【オンライン】34:喧嘩とコツ、ファーマ―という存在。
傍から見れば美女と子デブの男性が殴り合って構図に見える。一対一の対人戦は、一定の範囲を特殊な円形の線で囲ったフィールドを発生させる。
地形はその戦闘を行ったフィールドに依存し、人数によってバトルフィールドの範囲が広くなったり狭くなったりするという。
いまティフォとガブが戦っているフィールドは、相撲でよく見る範囲と一緒くらいだと思う。対人戦はある程度の融通が利くらしく、コレは極小の広さ。
ケリアさんが叫んで設定したのは、対人戦を行う際のルールを決めたものだ。
もっと細かく時間設定だったり、ライフが0になっても死なない。
気絶になるというルールも作れる。
「この、ちょこまかと!」
「ははは、ティフォナ氏。いくら初期値とは言え我の実力派は中級レベルでござるよ。それにこのゲームの初期値はそれぞれ弄った初期値、どう動かし、どう動くかを想像し考えて作った、このアバターはウチの理想。懸念を言えば種族やら身長やらを、もっと自由に変えたかったであるが、それはそれなんだな」
余裕で回避しながらティフォに決め顔で語っていたが、最後の方は私情的な愚痴になったせいか、言葉遣いが戻っている。
「お前は盾職だろう、何で回避にガン振りなんだよ!」
ストレートなパンチを放っても、風の様にサラリと避ける。
決め顔は忘れないガブ。
続けて足払いや、蹴りを混ぜるがそれも軽やかに躱す。
「しっかしティフォナ氏、その格好での戦闘はやりずらいであるなぁ」
蹴りを放ったティフォがその勢いのまま1回転して、相手の胴を目掛けて真っすぐにけたぐりを放ったが、そこにガブは居なかった。
ティフォが回転した一瞬、視線が外れた瞬間に後ろへと回り込んでいた。
「な⁉ ぐぁ!」
ガブは背中から体当たりをする。
対人戦において、背後や不意打ちはダメージ判定が2倍から3倍に変わる。
「全く、私情だか何だか知らないけど、相当に怒ってるみたいだね」
「キミのなした功績は大きいだろうさ。一人と他人数、天秤に掛けられる経験なんて無いし、ウチがその場に居ようと居まいと、結果なんか判らないんだな」
ガブはティフォがよろけているのに、追撃することはなかった。
「それでも君達の機転で救えた人は多く、自身をワザと犠牲にしてお取りを買った大馬鹿野郎が、なんの相談もなく勝手に居なくなったのは、キミに責任は無い。それはキミも分かっているのだろうが、それで納得しろと言われても心は追いつかないというのも、想像に難くはないんだな……だけど――」
ギュッと強く握りしめた拳、全体重を乗せてティフォの顔面目掛けて殴り込む。
「ウチに相談するなり、八つ当たりするなり。会って話し合う事は出来たんじゃないか? 一人でグダグダ悩んで、周りに心配をかけまくってからに、ケロリとゲームに居やがって、先ずは、やるべき順番が違うんじゃないんかいっ⁉ 頼りなかったんかい、ウチ等で馬鹿やって過ごした時間は信頼における関係もなかったんか? ふざけんじゃないよ、一人で頑張ってんじゃないよ、馬鹿野郎がっ‼」
彼の言葉は、樹一に対して、そしてオレに対しても言いたかった言葉だろう。
樹一に真正面から放った言葉は、オレにも強く響いた。
そして何よりも、心のトゲを取ってくれた様に感じる。
オレも樹一も、この世界の青い空を清々しく眺めながら、自然と涙が零れた。
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