよね、仕方ない仕方ない。


「もう、すぐにはぐらかす。明人さんに文句言っておくからね」


 はいはい、父さんと今日の事でも話ながらイチャイチャしててください。


 それに俺を巻き込まないで頂ければ幸いです。


「つうわけで、こんどなんかあったら奢りでよろしく」



「バカね、もう」



 涙をぬぐいながら、優しい言い方のバカって声が聞こえた。



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