【オンライン】15話:甘えん坊な妖精と畑作りの行方





「ケリアンなんか変だったよね」

『ん、まぁ、樹一が付いて行ったし大丈夫だと思うよ』

「そっか、じゃあ真面目に作戦を考えよっか」


 それ以上は喋らず、シュネーは明るい笑顔でオレを見てくるだけである。


 ――コイツ、もしかして、

『……っで? 作戦なにかある?』

「ううん、な~んにも思いつかない」

 初めから考える気がないな。


 まぁ簡単なのはレベルを上げれば良いって樹一だったら言うんだろけど、それじゃ勝った気なんてしないし、ちゃんとウサギさん達を負かしたいんだよね。


 ――というか、ファーマーじゃあ無理なのか。戦闘向きの職業じゃあないんだから。しかし、畑を作ろうとすると襲ってくるってことは、作ってしまえばこちらの勝ちってことで良いんだよね。


 モンスターだから戦っていたけど。(結局、一匹たりとも倒せなかったけど)

 別に戦闘だけが勝負じゃないよね。


 知識はありそうだし、別にモンスターだからって頭が悪いって訳でもない。


 もしかして、こっちの言葉を理解してたりするのかな。


 ケリアさんの話しだと、倒してもすぐに復活? して畑を荒らすというけど、本当だろうか? もしかして、倒す事に意味は無いんじゃあないかな。


 先人の人達が殲滅してから畑を作ろとしなかったとは思えない。

 現に畑を作った跡地はあった。荒らされた後は確かにあったけど。


 知識があって、倒されたと……仲間が殺されたという認識があるなら復讐の為にやったんじゃないか。

 それなら、倒すのは逆に悪手という事になる。

 モンスターという意識じゃあなくって、ここに住まう一員として考えるのが正しいんじゃないだろうか。


 色んな人がこの地でモンスター達を排除しようとして、それが出来なかったからゲームのトラブルだと思ったんだろうし。色々試してモンスターが排除できなかったから、この地を捨てて、別の場所へと行ってしまったんだろうな。


 アイテムを献上とか交渉なんて無理そうだし。


 無理というか、無理やりに奪われちゃう未来しか見えないんだけど。


『……とりあえず、アイテムあげてみる?』

「オッケー、やってみようか」


 そっとホームから顔を出して、ウサギ達を刺激しないようにゆっくりと近づいてから、ニンジンを取り出し、ウサギさん達の前に座って交渉を試みる。


「ねぇ~、畑を作りたいんだけどさ、ダメ? 君たちの好きな食べ物も育てるし」


 オレはシュネーに隠れるように、肩から顔を覗かせて様子を見る。


 案の定、数秒の魔はあったもののニンジンだけ取られて、戦闘が開始された。


 でも、ウサギさん達のやり取りを観察して、しっかりと見てみると、人間と変わらないそぶりを見せてくれた。


 白旗を用意して、ゆっくりと近づいて行った時には警戒していたけど、攻撃はしてこなかったし、ニンジンを差し出して交渉をしている時にも、ちゃんとこっちの話を聞いているようだった事は見て取れた。


 人間と違って、分かりやすい仕草ではなかったけれど、こちらに顔を向けて居なくてもしっかりと耳はオレ達の話しを聞こうとしている様に見える。


 後ろを向いて、仲間たちに聞くような鳴き声や仕草をしていた。


 ウサギさん達の言葉は分からないけど、こっちの言葉は確かに通じている。


 となると、問題はウサギさん達をろうら……ではなく、どこまで高い知識を持っているかがカギになってくる。


 ――まずは簡単な勝負を持ちかけてみるかな。


 ウサギさん達にボコボコにやられたシュネーが這ってこちらに戻ってきた。


 オレは戦闘が開始された時点でホームの方へと逃げて、安全圏で傍観です。


「一人だけ逃げるのは、ズルくない」


 瀕死ということもあって、オレへと伸ばしてくる手はプルプル震えている。さながらホラー映画のワンシーンのようです。


 腹の底から恨む声なんかが、とくに。


『あ~、ほら、オレは作戦は考えなきゃだしね』


 掴まれないように、ちょっと高く飛び上がって逃げる。


「で~、なにか思いついた?」

『うんまぁ、とりあえず回復してからだね』


 まずは休んで体力を回復。

 ホームに戻ってシュネーをベッドに行かせる。


『ウサギさん達にお話しがあります』


 そういえば、オレってチャットでしか話せないけど。

 ……通じるのだろうかと不安になる。


「クゥイッ」


 なんだ? 言ってみろという態度でオレの前に座ってくれる。


 ちゃんとリーダーらしきウサギさんが一匹。

 堂々とした態度で集団の前に出てきている、少し前にオレ達から得意げな表情で悠々とニンジンを奪っていったヤツだ。


 ――おぉ、通じる。


 嬉しすぎて気持ちが高ぶりそうになるが、なんとか耐える。


『ちょっと勝負をしませんか?』

「キュイッ!」


 勝負ならいつもしているだろう、というような主張なのか拳を構えて見せる。


 ――あぁ~仕草が可愛い過ぎるよ。

   抱きしめたい、めっちゃ抱きしめたいし撫でたい、けど……我慢だ。


『いえ、そういう物騒な争いごとでは無くて。こう、一つの種目を決めて一対一の勝負をしてみたいという、提案なんですけど』


 ウサギさんは良く分からないと、拳を下ろして首を傾げる仕草をする。


 ――…………クッ、可愛いな、ちくしょう。


 元が可愛いせいで、ちょっとした細かい仕草が可愛く見えてしまう。


 ニンジンを持っていかれた時の記憶がチラついて憎々しも思うのに、この矛盾した感情はどうにも形容しがたい気持ちになる。


『え~、つまり。例えば、競走でそちらが勝ったらニンジンや何か野菜などとを差し上げます、オレ達が勝ったらそちらはオレ達の事を少し認めてくれれば良いんで』


 前足を組んで考える素振りを見せて、「ちょっと待ってくれ」という感じの仕草をして集団の方へと駆け足で戻っていく。


「ねぇ、そんなんで大丈夫なの?」

『ん? まぁ大丈夫、大丈夫』


「……スノーさんや、何を考えているかは知らないけど、悪い顔してまっせ」


 ――おっといけないイケナイ。


 頬をペチペチ叩いて、顔を引き締める。


 集団は円陣をくんで内緒話をしているよう感じで、プープーやらクゥークゥーやらキュイっという鳴き声が徐々に小さくなっていき、話し合いがまとまったのだろうか、リーダー格であろう3匹がオレ達の前へとやってきた。


「くぅい」


 前足を上げて「待たせたな」言ってくれる……のだと思う。


『話は纏まった?』


 三匹のウサギさんが同時に頷く。


「それで、この話は受けるって事で良いの?」


「「「くぅい」」」


 シュネーの言葉に頷く。


 まずは上々ってところか。


 あとは下手に勘繰られたり、気付かれないようにしないとね。


『じゃあまず、さっき言った競走の勝負からで良い?』

「くぅいっ」


 オーケーだと右前足をだして、返事を返してくれる。


 無難な勝負から初めて、徐々にこっちの目論見を混ぜた勝負を入れていく。


 さすがに草むしりバレるだろうから、外して。石を多く集めた方が勝ちとか、より遠くに石を投げられた方が勝ちとかならバレないかな。


 土を柔らかくするのはどうしようかな……障害物競走的な発想で良いか。


 走りにくいようにウサギさん達と土を耕したり、大きめの穴を掘ったりなんかすればそれっぽい感じで、納得してもらえそう。


 まぁ、それを実行するには、少なくともオレ達が少しでも勝ち越してないと、話に持っていきにくいのが、難点ではあるんけど。



 五十メートルくらいの線を引いて、スタート位置とゴールの線を引く。


 さっきのリーダー格らしき一匹がシュネーの隣に並び立つ。


『それじゃあ、準備は良い?』


 手を振って聞いてみる。


「オーケーだよ!」

「くぅいっ!」


 公平を期すために、掛け声はオレがチャットを使って言い、スタートの合図はウサギさんが笛を鳴らすという事になっている。


 笛を持ってくるあたり用意がいいというか、さすがゲームの世界だ。


『じゃ~、位置について~』


 オレが大きく手を振って合図を送る。


『よぉ~~い』


 スタートダッシュの体制を一人と一匹がとる。


 ピーっと軽快な音をウサギさんが鳴らす。


 スタートはウサギさんの方が若干だが早かった。

 けど、接戦の末にシュネーが勝利した。


 現実だったら絶対に負けるなとか思いつつ、幸先の良いスタートだ。


「しょ、しょ~り」

「きゅい~」


 疲れながらも嬉しそうにオレにブイサインを向けるシュネーに、悔しそうに地団駄を踏んでいるウサギさん。


 ――……可愛いです。


「ちょっとスノーっ!」

『へっ! あぁ、す、すごいねシュネー』


 ぷっくり頬を膨らましてオレを抱きしめる。


「もっとちゃんと褒めてよね」

『ご、ごめんってば』


 これは勝負の度に褒めてやらないとダメらしい。


 拗ねられたらオレでは太刀打ち出来ないし。


『明日、なにか好きなの作ってあげるから』

「じゃ、プリン予約ね」


 ――プリンでやる気が出るなら、まぁ安いもんかな。





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