【オンライン】14話:甘えん坊な妖精と畑作りの行方





 ホームに戻りながら、軽く見て感じた事を話した。


『普通のモンスターはホームに湧いてないと、オレは思う』

「ウサギはこのフィールド内での普通モンスターだろ?」


『ん~、オレが感じたのは、ワザとホームにモンスターを沸かす? 感じで、周りのモンスターを集めてるかなって思ったの』


「集める? なんで?」


 オレを抱いているシュネーが首を傾げながら聞く。


『や、知らないけど……ホーム周りのモンスターが極端に少ない気がするし』


 極端に少ないというよりも、この家周辺のウサギに関しては編隊を組んで統率されているイメージの方が強い。とくに、オレを足蹴にしたようなあの生意気なウサギを思い出す。


「そういえば、スノーちゃん達に対してだけリンクして襲ってたわね」


 エフケリアさんが思い出したように言う。


 ――リンク? ってなんだっけ?


「リンクってのは一匹のモンスターを攻撃すると、近くにいる同種モンスターも一緒になって襲ってくる事だ、まぁゲームの用語だな」


 オレの心でも読んだかのようにティフォが説明をしてくれる。


『顔に出てた?』

「顔というより、仕草だな」


 にかっと笑うティフォを、何故かシュネーが睨んだ表情で見ている。


「あの、なぜに睨まれているのかな、俺は?」


 ちらっとティフォが助けを求めるようにオレに視線を移す。


 いや、オレに聞かれても困る。


 小さく首を振ってオレも知らないと、伝える。


「いまだけ、いまだけ……絶対に追い越す」


 ブツブツを意味不明な言葉を呟くシュネーにどう声を掛ければ良いか分からず、とりあえず、この雰囲気を何とかするために話を進める。


 エフケリアさんだけが、この雰囲気を楽しそうに眺めている。


「でぇ、どういった事を確かめていくのかしら?」

『まず気になったのは―ー』


 シュネーとオレのパラメーターは違うけど、その他の能力は同じだ。

 高く飛び上がって上から見下ろしたとき、不自然にモンスターが移動していたのが見えた。

 離れた位置に居たスライムやウサギが、逃げる様にシュネーから離れていった。


 多分だが、俺達の【騎獣の心】が影響しているんじゃないかって思った。


 これは案の定、ホームから離れた位置の小型モンスターは一定距離、近づいてこない。ただし、一定範囲内に入ったモンスターはその場からあまり動かず、こちらを監視するよう移動して去っていく。


 その過程で分かったことだが、スライムは《魔力・振動・視覚》の感知能力だということ。


 ――…………スライムの目ってどこだろう。


 プルプルでゼリーの塊にしか見えないのだが、核となるモノがあるらしいのだけど、そこが視覚の役割を持っている。

 ただ外から見つめているだけでは見えないらしい。


 ウサギは《気配・聴覚・視覚》で反応する。


 肝心のホームのウサギだが、オレ達が離れた位置からゆっくり近付いても、警戒した様子もなく普通にうろついているだけだ。


 いくら大声を出そうと、こっちを見ようとも変わった様子がない。


 唯一、ちょっと変わった反応をした一グループがいた。


 これはオレやシュネーに対してではない。

 ティフォに対して変わった反応をした。


 ホームに近づいて行くと、すり寄っていくのだ。餌を強請るペットの様に。


 そして、オレとシュネーには何故か……けんか腰。

 何故か待っていましたと言わんばかりに、玄関前で陣取っている。


 もちろん、あの生意気なウサギは腕組みをして先頭で偉そうに立っている。


「ザ・リベンジだよ、うさチャンズ」

『いざ、勝負』


 シュネーは巨大ニンジンを取り出し、オレは普通サイズを掲げて飛び出す。


 数では向こうが圧倒的に有利。


 言うまでもなく、オレ達に圧倒できる力は無い。


 数分も経たずに敗北し、こちらのニンジンを取られた。


 これは毎回というか、もう成り行き任せにやっている。


「ねぇ、なんならアタシが倒しても良いのよ?」


 HPが1の状態では動けず、頭の上から声がする方にチャットを打ち込む。


 シュネーはもう仰向けになって、寝息を立てて寝ている。


『ケリアさんは手出ししないでください』


「でも~」


『オレはこいつらと仲良くなってみたいんです』


「仲良くって、テイマーじゃなきゃ使役できないのよ?」


『ケリアさんが言っている事の意味は良く分からないんですけど……試したんですか?』


「良く分からないって、ゲームのじょうしっ――」


 急にケリアさんは言葉が詰まったようで、最後まで言わずに終わってしまった。


 いまの状態だとケリアさんの表情なんて見えない、どうしたのかは分からないけど、オレはとりあえず言いたい言葉をチャットに打ち込んでいく。


『使役ってことは相手に何かを《させる》ってことですよね、別に命令とか主従関係で縛りたいわけじゃあないんですけど。オレはあいつ等の主人じゃなくて友達になりたいって、だけなんですけど。できないんですか?』



 しばらく、ケリアさんからの返答がない。


「それ、は……分からない、わね」


 どことなく震えたようで、やっと絞り出した感じの声だった。


『ケリアさん? どうしたんですか?』

「なんでもないわ」


 瀕死のボロボロ状態から少しだけ回復して、やっとのことで起き上がる。


「スノー、作戦考えよ、作戦っ、このままじゃ勝てないよ~」

『そうだね、なにか考えないと』


 ティフォは相変わらず、オレ達から奪われたニンジンを切り分けて、ウサギ達に丁寧に配っている、ヤツの周りはモフモフワールドが出来ていた。


「城下に行ってくるわ、何か欲しいモノがあったら買ってきてあげるわよ」


「とくには無いけど……ニンジンを追加でっ!」


 そんなお父さんの飲み友達が来たときの、酔ったオジサン風に言わんでも。


『シュネー、まだいっぱいあるでしょう。オレは特にないのですね』


 やはり気のせいだったのか、さっきの声音よりも高い声で元気そうだった。


「買い物なら、ちょっと俺も付き合いますよ」

「え、いやでも、悪いわよ」

「そんな気にしないで――」


 餌を分け終えて、ケリアさんに近づいていき、ティフォが何やら急に聞こえない程の会話をしている。


「え~、一緒に作戦考えてよ~」

「そういうのはスノーが一人居れば十分だろう」

「スノーはゲーム初心者なんだよ~、それにボクも~」


「しばらく二人っきりになれるんだぞ?」



 数秒の沈黙の後、


「行ってらっしゃい」


『……シュネーはいったい何がしたいのさ』

「気にしない、気にしない」


 急にオレを抱きしめて、ホームへと向かい始めた。


『ちょっと!?』

「さ、次こそはあいつ等をギャフンと言わそうね」

『ねぇ、なんかシュネーが怖いんだけど、助けてよっ!』


「すぐもどって来るって」


 ギ~っと思い音が静かな部屋に響き、重そうな音と共に閉まる。




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