【閑話4】ケリアの憂鬱

   

        ☆★☆★☆視点==【エフケリア】==☆★☆★☆    




 もう、嫌になっちゃうわね。


 私自身が嫌気が差してあの連中から離れたっていうのに、彼等と同じセリフを言いそうになるなんて、ね。『ゲームの常識なんだし当たり前だ』と、なんでも『当たり前の常識』という言葉を吐いては新人を遠ざけて、見下したような態度をしていた。


 能力があるものを選んで、少しでも使えないと見たら切り捨てる。


 ゲームの攻略を謳って、誰よりも早くこのゲームを制すと息巻く彼等は一緒にいても全く楽しくなかった連中だ。私も、前まではそんな連中の一人だった訳だけど。


「はぁ、自己嫌悪ね」

「ははは。まぁ気にしても仕方ないよ」


 少し甲高い声で私の事を笑うティフォナちゃんは、やっぱり女の子というより男の子っぽいわね。


 彼に幾つか聞きた事がある。

 とくに、私に囁いた言葉。


「ねぇ、なんで私の考えが分かったのかしら?」


 あの時に囁かれたのは『自己嫌悪か?お仲間さんだな』と言って私に微笑んだ。


「言っただろ。お仲間さんだなって」

「そんなに顔に出ちゃってた?」


「あ~、まぁどうだろうな。まっ、スノー達は気付いてないんじゃないか? 少し様子が変だったとは思うだろうけど」


 ゆっくり歩きながら塔の城下町を目指す私の歩幅に、ティフォナちゃんは何も言わずにただ合わせてくれている。


「でも貴方も、なのよね」

「あぁ、しかも会った初日っていうタイミグまで一緒だ。いや~、親近感だね」


 あっけらかんと笑って言う彼の姿に、落ち込んでいた気持ちが少し晴れていく。


「俺の場合はスポーツ関連で粋がってた時だったけど」

「あらあら、なんだかおじさんみたいな言い方ね」

「ガキの頃の話だし」

「私から見たら、まだまだ子供よ」

「え~、ケリアさんだって若いでしょ? いま何歳ですか? あてっ!?」


 ほぼ無意識にティフォナちゃんの頭を殴ってしまった。


「まったく、レディに年を聞くんじゃないの」

「す、すいません」


 ティフォナちゃんは殴られた場所を摩りながら謝ってくれる。


「ねぇ、もしかしてだけど……私が初めに声かけたのも、ちょっと見当がついてたり、するのかしら。ある程度、警戒はされてたと思うのだけど」


「いやだって、見た目的にも怪しい人が近づいてきたら警戒するでしょう」


 ジト目で見てくるティフォナちゃん目を見返して、ちょっと唇を尖らせる。


「ん~もう、意地悪ね」


 そういえばそれが普通よね。むしろあのスノーちゃんとシュネーちゃんが異常なのかしら? 人見知りではあるだろうが、すぐに打ち解けてくれた子達だ。


 というか、言動は見た目相応の女の子っぽくない。


 見た目と中身があやふやというか、シュネーちゃんが喋れないって言っていたわよね。


「ねぇ、本人が居ない所できくのも何なんだけど、やっぱりちょっと聞きにくいっていうかその、聞いても良いかしら?」


「失声症ってヤツだってさ。俺も詳しくは知らない」


 そんな簡単に教えてはくれないわよね。

 ティフォナちゃんは私から目を逸らしながら教えてくれた。

 でもやっぱり失声症なのね。


 それじゃあ、簡単に言えないし言わないだろう。

 私だって友達が同じ状態なら同じだ。


「俺からも聞いて良いか?」


 ちょうと城下の門をくぐり、町に着いた時に彼から話を降られた。


「なにかしら?」

「初めに俺達に声を掛けたのって、なんで?」


 あの時は……そうね、本当に渡りに船って感じだったのかもしれない。

 彼等の仲間から離脱して、自由に遊ぶと決めてから数日間。なんどか戻ってこないかって言われ続けたりもしたけれど、あのメンバーには戻りたくなかった。

 でも、やっぱり一人で遊ぶにはちょっとつまらなく感じて、もう辞めようかなって思い始めて、見納めに始まりの場所を見て歩いていた時に見つけたのだ。


「正直に言っちゃえば、貴方達に会わなければ、もう辞めようかなって思っていたわよ。貴方達が前の仲間達と同じタイプのプレイヤーなら尚更にね」


「そんなに酷い連中だったんですか?」

「敬語じゃなくって言いってば~」

「あ~、はい」


 苦笑いでティフォナちゃんが返事をしてくれる。


「ん~、酷いって言うか……いえ、酷い部類に入っちゃうわね。彼自身も馬鹿じゃないから誰か教えてあげられれば、良いのだけれどね」


「現状、その人の言っている事の方が正当化されている、って感じですか?」

「さすが、お仲間さんね。貴方も経験者かしら?」

「まぁ、似たようなもんですね~」

「貴方の場合は、どうなったのかしら?」


 私はもう諦めてしまったけれど、かれの様子からすると上手く解決できたように、明るい笑顔だったので、思わず聞いてしまった。


「あ~、そうですね~……スノーっと一緒に居れば、もしかしたら糸口が見えてくるかもしれませんよ。ちなみに、経験談です」


 あら、また敬語に戻っている。

 まだまだ、彼等と打ち解けるのには時間が必要ね。


「スノーちゃん? そんなに?」

「ただし、いい意味でも悪い意味でもきっと後悔しますよ」

「また~、私を担ごうったって――」



 ピコンッ――



《東エリアで隠しイベントをクリアーされました。よって東エリアの一部のエリアが解放され、特殊構成の拡張も解放されます。なお、このイベントをクリアーした方には称号とスキルが与えられます》



「……まさか」


「はぁ、初日からやらかすか、目を離すんじゃなかった。琥珀が居れば大丈夫だと思った俺が間違えだったか、アイツも翡翠側の人間か」



 頭を押さえて、深いため息を吐くティフォナちゃんは、物凄く後悔した様子だった。



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