【オンライン】32:喧嘩とコツ、フォーマーという存在。




「なんで、初めてモンスはカッコいいモンスターにって決めてたのに」


 表膝と両手をついて落ち込んでいるティフォナを、なんにも言えずに眺める。


 樹一のキャラはテイマーで、最初の一体だけは一定レベル以下のモンスターを確実に仲間に出来るというものだったらしい。


 テイマーはモンスターを仲間にする条件として、倒さなければならない。

 倒したモンスターは、しばらく倒した状態のままで後は徐々に消えていく。

 その間にモンスターから剥ぎ取りなどの行動をする。

 毛皮やお肉といったモノを入手出来るようになっているらしい。


「結構、色々と使うのよこの子達」


 エフケリアさんが大量に倒したモンスターをウキウキしながら剥ぎ取りしていた。


 仲間になるモンスターはゆっくり起き上がってくる。

 仲間になりたそうな瞳をしながら甘える様にティフォナすり寄ってくるのだ。


「くぅ! こ、こんなのを断れとっ!」


 そして多分、オレ達には見えていないけどティフォナの目には【仲間にしますか?】という画面が、手前辺りに浮いて見えているのだろうと思う。


 もちろん拒否の選択をして、別のモンスターを探すことも出来るのだろうけど。


「あの様子を見るに、絶対に仲間にするよね」

〈オレも、そう思う〉


 オレ達はもう温かい目で見てやる事しかできない。


「ピュピュピッ」


 もう甘える様にすり寄っては、ティフォナの周りをクルクル回る。ゲームのモンスターだからか、かなり可愛いぬいぐるみ見たいな見た目になっている。


 つぶらな瞳で、体はバスケットボールくらいの大きさだ。

 最初であったモンスターの時は軽自動車のタイヤくらいはあったと思うけど。

 しばらく悩んでから、観念した様子で仲間にすることを決めたようだ。


 ――あぁ、丸まっている姿が可愛い。


 な、撫でたい。


 だけど、ちょっとでもオレが近づこうとすると。

 ティフォの頭上に逃げてしまう。


「そう、落ち込むなって」


 しょんぼりしているオレの頭をティフォが撫でてくれる。


〈慰めるな〉

「いや~、すまん」


 そう言いながらも撫でる手は止めないんだよな。


「相変わらず逃げるのね~」


 ケリアさんがハリネズミに腕を出すと、そこからトトッと伝って顔を擦りつける動作なんてしだすのに、オレからは出来るだけ離れようとする。


〈む~む~、くそぉ、こんなデバフ要らないよ~〉


 小さいのと戯れたいのに。

 あんな、ぬいぐるみ見たいなの滅茶苦茶に撫でまわしたい。

 一緒に遊びたい。


「あ~、えっと。助太刀、感謝なんだな」


 フルプレートのアーマーを着た、ぽっちゃり君が丁重なお辞儀をした。

 兜とは逃亡中に壊れて、装備が出来なくなったらしい。


「いいえ、大丈夫だった?」

「はい、お陰様で」

「あぁ、自己紹介がまだでした。ガブと言います」

「アタシはエフケリアよ。ケリアんとかケリアとでも呼んでちょうだい」

「あ、はい。あの~、先行攻略組のケリアさん、でしょうか?」

「今は違うけれどね。そのケリアで間違いないわ」

「お会いできて嬉しいです」


 そんなやり取りをしている横で、ティフォだけは気まずそうにしている。

 しばらくして、オレの後ろになんとか隠れようとしてくる。


 身長的にも無理があると思う。


「で、レディ達のお名前は?」


 ニコニコと笑みを浮かべながらも、その瞳はティフォを見ているようだった。


〈スノーです〉

 オレの肩にひょっこりと小さい妖精が座る。

「ボクはシュネー」

 シュネーを見て、かなり驚いた表情で一瞬だけこちらに視線が移った。


「……そう、よろしくなんだな」


 オレと軽く握手をして、その手を今度はティフォの方へと伸ばす。


「さて、お嬢さんは……いや、貴方はティフォナスさんで、よろし?」


 ちょっと低い声で、ガウはティフォの名前を当てた。




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